[解説ニュース]

【事例】中小企業オーナーの遺産分割対策としての会社分割の活用法

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■株式交付制度の概要と活用時の留意点

■遺産分割による配偶者居住権の設定と相続税の小規模宅地等の特例の適用

 

 

【問】

A氏はB株式会社(B社)の代表取締役として、発行済株式を全部保有しています。B社は甲事業と乙事業を営んでおり、A氏の長男と次男がそれぞれ甲事業、乙事業の責任者として経営に参加しています。A氏の死亡後、長男と次男が揉めないように、B社をどのように承継させたらよいでしょうか。

 

 

【回答】

1.会社分割を活用した対策の概要


現状のまま遺言もなくA氏の相続が開始した場合、B社株式を兄弟でどう分けるかでトラブルになるおそれがあります。また遺産分割協議により、兄弟がそれぞれB社の株式を半分ずつ相続したような場合には、会社の意思決定に支障が出る問題があります。

 

上記の問題点を踏まえれば、A氏が生前にB社を甲事業、乙事業と事業別に二つに分割しておくことが有効な対策となります。具体的には、B社は甲事業を営む会社として存続させる一方で、乙事業を営む会社としてC社を下記2の会社分割により設立(会社法762条以下。以下「新設分割」。)します。生前にそのような対策を実行することにより、A氏の相続開始時には相続財産がB社株式と新設のC社の株式になります。

 

B社株式とC社株式を長男と次男兄弟がそれぞれ相続することで、遺産分割とその後の会社経営にかかるトラブルを未然に防ぐことができます。税務上は、A氏が生前に上記の会社分割を行い、①分割後のB社株式とC社株式を相続開始時まですべて保有する予定で、②他にB社からは何も給付を受けなければ、その他の要件を満たすことにより適格分割となり、課税の問題も生じません(下記2参照)。A氏の相続開始後に、B社を甲事業、乙事業と事業別に分割することは可能ですが、すでに兄弟間でトラブルが顕在化している場合には、会社分割を行うことが手続面も含めて煩雑になります。会社分割による遺産分割対策は、A氏がB社のオーナー経営者であるうちに実行すべきでしょう。

 

2.会社分割を実行した場合の税務上の取扱い


会社分割とは、株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により他の会社に承継させることをいいます(会社法2条29号、30号)。この場合の「他の会社」には、既存の会社のときと新設会社のときとがありますが、本稿では新たに会社を設立する「新設分割」を想定します。新設分割にかかる税務上の取扱いをまとめると、次のとおりになります。

(1)分割した場合の株主A氏の課税(所得税)

分割により新設されるC社が、A氏に対してC社株式以外の資産を交付しなければ、法人税法上の「適格分割型分割」に該当します。適格分割型分割に該当する場合のA氏の課税関係は次の通りです。

 

①C社株式に関してみなし配当は生じません(所得税法25条第1項2号)。
②A氏の側から見ると、実態として会社分割の前後でB社株式の価値の一部がC社株式に変わった(移転した)だけであると考えられます。したがって、この分割によりB社株式からC社株式へ移転した株式の価値については、B社株式の取得価額の一部をC社株式の取得価額に付替える計算のみを行い、譲渡所得課税は行いません(所得税法施行令113条・租税特別措置法37条の10第3項2号かっこ書)。

(2)B社とC社の課税(法人税)

適格分割型分割を行った場合には、B社の乙事業に係る資産および負債を適格分割直前の簿価でC社に引き継ぎます(法人税法62条の2)。よって、B社において乙事業の分割に伴う資産負債の譲渡損益は認識せず、B社とC社に課税関係は生じません。

 

3.会社分割の実行による相続税への影響


会社分割を行うことにより、A氏に係る相続税の計算上、会社分割前のB社株式の相続税評価額に比べ、分割後のB社株式とC社株式の相続税評価額の合計額が大きくなる場合があるので注意が必要です。

 

例えば、会社分割後3年以内にオーナー経営者に相続が発生した場合、C社株式の純資産価額の計算上、C社がその土地や家屋の取得(=会社分割)後3年以内にA氏の相続が発生したことになるので、その土地や家屋は相続税評価額ではなく通常の取引価額で評価されることになります(財産評価基本通達185)。路線価や固定資産税評価額に基づく相続税評価に比べて、通常の取引価額に基づく評価の方が、相続税評価額は通常高くなります。また、この場合のC社株式は、開業後3年未満の会社の株式となるので、純資産価額方式のみによる評価となり、一般的に相続税評価額の低くなる類似業種比準価額による評価はできません(同189-4)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/10/25)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「遺言書に沿った遺産の分割が合意に至っていない場合の相続税の申告について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

■【Q&A】分割協議により遺言と異なる者が財産を取得した場合の贈与課税の有無

 


[質問]

被相続人の自筆証書遺言があります。裁判所の検認も受けており、遺言書としての法的効力も認められております。

 

法定相続人に相続させる旨、及び、法定相続人以外(甥、姪など)に遺贈する旨が書かれておりますが、相続人間で遺産分割に関して揉めており、遺言書通りに執行できず遺産分割ができない状況です。

 

この場合、相続税の申告は、申告期限までに、遺言書に基づいて申告を行うのか、もしくは未分割財産として申告を行うのか、どちらが正しいのでしょうか。

 

 

[回答]

ご照会の事例は、遺産の分割が行われておりませんので相続税法55条の定めるところにより未分割遺産に対する課税の手続きによることになります。

 

被相続人の遺産は不動産、動産、無形資産など多様な構成となっており、その個々の遺産を承継する地位を有する相続人等がどのように取得するかを定めるのが遺産分割です。例えば、被相続人甲の遺産にA町に所在する地積100㎡、価額500万円のa土地とB町に所在する地積100㎡、価額500万円のb土地があるという場合において、それぞれ法定相続分2分の1を有する相続人乙および丙がいずれもa土地の取得を望んだとする法定相続分が等しくa土地とb土地の地積および価額も等しいところから、その所在地の別を如何にするかだけが問題として残されます。この点について協議してそれぞれの相続する土地を決めるのが遺産分割協議であり、個々の遺産について個別にその取得者を定めるために遺産分割の協議は行われます。

 

ご照会の事例では、この遺産分割の協議が行われない状態にあり、相続税の申告は上記のとおり相続税法55条の定めに従い申告手続きを進めることになります。

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年12月09日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

2次相続の申告後に、1次相続に係る遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定した場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■遺留分侵害額の請求があった場合の税務上の取扱い

■遺留分制度を潜脱する意図で利用された信託(東京地裁H30.9.12)

 

 

 

【問】

私(C)の祖父(A)は、X1年1月に死亡しました(以下「1次相続」)。祖父はすべての財産1,000を私の父(B)に相続させるという遺言を残しており、これに対して叔母(Z)が遺留分侵害額請求をしてきました。

 

また、X1年2月、父(B)が死亡しました(以下「2次相続」)。父はすべての財産を私(C)に相続させるという遺言を残していました。

 

祖父(A)の相続税の申告期限までに叔母(Z)への支払額が確定しなかったため、1次相続に係る父(B)の相続税申告は、祖父(A)の遺言通り、父(B)が1,000すべてを相続したものとして、X1年11月に行いました。

 

また、父(B)の相続税の申告期限までにも叔母(Z)への支払額が確定しなかったため、2次相続に係る私(C)の相続税申告は、父(B)に祖父(A)から相続した1,000の財産があるものとして、X1年12月に行いました。

 

その後、X2年2月に、遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定し、叔母へは200を支払うこととなり、その結果、父(B)が相続した財産は800となりました。

 

この場合、1次相続に係る父(B)の相続税申告、及び2次相続に係る私(C)の相続税申告において、更正の請求をすることはできますか?

 

 

 

〔親族関係図〕
822-1.png

 

 

〔1次相続に係る課税価格〕

 

〔2次相続に係る課税価格(1次相続の影響のみ記載)〕

 

 

【解説】

1. 相続税法における更正の請求


相続税の申告書を提出した者は、遺留分侵害額請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、その申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、その確定したことを知った日の翌日から4か月以内に、更正の請求をすることができます。

 

2. 本問への当てはめ


(1)1次相続に係るBの相続税申告

上記1の規定のとおり、B(実際に手続をするのはその相続人)は、更正の請求をすることができます。
なお、1次相続に係る相続税申告についてBが更正の請求をする場合、Zが期限後申告をしなければ、Zは決定処分を受けることになります。ただし、更正の請求及び期限後申告をしたとしても、しなかった場合と比べて相続税の総額は変わらないため、実務的にはこれらの申告等を行なわず、当事者のB・Z間で修正税額の精算のみを行うこともあります。

(2)2次相続に係るCの相続税申告

上記1の赤字の箇所は、次の波線のような言葉を補って解釈するものと考えます。

その者(遺留分侵害額請求をされた相続に係る申告書を提出した者)が 遺留分侵害額請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、その 遺留分侵害額請求をされた相続の 申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、」

すなわち、上記1の規定は、遺留分侵害額請求をされた相続に係る申告(本問の場合、1次相続に係る申告)に関しての更正の請求について定められたものであり、遺留分侵害額請求とは直接関係のない申告(本問の場合、2次相続に係る申告)についても更正の請求を認めるという規定ではないと解されます。また、本問の場合、国税通則法の更正の請求事由にも該当しません。したがって、Cは、2次相続に係る相続税について更正の請求をすることはできないと考えます。

 

3. 最後に


上述のとおり、相続税法における更正の請求の規定は本問の場合の2次相続については適用されず、その結果、Cは1次相続においてBが相続しないこととなった財産200についても2次相続で相続税を負担しなければならないことになると考えます。

(参考:大阪国税局WAN質疑応答事例検索システム相続税関係2929)

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/25)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「分割協議により遺言と異なる者が財産を取得した場合の贈与課税の有無」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】遺言書に沿った遺産の分割が合意に至っていない場合の相続税の申告について

■【Q&A】個人事業者が事業を廃止した場合の事業用資産に係る課税関係

 


[質問]

次の事実が認められる場合、相続人乙から相続人丙へ贈与があったものと考えられるでしょうか。

 

①被相続人甲は平成30年1月に死亡し、公正証書遺言を残していました。

 

②遺言に従い、平成30年4月頃から各種財産の処分や登記、名義変更が開始されました。

 

③平成30年7月頃、遺言書に記載のない財産Aの存在が発覚しました。

 

④遺言書に記載のない財産について、遺言書には下記の通り記載されていました。

『遺言者は上記以外の一切の財産を、相続人乙に相続させる』

 

⑤しかし、相続人間の話し合いにより、財産Aは相続人丙が取得する旨の分割協議書を締結し、丙が取得しました。

 

結果、遺言に従うと乙が取得すべきである財産を、分割協議書の締結により丙が取得することになりましたが、この場合、相続人乙から相続人丙へ贈与があったものと考えられるのでしょうか。

 

 

[回答]

1 最高裁平成3年4月19日判決(民集45巻4号477頁)は、「「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、遺産の分割の方法を定めた遺言であり、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである」と判示しています。

 

そこで、ご質問の場合も、その「相続させる」趣旨の遺言に従って、遺言書に記載の各種財産を各相続人が承継(取得)していたところ、遺言書に記載のない財産Aの存在が発覚したことから、遺言書に『遺言者は上記以外の一切の財産を相続人乙に相続させる』と記載されてはいるものの、相続人間で遺産分割協議をして、この財産Aを相続人丙が取得することにしたというものです。

 

 

2 ご質問は、上記の場合、乙から丙に財産Aの贈与があったものと考えられるかどうかと問われるものですが、① 「相続させる」趣旨の遺言の内容と異なる遺産分割(の効力)が認められていること、② そもそもご質問の遺言書には財産Aについての帰属が定められていないと解する余地があることから、相続人全員の合意による遺産分割により、財産Aについては丙が相続により取得したものであるとして相続税の申告をする場合には、乙から丙に対し贈与があったものとして贈与税が課税されることはないものと考えます。

 

すなわち、上記判例によれば、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言は、特段の事情がない限り、被相続人の死亡時に当該遺産が当該相続人に直ちに相続されるので、遺産分割の協議や審判が介在する余地はないことになりますが、さいたま地裁平成14年2月7日判決(下級裁判所裁判例速報)は、「判例は、その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から、これを不要としたのであって、相続人間において、遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである」として、遺言の内容と異なる遺産分割の効力を認めています。なお、同判決に「このような遺産分割は、相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能である」との判示があることから、贈与税の課税関係が生じるという考え方もありますが、(ご質問の場合は別として)課税庁が贈与部分や交換部分を特定することは極めて困難であると思われますし、遺産分割の効力が認められる以上、相続税の課税関係で足りるものと考えます。

 

また、平成27年10月2日裁決は、相続税調査により新たに発見された財産が、当初の遺産分割協議書に妻が取得する財産として「現金、家庭用財産など上記相続人が取得する以外の全財産」と記載されている条項に含まれるか否かについて、「一般に、個別的財産の遺産分割を定める条項により各人が取得する財産以外の財産を一部の者に取得させる旨の本件条項のようなものは、個別的財産の遺産分割による取得を定めた条項を設けた上での補充的なものであって、失念していた財産や家財道具を被相続人と同居していた家族等の適当な者に取得させるために用いられるものと考えられ、個別的な記載のない相当高額な財産については、当該補充的条項にその高額な財産をも含める旨合意されているなどの特別の事情がない限り、含まれないと解するのが自然である」と判断しています。ご質問の場合、(財産Aの内容は明らかではありませんが)遺言書の『遺言者は上記以外の一切の財産を相続人乙に相続させる』との記載についても、裁決にいう「補充的条項」と解し、『上記以外の一切の財産』に財産Aは含まれないと解したことから、相続人全員で財産Aを丙に取得させる遺産分割を行ったという説明ができるのではないでしょうか。

 

 

○ さいたま地裁平成14年2月7日判決
(1) 特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。そのような遺言がなされた場合の遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、上記の協議又は審判を経る余地はない。以上が判例の趣旨である(最判平成3年4月19日第2小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。

 

しかしながら、このような遺言をする被相続人(遺言者)の通常の意思は、相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから、これと異なる内容の遺産分割が全相続人によって協議されたとしても、直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。

 

被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別、そうでなければ、被相続人による拘束を全相続人にまで及ぼす必要はなく、むしろ全相続人の意思が一致するなら、遺産を承継する当事者たる相続人間の意思を尊重することが妥当である。

 

法的には、一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるものではあるが、このような遺産分割は、相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能であるし、その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認めることが実態に即して簡明である。また従前から遺言があっても、全相続人によってこれと異なる遺産分割協議は実際に多く行われていたのであり、ただ事案によって遺産分割協議が難航している実状もあることから、前記判例は、その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から、これを不要としたのであって、相続人間において、遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである。

 

 

(2) 本件においては、本件土地を含むDの遺産につき、原告ら全ての相続人間において、本件遺言と異なる分割協議がなされたものであるところ、Dが遺言に反する遺産分割を禁じている等の特段の事情を認めうる証拠はなく、原告らの中に本件遺産分割に異議を述べる者はいない上、被告は本件遺産分割については、第3者の地位にあり、その効力が直ちに被告の法的地位を決定するものでもないことを考慮すると、本件遺産分割の効力を否定することはできず、本件土地は原告らの共有に属すると認められる。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年6月14日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

遺産分割に伴う相続税更正請求時の自社株評価で税金裁判

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

1.はじめに

相続税の更正の請求の特則を巡る税金裁判で、東京地裁は異例の判決を下しました(平成30年1月24日)。争点となったのは、主に相続財産である製造業グループの不動産管理会社(中会社)の非上場株式の評価が、遺産の未分割状態での当初申告と異なる評価額により行うことが認められるかどうかでした。ただ問題となった製造業グループ中心の大会社の非上場株式の評価について、以前に税務訴訟が提起され、納税者側が勝訴していたことが事態を複雑にしたようです。

 

その裁判では、主たる争点の1つにおいてグループ中心の大会社の保有資産の金額に占める株式の金額の割合が25%以上だからといって同社を株式保有特定会社と認定するのは時代にあわないとして、更正処分で採用された純資産価額を反映させた評価額ではなく、類似業種比準方式による評価額が認められています。これにより、同じく相続財産であった同社の子会社である不動産管理会社(中会社)の株式については、親会社の株式を70%以上保有して「株式保有特定会社」であったため、純資産価額方式で評価され、正しく計算し直した評価額が認定されていました(東京高裁平成25年2月28日・確定)。

 

これにより、国税庁は後に、株式保有特定会社と認定する株式の保有割合を25%以上から50%以上に変更する財産評価基本通達の改正を行ったことはよく知られています(「財産評価基本通達における大会社の株式保有割合による株式保有特定会社の判定基準の改正について」国税庁平成25年5月)。

 

 

2.相続税の更正の請求の特則とは

相続税では、未分割の財産の相続税の計算については、とりあえず各相続人が法定相続分で相続したものとして課税価格や税額を計算することになっています(相続税法55条)。その後分割されていなかった財産の分割協議が成立し、実際に相続する割合が変わって当初申告時の課税価格と異なる場合がでてきます。こうして課税価額が減額した場合には、このことを知った日の翌日から4か月以内に限り、その分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、その相続人は更正の請求(特則)をすることができるとされています(相続税法32条)。

 

 

3.争いの内容

上記の東京地裁異例判決の事案では、納税者が法定相続分で当初申告していた相続税につき、その際の税務訴訟でグループ中心の大会社の評価で類似業種比準方式が認められたことから、この評価を前提に正しく計算し直して認定した不動産管理会社(中会社)の株式の評価額を利用して遺産分割協議が調ったことに伴う更正の請求をしていました。というのも、上記の財産評価基本通達の変更という後発的な事由により更正の請求をするにしても、法定申告期限等から5年を経過している場合には法令上、減額できなかったからです。しかし当局が当初申告の株評価で請求すべきだとして更正処分をしたため争いになったわけです。

 

 

4.裁判所の判断

東京地裁は判決で、更正の請求の特則について「原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由、すなわち申告または従前の更正処分における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等を主張することはできない」と解されると説示しました。

 

ただし、東京地裁はこの事案における相続税の更正の請求の特則の適用に当たり次のような問題点を指摘しました。①以前の裁判の判決が「課税価格および納付すべき税額につきその更正処分における金額と異なる金額を認定し、更正処分の一部を取り消すこととなった場合には、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求(中略)の際の計算において、従前の更正処分における個々の財産の価額のうち判決によって変更を受けたものをそのまま計算の基礎にすべきではない」。②しかし「その価額を申告における価額と置き換えることもその価額が従前の更正処分によって変更を受けている以上、判決がその変更前の価額を相当とする旨を判示しているのでない限り、相当ではない」。このため東京地裁は、「争点となった個々の財産の評価方法や価額に係る認定・判断ならびにこれらを基礎として算定される課税価格および相続税額に係る認定・判断に、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定および法律判断として行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生じている(中略)、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求(中略)に係る事件についても同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格および相続税額に関する事件であることに変わりがない以上、行政事件訴訟法33条1項にいう「その事件」として、上記の拘束力が及ぶものと解するのが相当」と判断、過去の税務訴訟で認定された株式の評価額も税務当局を拘束するとしています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2018/12/03)より転載