Q:M&Aで「売却が難しい会社」とはどのような会社でしょうか?

顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.5 Q:M&Aで「売却が難しい会社」とはどのような会社でしょうか?

 

A:

売却が難しい会社とは、買手がリスクを感じやすい会社を指します。たとえ現在の業績が良くても、引継ぎ後の収益性が不透明であれば、交渉が進まなくなる可能性があります。
売却が困難になる要因はいくつかありますが、それらが複数重なるほど条件が厳しくなります。

 

 

<解説>

売却が難しくなる代表的なケースの一例を紹介します

① オーナー依存が強い会社

仲介会社が買手候補に案件を提案した際、最も多く返ってくる懸念が「社長がいなくなった後、売上は本当に維持できるのか」という点です。主要顧客との関係がオーナーの個人的な信頼関係に依拠していたり、現場の判断がすべてオーナーに集中していたりする会社は、候補に挙がっても優先順位が下がりやすくなります。幹部に一定の権限が委譲され、オーナー不在でも業務が回る体制が整っている会社は、それだけで買手の安心感が高まります。

 

② 希望価格の高い会社

希望売却価格が収益力から算定される相場と大きくかけ離れている場合、交渉が進みません。「この価格では合わない」と判断した買手は、最初の提案段階で撤退します。経営者が「他社が〇億で売れたから」という情報をもとに根拠のない希望価格を持っている場合は特に注意が必要です。成約価格の背景には純資産の構成や買手の事情など様々な要素が絡んでおり、表面上の数字だけでは比較になりません。希望価格の根拠を整理しておくことが、スムーズなM&Aへの第一歩です。

 

③ 財務・労務リスクのある会社

業績・体制に問題がなくても、デューデリジェンス(DD)の段階で破談になるケースがあります。現場でよく見られるのは、長年放置された役員貸付金、実態のない在庫計上、未払残業代等の潜在リスクです。これらは決算書の表面には現れにくく、買手側の調査で初めて判明することが多いものとなります。発覚した時点で価格の大幅な引き下げを求められるか、交渉そのものが進まなくなるケースがあります。「もう少し前に整理しておけば」という案件を、仲介の現場では繰り返し経験しています。

 

④ その他、売却を難しくする要因

上記以外にも、以下のような要因が重なると買手がつきにくくなります。
・ 斜陽産業・市場縮小が明確な業界(成長が見込みにくいと買手が判断)
・ 売上の大部分が特定の1〜2社に集中している(取引先離脱リスク)
・ 許認可や資格がオーナー個人に紐づいており、承継が困難
・ 係争中の訴訟や保証債務など、簿外の偶発債務が存在する
こうした要因の多くは、M&Aを検討し始めてからでは対処が難しいものです。顧問税理士として、日頃の関与を通じて状況を把握し、必要な整理を進めておくことが、顧問先が円滑にM&Aを進められる体制を整えることにつながります。

 

【今回のポイント】

・オーナー依存・希望価格の乖離・財務労務リスクが主な要因
・斜陽産業・売上集中・許認可・偶発債務なども買手離れの原因になる
・こうした要因の多くは、日頃の関与を通じて現状を把握・整理しておく

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。