地価動向の曲がり角:住宅譲渡損をカバーする特例について再確認

[解説ニュース]

地価動向の曲がり角:住宅譲渡損をカバーする特例について再確認

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

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1.はじめに


不動産価格が下落局面になると、活用が期待される住宅税制があります。
その税制とは、「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法41の5)(以下、この特例という。)」です。

 

この特例は、バブル崩壊以降、不動産の値下がりによって含み損を抱えたマイホーム所有者の「損切り」を推し進めることで、住宅買い換えの後押しを狙いとして登場しました。

 

制度の仕組みは、マイホームを売却して出た損失額がある場合、給与所得などと損益通算でき、損失額が給与所得などを上回り、その年の所得が赤字になった場合、赤字を翌年以降3年間繰り越すというものです。

 

主な適用の要件は、次の通りです。

1.売却する年の1月1日時点で住宅の保有期間が5年超

2.売却する年の前年1月から売却した年の翌年末までに新たな住宅に買い換えて居住すること

3.買換え先の住宅の床面積は50㎡以上

4.買い換えにあたっても償還期間10年以上ローンがあり、特例を適用する年の末日に残高があること

 

2.最新の基準地価動向は下落に転じる


昨年公表された7月1日時点の都道府県地価調査によると、三大都市圏では住宅地は平成25年以来7年ぶりに下落に転じたほか、地方圏では住宅地の平均変動率は▲0.9%と下落を継続し、下落幅が拡大(ただし地方圏のうち、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)の平均変動率は3.6%と8年連続の上昇)とシテイます。地価Lookレポートなどによると、最近の地価動向でも新型コロナウイルス感染症の影響もあってか、年率20%以上の下げを記録しており大阪市中央区道頓堀など路線価の減額補正を必要とする地域も出てきています。このため住宅価格そのものの動向への悪影響も少なからずあるのではないかと懸念が出てきました。3月24日には今年1月1日時点の公示地価が公表され、地価下落傾向が強まりを見せています。

 

3.最近の特例の適用動向


住宅買い換えの場合の譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例の適用動向は、地価動向や住宅の価格動向の影響を比較的よく反映します。平成18事務年度までは年間2万件もの件数がありましたが、その後、減少を続け、平成22事務年度には1万件の大台を割り込んでいます。直近の動向は以下のとおりです(事務年度とは7月1日〜翌年6月30日までの1年間のことです)。

 

平成26事務年度     9,467件
平成27事務年度     8,701件
平成28事務年度     7,401件
平成29事務年度     6,367件
平成30事務年度     5,522件

 

住宅の損切りを必要とするケースが増える事態となれば、今後、同特例の適用件数は増加することが予想されます。

 

4.繰越控除の適用上の注意点等


住宅買い換えの場合の譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例が適用できない場合は、特例の性格上、「損益通算・繰越控除ができない場合」と「繰越控除ができない場合」との2段構えになっています。
特に注意したいのは繰越控除が適用できない場合です。

 

ア.売却した住宅の敷地の面積が500㎡を超える場合、500㎡を超える部分に対応する譲渡損失の繰越控除はできません(措法41の5⑦三)。ただし譲渡した年は、500㎡を超える部分に係る譲渡損失の金額についても損益通算と対象とすることができます。

 

イ.繰越控除を適用する年の12月31日で買換え先の住宅に償還期間10年以上の住宅ローンがない場合も、損失の繰越控除はできません。なお、資金は「住宅の用に供する家屋の新築若しくは取得又は当該家屋の敷地の用に供される土地若しくは当該土地の上に存する権利の取得に要するもの」とされているため(措法41の5⑦四)、家屋か敷地どちらか一方が10年以上の償還期間を持つなら適用があるとされます。
ウ.合計所得金額が3,000万円を超える年分は、その年分で損失の繰越控除はできません(措法41の5④)。

 

 

このほか、注意すべき場合として、買換え先の住宅にいったん居住後、転勤等により翌年居住しなくなった場合がありますが、この場合は、住まなくなっても繰越控除はできることとされています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/03/29)より転載