相続時精算課税制度で受贈者が贈与者より先に亡くなってトラブルになった事例

[解説ニュース]

相続時精算課税制度で受贈者が贈与者より先に亡くなってトラブルになった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■不動産を買った時の土地建物の価額按分が不合理と指摘された場合

■使い勝手アップの相続時精算課税制度では、みなし贈与にご用心

 

 

1.はじめに


相続時精算課税制度は現行制度上、その年の1月1日現在で60歳以上の父母・祖父母である直系尊属から、18歳以上の子・孫へ贈与がある場合に、贈与した人と財産をもらった人の組み合わせごとに選択できる制度です。贈与税と相続税を通じた税金の計算をするのが特徴です。

 

具体的には、財産の贈与時には受贈者が相続時精算課税に係る贈与税を納付します。その計算は法定された手続きを踏むことを要件に、贈与財産の価額の合計額から基礎控除110万円と最大2500万円(特別控除)を控除し、残額に20%の税率を乗じて求めます。つまり一定の金額までは贈与税はかからないのです。

 

ただしその後、その贈与をした親や祖父母の相続開始時には、相続時精算課税で贈与を受けた財産を、相続又は遺贈により取得した財産に加算をし、その合計額を基に相続税額を計算します。その際、既に支払った相続時精算課税に係る贈与税額を控除した金額を納付する(贈与税額が相続税額を上回る場合には還付を受ける)仕組みです。

 

この制度の狙いは、より課税を適正化しつつ生前贈与を円滑化すること。このことを踏まえると、同制度は、親や祖父母などから子や孫へ生前に財産を受け継ぐ姿が、典型的なあり方として考えられえているといえそうです。

 

 

2.受贈者が先に亡くなって戸惑うことも


ところが、相続時精算課税制度を適用して財産をもらった人が、贈与した人よりも先に亡くなってしまうことがあります。その場合、相続時精算課税制度で財産をもらっていた人が負っていた贈与者の死亡にともなう相続税の計算において、追加して相続税を納付することになるか。それとも支払っていた贈与税の還付となるか。その権利・義務については、亡くなった人の相続人に承継されることになるとされています。

 

こうしたケースで、戸惑う人もいるようです。たとえばA夫妻の妻の方から、娘が相続時精算課税制度で高額の財産をもらっていたケースで、先にこの娘が亡くなり、ついで財産を生前贈与していた妻が亡くなった場合(国税不服審判所令和 7年6月25日裁決)。本来、亡娘が負うべき上記の権利・義務が、どのように相続人に承継されるか、事例を見ることにします。

 

裁決書によると、この事案はAさん(請求人)は妻
の相続に係る相続税について、亡娘が有していた相続時精算課税に係る相続税の納税義務を全て承継したとして申告していました。しかし後で、納税義務は亡娘に係る共同相続人(A夫妻)がまず各2分の1ずつ承継すべきとして更正の請求をした事案です。税務署は、更正をすべき理由がないとして通知してきたため、Aさんは国税不服審判所(以下、審判所という。)に判断を仰ぐことにしたというものです。

 

 

3.審判所の判断


争点は、当初の申告に、「更正の請求」が認められるのに必要な法律上の誤りがあったといえるかどうかという点です。この場合に即していえば、亡娘の相続時精算課税制度に係る上記権利・義務は亡妻とともにAさんが2分の1ずつ承継することが正しいことなのかどうかです。

 

ポイントは、特定贈与者の死亡以前にその特定贈与者に係る相続時精算課税適用者が死亡した場合には、その相続時精算課税適用者の相続人は、その相続時精算課税適用者が有していた相続時精算課税の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を承継する旨、また続人のうちに特定贈与者がある場合には、特定贈与者は、納税に係る権利又は義務については、これを承継しない(相続税法第21条の17第1項)旨の法律があることです。特定贈与者とは相続時精算課税制度で財産を贈与した人、相続時精算課税適用者とは、財産をもらった人のことです。

 

審判所は、上記法律に基づき、相続時精算課税適用者である娘が死亡し、その相続人であるAさん及び亡妻のうち、亡妻は特定贈与者であるから、納税義務は特定贈与者である亡妻には承継されず、Aさんにのみ承継されると判断しています。

 

Aさんとしては、亡妻が上記権利・義務を承継すればその2分の1は、妻の死亡で消滅するのではないかと考えたようですが、審判所は、亡妻が「「第1項の権利又は義務を承継した者」には含まれないことは明らか」だとしてAさんの請求を退けています。

 

なお、上記のようなケースで受贈者に子供などがいた場合、子が上記権利・義務を承継する場合が出てきます。しかし、その内容がわからないといったケースもあるでしょう。その場合は、所定の税務署に相続時精算課税等に係る贈与税の申告内容の開示等を求めることができます(相続税法49条)

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/12/11)より転載