2020.12.08

「担い手探しナビ」の活用方法 ~税理士が主導する中小企業M&Aの有用ツール~

日本税理士会連合会(以下、日税連)が2018年10月より運営を開始した「担い手探しナビ」。

中小企業の一番の相談役であり関与先企業の実情も理解している顧問税理士が、関与先企業の承諾を得たうえで、案件登録や検索、案件への問合せ対応を進めていくのが本サイトの大きな特徴。税理士のみに利用を制限しているため、掲載を依頼する中小企業も安心して依頼できる。今回は、日本税理士会連合会 中小企業対策部長の瀬戸順一氏に、「担い手探しナビ」の利用状況や利用方法についてお話をお伺いしました。

 

関与先の事業承継を推進するためのプラットフォーム「担い手探しナビ」

――:「担い手探しナビ」とはどのような目的で運営を開始したサービスなのでしょうか。

 

瀬戸:今、我が国において中小企業の円滑な事業承継の実施が喫緊の課題となっていますが、日税連中小企業対策部では、2017年5月に「事業承継に係る取り組みについて」という文書を取りまとめまして、その中で、顧問税理士主導による事業承継を実現するための施策の検討・実施が必要であること、そして、その具体的な施策として、第一に事業承継に関する研修等の実施・充実、第二に事業承継に関する会員同士のネットワークの構築、第三に関係団体等との事業承継に係る連携を提言しました。

 

このうち第二の事業承継に関する会員同士のネットワークというのが、まさに現在の「担い手探しナビ」に当たりますが、中小企業等の事業承継において後継者不在が大きな課題となっていますので、全国の税理士が窓口役となり、狭い地域に制限することなく、関与先の事業承継を推進するためのプラットフォームを提供しようという狙いから、事業承継サイトの構築を検討することとなりました。

 

当時、2017年4月から北陸税理士会の管内で事業承継サイト「担い手探しナビ」の運用が始まっていましたので、この仕組みを参考にして、2018年10月に全国版の「担い手探しナビ」の運用を開始しました。

 

利用にあたっては、税理士であれば、利用申請していただくことでどなたでもご利用いただけるものとなっています。現在、全国で約6,200名(正確には10/23時点で6,153)の会員に担い手探しナビをご利用いただいていますが、今後は更に多くの会員にご利用いただき、積極的に活用いただくことで顧問税理士主導による円滑な事業承継支援を実現するための重要なプラットフォームとして引き続き運用していければと考えております。

 

 

 

顧問税理士が窓口となるため関与先にとって”安心”できるサービス

――:それでは、「担い手探しナビ」とはどのようなサービスなのでしょうか。また、他のM&Aマッチングサイトがいくつもありますが、それらのサイトとの違いはありますか。

 

瀬戸:担い手探しナビは、顧問税理士が窓口となって、関与先企業のマッチングを図るためのプラットフォームであり、税理士であれば利用申請することで無料で利用することができるものとなっています。

 

関与先企業が後継者難で困っている場合に、無料という観点から気軽に案件を登録、探索してみるなどの提案ができることはメリットの1つかと思います。

 

また、日々顧問税理士という立場で中小企業等に伴走し支援しているからこそ、企業の内情は当然熟知しておりますので、案件登録する場合なども、経営者が一から細かく事業内容等の説明や財務書類を用意する必要もなく、経営者自身で民間企業等へ依頼することに比べると、非常に簡易に後継者探索をできることもメリットだと考えています。

 

担い手探しナビの利用は税理士に限定されておりますので、サイト内の情報の秘匿性も高く、必ず税理士が窓口として存在している点でも、安心できるものになっていると思います。

 

 

 

トップページより案件登録や検索も簡単に。気になる案件にはメッセージを。

――:「担い手探しナビ」の使い方を具体的に教えていただけますか。

 

瀬戸:関与先企業が「担い手探しナビ」への登録を希望する場合、税理士がサイトに掲載することについての「確認書」を取得し、経営者と相談の上、サイトにノンネーム情報(※1)で案件を登録します。企業名は表示されず、簡易な情報で登録することができます。登録できる案件について、個人や法人、企業の規模、承継までの希望期間といった制限などもありません。

 

※1 ノンネーム情報:情報漏洩リスクを踏まえ、社名が特定されない範囲で対象会社の情報を纏めた情報。

 

 

案件の登録にあたっては、担い手探しナビトップページから簡単に行うことができます。[案件を登録]を選択すると案件作成ページが開きますので、関与先企業と相談のうえ各項目を記載いただきます。登録時の必須項目は、区分(譲渡し/譲受け)、案件タイトル、案件詳細、業種、企業の地域のみで、その他の項目は任意で記載することが可能です。

 

 

 

 

また、案件の検索も、案件の登録同様にトップページから区分や業種、企業の地域といった条件を指定して検索することが可能となっています。

 

 

 

 

 

その中で、気になる案件が見つかれば税理士から関与先企業に提案・相談をし、案件を登録した税理士に連絡を取りたいとなった場合には、「担い手探しナビ」のサイト内からメッセージを送ることができるようになっています。こうして顧問税理士が窓口となり、関与先企業同士のマッチングを図ります。

 

 

 

譲渡案件93件、譲受案件118件が登録。約6,200名の税理士が利用登録。

――:「担い手探しナビ」に登録されている案件数などの利用状況を教えていただけますでしょうか。

 

瀬戸:担い手探しナビには、2020年10月27日現在、譲渡し93件、譲受け118件の案件が登録されています。あくまでも日税連では会員が関与先企業のマッチング支援するための場を提供しているにすぎず、案件の詳細まで関知しているものではありませんが、業種、地域ともに全国幅広く登録されているものと思われます。

 

担い手探しナビに利用登録している会員の数は、先に申し上げました通り、全国で約6,200名(正確には10/23時点で6,153)です。案件に対する問合せは、案件を登録した税理士へ直接連絡がいくようなスキームとなっておりますので、日税連では分かりかねますが、担い手探しナビ内での成約件数は、北陸税理士会が独自で運用していた頃から合わせると、これまで計9件の成約があったと把握しています。

 

ただ、これは案件を登録した税理士自身が、サイト内で案件の進行状況のステータスを「成約済」とした件数のため、成約に至るまでの流れや詳細などは分かりません。

 

 

 

「担い手探しナビ」の紹介が、事業承継について考える契機にも。

――:「担い手探しナビ」をご利用されている税理士の方からはどのような反応がありましたでしょうか。

 

瀬戸:個別の反応までは中々分からないのですが、成約案件のうち1件の成約事例については、私が個人的に繋がりのある税理士が担当していた案件だったので内容をお聞きすることができました。

 

この案件は「担い手探しナビ」の中でマッチングしたのではなく、「担い手探しナビ」に案件を登録したものの、最終的には、その税理士の別の関与先企業へ事業承継が行われたという事例です。とはいえ、税理士から関与先企業に対して「担い手探しナビ」を紹介したことで、経営者が自社の将来についてどのように考えているか、どうしたいかを対話するキッカケとなり、まさに「担い手探しナビ」への案件の登録が、事業承継の掘り起こしに繋がったと聞いています。

 

日税連としては、顧問税理士主導による中小企業の事業承継の推進を目的としておりますので、このようなサイトの活用の仕方も非常に有効かつ素晴らしい事例だと考えています。昨年(2019年)11月には、その税理士にご協力いただき、日税連中小企業対策部が実施した研修会の場で事例を紹介していただきましたが、生の事例ということで非常に好評でした。

 

 

――:「担い手探しナビ」を利用するにあたっての注意点などはありますでしょうか。

 

瀬戸:「担い手探しナビ」は、あくまでも税理士が関与先企業の後継者探索を支援するための仕組みになりますので、案件の交渉などは税理士が個別に対応することとなります。日税連や税理士会では、税理士が事業承継支援に際して他の専門家から支援を受けることができるよう、事業引継ぎ支援センター、中小企業再生支援協議会、弁護士会といった地域支援機関との連携を進めているところです。

 

 

 

まずは、所属の税理士会専用ページ方「利用申請」を。

――:「担い手探しナビ」の利用を開始するにはどのような手続きが必要でしょうか。

 

瀬戸:所属の税理士会会員専用ページから利用申請していただく必要があります。その際、税理士証票に記載されている証票番号と登録番号、ご自身のメールアドレスを入力すると、「担い手探しナビ」の初回ログイン時に必要となる仮パスワードがすぐに発行されます。

 

 

 

担い手探しナビは税理士であれば無料で利用することができますので、譲渡しや譲受けの案件がない方でも、まずは情報収集という観点からサイトをご覧になっていただければと思います。

 

 

 

「担い手探しナビ」で事業承継支援のご準備を進めてみはいかがでしょうか。

――:最後に、税理士の方々へのメッセージをお願いします。

 

瀬戸:現時点では関与先企業に事業承継のニーズがないため、自分には関係ないと思われる方もいるかもしれませんが、事業承継には少なくとも5年程度はかかると言われており、事前に税理士が「担い手探しナビ」による支援も視野に入れて利用申込をしておくことは、関与先企業に提供できる支援の種類を増やすことにも繋がります。まずは一度、「担い手探しナビ」をご覧いただき、税理士が主導して中小企業の事業承継を支援していくための準備をしてみてはいかがでしょうか。

 

特に、「担い手探しナビ」は、利用者が増えるほどサイト内に集まる案件も増え、関与先企業同士のマッチングの可能性も高まってきます。個人的には、今年度中に1万件の利用申込みを目指したいと考えていますが、まだこのサイトの存在自体を知らないという方も少なくありません。税理士証票さえ用意すればすぐに利用できますので、是非、多くの方々に申込みをしていただければと思います。

 

 

――:ありがとうございました。

 

 

 

 

[取材先概要]

日本税理士会連合会 中小企業対策部

所在地:東京都品川区大崎1-11-8 日本税理士会館8階

URL:https://www.nichizeiren.or.jp/

 

 

 

 

 

 


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