譲渡所得税の最近のトラブル事例集

[解説ニュース]

譲渡所得税の最近のトラブル事例集

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

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1.はじめに


所得税の確定申告時期で申告手続きの最盛期を迎えています。そこで、譲渡所得税に関係する最近の裁決事例から、少し変わったトラブル事例を集めてみました。

 

2.スーパーカーの売却益は譲渡所得?


1台8,000万円もする限定生産のフェラーリなどのスーパーカーの売却益を巡って納税者と税務署の間で争いになった事例がありました(国税不服審判所令和元年6月18日裁決)。

 

裁決書によると、この争いは、納税者が「自己保有していたスーパーカーは生活の用に供する動産であるから、その売却益は非課税になる」との考えから、税務署が行った譲渡所得として課税の取消し等を求めたものです。

 

自家用車の売却益については、その自家用車が例えば通勤用なら、非課税とされます。生活に要する資産と認められるからです(所法9①九、所令25)。逆に売却損が出たとしても、損失はなかったものとされます。これに対し、自家用車が個人のレジャー用などの場合は、その利益は譲渡所得に区分され、課税対象となります。

 

さて、国税不服審判所は、この納税者が「平成22年6月から平成29年5月までの間に、少なくとも15台の車両を購入しており、特に、平成25年及び平成26年には、それぞれ1年聞に3台の車両を購入するなど、同時に複数台の車両を保有している」等の事実関係を認定。こうしたことを受けて、国税不服審判所は、売却された限定生産のスーパーカー3台は、500台以下の生産数しかなく、「購入者が限られる上、(中略)購入時の車両 本体価格がいずれも8,000万円を超える高級車であること等を考慮すると、各限定車が通常の社会生活を営むのに必要とされる動産であるとは認められない。(中略)各限定車は、「生活に通常必要な動産」に該当しない」と判断、納税者の言い分を退けています。

 

3.予め特例を変更できるようにしていたつもり?


譲渡所得の申告で、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31の2、以下、優良住宅地特例という。)と特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税 の特例(措法37、以下、買換え特例という。)の適用を受けるべく申告書に書き、一方の特例が受けられなかったことから、修正申告で変更しようとしたところ、税務署が認めなかったため争いとなった事例があります(国税不服審判所裁決平成30年1月25日)。

 

裁決書によると、納税者は、夫から相続し、花の栽培など事業の用に供していた市街化区域内の土地を2億円余りで売りました。

 

譲渡所得税の申告の際には、上記の両特例の適用を受ける旨の申告書に書いたうえ、マンションに買い換えることを予定し、税額は買換え特例の定めに則って計算して申告していました。

 

ところが、買い換えが出来なかったため、改めて優良住宅地特例で税額を計算し直して修正申告をしたところ、税務署から更正処分されたため、争いとなったものです。

 

納税者は「当初の申告で買換特例の適用を受けたとしても、その後の修正申告で買換特例の適用を受けないなら、買換特例と優良住宅地特例の重複適用を認めない法の趣旨(両特例の重複適用が屋上屋を重ねることとなり適当ではないというもの)に反しないから、修正申告で優良住宅地特例の適用を認めるべき」と主張しました。

 

 

国税不服審判所は、「措法第31の2④」について次のように解釈。

 

いわく同項は「買換特例の適用を受けるときは、その土地の譲渡は、優良住宅地等のための譲渡に該当しないものとみなす旨規定し、優良住宅地特例の適用を排除している。この「規定の適用を受けるとき」とは、当初の申告において、その有する土地につき、将来買換資産を取得する見込みであるとして買換特例の適用を受けた(同法37④)が、その後、買換資産を所定の期間内に取得しなかったため、義務的修正申告書を提出した場合を含むもの」。

 

このため「納税者が、当初の申告において、(中略)買換特例の適用を選択した場合には、その譲渡は、その後、買換資産を所定の期間内に取得せず、義務的修正申告書を提出したとしても、同法第31の2④により、優良住宅地等のための譲渡に該当しないとみなされて、その納税者は、義務的修正申告書において、買換特例に代えて本件特例の適用を受けることができないものと解される」と判断、義務的修正申告書において買換特例に代えて優良住宅地特例の適用を受けようとすることは、当初の確定申告における買換特例の適用を撤回することになるが、瑕疵なく確定申告した以上、これを自由に撤回することができないとして、納税者の主張を認めませんでした。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/03/09)より転載