顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.2 Q:M&Aのトラブルとはどのようなものか?

 

A:

直近では、いわゆる“悪質な買手”による資金流出型のトラブルが問題視されました。
具体的な事例として現預金を有する債務超過企業が安価で買収され、買収後に資金だけを抜かれて放置されるケースがあります。
この場合、旧オーナーの個人保証が残り、最終的に倒産リスクを負うという深刻な被害につながります。

 

<解説>
■ 解説|実際に起きているスキーム

実際に、以下のような流れが確認されています。

 

・現預金を持つ会社(債務超過でも可)を低額で買収

・買収後、「貸付金」などの名目で現預金を買手先口座へ送金

・金融機関借入に対する旧オーナーの個人保証は解除されないまま放置

・一定期間後、買手が連絡不能となり会社は実質的に放置

・資金流出により資金繰りが破綻し倒産

・結果として旧オーナーに個人保証債務のみが残る

 

形式上は株式譲渡が成立していても、実態としては“資金の持ち逃げ”に近い事例です。価格がつく案件では発生しにくく、債務超過・赤字・後継者不在といった「早く手放したい」企業ほど狙われやすい傾向があります。

 

■ 税理士が確認すべき防止ポイント

この種のトラブルは、財務内容の確認だけでは防げません。買手の実在性と資金計画の妥当性をチェックすることが重要です。

 

・買収資金の出所と自己資金割合

・買収後の資金管理体制(資金移動権限・口座管理者)

・個人保証の解除スケジュールが金融機関と合意されているか

・買手の過去の買収実績と継続保有状況

 

特に個人保証の解除がクロージング条件に組み込まれているかどうかは、旧オーナーのリスクに直結する重要な論点です。

こうした点については、税理士だけで判断するのではなく、M&Aの実務に精通した仲介会社や専門家と連携しながら確認することが望ましいといえます。

なお、中小企業庁が策定している「中小M&Aガイドライン」においても、M&A実行後に旧オーナーの保証債務が不適切に残存することがないよう、金融機関との保証解除に向けた調整を適切に行うことの重要性が示されています。

譲渡を判断する際には同ガイドラインを順守し、クロージング条件を整理したうえで手続きを進めているかどうか、専門家を交えて進めていくことが重要となります。

 

■ 顧問先への伝え方

経営者には「赤字でも引き受けると言う相手ほど慎重に見る必要がある」ことを伝えるべきです。安価でも確実に保証解除まで完了する相手と、形式上の譲渡だけでリスクが残る相手では、最終的な安全性が大きく異なります。

 

買手の財務的裏付けと保証処理の進捗を管理することで、この種の被害は大幅に回避できます。価格ではなく“譲渡後に何が残るか”を基準に助言することが、顧問先を守る上で最も重要かつ実務的な対応です。

 

 

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

 

 

 

顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.1 Q:顧問先から「M&Aを検討している」と言われた時の初動対応は?

 

A:

まずは、相手の話をしっかり聴きましょう。
その場で判断せず、期待値を上げず、決めつけたりするような言動は控えてください。
税理士として最初の役割は、顧問先の意向や背景を正確に把握することです。
そのうえで、「一緒に考えていきましょう」という姿勢を明確にしてクライアント寄り添うことが大切です。

 

<解説>

では、顧問税理士として、クライアントのM&Aに関わるにはどのような点に注意すればよいのでしょうか?

 

①なぜ「判断しない」ことが重要なのか

M&Aの現場では、「税理士に最初に相談したが話が噛み合わなかった」という譲渡企業経営者の声を多く耳にします。

その原因の多くは、初回相談時に判断・評価・方向性まで踏み込んでしまうことにあります。

M&Aは、税務だけで完結するテーマではありません。

雇用、取引先、家族関係など、複数の要素が絡むため、初動での即断はミスマッチを生みやすくなります。

そのため初回は、「現時点では判断材料が不足している」というスタンスを明確にすることが重要です。

 

②なぜ「期待値を上げてはいけない」のか

「この規模なら〇億くらいでしょう」「最近この業界は高いですよ」

といった不用意な一言は、後にトラブルの火種になります。

M&Aの価格は相場ではなく、個別条件と交渉によって決まります。

初期段階での価格感提示は、経営者の期待値を不必要に引き上げ、結果として「話が違う」という不信感につながりかねません。

 

③「選択肢を閉ざさない」姿勢が信頼を生む

M&Aに対して否定的な意見を持つこと自体が問題なのではありません。

問題となるのは、代替案や整理を示さずに否定してしまうことです。

実際、M&Aを検討している経営者は多く、「理解してもらえなかった」と感じた瞬間に、別の相談先へ移ってしまいます。

結果として、成約後に初めて知らされ、顧問契約が解除されるケースも少なくありません。

 

実際のところ、売上数億円以上で一定の利益を確保している“優良顧客”ほど、金融機関、コンサル会社などから日常的にM&Aの提案を受けているのが実情です。

他にライバルが多数登場する中でも、信頼関係を崩すことなく顧問契約を継続してもらうためには、

常日頃からクライアントに対して真摯に向き合い、相談を受けた際には慎重に対応する必要があります。

 

 

【今回のポイント】

M&Aの現場からみた、初動対応のポイントは下記の通りです。

  • ・判断しない
  • ・期待値を上げない
  • ・ただし、選択肢は閉ざさない

 

 

この連載では、税理士の先生が実際に顧問先から受けるような相談に対する回答を連載体系的に解説していきます。

 

 

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。