顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.4 Q:顧問先からM&Aを進める際に「どこに相談すればいいか」と聞かれました。どうアドバイスをすればいいですか?

 

A:

「まずはM&Aの支援実績がある専門家に相談することをお勧めします。具体的にはM&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)が代表的な相談先です。ただし、仲介会社によって得意とする業種や規模、担当者の経験に差があるため、どこに依頼するかが重要になります」と伝えてください。
相談先を選ぶ際のポイントを事前に整理しておくことで、顧問先が安心して最初の一歩を踏み出せるようサポートできます。

 

 

<解説>

では、仲介会社を選ぶ際のポイントは何を基準にしたらよいのでしょか?

① 大手仲介会社と中小仲介会社、何が違うのか

大手M&A仲介会社は、豊富な買手候補データベースや全国規模のネットワークを有している点が強みです。多くの候補先へアプローチできるため、マッチング機会の広さが期待できます。
一方で、多数の案件を同時に取り扱うケースもあるため、案件によっては担当者との接触頻度やサポート体制に差が生じることがあります。
中小の仲介会社は、特定の業種や地域に特化している場合が多く、担当者が案件に深く関与しながら進められることが特徴です。オーナーとの距離が近く、柔軟な対応が期待できる一方で、買手ネットワークの規模や得意領域には違いがあるため、自社との相性を見極めることが重要です。

 

② 相談先だけではなく「担当者」も重要

M&Aでは、実際に案件を担当する担当者の経験や知識、提案力が結果に大きく影響します。
初回面談では、
・同業種の支援実績があるか
・どのような買手候補を想定しているか
・自社の強みや魅力をどのように評価しているか
・サポート体制はどのようになっているか
といった点を確認するとよいでしょう。
会社の知名度だけで判断するのではなく、「自社の事業をどれだけ理解しようとしているか」という視点も大切です。

 

③ 担当者との「相性」が結果を左右することもある

実際に、売上3億円規模の製造業者が仲介会社と契約したものの、担当者が業界特性を十分に理解しておらず、買手候補への提案内容が的確でなかったため長期間進展しなかったケースがありました。

その後、業界知識のある担当者が在籍する別の仲介会社へ相談したところ、買手候補の選定や提案内容が改善され、成約に至りました。

もちろん全てのケースに当てはまるわけではありませんが、仲介会社の規模や知名度だけでなく、自社の業種や課題を理解してくれる担当者かどうかも重要な判断材料になります。

 

④ 報酬体系の違いも必ず確認しておく

M&A仲介会社の報酬体系は大きく2種類に分かれます。成約時のみ報酬が発生する「完全成功報酬型」と、着手金や月額報酬が発生する「着手金あり型」です。
報酬体系の種類よりも、まず確認すべきは「どの段階でいくらかかるのか」が明確かどうかです。着手金・月額報酬・成功報酬の有無と金額が事前に明示されているか、成約に至らなかった場合の費用負担はどうなるのか、これらが曖昧な仲介会社は避けた方が無難です。
成約報酬の相場はレーマン法※を用いる会社が多く、譲渡対価に対して5〜10%程度が目安となりますが、会社によって料率の設定や最低報酬額が異なります。複数の仲介会社に見積もりを求め、報酬体系と具体的なサポート内容を比較したうえで判断することをお勧めします。

※レーマン法:譲渡対価の金額に応じて料率を段階的に変動させる成功報酬の算定方式。取引金額が大きくなるほど料率が低下する逓減方式が一般的で、国内のM&A仲介会社の多くが採用している。

 

【今回のポイント】

・大手はネットワークの広さ、中小は専門性や密な支援が強み。
・仲介会社だけではなく担当者の経験や提案力も確認する。
・初回面談では業界理解や具体的な経験、提案力も確認する。
・担当者変更があった場合の引継ぎ体制も事前に確認しておく。
・報酬体系(完全成功報酬 or 着手金あり)は複数社を比較したうえで選ぶ。

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.3 Q:顧問先の会社が「同業者が〇億で売れたと聞いたのですがうちも同じくらいで売れますか?」などと聞いてきた場合、どう答えるべきか?

 

A:

初期段階では具体的な金額を提示しないように注意しましょう。
「価格を考えるうえでの目安はありますが、最終的な価格は会社の個別条件と、買手との交渉によって決まります」と伝えてください。
そのうえで、「決算書上の利益がそのままM&A価格に使われるわけではない」という点を補足しておくことが重要です。

 

<解説>
① 買手は決算書の利益を「そのまま」では使わない

買手側は、決算書の利益をそのまま評価に使うことはありません。たとえばオーナーの役員報酬が市場水準より高い場合や、実態を伴わない経費が含まれている場合は、それらを除いた「正常化利益」を算出したうえで価格を検討します。役員報酬を市場水準ベースで調整するだけで、評価上の利益が数百万単位で変わることも珍しくありません。顧問税理士が把握している利益と、買手が評価する利益は、同じ決算書を見ていても一致しないケースは多くあります。

「うちの利益はこれだけある」という経営者の前提と、買手側が算出する利益が最初から食い違っていると、交渉が進むにつれて期待値のギャップが表面化します。

 

② 噂は参考にならない

「知り合いの会社が〇億で売れた」といった噂をもとに相談されるケースもありますが、他社の成約価格はM&A業界では非公開が原則です。聞こえてくる数字の裏に、買手の戦略的な意図があったか、不動産の含み益があったのか、借入金の処理がどうだったのかは、実際の当事者以外には知る術がありません。同じ業種・同じ規模に見えても、成約価格の構成はまったく異なります。価格は「誰が、どのような戦略目的(シナジー)で買うか」で決まります。

 

③ ある経営者の実例

ある経営者が「同じ業界内で規模が近い企業が5億円で売れたから、うちも同じくらいの価格で売れるだろう」と言っていました。しかし、その5億円で売却された会社は、自社ビルを保有しており、その不動産価値だけで2億円以上あったのです。つまり、事業の収益力だけを見れば、その会社とこの経営者の会社では実際の価値が大きく異なる可能性が高いということです。

M&Aでの売却価格は、単純に同業他社の価格を参考にするだけでは不十分で、個別の事情が必ず影響します。

 

【今回のポイント】

・「〇億で売れた」といった発言にうっかり同調をしない
・決算書の利益は「正常化」されてから評価に使われる
・他社の成約事例は背景が異なるため単純比較にならない
・価格は「誰が、どのような戦略目的(シナジー)で買うか」によって決まる

M&Aの譲渡価格は、単純に利益を何倍かした数字で決まるわけではありません。実際には、資産や負債の調整項目や、買い手企業との相性など、多くの要素が関係して価格が変動します。
早い段階で自社の価値や条件を整理しておくことで、経営者が考える価格と実際の売却価格のギャップを防ぎやすくなります。

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.2 Q:M&Aのトラブルとはどのようなものか?

 

A:

直近では、いわゆる“悪質な買手”による資金流出型のトラブルが問題視されました。
具体的な事例として現預金を有する債務超過企業が安価で買収され、買収後に資金だけを抜かれて放置されるケースがあります。
この場合、旧オーナーの個人保証が残り、最終的に倒産リスクを負うという深刻な被害につながります。

 

<解説>
■ 解説|実際に起きているスキーム

実際に、以下のような流れが確認されています。

 

・現預金を持つ会社(債務超過でも可)を低額で買収

・買収後、「貸付金」などの名目で現預金を買手先口座へ送金

・金融機関借入に対する旧オーナーの個人保証は解除されないまま放置

・一定期間後、買手が連絡不能となり会社は実質的に放置

・資金流出により資金繰りが破綻し倒産

・結果として旧オーナーに個人保証債務のみが残る

 

形式上は株式譲渡が成立していても、実態としては“資金の持ち逃げ”に近い事例です。価格がつく案件では発生しにくく、債務超過・赤字・後継者不在といった「早く手放したい」企業ほど狙われやすい傾向があります。

 

■ 税理士が確認すべき防止ポイント

この種のトラブルは、財務内容の確認だけでは防げません。買手の実在性と資金計画の妥当性をチェックすることが重要です。

 

・買収資金の出所と自己資金割合

・買収後の資金管理体制(資金移動権限・口座管理者)

・個人保証の解除スケジュールが金融機関と合意されているか

・買手の過去の買収実績と継続保有状況

 

特に個人保証の解除がクロージング条件に組み込まれているかどうかは、旧オーナーのリスクに直結する重要な論点です。

こうした点については、税理士だけで判断するのではなく、M&Aの実務に精通した仲介会社や専門家と連携しながら確認することが望ましいといえます。

なお、中小企業庁が策定している「中小M&Aガイドライン」においても、M&A実行後に旧オーナーの保証債務が不適切に残存することがないよう、金融機関との保証解除に向けた調整を適切に行うことの重要性が示されています。

譲渡を判断する際には同ガイドラインを順守し、クロージング条件を整理したうえで手続きを進めているかどうか、専門家を交えて進めていくことが重要となります。

 

■ 顧問先への伝え方

経営者には「赤字でも引き受けると言う相手ほど慎重に見る必要がある」ことを伝えるべきです。安価でも確実に保証解除まで完了する相手と、形式上の譲渡だけでリスクが残る相手では、最終的な安全性が大きく異なります。

 

買手の財務的裏付けと保証処理の進捗を管理することで、この種の被害は大幅に回避できます。価格ではなく“譲渡後に何が残るか”を基準に助言することが、顧問先を守る上で最も重要かつ実務的な対応です。

 

 

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

 

 

 

顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.1 Q:顧問先から「M&Aを検討している」と言われた時の初動対応は?

 

A:

まずは、相手の話をしっかり聴きましょう。
その場で判断せず、期待値を上げず、決めつけたりするような言動は控えてください。
税理士として最初の役割は、顧問先の意向や背景を正確に把握することです。
そのうえで、「一緒に考えていきましょう」という姿勢を明確にしてクライアント寄り添うことが大切です。

 

<解説>

では、顧問税理士として、クライアントのM&Aに関わるにはどのような点に注意すればよいのでしょうか?

 

①なぜ「判断しない」ことが重要なのか

M&Aの現場では、「税理士に最初に相談したが話が噛み合わなかった」という譲渡企業経営者の声を多く耳にします。

その原因の多くは、初回相談時に判断・評価・方向性まで踏み込んでしまうことにあります。

M&Aは、税務だけで完結するテーマではありません。

雇用、取引先、家族関係など、複数の要素が絡むため、初動での即断はミスマッチを生みやすくなります。

そのため初回は、「現時点では判断材料が不足している」というスタンスを明確にすることが重要です。

 

②なぜ「期待値を上げてはいけない」のか

「この規模なら〇億くらいでしょう」「最近この業界は高いですよ」

といった不用意な一言は、後にトラブルの火種になります。

M&Aの価格は相場ではなく、個別条件と交渉によって決まります。

初期段階での価格感提示は、経営者の期待値を不必要に引き上げ、結果として「話が違う」という不信感につながりかねません。

 

③「選択肢を閉ざさない」姿勢が信頼を生む

M&Aに対して否定的な意見を持つこと自体が問題なのではありません。

問題となるのは、代替案や整理を示さずに否定してしまうことです。

実際、M&Aを検討している経営者は多く、「理解してもらえなかった」と感じた瞬間に、別の相談先へ移ってしまいます。

結果として、成約後に初めて知らされ、顧問契約が解除されるケースも少なくありません。

 

実際のところ、売上数億円以上で一定の利益を確保している“優良顧客”ほど、金融機関、コンサル会社などから日常的にM&Aの提案を受けているのが実情です。

他にライバルが多数登場する中でも、信頼関係を崩すことなく顧問契約を継続してもらうためには、

常日頃からクライアントに対して真摯に向き合い、相談を受けた際には慎重に対応する必要があります。

 

 

【今回のポイント】

M&Aの現場からみた、初動対応のポイントは下記の通りです。

  • ・判断しない
  • ・期待値を上げない
  • ・ただし、選択肢は閉ざさない

 

 

この連載では、税理士の先生が実際に顧問先から受けるような相談に対する回答を連載体系的に解説していきます。

 

 

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。