独立行政法人中小企業基盤整備機構 事業引継ぎ支援全国本部
プロジェクトマネージャー 宇野俊英
プロジェクトマネージャー 上原久和
1.はじめに
後継者未定・不在企業の課題解決策として第三者承継は昨今経営者、支援者に認知されつつあります。しかしながら、親族内承継に比し、これまでの対策では不十分な点があったため、経済産業省は黒字廃業を雇用等の経営資源を次世代の意欲のある経営者に承継・集約することを目的に、昨年12月に「第三者承継支援総合パッケージ」を策定しました。
この中で、官民の支援機関が一体となり、今後10年間で60万者の第三者承継の実現を目指すことが示されました。また、経済産業省は「事業引継ぎガイドライン」を改訂し、経営者が適正な仲介業者・手数料水準を見極めるための指針を整備することで、第三者承継を経営者の身近な選択肢とすることを企図しています。
上記パッケージに基づき、本年3月に同ガイドラインを全面改訂し、名称も新たに「中小M&Aガイドライン」として制定したところです。
2.税理士・公認会計士へのメッセージ(中小M&A ガイドラインを通じて)
今回の中小M&Aガイドライン制定の目的は、「中小企業経営者と支援機関の双方に対し、中小企業M&Aの適切な進め方を提示する」ことにあります。後継者不在企業にとって、第三者承継(M&A)は重要な事業承継の選択肢であり、事業承継の一つの手法として認識が広がり始めています。
しかしながら、中小企業者全体で見れば、いまだM&Aにより社外の第三者が引継ぐことに抵抗感がある経営者は多く、また実際に進めようと思ってもM&Aに対する知見、経験もない場合も多いことから、結果として引継ぎが出来ずに廃業に至ってしまうケースは多いと考えられます。
今回制定した本ガイドラインでは、M&Aに関する知見、経験がない後継者不在の中小企業経営者にM&Aを適切な形で進めるための手引きを示すことで、彼らの背中を押し、これを支援する士業等の関係者がそれぞれの特色や能力を発揮し、中小企業のM&Aを適切にサポートするための基本的な事項を示しています。
第1章では中小企業経営者にM&Aの基本的な流れや留意点だけではなく、参考事例として失敗例を含めた18事例を紹介しています。紹介事例は必ずしも、それらの事例により、中小M&Aのすべてが類型化されるものではありませんが、具体的なイメージを中小企業経営者に持ってもらう上で有意義なものと思います。また近年M&A支援会社が増えているなか、中小企業との間で利益相反になるリスクやM&A支援会社の手数料に関連したトラブルが増加しています。これらのリスクに関する説明や手数料についての一般的な考え方を示すことで、中小企業経営者の不安を払拭することとともに、M&A支援会社を含めた支援機関に対してこれらの考え方の遵守を求めています。
今回の本ガイドラインの制定にあたり、税理士・公認会計士の皆さまにはこれまで以上に後継者不在の中小企業を積極的にサポートして頂きたいと思っております。
特に顧問先が後継者不在であったり、M&Aを検討している場合には、第2章の税理士・公認会計士の箇所のみならず、本ガイドライン全体をご一読頂き、積極的にサポートして頂きますようお願い申し上げます。このサポートを通じてより多くの後継者不在の中小企業を支援して頂ければ、望まない廃業を防ぐことも出来ると考えております。
また、税理士の方は、日本税理士連合会が運用する「担い手探しナビ」を活用して相手先候補を探索することも可能でありますし、各地の「事業引継ぎ支援センター」に顧問先や相談者と同行して相談を受ければ、M&Aに関する適切なサポートを受けることも可能になります。本ガイドラインとともに合わせて、ぜひ、ご活用頂きたくお願い申し上げます。
3.顧問先等への税理士・公認会計士の支援メニューとして求められるもの
本ガイドラインでは、M&Aに関する各支援機関に求められる役割/支援する際の留意点などを提示しています。特に税理士、公認会計士を中心とした士業専門家の皆さまには顧問先等に対する伴走支援のメニューとしての活用、活躍が大いに期待されます。
寄稿時には新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下ですが、譲渡側の経営者の業績的、心理的な影響により黒字であっても、後継者不在に伴う第三者承継が増加することが想定されます。一方、譲受側では部品等欠品等によるサプライチェーンの停滞を経験した事業者から経営戦略、特にBCPの観点から経営資源の承継を企図する事業者の増加が見込まれます。これらにより中小M&A推進が加速化されることが想定されます。まだまだ不足している支援者の役割、そしてビジネスチャンスが更に拡がることに論を待ちません。是非自らの支援メニューの拡大と差別化になることに加え、地域の産業衰退を防止する観点から一層の参入、支援推進をお願い申し上げます。
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