経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)、いわゆる「M&A促進税制」がスタートしました
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経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)、いわゆる「M&A促進税制」がスタートしました
〈解説〉
公認会計士 吉山尚人(かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社)
はじめに
令和3年度税制改正大綱で公表され、M&A業界で話題となっていた「中小企業の経営資源の集約化に資する税制」が令和3年8月2日から遂にスタートしました。
当該税制改正で以下の3つの措置が活用できるようになります。
①中小企業経営強化税制
②所得拡大促進税制
③中小企業事業再編投資損失準備金
今回のコラムでは③中小企業事業再編投資損失準備金について制度の大枠をわかりやすく解説していきます。
1.制度の概要と税務メリット
令和3年8月2日から令和6年3月31日の間に一定の記載事項を記載した経営力向上計画を主務大臣に申請し認定を受けた中小企業者が、株式取得によってM&Aを実施する場合、株式の取得価額(取得価額10億円以下に限る)のうち最大で70%をその事業年度において損金算入できる制度です。その後5年間の据置期間を経て6年目から10年目にかけて均等に取り崩しを行い益金算入を行います(青色申告であることが前提です)。
実質的には単なる課税の繰延べ(10年通しでみると「いってこい」)ですが、M&A実施時は一時的に大きなキャッシュアウトが発生するため、この制度を活用することで相当の減税効果が得られ、M&Aによる資金繰りへの影響を軽減できます。
少し難しいですが、仕訳の例を以下に記載します(仕訳イメージ_準備金方式)。
①M&Aを実施した事業年度
有価証券 100百万円 / 現金 100百万円
事業再編投資損失 70百万円 / 中小企業事業再編投資損失準備金 70百万円
②M&A実施後6年目以降
中小企業事業投資損失準備金 14百万円 / 投資損失準備金取崩益 14百万円
②の仕訳をM&A実施後10年目まで毎事業年度計上します。
2.制度活用の流れ
この制度を活用する場合は上記フローで行います。
注意が必要なのは基本合意を締結した後、最終契約を締結するまでの間に経営力向上計画を申請し、認定を受ける必要がある点です。
既に最終契約を締結し取得した株式についてはこの制度の活用はできません。
スケジュール管理が重要になるため、制度活用に際しては弊社のようなM&Aアドバイザーに相談されることをお勧めいたします。
また税務署に確定申告する際には、経営力向上計画の申請書、認定書、確認書(いずれも写し)を添付する必要があります。
出典:中小企業の経営資源の集約化に資する税制概要・手引き(P10)
3.要件
【買い手】
1.経営力向上計画の認定を受けた特定事業者等(常時使用する従業員数が2,000人以下の法人等)
2.租税特別措置法上の中小企業者等(資本金の額が1億円以下の法人等)であること
【売り手】
特定事業者等(常時使用する従業員数が2,000人以下の法人等)であること
【株式取得価額】
10億円以下
【M&Aの手法】
株式譲渡のみ(事業譲渡、合併、株式交換等は対象になりません)
また、売り手と買い手の関係についてですが、この制度の趣旨が「他社の経営資源を取得する際のリスクに備える」ことであるため、グループ内再編や親族内でのM&Aはこの制度を活用できません。
この他にも細かい制限や注意点があるため、詳細は中小企業庁のHPをご確認ください。