【Q&A】事業を譲り受けた場合に営業権の計上について[税理士のための税務事例解説]
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[税理士のための税務事例解説]
事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。
今回は、「事業を譲り受けた場合に営業権の計上について」についてです。
[関連解説]
[質問]
下記の場合の営業権の考え方についてご教示ください。
1. 前提
A社:株主Bが100%保有
C社:株主Bが100%保有
他にも株主Bが保有する会社が数社あります。
業種は小売業で多数店舗展開しています。
C社は毎期500万円前後の経常利益を計上しています。
2. 店舗の譲渡を検討
今回、C社の保有している店舗をすべて(2店舗)A社に譲渡することにしました。これはA社とC社は営業地域(関西)が同じ場所にあるからであり、譲渡後C社は清算する予定です。
3. 営業権の計上の可否
A社・C社は株主が同一のため計上は必要ないと考えています。
[回答]
【結論】
黒字の店舗の事業譲渡を受ける場合において、それが適格組織再編によるものでないときは、原則として営業権(創設営業権を含む)の計上が必要であると考えられます。
なお、その黒字店舗の譲受後の事業に係る見込み利益について黒字が見込めない等その営業権に価値がないとすることに合理的な理由がある場合には、その限りではありません。
仮に、有償性のある営業権を無償で譲り受けた場合には、C社において受贈益を計上する必要があることを申し添えます。
※ グループ税制の受贈益の益金不算入規定は、本件のような個人Bによる完全支配関係のような法人による完全支配関係に該当しない関係の場合には、適用されません(法人税法25条の2第1項)。
【理由】
事業を譲り受けた場合に関して、法人税法62条の8第1項において、事業譲受けに係る対価が、その譲り受けた事業に係る時価純資産(資産(営業権にあっては、一定のものに限る。)時価から負債の時価を控除した金額)の価額を超える場合には、その超える部分の金額は、原則として資産調整勘定の金額とする旨の規定が置かれています。
なお、ここでいう営業権は、他人間で取引する場合に有償で取引されるようなものをいう旨が法人税法施行令第123条の10第3項に規定されています。つまり、有償性のある営業権は、時価純資産に含まれること、換言すれば、資産として認識することが予定されていると解されます。
この規定は、取引当事者の株主が同一である(完全支配関係がある)場合にも適用されます。
さらに、取引当事者であるA社とC社との間には、株主Bを同一者とする完全支配関係があるとのことですので、参考に次の点も確認することとします。
1 グループ税制(法人税法第61条の13、法人税法施行令第122条の14第1項)
完全支配関係のある法人間で譲渡損益調整資産を譲渡した場合には、その譲渡による譲渡損益は繰延されることとされています。
ご照会の営業権は創設営業であると思料されるため、帳簿価額が0であると想定され、帳簿価額が1,000万円に満たないため、譲渡損益調整資産に該当しないこととなりますので、譲渡損益の計上が必要となります。
2 組織再編税制(適格合併)(法人税法第62条の2)
完全支配関係のある法人間で適格合併が行われた場合には、その合併により移転した資産及び負債は合併直前の被合併法人の帳簿価額で引継ぎをしたものとする旨が規定されています。
したがって、本件の事業譲渡が適格合併により行われたものとした場合には、被合併法人において営業権の帳簿価額が0であれば、引継ぎを受けた法人において営業権を計上する必要がないこととなります。
税理士懇話会事例データベースより
(2020年6月19日回答)
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