会計事務所の事業承継について ~税理士事務所の第三者承継(M&A)の実態、M&Aで事務所を売却する理由とは?~
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[会計事務所の第三者承継(M&A)]
第1回:会計事務所の事業承継について
~税理士事務所の第三者承継(M&A)の実態、M&Aで事務所を売却する理由とは?~
〈解説〉
公認会計士・税理士 中村大相
1.会計事務所の実態
税理士登録している人数は8万人ほどで、会計事務所数(税理士法人含む)は2.6万ほどです。単純に計算すると1事務所に税理士は3人ほどとなりますが、いわゆるBIG4や大手の税理士法人に多くの税理士が所属しているので、多くの会計事務所は1事務所につき税理士1~2人で運営されています。
後継者がいないために、事業承継で悩む中小企業が増えておりますが、会計事務所でも同じことが起きています。税理士1人の会計事務所で、税理士が仕事を辞めたいと思っても職員をクビにしたくないし、かといって事務所内に税理士がいないので引き継げる人もいないし、、、と悩んでいる税理士は多いのではないでしょうか。
2.事業承継型M&Aと成長戦略型M&A
後継者不在の中小企業の事業承継問題を解決する手段として、M&Aを選択する経営者が増えています。後継者がいないので第三者に会社を譲渡するケースです。このようなM&Aは「事業承継型M&A」と呼ばれており、中小企業のM&Aの半分以上が事業承継型M&Aです。
一方、後継者の有無は関係なくM&Aを選択する中小企業も増えています。別の事業に進出したいので、今の会社を譲渡しその資金を別事業に投資するというケースや、自力での成長ではなく大手の傘下に自ら入り大手の支援を受けて自らの会社を成長させるというケースがあります。このようなM&Aは「成長戦略型M&A」と呼ばれていて、比較的若い経営者が選択することが多いです。
3.会計事務所のM&A(譲渡)
中小企業でM&Aが増えているのと同様に会計事務所のM&Aも増えています。M&Aを選択する理由も様々です。
①引退したいが後継者がいない
●子供がいない
●子供はいるが試験に合格できない
●子供はいるが他の業界で働いていて継ぐ気がない
●後継者と考えていた職員がいつまで経っても試験に合格しない
●事務所にいる税理士は経営者としては頼りない
これは、先ほど説明した中小企業のM&Aのうち「事業承継型M&A」に該当します。中小企業も会計事務所も同じような理由で後継者問題を抱えています。しかも、会計事務所特有の問題として「税理士や公認会計士の資格が必要」ということが挙げられます。どんなに優秀な人であっても、資格を持っていないと承継できないということです。これは医療法人にも当てはまりますが、後継者の幅が中小企業以上に狭いため、より後継者問題で悩む人が多いです。
②先行き不安
●毎年顧問報酬の値下げを要求される
●顧問先が年々減少する
●職員を新規採用できない
●複雑化する会計税務(連結、国際税務などなど)に対応できない
●事務所のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に対応する知識経験、資金もない
●税理士業界全体の将来が心配
会計事務所の代表である税理士は、事務所の規模の大小は違えど立派な経営者なので、中小企業の経営者同様に経営に関する様々な悩みを抱えています。事務所運営に不安を抱えている方もいらっしゃるでしょうし、業界全体の先行きに不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。先行き不安であるため、あえて大手の傘下に入りたいと考える方もいらっしゃいます。
③他業種への転換
会計事務所の他に、コンサル会社などの別会社を運営している方は多いです。他にも、不動産仲介の会社や保険代理店、中にはファンドを運営している方もいらっしゃいます。会計事務所以外の事業が順調でそちらに専念したいために会計事務所を手放したいと考える方がいらっしゃいます。
②と③は先ほど説明した中小企業のM&Aのうち「成長戦略型M&A」に該当します。
中小企業のM&Aが増えているのと同様に、様々な理由から会計事務所のM&Aも増えています。
4.会計事務所のM&A(買収)
会計事務所を譲渡したいニーズと同様、会計事務所を買収したいニーズも増えています。会計事務所が他の会計事務所を買収する目的について、いくつか説明いたします。
①売上の増加
顧問先を引き受けることで、単純に売上の増加につながります。しかし、買収する会計事務所にはそれ以上のメリットが生まれる可能性があります。買収側の会計事務所が税務以外にも様々なサービス(経営コンサル、資金調達、給与計算、保険販売、IPO等々)を提供できる一方で、譲渡側の会計事務所は顧問先に対して記帳代行や決算業務等のサービスしか提供していなかった場合を考えてみますと、既存の顧問先に対して新たなサービスを提供することが可能になり、顧問報酬のアップ(=売上増加)につながることになります。
事業会社のM&Aでも同じようなケースがあります。運送業を例に挙げると、小規模であるがゆえに荷主に価格交渉ができず利益率が低いために赤字が継続している運送会社があるとします。その運送会社が、大手の運送会社の傘下に入ることで荷主と強気の価格交渉を行ったり、違う荷物を運ぶことが可能になったりして、一気に黒字に転換することはよくあります。
②人の確保
事業規模の拡大のため従業員採用の募集をかけてもなかなか集まらないので、まとまった数の従業員を確保するために他の会計事務所を買収したいというニーズです。今後、会計事務所のDX化が進んでいくでしょうが、まだまだ人の確保は必要です。
③新たなエリアへの進出
既存のエリアでの成長が難しくなってきたので、他のエリアに進出したいけど、一から拠点を築くのは大変なので、進出したいエリアにある会計事務所を買収したいというニーズです。地方から東京や大阪、名古屋といった大都市に進出したいと考える方が多いです。また、従業員が何人も税理士試験に合格し、1つの事務所内で資格者の割合が高くなった会計事務所が資格者を活用するため、他のエリアに進出したいと考える方もいらっしゃいます。
このように、会計事務所がM&Aを活用することで急成長することが可能になります。