土地の譲渡契約を締結後、売主が物件の引渡前に死亡した場合の所得税の譲渡所得の取扱い

[解説ニュース]

 

土地の譲渡契約を締結後、売主が物件の引渡前に死亡した場合の所得税の譲渡所得の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】複数の土地を交換した場合の固定資産の交換に係る所得税の特例の適用

 

■譲渡所得の金額の計算上、総収入金額を契約効力発生日基準により確定させる場合の留意点

 

 

 

【問】

Aさんは令和7年5月に死亡しました。相続人は子のBさん1人です。Aさんは亡くなる直前の令和7年2月に上場会社(株)Cと、所有する土地Dを対価1億円で譲渡する契約を締結し、手付金1,000万円を受取りましたが、引渡前の令和7年3月に亡くなりました。相続人のBさんは、令和7年5月にこの譲渡契約に係る残代金9,000万円を受け取るとともに、買主の㈱Cへの土地Dの引渡しを完了しています。土地DはAさんの一族が代々相続してきたもので、この譲渡に係る長期譲渡所得の金額は9,200万円です。

 

以上の場合において、土地Dに係る所得税の譲渡所得の申告はどのように行うべきでしょうか。

 

 

【回答】

1.結論


Bの選択により、次の①又は②のいずれかの方法を採ることができます。この選択の結果により、Bが負担する税額が異なることになりますので、注意が必要です。

 

①土地Dに係る譲渡所得を契約効力発生日基準により計算し、被相続人Aの所得として令和7年分の所得税を申告(準確定申告)する。

 

②土地Dに係る譲渡所得を引渡日基準により計算し、AからBが土地Dを相続により取得後、買主のC㈱に譲渡したものとして、Bの所得として令和7年分の所得税を申告する。

 

 

2.解説


(1)譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期の判定

個人が土地を譲渡した場合、所得税の譲渡所得の金額の計算上は、その譲渡に係る総収入金額(譲渡代金)から、その土地の取得費や譲渡費用を控除します。譲渡所得の金額の計算では「その年中の譲渡に係る総収入金額」を確定させる必要があり、これは所得税法36条により「その年において収入すべき金額」とされています。

 

この場合の「総収入金額の収入すべき時期」については、所得税基本通達36-12でその判断基準が示されています。同通達では総収入金額の収入すべき時期、つまり資産の譲渡の時期について、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によること(「引渡日基準」)を原則とし、納税者の選択により、その資産の譲渡契約の効力発生の日(通常は契約締結日)によること(「契約効力発生日基準」)も認めています。

 

 

 (2)本問における当てはめ

本問における土地Dに係る譲渡所得の申告は、Bの選択により次の①又は②のいずれかの方法を採ることができます。

 

①譲渡所得を契約効力発生日基準により申告する

 

これは土地Dに係る譲渡所得を契約効力発生日基準により、被相続人Aの所得(総収入金額は譲渡対価の1億円)として令和7年分の所得税を申告する方法です。この場合、相続人のBはAの相続開始日から4ヶ月以内に行う準確定申告(所得税法125条)により、その譲渡所得に係る所得税を納めることになります。また、この準確定申告によりBが納めた所得税は、Aに係る相続税の計算上、債務控除の対象とされます。
一方、土地Dに係る譲渡所得に対する令和8年度分の個人住民税については、賦課期日の令和8年1月1日にAは生存していないので課税されません。

 

②譲渡所得を引渡日基準により申告する

 

これは土地Dに係る譲渡所得を引渡日基準により、BがAから土地Dを相続により取得後、買主のC㈱に譲渡したものとして、Bの所得(総収入金額は譲渡対価の1億円)として令和7年分の所得税を申告する方法です。この場合において、土地Dの相続に際しBが納付した相続税のうち一定額については、Bの譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算することができます(租税特別措置法39条)。
また、Bの令和8年度分の個人住民税の計算上、土地Dに係る譲渡所得に対する税額が課されます。

 

 

<参考>譲渡代金をめぐる相続税の取扱い

本問のAのように、土地の譲渡契約を締結して譲渡代金に含まれる手付金を受け取った後、残代金の受け取りや土地の引渡し、所有権移転登記等の完了前に売主が死亡した場合には、売主に係る相続税の計算上、譲渡した土地ではなく残代金請求権(本問では9,000万円)が、課税対象とされます。なお、相続開始前に売主が受け取った手付金(本問では1,000万円)は、その相続財産である預貯金の中に含まれており、これも売主に係る相続税の課税対象とされます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/6/24)より転載