[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「事業存続に向けて検討すべき方策」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑧~

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題した8回目の今回は、前回に引き続き、第1回でご紹介したタイプD(健全性が低く親族内後継者がいない会社)に着目します。 前回は最終的に会社が廃業・清算を選択した場合の手続の流れを説明いたしましたが、今回は廃業という選択に至る前に事業存続に向けて検討すべき方策について紹介いたします。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 前田俊/公認会計士

 


【検討すべき方策】

タイプDの会社に限らず、承継に向けては、①経営状況・経営課題等の把握(見える化)をし、②事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)を進める必要があります。これは専門家を活用することでより効率的・効果的に実行することができます。

 

①では、外部専門家を活用し、先入観を除外した第三者の視点でより詳細な分析を行うことで、経営状況や課題等をより適切に把握することができます。今まで会社では認識できていなかった収益源泉や強み(人材、取引先、技術、知的財産等)を認識する機会になり得ます。

 

①を基に、②として競争力強化のための「強み」を作り、「弱み」を改善する取り組みを策定・実行していくことで経営改善(収益力の改善)を進めていきます。ここでも外部専門家による知見はより効果的な改善に向けて有益となります。①②のような取り組みだけで財務の健全化が図れない場合、金融支援による再生(私的整理)という選択肢もあります。

 

 

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また、上記のような対応により財務健全性を高めることで、M&AやMBOも選択肢になります(タイプDからタイプBへのポジション移行)。上記①で認識した強みが、事業の買手にとって魅力となり得ることがあります。

 

 

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なお、健全性を高めることが出来れば、健全性が低いことを理由に事業承継に消極的であった親族(ご子息等)に対して親族内事業承継を再検討する可能性も生じます(タイプDからタイプAへのポジション移行)。

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年5月21日)より再編集のうえ掲載

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「廃業・清算」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑦~

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題した7回目の今回は、前回に引き続き、第1回でご紹介したタイプD(健全性が低く親族内後継者がいない会社)に着目します。 但し、現状がタイプDの会社であると判断しても、会社の健全性を高めて他のタイプの事業承継を選択する可能性もあり得ますので一度、外部専門家のコンサルティングを受けることも有用と考えられます。最終的にやむを得ず廃業・清算を選択する場合は以下のような手続きになります。なお、清算の際に債務超過である場合の取り扱いに関しては次回ご紹介いたします。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 三好誠司/公認会計士

 


【廃業・清算手続】

一般的な廃業・清算手続きの流れを簡単に図示しています。廃業の手続きは様々な手続きが必要となりますので、廃業を決断して即廃業できる訳ではありません。

 

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【廃業時の留意点】

①取引先への告知

廃業日を決めたら取引先に迷惑をかけないように廃業を伝えるあいさつを行うため廃業挨拶状を出します。廃業手続きは2~3か月程度かかるため廃業によって迷惑が掛からないように早い段階で行うことが望ましいです。

 

②従業員への通知

従業員は会社と雇用契約を締結しています。雇用先である会社が消滅すると従業員は解雇となりますが、解雇の場合には30日前に通知する必要があります。30日前に通知することが困難な場合は30日に満たない期間の給与支払いが必要となります。

③上記以外の関係者

・店舗や土地を賃借している場合、廃業に伴い物件の明渡しが必要となります。期限前の契約解除の場合は、契約内容に従った手続きが必要となりますので敷金や保証金、原状回復義務等についてあらかじめ条件を確認しておく必要があります。
・リース契約について中途解約は残期間までのリース料又はそれに相当する違約金を支払う必要がある契約が多いので資金面の手当てが必要になります。

 

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年4月22日)より再編集のうえ掲載

[解説ニュース]

会社の特別清算に伴う法人の金銭債権の貸倒処理(参考:東京地裁平29年1月19日判決)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(亀山 孝之/税理士)

 

 

1. はじめに


特別清算とは、会社法上の制度で、解散後・清算中の株式会社について債務超過の疑いがある場合等に裁判所の命令により開始され、その監督のもとで行われる(特別の)清算手続であり(会社法510条~574条外)、協定型と個別和解型があります。

 

2. 特別清算の2類型と特別清算に伴う貸倒処理に係る法人税基本通達9-6-1(2)とその他の通達


表題の通達9-6-1 (2)は、法人の有する清算会社に対する金銭債権の額のうち、「特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額」は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する」旨を定めています。

 

ここでいう「協定」とは、会社法563条以下の定めに従って行われる手続きで、清算会社と協定債権者(一般債権者のこと)との間で、清算会社が協定債権者に弁済をすること及び協定債権者は弁済を受けられなかった部分を免除することを取り決めることで、清算会社が債権者集会に対して協定の申し出をして、債権者集会において法定の要件を満たす同意を得て可決し、さらに、裁判所の認可の決定を得て成立し効力を生じます。協定が成立するとそれに同意しなかった債権者も拘束されます。

 

これに対し、債権者が少数の場合(特に、清算会社の親会社などその関係者のみが債権者である場合)、協定に代え、協定よりコストや迅速性で勝る「個別和解」により清算が行われる場合があります。個別和解は、一部弁済と引き換えに残債免除とする場合が一般的で、裁判所の許可により効力が生じます(同法535条①4)。

 

ここで留意すべきは、特別清算により切り捨てられた金銭債権につき、9-6-1がその(2)該当の貸倒損失として損金の額に算入することを認めるのは、あくまで協定により免除される(切り捨てられる)場合のその免除額に限っており、個別和解による免除(切り捨て)額はこの(2)に当たらないということです。それは、まず、同通達(2)の文言上、そこに個別和解も含むことは読みとれないことから明らかであるといえますが、それを措いても、個別和解は、協定の裁判所による認可とは別個の手続で、当事者間の公平を担保する、又は通常の合理性のない馴れ合い的な和解を修正するための規定もないため、たとえば、親会社と子会社のみが当事者の場合、いかようにも和解(債務免除)の合意ができます。よって、個別和解による債務免除を協定によるそれと同等に扱うことは不合理です。

 

以上の通り、協定型ではなく個別和解型の特別清算手続が多く利用されているとしても、特別清算手続でありさえすれば、子会社の整理に関する親会社の負担(債務免除)額を無条件に損金の額に算入できるわけではありません。基本通達が、特別清算による債権の切り捨てについて協定によるものであることを要件に貸倒損失として損金算入を認めようとしていることには合理性があり、それを満たすことが必要です。

 

以上の通り、個別和解による免除額は上記通達の(2)に当たりませんが、個別和解による債務免除は、同通達が貸倒損失として損金算入を認める4つ目の類型として挙げる「(4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」に当たる余地は残ります。この(4)の「場合」に該当するかどうかの判断は、金銭債権の弁済の可能性の判断につき「債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情だけでなく、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれき等による経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、 社会通念に従って総合的に判断されるべき」と判示した平成16年12月24日の最高裁判決に沿って行うべきと考えられます。

 

この(4)にも当たらない場合は、別の法人税基本通達9-4-1により、法人税法37条の寄附金に該当するか否かの判断をすることになります。つまり、同通達が寄附金に当たらない要件として示す「その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められる」か否かを検討することになりますが、この(4)に当たらない場合は、9-4-1が示す要件も満たさないことが多い、すなわち寄附金となる場合が多いと考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/19)より転載