[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

⑥財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連解説]

■「財務デューデリジェンスの目的」を理解する

■「事業デューデリジェンス(事業DD)」とは?

 

財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場はどれぐらいですか?また、どのような要素で決まりますか?


①コンサル企業の規模

財務デューデリジェンスの費用を検討するには、まず、どれぐらいの規模のコンサルディングファーム、会計事務所に依頼するかによって相場感が異なります。

 

当然の事ですが、大手のコンサルティングファームや、監査法人等に依頼すると費用は高くなり、中小のコンサルティングファームや会計事務所に依頼すると費用は安くなります。必ずしも大手であるから品質が高いとは限りませんが、一般的に大手は品質が高く、海外に提携事務所があるため海外案件等に強みを持っています。

 

一方、中小のコンサルティングファームや会計事務所は、大手と比べると品質にばらつきがありますが、小回りや融通が利き、費用は安くなります。

 

大手であれば最低500万円以上、中小であれば最低100万円以上が相場となります。(戦略的に安く請け負っている場合や、調査範囲を限定している場合等はこの限りではありません。)

 

 

②プロフェッショナル度

同規模のコンサルティングファームや会計事務所であっても、それぞれに特徴があります。M&Aのマッチングに強みを持っている場合や、財務デューデリジェンスを得意としている場合、税務顧問をメイン業務としているが財務デューデリジェンスも行う場合等、財務デューデリジェンスに対するプロフェッショナル度が大きく異なります。プロフェッショナル度が高い事務所に依頼するほど、費用は高くなることが一般的です。

 

 

③対象企業の規模

財務デューデリジェンスを行いたい対象企業の規模によっても費用は異なります。規模の大小により、調査項目の大枠はあまり影響しませんが、一般的に規模が大きくなると子会社を保有していたり、事業を複数行っている場合、海外展開している場合等がありこれらの調査が必要であれば費用も高くなることが一般的です。売上3億円の会社と売上30億円の会社の財務デューデリジェンス費用は2倍程度、売上3億円の会社と売上300億円の会社は3~5倍程度の差となることが多いでしょう。

 

 

④調査範囲

財務デューデリジェンスと言っても、M&Aスキーム、バリュエーション方法や調査の目的等により、当然調査項目は異なります。これらの調査項目を取捨選択し絞ることで、多少の費用削減にはなるでしょう。しかし、会計は様々な項目と連動していることが多く、あまり調査項目を絞りすぎると、会社全体としての動きを見誤ったり、見落としてしまうことがあるため注意が必要です。

 

財務デューデリジェンスの費用は、コンサルティング企業の規模、コンサルティング企業のプロフェッショナル度、対象企業の規模、調査範囲等で異なります。検討している企業の財務デューデリジェンスの費用を想定した上で、どのコンサルディング企業に、どの調査項目を依頼するかを検討しましょう。

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

⑦M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 


M&Aは売り手・買い手双方にとって重要な取引です。特に買い手側ではM&Aのプロセス推進を担うプロジェクトチームが組成されます。

 

プロジェクトチームは経営企画部門、事業部門、財務部門、経理部門等から部門横断的にメンバーを選任する必要があります。M&Aでは、的確な理解力、分析力、判断力といったスキルが求められますので、上記部門において相応の経験や知見をもった社員から構成することが望ましいと考えます。

 

経営企画部門はM&A全体の取り纏め、推進を担います。他部門の意見を取りまとめ、調整し、経営陣とコミュニケーションを取り、案件全体の舵取りを行います。また、後述するフィナンシャル・アドバイザーとの窓口を務め、平時においては案件のソーシングを行うのも経営企画部門の役割であることが多いです。

 

事業部門は、買い手企業と同業の企業を買収する場合等で、特にその知見を発揮することが期待され、そうした場合、ビジネスDDを事業部門が行うケースもあります。

 

財務部門は資金全般を担当します。M&Aでは多額の資金が必要となるケースが多く、財務部門の役割も重要といえます。

 

経理部門はプロジェクトチームの中では後方部隊に位置付けられます。M&Aに伴う業績や財務状況へのインパクトを分析・把握し、事業計画や財務報告に反映させるという非常に重要な役割を担います。一般的な投資家にとって企業のM&Aは将来の業績や株価に影響を与える重要なイベントです。上場企業には、投資家に対してM&Aの目的や狙いを的確に説明するとともに、将来業績への貢献度合いを高い精度を持って予測し開示することが求められています。

 

ここまでは買い手企業の社内におけるプロジェクトチームについてみてきましたが、M&Aを成功に導く上では社内リソースだけでなく社外専門家を活用することも不可欠といえます。多くのM&Aで社外の専門家が起用されます。社外専門家には、案件全般にわたってサポートを行うフィナンシャル・アドバイザー(FA)、デューデリジェンスを行う公認会計士や弁護士等の各種専門家などが挙げられます。通常、一定規模以上のM&Aでは、売り手と買い手それぞれにFAが付き、DD対応や交渉全体の取りまとめを行うことが一般的です。FAには、M&A仲介会社、証券会社の投資銀行部門などが起用されます。

 

M&Aの買い手企業においては、社内のプロジェクトチーム間のみならず、社外専門家ともうまく連携していくことが、プロジェクトを円滑に進める上で大変重要となります。

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

②M&A 手続きの全体像

~中小企業のM&Aの売手の流れ、買手の流れとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、M&A 手続き全体の流れを教えてください。

 

A、事前準備、探索業務(ソーシング)、実行業務(エグゼキューション)の流れとなります。大企業のM&A では、会計士や税理士の業務はほぼ実行段階に限定されていますが、中小企業のM&A では案件全体のコントロールをする役割が求められるケースも増加するものと思われます。

 

 

 

図表は相対取引におけるM&A 業務の流れの全体像を示したものです。大きく分けて事前準備、探索業務(「ソーシング」とも言います。)、実行業務(「エグゼキューション」とも言います。)に区分されます。

 

 

まず、事前準備では①売手からの事前相談に基づき、アドバイザーが②秘密保持契約書やアドバイザリー契約書を締結した上で、③案件の概要把握を行い、買手候補に提示する案件概要書を作成します。

 

また、④売却の基本方針、買手候補や譲渡株価の目線について売手と議論を重ねます。次に探索業務の段階では、買手候補に対して⑤匿名情報を開示して興味の有無を確認し、興味を示した候補に対しては⑥秘密保持契約書を締結した上で、⑦案件概要書他、決算書や人事情報などの詳細情報を開示します。

 

 

買手はこうした情報を検討し、株式取得を希望する場合には、株式の取得価格や取得スキーム、その他諸条件を記載した⑧意向表明書を提出します(相対取引の場合は口頭での調整を経て直接基本合意書を締結するケースもあります。)。

 

売手が意向表明書の内容を受け入れることができる場合、⑨基本合意書を締結しますが、基本合意書は法的拘束力を持たせないケースが一般的です。

 

合意書締結後、⑩デュー・ディリジェンスにより対象会社の詳細を調査した上で、株価交渉やその他の条件交渉を経て⑪株式譲渡契約書の締結を行い、売買代金を決済して⑫クロージングとなります。

 

 

大企業のM&A では全体のコントロールは投資銀行や専門のアドバイザリー会社が行うことが一般的ですので、税理士や会計士の業務は実行段階の業務に限定されます。これに対して中小企業のM&A では税理士や会計士が案件全体のコントロールをする役割が求められるケースも増加するものと思われます。

 

前述したとおり、顧問税理士は対象会社の社長と長年にわたる関係を築いていますのでアドバイザーに適任の存在であり、専門業者に任せきりにせず、積極的に関与したいところです。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

①「M&Aの概要」「M&Aの流れと専門家の役割」を理解する

~M&Aとは?M&Aの流れと専門家の役割とは?~

 

〈目次〉

1、M&Aとは?

2、M&Aの流れと専門家の役割とは?

① 売手企業と買手企業のマッチング

② IM(Information Memorandum)の作成

③ 売手企業に対するデューデリジェンス、バリュエーショ

④ 株式譲渡契約の締結

3、まとめ

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士 氏家洋輔

 

1、M&Aとは?


M&A(Mergers and Acquisitions)にはいくつかの種類がありますが、大きくは「会社の全部を譲渡する方法」と「会社の一部だけを譲渡する方法」の2つの方法に分けることができます。

 

前者の会社の全部を譲渡するスキームには「株式譲渡」「株式交換・株式移転」「合併」があり、後者の会社の一部を譲渡するスキームには「会社分割」「事業譲渡」があります。

 

それぞれのスキームには特徴があり、M&Aの目的や事業遂行上の問題、それぞれの企業の置かれている状況等により最適なスキームは異なってくるため、スキームの検討は専門家を交えて慎重に行う必要があります。

 

最も一般的なスキームである株式譲渡のイメージを下記に示します。

 

 

 

 

 

株式譲渡の場合、一般的には買手企業の方が規模が大きいことが多いため、上図では売手企業よりも買手企業を大きく描いています。

 

買手企業が売手企業の株主へ現金等を支払い、売手企業の株主から売手企業の株式全てを取得します。その結果、売手企業は買手企業の100%子会社となり、売手企業の株主は現金等の対価を手にすることになります。

 

2、M&Aの流れと専門家の役割とは?


①売手企業と買手企業のマッチング

一般的にM&AはFA(フィナンシャルアドバイザー)と呼ばれる専門家が関与します。

 

FAは、M&Aのマッチングからクロージングまで、売手企業又は買手企業(場合によっては双方)に対して、進め方のサポートや価格や条件面での交渉のアドバイス等を行う役割を担います。FAは様々な企業が行っており、M&Aの仲介会社はもとより、証券会社、投資銀行、銀行、コンサルティング会社、弁護士、公認会計士等が行います。

 

 

 

 

上図は、売手企業と買手企業の双方にFAがついている場合のイメージ図です。昨今では、投資先を探している企業が多く、売手企業に比べ買手企業が多いため、上図でも買手企業を3社としています。

 

FA(買手側)は買手企業A、買手企業B、買手企業Cとそれぞれアドバイザリー契約を結んでいて(結んでいない場合もあります)、FA(売手側)は売手企業の株主とアドバイザリー契約を結んでいることが一般的です。価格等を含む様々な条件により、買手企業と売手企業がマッチングしたら、基本合意契約を結びます。

 

 

②IM(Information Memorandum)の作成

売手企業と買手企業をマッチングさせ、プロセスをスムーズに進めるためにはIM(Information Memorandum)が必要になります。

 

売手企業がIMを作成することで、IMがない場合と比べて、買手企業は売手企業のことを短期間で深く理解することが可能となります。このIMの作成をサポートするのが、FAまたは財務等の専門家です。

 

財務等の専門家は、売手企業とアドバイザリー契約を結び、IMの作成支援を行います。財務等の専門家はIMの作成のみにとどまらず、売手企業の事業計画の策定支援や、株価上昇等のアドバイスを実施することもあります。

 

 

 

 

 

③売手企業に対するデューデリジェンス、バリュエーション

基本合意書を結んだ後、買手企業は売手企業を ①買うか買わないか、②買う場合、いくらで買うのか、③金額以外の条件はどうするか、④買収後の統合に向けた情報の整理等を検討します。

 

これらの検討は専門スキルが必要となるため、公認会計士、税理士および弁護士等が外部アドバイザーとして調査することが一般的です。

 

 

 

 

 

 

買手企業の財務等の専門家は買手企業と財務等アドバイザリー契約を結び、売手企業のデューデリジェンス、バリュエーション等を実施します。

 

買手企業の場合、M&Aが初めての会社もあれば毎月のようにM&Aを実施する会社もありますが、売手企業にとっては、財務デューデリジェンスの対象会社となることは、初めてのケースが多いです。

 

財務デューデリジェンスは専門的な調査を短期間で行うことが多く、売手企業にとっては大きな負担となります。そこで、売手企業の財務等の専門家がデューデリジェンスのサポートを行うことで、売手企業の負担を軽減することが可能となります。

 

さらに、M&Aの専門家である財務等の専門家がサポートを行うことで、買手企業の財務等の専門家とのコミュニケーションが円滑化され、買手売手双方にとってストレスを軽減し、スムーズにデューデリジェンスを完了することが可能となります。

 

 

④株式譲渡契約の締結

デューデリジェンスとバリュエーションの結果を受けて、買手企業と売手企業は最終の条件交渉を行い、双方合意すれば株式譲渡契約を締結します。

 

法務の専門家は契約書の作成や法律面でのアドバイスを、財務の専門家は金額等の財務面にかかる契約条件等のアドバイスを行います。

 

 

3、まとめ


以上のように、M&AではFAや財務の専門家、法律の専門家等様々な専門家が関与して多面的なサポートを行います。

 

特に中小零細企業では、M&A自体初めてのことも多く、たとえ案件規模がそれほど大きくなかった場合であっても、専門家の幅広いサポートが必要となることが多いです。また一定規模以上の会社では、専門家が社内にいる場合もありますが、M&Aをより成功に導くために、多くの社外専門家と上手く連携しM&Aをすすめてくことが重要となります。

 

 

 

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

①実行段階におけるM&A 支援業務の相互関連性

~デューデリジェンス・スキーム策定・バリュエーションの関連性~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、税理士が行うM&A 支援業務の相互の関連性を教えてください。

 

A、DD により検出されたリスク要因をスキームの工夫によって遮断・軽減できる場合があります。また、リスク要因はバリュエーションにマイナスの影響を及ぼしますが、これもスキームの工夫で軽減させることが可能な場合があるなど各業務は密接に関連しています

 

 

 

 

 

図表はM&A の実行段階における支援業務の全体像と関連性を示したものです。DD、バリュエーション及びスキーム策定は独立したものではなく相互に関連していることを理解することが重要です。

 

 

まず、DD ですが、図に列挙したとおり、各種観点から対象会社をM&A で取得する際のリスク要因を洗い出す手続きとなります。税理士や会計士が行う財務・税務DD は必須の手続きと言えます。

 

 

弁護士が行う法務DD も大多数の案件で行われますが、図表 のDD の欄内の④以降のDD については必要に応じて行われます。めっき工場の売買で土地の環境汚染が心配であれば専門家に依頼し環境DD を行いますし、多様な形態で人員を雇用し、未払残業代や名ばかり管理職など労働法規上の問題が懸念されるのであれば社会保険労務士に依頼して人事面の調査を行うといった感じです。こうしたDD を行う場合、案件全体をコントロールする税理士としては常にリスクを定量化する思考を持つことが大切です。金額に換算できるリスクであれば売買金額の調整などでクリアできるためです。

 

 

次にスキーム策定ですが、DD において検出されたリスクについてスキームを工夫することで遮断したり軽減したりできることがあります。株式取得では対象会社の潜在リスクが全て引き継がれますが、スキームを事業譲渡に切り替えることによりリスクを遮断するといった対応が可能です。また、スキームを工夫することで税金コストの削減が可能になるのであれば、利益やキャッシュフローが増加しますので株価評価にもプラスの影響が生じます。

 

 

最後にバリュエーション(価値算定)ですが、DD においてリスクが検出された場合、当然に評価額に対してマイナスの影響を与えます。中小企業のM&A では仲介会社方式と呼ばれる方法が一般的です。

 

 

以上、M&A の実行段階における支援業務の相互関連について説明しました。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

 

[初級者のための入門解説]

M&Aの相談先 ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑧~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ。今回は、「M&Aの相談先」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士・本山純(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aにより会社や事業の売却を行う場合の、課題や検討すべき事項は多岐にわたり、また専門的な知識が必要となる局面が多数あります。そのため、迅速にM&Aを進めるためには、状況に応じて適切な相談先を選定することが重要となります。

 

ここでは、M&Aの主要な相談先である会計事務所とM&A仲介会社について、具体的なケースで一般的にどちらが適していると考えられるか、それぞれの特徴と主な依頼可能業務をご紹介いたします。

 

 

会計事務所に相談するケース

会計事務所は、顧問契約等により既に関係があるケースが多いことから、経営者にとって気軽に相談できる相手先と言えるでしょう。

 

M&Aにおける会計事務所の特徴は、会計や税務の専門知識を有していることから、財務・税務デューデリジェンスやタックスプランニングを得意とする場合が多いと言えます。他方、M&A仲介会社と比較するとM&Aマーケットでのネットワークはさほど持っていないことが一般的です。

 

そのため、比較的規模が小さい案件(事業価値1億円未満)や、すでに買い手候補がある場合、また、税理士経由でのみ利用可能な日本税理士協会連合会の運営するマッチングサイト「担い手探しナビ」を利用したい場合の相談先として適切と言えるでしょう。

 

会計事務所に依頼可能な主な業務は、初期相談、バリエーション、デューデリジェンス、スキーム構築、タックスプランニング等が挙げられます。

 

 

M&A仲介会社に相談するケース

M&Aに際しては、M&A仲介会社を利用するのは一般的な方法です。

 

M&A仲介会社は、M&Aマーケットに広いネットワークを有しているので、売り手、買い手共に短時間のうちに相手先を探してもらうことができ、売買交渉やデューデリジェンス、バリエーション、売買契約までフルパッケージでしっかりと支援してもらえる場合が多いと言えます。他方で、専門家をフルに活用するのでそれなりの費用がかかることが一般的です。

 

そのため、比較的規模が大きい案件(事業価値1億円以上)や広く買い手を探す場合、仲介や価格交渉等の専門業務を任せたい場合の相談先として適切と言えるでしょう。

 

M&A仲介会社に依頼可能な主な業務は、初期相談、バリエーション、仲介、交渉、契約等、M&Aに係る全般的な事項を依頼することが可能です。

 

 

 

会計事務所に相談した方が良いケース

上記表の通り、M&A仲介会社へ相談すればM&Aに係る業務をフルパッケージでサポートしてもらうことが可能なため、大規模な案件ではM&A仲介会社が介入することが一般的です。これに対し、会計事務所では、M&Aに係る業務の中で、バリエーション、デューデリジェンス、スキーム構築、タックスプランニングを得意としており、M&A仲介会社で行われるこれらの業務も会計士や税理士等の専門家が行っているケースが大半です。

 

そのため、これらの業務をメインに依頼したい場合には、会計事務所へ相談した方がコストを抑えることが可能なケースもあります。

 

特に、スキームやタックスプランニング次第で、M&Aに係る税務コストが大きく変動するため、小規模なM&A案件であってもこれらの検討は行うべきと言えるでしょう。

 

例えば、退職金支給スキームでは、譲渡代金の一部を税率の低い退職金として受け取ることで、総額の手取り額を増加させることができる可能性があります。また、平成29年度税制改正により、会社分割を行った場合の支配関係継続要件の「支配株主と分割法人との関係継続」が不要となったことから、譲渡事業の含み益課税を受けずにM&Aを実施するスキームを構築することも可能となりました。(詳細は「M&Aにおけるタックスプランニング ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑦~」をご参照ください。)

 

 

 

[初級者のための入門解説]

社長の手取り額は?-M&Aにかかる費用-  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」②~

 

M&A実務の基本ポイントを、植木康彦先生(Ginza会計事務所/公認会計士・税理士)、本山純先生(Ginza会計事務所/公認会計士)にわかりやすく解説していただきます。今回は、譲渡企業の経営者にとって最大の関心事の一つである「社長の手取り額」を取り上げます。「M&Aで発生する費用は?」「M&Aの税金負担は?」など、皆さまの疑問にお答えます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士  本山純(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aで会社を売却した場合、社長(株主)の手元に残るキャッシュは売却代金からM&Aにかかる費用を差し引いた額となります。

 

売り手側で発生する代表的なM&Aにかかる費用は主に以下の2つがあげられます。

 

【代表的なM&A費用】

①専門家(仲介会社)に払う手数料

②税金

 

①専門家(仲介会社)に払う手数料
~M&A仲介会社は何をしてくれるの?~

M&Aで発生するコストの代表的なものにM&A仲介会社に支払う手数料があります。

M&A仲介会社は、M&A全体の取りまとめの役割を果たします。

 

具体的には、

・M&A全体のスケジュールと売却方針の検討

・売却先の選定、交渉

・契約のサポート 等々

 

M&Aにあたり何から着手すべきか、どのように進めるべきか、M&Aがスムーズに成立するよう、スタートからクローズまでの各段階でのサポート及びアドバイスを提供してくれます。

 

M&A全体のスケジュールや売却方針があやふやなままでは、いくら魅力的な企業であってもスムーズに商談が進まず、労力ばかりがかかってしまうことも。

 

そんな状況では、本業にも悪影響を及ぼし兼ねず、結果的に事業価値を低下させてしまう恐れもあります。

 

売却先についても、売りたい企業とも買いたい企業ともネットワークを持つ仲介会社を使うことで、自分のネットワークだけでは繋がることのできない相手先への売却アプローチも可能となります。

 

M&Aでは、各段階で留意すべきポイントやタスクが多岐にわたるため、不慣れが原因で生じるトラブルを回避し、スムーズに進めるためにも、経験豊富な仲介会社が全体を取りまとめることがM&Aを成功させるカギとなります。

 

~M&A仲介会社の費用はどれくらい?~

このように、M&Aを成功させるためにM&A仲介会社の存在はとても大きなものとなりますが、その分、手厚いサポートを受ける場合には費用も多額となってしまうことが一般的です。

 

仲介会社の費用相場は、取引金額や提供を受けるサービスの範囲で大きく変動することから、一概にいくらと言えるものではありません。

 

そのため、どのような仲介会社を利用するかを検討する上で、仲介会社の一般的な費目と料金形態を把握しましょう。

着手金と中間金は、M&Aが成立しなかった場合でも返金されない費用となります。

 

 

「着手金+成功報酬」「中間金+成功報酬」「成功報酬のみ」等、仲介会社によって料金形態及び提供サービスの範囲は様々です。

 

手厚いサービスを受ける場合には、仲介会社でも公認会計士等の専門家に対する報酬が発生する為、着手金や中間金が必要となるケースもありますし、これらのサービスをオプションとして追加できる仲介会社もあります。

 

また、どの仲介会社でも生じることが一般的な成功報酬の割合は、売買代金に応じて変動するため一概には言えませんが、多くの仲介会社が採用するレーマン方式では5億円以下の場合、売買金額の5%となります。

 

 

 

仲介会社によって得意とする業種や対応している地域、提供業務のタイプ(仲介型orアドバイザリー型)が異なりますので、受けたいサービスの費用対効果を考慮し、自社に合ったM&A仲介会社を選ぶことが重要です。

 

②税金
~どんな税金がかかる?~

無事M&Aが成立し、売却後に生じる支出が、売却により生じた利益に対して課される税金です。

それでは、M&Aで生じる税金にはどのようなものがあるのでしょうか。

ここでは、M&Aでよく使用される株式譲渡について検討していきたいと思います。

 

(注:M&Aのスキームには、株式譲渡・事業譲渡・会社分割・株式交換・合併等があり、採用するスキームによって課される税金が異なります。)

 

株式譲渡により会社を売却した場合には、売却代金から株式の取得費譲渡費用(仲介会社への手数料等)を控除した譲渡益(株式譲渡所得)に対して20%(所得税15%、住民税10%)の税金がかかります。(復興税は省略)

 

これは売却した翌年の確定申告で申告・納付することとなります。

 

 

 

~手取り額を最大限にする方法は?~

上記の通り、株式の譲渡益に対しては20%の税金が発生しますが、退職金を利用することで、税負担を軽減し、手取り額を増やすことができる可能性があります。

 

退職金は、これまでの勤労に対するものであり、退職後の生活を支える資金となるため、退職所得控除や課税対象額が1/2になる等、税務上非常に優遇されています。

 

そのため、譲渡代金の一部を退職金で受け取ることで、税負担の軽減分だけ手取り額を増やせる可能性があるのです。

 

それでは、具体的な設例を使って、確認しましょう。

 

 

 

①全額株式の譲渡代金として受け取った場合(税負担額:20百万円)

 

株式(非上場株式)を譲渡した場合、譲渡益部分が課税対象となり、税額は以下の算式で算定されます。なお、本来は譲渡代金から取得費等を控除して譲渡益を算定しますが、計算を簡略化するため得費用等は省略し、譲渡代金=譲渡益(譲渡所得)と仮定しています。

 

 

 

 

②譲渡代金の一部(60百万円)を退職金として受け取り、40百万円を株式の譲渡代金として受け取った場合(税負担額:16.45百万円)

 

 

 

 

ⅰ.譲渡所得部分

株式の譲渡益に対する税金は①の算式の譲渡所得が40百万円となり、以下の通り算定されます。

 

 

ⅱ.退職所得部分

退職金は、税務上優遇された取扱いがあり、税額は以下の算式で算定されます。

 

(注①)

退職所得控除は勤続年数に応じて20年以下は年間0.4百万円、20年超部分は年間0.7百万円で算定されます。

(0.4百万円×20年+0.7百万円×(30年-20年))=15百万円

(注②)

退職所得の所得税率は超過累進税率のため、退職所得金額に応じて変動します。本設例では以下の区分の税率が適用されます。なお、設例に記載の税率は下記税率40%に住民税10%を足した50%として算定しています。

 

 

 

上記の設例では、譲渡代金100百万円に対して約3.5百万円の税負担の軽減が図られたこと確認できます。この分、売却による手取り額が増加することになります。

 

また、退職金は会社の費用(損金)にもなることから、法人実行税率を30%と仮定すると、18百万円(60百万円×30%)会社に節税効果が生まれ、譲渡対価の交渉材料の一つにもなります。(「不当に高額な部分の金額」となる退職金は損金とならないため、退職金の金額設定には留意が必要です。)