[M&A事業承継の専門家によるコラム]

第7回:M&A(株式譲渡)を行うにあたり、事前に留意する点

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業のM&A支援・事業計画支援を専門で行っている株式会社N総合会計コンサルティングの平野栄二氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

株式会社N総合会計コンサルティング

平野栄二

 

 

 

 

「私は現在75歳です。従業員5人の製造業を経営しています。第三者に株式譲渡による承継(M&A)を行うことを、検討しています。その場合、どういった準備や確認が必要でしょうか。今まで、M&Aを行うという前提ではなかったので何の準備もしておりません。また、下の表のように、昔、社員だった2名に、株式を保有してもらっていますが、所在が不明となっています。今後、どうやって株式を集約すればよろしいでしょうか?」

 

 


 

平野:ご質問いただきありがとうございます。以下のような手順でご説明をいたします。

 

1、まず、中小企業のありがちなM&Aを阻む問題について確認いただきます。
2、つぎに、M&Aで譲渡企業が準備する書類・資料について確認いただきます。
3、上記のなかで、特に株式の問題が発生しやすい事例についてご説明します。
①株主総会の議決権・株主の権利について
②株主名簿について
③株式の集約(名義株式の整理)
④株式の集約(所在不明株主の整理)

 

 

1、中小企業にありがちなM&Aを阻む問題


日常ではあまり意識しなくても支障が生じないことでもM&Aを行う場合、以下のような問題で、交渉がすすまない、中止になるケースがあります。大きく分けると、株主(株式)の問題、法的な問題、人間関係の問題、重要書類の欠如の問題があります。このような問題は、事前に、少しずつでも、解決しておく必要があります。

 

1.株主(株式)の問題

□名義株式(名前だけ借りているだけの株式)の処理
□株券の管理(株券発行会社)
□経営に参画していない株主の対策
□所在不明の株主への対策

 

2.法律上の問題

□裁判沙汰になっている事件
□登記の遅れ
□無許可営業
□未払残業賃金
□税金・社会保険の滞納
□脱税行為
□粉飾決算
□虚偽申請
□違法建築
□保証債務(保証人・担保の設定)
□遺産分割の対象となり紛争中の資産
□会社資産の私的利用
□第三者の名義の資産
□土壌汚染や騒音など環境汚染

 

3.人間関係の問題

□家族(親子・夫婦・兄弟姉妹)との確執
□敵対的な株主の存在
□近隣地域との確執
□従業員・役員との確執
□取引先・同業者との確執
□反社会的勢力のと交際

 

4.重要書類の欠如の問題

□定款(会社の憲法のようなもの)
□株主名簿
□議事録
□契約書
□決算申告書
□許認可等の証明書
□社内規程類(就業規則・退職金規定など)

 

 

 

これらの問題の解決には、専門的な知識やノウハウが必要であるため、専門家に相談して解決にあたることが良いでしょう。また、どうしても解決できない問題がある場合は、事前に、譲受者に隠すことなく、開示をしておくことが重要です。先送りにすればするほど、問題が大きくなる傾向があります。

 

中小企業の場合、大なり小なり何等かの問題を抱えているものですので、「正直路線」で、譲受者に交渉の最初の段階で説明を行い、理解を得ることで、話が進むケースもありますので、諦めないことが重要です。

 

 

 

2、M&Aで、譲渡企業が準備する資料集


M&Aの交渉が進んでいくと、下記のような資料を、譲受者に提出する必要があります。

 

▷「M&Aで売り手企業が準備する必要がある資料一覧」(ダウンロード)]

 

1.会社・法務

□会社の沿革、パンフレット等
□原始定款・変更後新定款
□履歴事項全部証明書
□会社の組織図
□株主名簿(過去の株主の移動があった場合の明細)
□株式譲渡承認通知書
□株主総会・取締役会議事録
□取締役・監査役一覧(氏名・経歴・会社との取引等)
□許認可関係資料(管轄官庁・許認可の種類の一覧とコピー)
□知的財産権一覧(特許権、商標権、意匠権、著作権等あれば)
□経営計画書(3~5年)
□係争事件の有無(過去3年間)、顧問弁護士との連絡事項の一覧
□現在契約期間中の契約書

 

2.営業

□商品別売上明細・得意先別売上明細
□仕入・外注先の取引明細・支払い条件・契約書・覚書
□得意先の回収条件の明細 (上位10社)
□貸倒実績の明細・回収可能性の低い債権の明細・根拠資料
□当期の直近までの営業実績(商品別等)・今後の営業戦略

 

3.設備

□所有不動産の一覧
□土地公図、建物取得原価の内訳書
□所有不動産の登記簿謄本
□賃貸借契約の明細表及び契約書
□リースの明細(物件、期間、総額、未経過リース料、支払リース料)及び契約書
□固定資産台帳または減価償却明細表
□所有不動産の鑑定評価書
□直近の固定資産税賦課通知書一式または評価証明
□使用しているコンピュータシステムおよびソフトウェア

 

4.財務・経理

□決算書及び法人税申告書(勘定明細を含む)
□部門別損益実績資料(管理上の区分で結構です)
□当期の各月の月次合計残高試算表・比較損益推移表
□各取引銀行の預金取引・融資取引の残高証明書
□総勘定元帳・補助元帳、売掛金元帳、棚卸資産台帳、仕入元帳
□保険契約に関する明細表(被保険者・保障内容・保険金額・契約期間など)・契約書
□関係会社・役員間との取引および債権債務の明細
□金融機関との金銭消費貸借契約書
□金融機関別借入、返済、利払明細
□担保設定に関する契約書
□保証債務等の明細及び保証書等
□投資有価証券・出資金等に係る直近の決算書

 

5.人事・労務

□給与台帳、一人別源泉徴収簿、扶養控除等申告書、年末調整関係資料
□従業員の退職金規定・退職金要支給額計算資料
□健康保険、厚生年金保険・雇用保険の届出書などの関係書類
□従業員のタイムカード・出勤簿
□就業規則、給与・賞与・退職金規程・役員退職金・その他諸規定
□労務管理上の問題点・過去の労災事故や労働問題の有無の明細
□社宅にかかる経済的利益の算定根拠資料

 

6.税務

□過去に提出した税務届出書一式(法人税・消費税)
□消費税計算根拠資料
□源泉所得税納付書、特別徴収地方税納付書
□納税証明書(国税、地方税、固定資産税等)滞納がないことを証明する資料
□税理士の関与状況
□税務上の問題点・ 過去の税務調査の概要および更正・修正内容(申告書など)

 

 

 

3、株式の問題が発生しやすい事例


①株主総会の議決権・株主の権利について

経営の安定のためにどれだけの議決権割合の株式を保有すべきか?

株式会社の最高意思決定機関は株主総会とされ、会社法では、株主総会の決議が必要な事項が定められています。保有する議決権割合が多いほど、会社に対する支配権は強くなります。M&Aの場合、一般的には、譲受企業は、経営の安定化のため、株式を全株取得することを希望するケースが多いです。以下は、株主総会における決議の種類ごとの主な決議事項です。

 

 

 

 

少数の株主にも権利がある

株式が分散していたり、一部株主の所在が不明であったりする場合、M&Aを実行する際に重大な障害となるおそれがあります。会社法では、少数株主の権利の保護の観点から、以下のような権利が認められています。

 

そのため、敵対的な株主が存在する場合、権利行使を行うことで、嫌がらせをしたり、会社の運営に介入される可能性もあります。そのため、他の株主からの株式の買取り(及びそのための買取資金の調達)を進めていくなどの、事前の対策が必要となります。

 

自益権:会社から経済的な利益を受ける権利

共益権:株主が会社の経営に参加する権利
単独株主権:1株しか有していない株主でも行使できる権利

少数株主権:一定割合または一定数の株式数を有する株主だけが行使可能な権利

 

②株主名簿について

自社の株主が明確になっていますか? (株主名簿)

株式会社では、株主名簿を作成しなければならないと会社法(121)で定められています。

株主名簿の作成や更新をしていないと、誰が本当の株主かが分からないようになるケースもあり、トラブルが生じることもあります。そのため、以下のような書式の株主名簿を作成し、更新をしっかりと行っておく必要があります。M&Aの際にも必ず提出を求められる資料です。

 

 

③株式の集約(名義株式の整理)

名義株式がある場合、実質株主に変更しておく

名義株とは、実際に払い込みを行った人と名義人が異なっている株式のことをいいます。

平成2年(1990年)の商法改正前は、株式会社設立に当たり、7人以上の発起人が必要であり、かつ各発起人が1株以上の株式を引き受ける必要があったため、他人の承諾を得て、他人名義を用いて株式の引受け・取得がなされるケースが多く存在していました。

名義株主と実質的な株主の間で、株主たる地位や配当等の帰属を争う紛争が生じないよう、実質的な株主への株主名簿の名義書換等を進めておく必要があります。その際には、例えば事前に名義株主と実質的な株主の間で株主たる地位等について確認する合意を締結しておく等の方策が考えられます。

 

 

 

 

名義株を放置することによるリスク

①名義株主と真実の株主との聞で、株式の帰属についてトラブルを起こしやすい

②名義株主が死亡したり行方不明になったりするなどで、真実の株主が株主としての権利を行使できなくなることがある

③真実の株主に相続が発生したとき、権利関係が複雑となる。また、名義株主の相続人に相続税が課税されるリスクがある

④M&Aや事業承継の際に、後継者に株式を譲ろうと思っても、名義株は自分の名義になっていないため、譲ることができない

 

④株式の集約(所在不明株主の整理)

株主の所在が分からない株式の整理方法

個人が保有している株式を集約化するためには、通常は、適正な価格を提示し、株主の承諾を得て、買い取る方法で行うことになりますが、株主の所在が分からない場合、株主の個別の承諾を得ることなく、金銭を対価として取得(キャッシュアウトといわれます)する以下のような制度が活用できます。

 

 

 

 

そのため、できる限り所在不明株主を生じさせないように、「日ごろから株主間のコミュニケーションを充実させる」「株主間契約を締結しておき、連絡が取れなくなった場合の対応のルールを決めておく」ことは重要でしょう。

[M&A事業承継の専門家によるコラム]

第6回:ノンネームシートや企業概要書とは何か? 譲渡企業側のアピールの方法を考える。

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業のM&A支援・事業計画支援を専門で行っている株式会社N総合会計コンサルティングの平野栄二氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

株式会社N総合会計コンサルティング

平野栄二

 

 

 

「私は現在75歳です。従業員5人の製造業を経営しています。第三者に承継(M&A)を行う場合、候補先に、どのようにアピールしていけばよいでしょうか。また、よく、「ノンネームシート」とか「企業概要書」という資料があると聞きますが、どういったものでしょうか。よろしくお願いいたします。」

 


 

平野:ご質問いただきありがとうございます。以下のような手順でご説明をいたします。

 

①M&Aにおいて、譲渡企業はどのような資料を候補先に開示するのか説明いたします。具体的には、「ノンネームシート」、「企業概要書」についての説明を行います。

②ノンネームシートの役割や留意点、アピール方法を説明いたします。

③企業概要書の役割や留意点、アピール方法を説明いたします。

④成功事例を紹介します。

 

 

1、ノンネームシート(ティーザー)

M&Aで候補先を探索を開始するにあたり、まずは「ノンネームシート」と呼ばれる匿名での案内書を作成します。

 

ノンネームシート(ティーザー)とは、譲渡企業が特定されないよう企業概要を簡単に要約した企業情報をいいます。譲受企業側に対して関心の有無を打診するために使用されるものです。

 

 

 

 

2、企業概要書(IM、IP)

企業概要書とは、譲渡企業側が秘密保持契約を締結した後に、譲受企業側に対して提示する譲渡企業についての具体的な情報(実名や事業・財務に関する一般的な情報)が記載された資料をいいます。インフォメーション・メモランダム「IM(Information Memorandum)」やインフォメーション・パッケージ「IP(Information Package)」とも呼びます。

 

 

 

 

3、提出時期と提出目的の違い

ノンネームシートと企業概要書はそれぞれ役割が違っており、以下のとおり、目的と提出時期が異なります。

 

①目的

(ノンネームシート)

譲受企業側に対して関心の有無を打診するために使われます。関心があれば、連絡を受けて、企業名等を開示するかの検討に入ります。

 

(企業概要書)

譲受企業側に対して、譲渡企業の経営・財務情報を開示することによって、関心があれば、企業トップ同士の面談や基本合意へと交渉を進めるために使われます。

 

②提出時期

(ノンネームシート)

M&A の方法や時期などの方針が概ね決まり、これから候補先の探索を始める段階。

 

(企業概要書)

譲受企業側との秘密保持契約を締結すると同時に実名の開示が行われ、譲受企業側が、譲渡企業に関心を持って、交渉に進みたいと打診をしてきた段階。

 

③M&Aの流れと「ノンネームシート」と「企業概要書」の作成時期

ノンネームシートと企業概要書は、以下のようなタイミングで作成されることが求められます。

 

❶アドバイザー等に相談⇒❷アドバイザリー契約の締結⇒❸ノンネームシートの作成候補先の探索・紹介⇒➎候補作と秘密保持契約の締結⇒❻企業概要書の作成トップ面談(お見合い)⇒❽意向表明提出(譲渡企業)⇒❾基本合意の締結(独占交渉権付与)⇒❿譲受企業による買収監査⇒⓫最終条件交渉⇒⓬最終契約書(本契約)の締結⇒⓭対価の授受、業務引継ぎ

 

 

 

4、「ノンネームシート」のアピールポイント

①業種

(例)〇〇の製造販売 など

 

業種はできる限り具体的に記載することがポイントです。ここを広げすぎると、無用な対応の時間が増えてしまいます。しかし、ニッチな業種の場合、特定される可能性があるので、業種を絞らずに大きく記載する場合もあります。

 

②譲渡理由

(例)事業の選択と集中のため

 

譲渡理由は、「後継者不在のため」「事業の選択と集中のため」「アーリーリタイアし別事業へ挑戦するため」「企業の成長・発展のため」などと記載します。業績不振や健康不安など負のイメージはノンネームの段階では、なるべく記載しないようにします。

 

③会社所在地

(例)関西地方

 

業種によっては、地域を狭めると特定されるケースもあるので留意します。

 

④売上高等

(例)1億円弱

 

売上は大きい方が好まれるが、嘘のない範囲で数字を丸めて記載します。また、売上高以外に、純資産額なども譲受企業は重視する傾向があるので、財務内容が良い企業はあえて記載することもあります。

 

⑤従業員数

(例)9名(役員除く)

 

従業員数も、「10人前後」「10人~15人」などとぼやかす場合もあります。ただし、引退予定の役員などは含めない方がよいです。

 

⑥希望形態条件

(例)株式譲渡 (社長所有の事業用不動産の賃貸を希望)

 

「株式譲渡」「事業譲渡」や「会社分割後新設会社を譲渡」などと記載します。100%株式譲渡でない場合など、特殊な場合はその旨を記載しておく必要があります。また、個人の事業用不動産を譲渡や賃貸する場合も記載します。その他条件として、「従業員全員の雇用継続」「代表者の保証債務の抹消」「オーナー一族以外の役員の勤務継続」など記載しておきたいことを簡単に記載します。

 

⑦譲渡希望額

(例)応相談

 

譲渡希望価額はまだ算定できていないケースもあり、その場合は「応相談」と記載しておきます。あまり法外な価額を記載することは相手先が見つからない可能性があります。一方で、低く見積もるとその後の値上げには応じてもらえない可能性があるため慎重に記載する必要があります。

 

⑧特徴

(例)〇〇の部品・を製造・販売している。〇〇品にも力を入れている。歴史ある企業で長年の実績があり、顧客との信頼関係が強い。在庫管理が行き届いており、迅速な配送体制が強みである。本社事務所社屋はオーナー親族の所有であり、譲渡後は適正価格にて賃借が可能であり、交通の便が良好な場所に位置している。

 

①~⑦までの内容について、もう少し詳細に記載したい場合に補足説明します。たとえば、支店や営業所がある場合など。企業の持つ強み・特長を完結に記載します。具体的には、会社の社風や、歴史、ブランド力、取引先の多さ、多様なネットワーク・立地のよさ、技術力・知的財産権などです。逆指名として「〇〇〇〇のような企業を求める」というような記載をしても良いです。

 

 

 

5、「企業概要書」のアピールポイント

【フルバージョンの場合の企業概要書の一例】

1.はじめに

2.概要

3.会社の沿革・代表者のプロフィール

4.会社付近の地図・全景写真など

5.自社の製品・サービスの案内

6.自社の強み

7.株主名簿

8.従業員/役員の状況/労働組合の状況

9.主な売上先・仕入・外注先の概要

10.地代家賃の概要

11.不動産・固定資産の概要

12.借入金の状況

13.M&A後のシナジー効果

14.3期(または2期)比較財務諸表

15.時価貸借対照表

16.EBITDAの計算

 

 

企業概要書は、譲受企業が初めて手にする譲渡企業の概要です。この資料で、譲り受けの判断をすることになるので、非常に重要です。

 

ポイントとしては、4つあります。

 

①「良い会社、希望を持てる会社である」という印象をもってもらう必要があります。そのため、自社の強みについては分かりやすく記載します。

 

②開示した資料についての「算定根拠についてはなるべく詳細に記載する」ことで、読み手の理解を助けることになります。とくに「イレギュラーな数値や内容についてはコメントを記して説明」しておく必要があります。

 

③現状、業績が芳しくない企業については「その原因を記載し改善策も提示」しておくことで、少しでも希望をもってもらう必要があります。

 

④想定される譲受企業の譲受後の統合作業のイメージがわくように、「M&A後のシナジー効果」なども記載しておくと、譲受企業が参考にしやすいと思います。

 

 

【企業概要書のアピール法】
■自社の強みの説明ポイント

(留意点)

●強みを「営業面・商品面、生産面・技術面、組織面」などに区分して記載する

●商品の特長については、写真や図を付けて、視覚的にアピールする

●他社製品との比較表なども付けると、競争力のある事業だと感じてもらえる

●具体的に記載することが重要(実績・経験・資格・許認可・成果など)

 

 

生産プロセスや、サービス提供プロセスなどを、上図のように簡単に図解し、写真なども添付しながら説明を行い、プロセスのどの部分に強み(付加価値)があるのかを記載します。

 

■従業員・株主・役員構成の記載のポイント

従業員の内容は、譲受企業の多くが関心を持つので、丁寧な記載が必要になります。また、イレギュラーな内容がある場合は脚注を付すなどして、理解をしてもらいやすくします。

 

 

 

 

■主要な取引先の記載ポイント

譲受企業の関心の一つに、取引先企業の業種、規模、件数、構成比などがあります。上位5社から10社程度の取引先を以下のように開示すると、参考にしてもらいやすくなります。

 

 

 

 

 

■固定資産等の記載ポイント

固定資産の場合は、できる限り現況を記載する。固定資産台帳などが実際の現況と異なる記載がある場合は、脚注にその旨を記載するなど、配慮をすると参考になります。

 

 

 

 

 

■損益計算書の記載ポイント

●過去3期分程度の損益計算書の推移を決算書などから作成する。

●イレギュラーな数字がある場合は脚注にて説明を行う。

●増減が大きい数字については原因なども記載をするとわかりやすい。

 

 

 

 

 

 

■貸借対照表(時価貸借対照表)の記載ポイント

●過去3期分程度の貸借対照表の推移を決算書などから作成する。

●イレギュラーな数字がある場合は脚注にて説明を行う。

●以下のように簡易な時価評価を記載することで、実態に合った財政状態を提示できる。

 

 

 

 

 

 

6、成功事例(学習塾の場合)

【事例概要】

(譲渡企業)

●30代男性社長

●1教室のみ独立型学習塾を経営

●数年程前に起業をし、駅前のビルを賃貸し、学習塾を立ち上げる

●誠実な指導方法が評判で順調であったが、アーリーリタイアにより、M&Aを検討

 

(譲受企業)

●10教室以上を経営している中堅学習塾

●コロナウイルス禍で学習塾が休業になり、一時交渉が延び延びになったにもかかわらず、交渉は順調に進み、値引きなしの当初の売買価格にてクロージングが達成

 

【成約のポイント】

①譲渡社長の誠実な人柄が信頼されたこと

②充実したサービスを提供しているにもかからず、講座価格等が低く、収益性は悪かったが、平均以上の顧客を抱えており、潜在能力を評価してもらえたこと

 

【企業概要書でのアピールポイント】

●ノンネームの生徒の情報(学校名・学年・学力など)・ 講師の情報(出身校・経験・得意科目など)を掲載して、商圏や学力レベル、講師の指導レベルなどが一目でわかるように記載した。

●授業料の計算方法やサービスの内容を詳細に記載して、問題点と解決策などを記載した。

●本来、受け取るべきテキスト代や臨時講習料なども適正価格に修正した損益シミュレーションを作成し、業務改善しだいでは高い収益を得ることができることを記載した。

●講師1人に対する生徒数の数比率を世間一般での生徒数に変更することで、なお、高い収益性が確保できることをアピールした。

●当面、現経営者にも講師として参画してもらうことで、既存の生徒に安心感をもらってもらうように、現経営者を含めた収益予測を行い企業概要書に提示した。

 

【結果

当初の提示額の3~4倍の譲渡価額で納得いただき、成約することができた

 

 

7、まとめ

①ノンネームシート

●譲受企業に判断してもらいやすいように、情報を簡潔に記載する。

●企業名が特定できないように、記載方法に注意すること。

●ホームページなどの用語をコピーすると、検索に引っかかる可能性があるので注意する。

●ノンネームとはいえ、信頼できるアドバイザーに渡すこと(承諾なく、ファックスやメールでばら撒く業者も存在するので注意する)。

 

②企業概要書

●必ず、秘密保持契約を交わすか、秘密保持の誓約書を受けとってから開示する。

●企業概要書は自社のプレゼンテーション資料だという認識で記載する。

●提示する相手の重要度・信頼度によって、提出する資料の詳細は加減して提示する。

●強みを強調し、今後も持続的に発展する要因がある旨をアピールする。

●問題点を敢えて提示し、その解決策を示すことで、誠実さをアピールする。

●譲渡後の改善策とともに、改善後の収益予測など数字でアピールする。

●確認に時間がかかる場合は、後で随時改良し、概要書の品質を高めていく。

 

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第7回:財務デューデリジェンス ~貸借対照表分析とは?~

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.貸借対照表分析とは

①財務デューデリジェンス

②貸借対照表分析

2.具体例:現預金

①気になる点はどこ?

②実施手続

3.具体例:売上債権

① 売上債権の気になる点は?

②実施手続

4.具体例:棚卸資産

①棚卸資産の気になる点は?

②実施手続

 

 

第6回目ではM&Aの場面でどのようなデューデリジェンスが行われるのかを見ていきました。第7回目となる今回は「財務デューデリジェンス」に焦点をあてます。財務諸表といえば「貸借対照表」と「損益計算書」が中心ですが、今回はその中でも「貸借対照表」に照準を絞って見ていきましょう。

 

 

▷関連記事:財務デューデリジェンスにおいて事業計画をどのように分析するのか?

▷関連記事:財務デューデリジェンス ~損益計算書分析はなぜ必要か?(正常収益力、EBITDA、事例で確認してみよう)~

▷関連記事:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】~正常収益力の分析、事業別・店舗別・製品別・得意先別等損益の分析、製造原価の分析~

 

 

1. 貸借対照表分析とは


① 財務デューデリジェンス

財務といえば「貸借対照表」と「損益計算書」の2つを思い浮かべる方が多いですね。会社の財産を示す貸借対照表と、会社のもうけを示す損益計算書は非常に重要な財務に関する書類です。

 

読者の皆様が概要だけ知っている会社をM&Aで購入するとします。財務面で最も気になるのは相手会社の「貸借対照表」「損益計算書」に問題があるかどうかではないでしょうか。財務デューデリジェンスは、主に「貸借対照表」と「損益計算書」を分析し、問題がないかを確認していくこととなります。

 

② 貸借対照表分析

貸借対照表分析に当たっては、バリュエーションを見据えた「ネットデット分析」と企業の財務諸表に問題がないかを確認する「純資産分析」が行われることが多いです。

 

バリュエーションで株主価値を算出する際、事業価値から控除するネットデットの内容を確認することがネットデット分析です。

 

一方、純資産分析は企業の実態純資産がどの程度あるかを把握する分析です。

 

ネットデット分析はやや専門的で、入門には難しい内容となりますので、本稿では直感的に分かりやすい純資産分析を取り上げます。

 

「貸借対照表」の中でも、皆様に馴染みのある「現金預金」「売上債権」「棚卸資産」といった資産科目に焦点をあてて、具体例を交えつつご説明します。

 

財務デューデリジェンスは多くの専門的要素が絡む複雑な調査ですが、本記事ではどのようなことをやっているのかイメージがつきやすいよう噛み砕いてご説明しますので、少しでも財務デューデリジェンスについて具体的なイメージになっていただけると幸いです。

 

2. 具体例:現預金


①気になる点はどこ?

帳簿上の現金預金期末残高が10,000千円あるとします。読者の皆様が買い手の立場であるとして、どのような点が気になるでしょうか。

(貸借対照表はある一時点の資産を表すストック数値ですので、基本的には調査対象期間の末日の数値について検証します。)

 

<帳簿上の現金預金>

 

 

<気になる点>

もちろん、実際に現金預金があるか(現金預金が実在しているか)が一番気になる点ですね。

そのため、帳簿上の預金残高について、銀行の残高証明書や預金通帳で残高がきちんとあるかを確認します。

② 実施手続

通常であれば帳簿上の預金残高と銀行の残高は一致するはずです。年度末であれば正確に一致させている会社がほとんどですが、財務デューデリジェンスは年度末を基準日とすることは少なく、調査開始直近の月末を基準日とすることが多いです。月次では預金残高を合わせていない会社もあり、時たまズレが生じているのを見かけます。

例えば、以下の通り相違していました。

 

 

相違金額500千円の内容が分かれば適切な勘定科目に振り替えますが、内容が分からない際は資産を減額します。

 

帳簿上は現預金が10,000千円あるものの、実際には9,500千円しかありませんでした。この結果をDD上反映することとなります。

 

このように、科目毎に「気になる点」(現預金で言えば実際にあるかどうか)を確認し、実態の純資産がいくらかを考えていくのが、財務デューデリジェンスにおける実態純資産分析です。

 

3. 具体例:売上債権


① 売上債権の気になる点は?

売上債権は、売掛金や受取手形等営業取引から獲得した金銭債権です。では、売掛金を見てどのような点が気になるでしょうか。

 

<帳簿上の売掛金>

 

 

<気になる点①>

まず気になるのが、貸倒引当金▲1,000が適切かどうかです。貸倒引当金は、売掛金が貸し倒れるリスクを見積もって金額に落とし込む勘定科目です。そのためリスクの見積方法によって金額にばらつきが生じます。中小企業であれば法人税法に則って貸倒引当金を計算していることが多いですが、財務DDでは実際に貸し倒れる可能性のある金額を可能な限り見積って反映させますので、貸倒引当金の金額は確認が必要です。

 

例えば、官公庁向け売上であれば貸し倒れるリスクはほとんどないですし、業績が悪い企業への売上であれば貸倒リスクは高いといえます。

 

<気になる点②>

次に気になるのが、この売掛金は本当にあるのかどうか、当期に計上してよいのかどうかです。

業績を良く見せるために手っ取り早いのが「当期の売上を増やす」ことです。売上が増えれば当然売掛金も増えますから、売掛金の金額に問題ないかを確認することは不正の有無を確認する上でも非常に重要です。

 

例えば架空の売上を計上して業績を良く見せたとします。架空ですから当然入金がないため、売掛金は残り続けますね。このような売掛金に資産価値はありません。

 

3月決算の会社において、4月の売上を3月に発生したことにすれば、当期の業績は良く見えることとなります。この方法は将来入金がなされる点で架空売上とは異なりますが、実態より資産価値が高い(売掛金が多く計上されている)状態となっていますので、会社を買う側からすると実態より高く買ってしまうことに繋がります

 

このような期ズレ(正しい期間に収益が計上されていない)も投資判断を歪ませますので、注意が必要です。

 

② 実施手続

上記の気になる点を確認するために、様々な手法を使用します。

 

趨勢分析、取引内容や取引条件の把握、契約書や請求書、入金証憑の閲覧、年齢調べ、回転期間分析等がありますが、ここでは分かりやすい「回転期間分析」を例としてみましょう。

 

買収予定の会社の主要顧客として、A社(売掛金残高10,000千円)とB社(売掛金残高25,000千円)があります。どちらも契約上は月末締め翌月末払いの相手先です。残高だけを見ても何も分からないので、年間売上高を使用して回転期間を求めてみると、以下表の通りです。

 

<売上債権の回転期間分析>

 

 

回転期間とは、売掛金等の営業債権計上後、回収されるまでの期間を示す指標です。月末締め翌月末払いですから、回転期間は通常30日から多くて60日程度になるはずです。

 

A社は回転期間が36.5日と特段異常はありませんが、B社は回転期間が60日を超えていますので、何かありそうですね。60日近辺ですので、取引の関係上月初に全ての売上を計上している可能性もありますし、前述した期ズレや架空計上の可能性もあります。

 

その後B社について追加調査を行うことで、その内容を把握することができますね。

 

今回は、M&A前に売上を良く見せようと翌期の売上10,000千円を当期に回していたことが分かったとします。この結果をDDに反映させることとなります。

 

 

 

4. 具体例:棚卸資産


① 棚卸資産の気になる点は?

棚卸資産は営業目的で保有する在庫のことで、製品や仕掛品、半製品、原材料の総称です。

 

<帳簿上の棚卸資産>

 

 

<気になる点>

棚卸資産についても売上債権と同様に、その在庫が実在しているか、在庫価額は適切か、期間配分は正確かというところが主に着目するポイントです。

 

一般的な製造業のDDにおいては、まず原価計算や在庫管理がどのように行われているかを把握します。例えば材料費のみが集計されていて、製造に直接関係する人件費等は集計されていない(販売管理費として期間費用処理されている)ことは多いです。

 

外注先があるケースや預け在庫・預り在庫があるケースも多く、原価計算や在庫管理の方法は第一に把握すべきところです。

 

② 実施手続

実際に行う手続としては、売上債権と同じく趨勢分析、取引内容や取引条件の把握、契約書や請求書、入金証憑の閲覧、回転期間分析、年齢調べ等があります。

今回は「年齢調べ」を例としてみましょう。

 

会社は4種類の製品A~Dを保有しており、それぞれ在庫が入庫されてからの期間が以下の通りであるとします。

 

<在庫年齢調べ>

 

 

製品Aは1か月以内に売却されている一方、製品Bは6ヶ月保有しているものがあることが分かります。相手先との関係から常に在庫を保有し続けている場合もありますので、製品Bはそのような製品なのかもしれません。

 

最も気になるのは製品Dですね。1年超のものが3,000千円あり、明らかに滞留していることが確認出来ます。

 

そこで、製品Dについて追加調査を行うことで、その内容を把握します。

 

例えば他社の完成品における重要な補修部品であり、完成品の保証期間中一定量を保有し続けなければならない製品かもしれません。または新しいモデルが販売されたことによる型落ち品であり、今後の販売見込が立っていない不良在庫かもしれません。

 

今回は、今後の販売見込が立っていない不良在庫であることが分かりました。一切販売が見込まれないと確認が取れましたので、実態をはかる上では全て評価減とします。

 

<帳簿上の売掛金>

 

 

 

[今回のPoint]

事例のように、実態純資産分析においては各科目について気になる点を考え、様々な手法を用いて実態はどうなっているかを1つ1つ確認していくこととなります。

 

 

 

漠然とした財務デューデリジェンスに対するイメージが、少しでも具体的になっていただけたでしょうか。次回は損益計算書分析について見ていきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A事業承継の専門家によるコラム]

第4回:第三者承継(M&A)の進め方とM&A専門用語の意味

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業のM&A支援・事業計画支援を専門で行っている株式会社N総合会計コンサルティングの平野栄二氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

株式会社N総合会計コンサルティング

平野栄二

 

 

 

「私(K氏)は現在75歳です。従業員5人の製造業を経営しています。業績は現在芳しくなく、売上も減少傾向です。後継者候補は現在存在していません。そこで、ここ数年、検討することを躊躇していましたが、そろそろ後継者を選んで、経営の引き継ぎをしたいと考えいてます。第三者に承継(M&A)を行う場合、 どのような手順で進めればよろしいでしょうか。」

 

 


 

平野:M&Aのフローについて、簡単にステップを説明をいたします。専門用語が多いので、それぞれの用語の意味を、まとめましたので参考にしてください。

 

 

M&Aの大きな流れ


一般的なM&Aのフローは以下のようになります。大体、個別相談から成約までは、早くて6か月、一般的には1年前後かかるケースが多いので、早めに相談をする必要があります。以下、実行フローとそのポイントを記載します。

[図表(PDF)で確認する]

 

(1)個別相談(M&Aが可能かを検討する) 

■誰に相談するか決める。(詳細は次章でお話します)

事前に相談したいことを箇条書きで記載しおく

・相談に必要な資料としては、決算書・株主構成など

・自社の状況で可能性があるのか、どのように進めていくのかを確認する

・費用はどれくらいかかるのかを確認する

 

(2)秘密保持契約の締結

・M&Aで最重要なことは「秘密保持」です。秘密保持契約を最初に締結する

 

(3)ファイナンシャル・アドバイザリー(FA)契約、または仲介契約の締結

■信頼できるアドバイザーが決まれば、アドバイザリー契約を締結し、開始する

■着手金・案件化料・企業評価料を支払う

最近は、着手金等を支払うケースが減少しているが、着手金が必要な企業ほど、責任をもって業務を行ってもらえるケースも多い。あくまでも、信頼できる業者を選定することが重要。

■ご依頼の意思決定をしてもらう

 

(4)M&Aのスキーム(方法)の検討

・必要資料の収集

・承継にあたり問題点(取引先・株主・従業員)を整理し、譲渡までの課題を抽出

・承継における譲受先へのアピールポイントを検討する

・売買条件(価格・引継ぎ方法・日程・譲渡先等)基本方針決定

 

実際、この時点では、詳細な条件は決まらないケースが多いため、その後のステップと併行しながら進めていく。

 

(5)企業概要書・ノンネームシートの作成と候補先への開示

■ノンネームシート(名前を表示せずに候補先の依頼を行うためのシート)

■企業概要書の作成 

・提携先のアドバイザー、配布して候補先の検討をしてもらう。

・事業引継ぎ支援センターに同行し、相談する。

・譲渡先の承諾を得てM&Aプラットフォームに登録する。

 

(6)バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)(株価)の算定

先ずは、決算書をもとに、資産や負債の時価評価を行い、時価純資産を算定する。

・役員報酬が同業他社の平均よりも過大や過少な場合や、臨時的な損益があれば、調整をおこなって、正常な収益力や、キャッシュフローを算定する。

・時価純資産価額法や、EBITDA倍率法やDCF法など、その企業に適した評価を行う。

 

(7)株式の社長への集約手続き (株式譲渡契約→代金決裁)

・経営に参画していない者が株主になっている場合、代表株主が、M&Aを行うまえに株式を買い取り、集約することが望ましい。譲り受け側としては、100%の株式を買い取り、経営権を保有したいと考える。他の株主がM&Aに反対された場合、M&Aの進行が滞る可能性があるので、早期に行動を起こす。

・所在不明な株主がいる場合などは、弁護士や司法書士に相談をし、対策を検討する。

 

(8)譲渡先の探索と決定 (マッチング→交渉) 

①候補先の紹介→ネームクリアの決定→候補先に情報開示(秘密保持厳守)

②各種検討の資料の提出と検討

③社長同士のトップ面談

④候補先から意向表明書の提出を受ける

候補先をまずは1社に絞る

⑤基本合意のための条件交渉

 

(9)基本合意契約の締結

■取引先・従業員等へのディスクローズの決定

■目的・譲渡内容・対価・条件・役員社員の処遇

合意後の手続き・守秘義務事項・独占交渉権・有効期限など

 

(10)買収監査(デュ-デリジェンス) 

 

(11)最終契約の締結

■最終条件の交渉

■最終契約(株式譲渡契約)締結 

 

(12)クロージング手続き

■代表者・取締役の退任手続き→司法書士

■株式の譲渡、譲渡代金の決済

■役員退職金の支払

■M&Aアドバイザリー手数料(成功報酬)

 

(13)PMI  (統合・引継ぎ業務)

代表者の個人保証等がある場合は、解除手続き

 

 

 

[POINT]

・譲渡企業は、少しでも疑問や不安を感じたときは一歩立ち止まって検討する

・アドバイザーは譲渡企業の社長の心情を理解し、寄り添う姿勢を崩さないこと

 

 

 

■□■事業者が知っておきたい専門用語の説明■□■


※中小M&Aガイドライン(中小企業庁)より一部抜粋・編集

 

[仲介契約]

仲介契約とは、仲介者が譲り渡し側・譲り受け側双方との間で結ぶ契約をいい、これに基づく業務を仲介業務という。仲介者とは、譲り渡し側・譲り受け側の双方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関をいう。

 

ファイナンシャル・アドバイザリー契約(FA契約)]

FA 契約とは、FA が譲り渡し側・譲り受け側の一方との間で結ぶ契約をいう。我が国においては、中小 M&A に関しても、譲り渡し側・譲り受け側の一方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関を FA と称することが一般的である。FA(フィナンシャル・アドバイザー)とは、譲り渡し側又は譲り受け側の一方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関をいう。

 

[秘密保持契約(NDA、CA)]

秘密保持契約とは、秘密保持を確約する趣旨で締結する契約をいう。具体的には、譲り受け側が、ノンネーム・シート(ティーザー)を参照して譲り渡し側に関心を抱 いた場合に、より詳細な情報を入手するために譲り渡し側との間で締結するケース や、譲り渡し側や譲り受け側が仲介者・FAとの間で締結するケース(仲介契約・FA契約の中で秘密保持条項として含められるケースが多い。)がある。「NDA(NonDisclosure Agreement)」や「CA(Confidential Agreement)」ともいう。

 

[企業概要書(IM、IP)]

譲り渡し側が、秘密保持契約を締結した後に、譲り受け側に対し て提示する、譲り渡し側についての具体的な情報(実名や事業・財務に関する一般的 な情報)が記載された資料をいう。インフォメーション・メモランダム「IM(Information Memorandum)」やインフォメーション・パッケージ「IP(Information Package)」ともいう。

 

[ノンネーム・シート(ティーザー)]

ノンネーム・シート(ティーザー)とは、譲り渡し側が特定されないよう企業概要を簡単に要約した企業情報をいう。譲り受け側に対して関心の有無を打診するために使用される。

 

[バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)]

バリュエーションとは、企業又は事業の価値を定量的に評価することをいう。評価額は、中小M&Aで譲渡額を決める際の目安の一つとして取り扱われる。評価手法は様々なものがあり、企業の実態や事業の特性等に応じた手法が選択される。

 

[マッチング]

マッチングとは、譲り渡し側と譲り受け側が M&Aの当事者となり得る者として接触 することをいう。譲り渡し側と譲り受け側の交渉は、マッチング後に開始することにな る。

 

[意向表明書]

意向表明書とは、譲り渡し側が譲り受け側を選定する入札手続を行う場合等に、 譲り受け側が譲り受けの際の希望条件等を表明するために提出する書面をいう。

 

[基本合意書(LOI、MOU)]

基本合意書とは、譲り渡し側が、特定の譲り受け側に絞って M&Aに関する交渉を行うことを決定した場合に、その時点における譲り渡し側・譲り受け側の了解事項を確認する目的で記載した書面をいう。「LOI(Letter Of Intent)」「MOU(MemorandumOf Understanding)」ともいう。基本的に法的拘束力がないものの、譲り受け側の独占的交渉権や秘密保持義務等については、法的拘束力を認めることが通常である。

 

[デュー・ディリジェンス(DD)]

デュー・ディリジェンス(Due Diligence)とは、対象企業である譲り渡し側における各種のリスク等を精査するため、主に譲り受け側がFAや士業等専門家に依頼して実施する調査をいう(「DD」と略することが多い。)。調査項目は、M&A の規模や実施希望者の意向等により異なるが、一般的に、資産・負債等に関する財務調査(財務 DD)や株式・契約内容等に関する法務調査(法務 DD)等から構成される。なお、その他にも、ビジネスモデル等に関するビジネス(事業)DD、税務 DD(財務DD 等に一部含まれることがある。)、人事労務 DD(法務 DD 等に一部含まれることがある。)、知的財産(知財)DD、環境 DD、不動産 DD、ITDD といった多様な DD が存在する。

 

[クロージング]

クロージングとは、M&A における最終契約の決済のことをいい、株式譲渡、事業譲渡等に係る最終契約を締結した後、株式・財産の譲渡や譲渡代金(譲渡対価)の全部又は一部の支払を行う工程をいう。

 

[PMI]

PMI(Post-Merger Integration)とは、クロージング後の一定期間内に行う経営統合作業をいう。

 

 

 

 

 

依頼者は、専門家が意味の分からない専門用語を使ったときは、臆せず、意味をたずねるようにいたしましょう。また、専門家は、なるべく意味が分かるように優しい言葉で、依頼者に説明することが大切です。

 

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第6回:デューデリジェンスとは何か?デューデリジェンスはなぜ必要なの? デューデリジェンスの種類とは?

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.デューデリジェンスとは何か

2.デューデリジェンスはなぜ必要なの?

3.デューデリジェンスの種類

①財務デューデリジェンス

②税務デューデリジェンス

③法務デューデリジェンス

④ビジネスデューデリジェンス

⑤人事労務デューデリジェンス

⑥環境デューデリジェンス

⑦ITデューデリジェンス

 

 

第5回では相手会社を「しっかりと」知るためにデューデリジェンスを行うことに触れました。M&A実行後に何か致命的な問題が出てきても後の祭りです。当初見込んでいた相乗効果を上回る程の費用が発生してしまい、最悪の場合は自社の信用が失墜してしまいます。

 

対象会社についてしっかりと把握し、「概要しか知らない」会社や事業を買う「怖さ」を減らすために行うデューデリジェンスについて見ていきましょう。

 

 

 

▷関連記事:財務デューデリジェンスにおいて事業計画をどのように分析するのか?

▷関連記事:財務デューデリジェンス ~損益計算書分析はなぜ必要か?(正常収益力、EBITDA、事例で確認してみよう)~

▷関連記事:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する ~バリュエーション手法と財務デューデリジェンスの重点調査項目、DCF法を用いた場合の財務デューデリジェンスとの関係~

 

 

1. デューデリジェンスとは何か


実務でM&Aを行う場合、必ず「デューデリジェンス(Due Diligence)」という言葉を聞く機会があります。頭文字を取ってDDと略されることが多いデューデリジェンスですが、いったい何のことなのでしょうか。

 

1単語ずつ訳すとDueは「正当の、当然の、相応の」、Diligenceは「勤勉、精励、注意」ですので、「当然の勤勉」や「正当な注意」と直訳することができるでしょうか。

 

M&Aに限らず不動産投資やプロジェクトファイナンス等で出てくる単語で、取引を行う前に投資対象の事業内容・実態を詳細に調査することを言います。

 

会社や事業を行う前に詳細に調査することは「当然行うべきこと」とも言えますし、投資対象として適切かどうかを確認することは「正当な注意」と言えますね。そこから派生して、現在では「デューデリジェンス」という言葉がよく使われています。

 

 

 

 

2. デューデリジェンスはなぜ必要なの?


デューデリジェンスを行う段階はどの段階でしょうか。第5回でご説明させていただきました、M&Aの実行段階でしたね。ターゲット会社に接触して基本合意書を締結した後に行うのが一般的ですから、かなり「本気度が高い」状況で行うことになります。

 

<第5回:実行段階の流れ(再掲)>

 

この「本気度が高い」というのがポイントで、どの会社にしようかと迷っていたり、理想を求める手法としてM&A以外の選択肢があったりするときは、対象となる会社について「ある程度」の知識のみで問題ありません。他と比較して意思決定を行うことができるだけの情報で事足りるからです。

 

例えば家電を買う際に、まずはある程度のスペックや金額だけでいろいろ比較しますね。カタログに載るような、比較できる項目のみを知っていれば問題ないのです。

 

一方、基本合意書を締結した後ということは、この会社と「本格的に交渉する」ことを決定していることになります。他と目移りしている状況ではなく、会社を絞って本気でM&Aを実行すると決めた状況になります。ここで会社や事業を買う側の気持ちになってみると、「ある程度」の情報だけで会社の命運を左右するかもしれないM&Aを行うのはかなり怖いです。家電を買う際はメーカーが保証してくれる部分も大きいですし、変なものが混じっている怖さはあまりないでしょう。しかし、M&Aは「ビジネスを行う組織を売買すること」でした。組織を買うとなると、単純なモノを買うより厄介ごとが含まれている可能性が高そうです。

 

 

 

具体的には、組織を買う場合は以下のような怖さがあります。

 

●思わぬ訴訟を抱えている

●全く知らない簿外負債を抱えている

●相乗効果を見込んで買収したのに、実は自社と全く相乗効果が発揮されない分野だった

●組織風土が自社と大きく異なる

●税務署から指摘される可能性のある処理をしている

●環境問題を抱えている

●残業代を巡って労働者と対立している

●保有する技術に重大な瑕疵がある

●優良顧客がM&A後に離れてしまう可能性がある

●自社と全く合わないシステムを使用しており、統合に際し多大な労力がかかる

 

これらを買う前に知ることができたのと、買った後で知ったのとでは大違いです。

 

事前に知っておくことで費用の発生をある程度予見することができますし、社会的信用が失墜する可能性を検討することもできます。それらは全て価格に織り込むことができますし、致命的な事項が見つかった場合はM&Aを破談にすることもできます。

 

この「怖さ」を減らし、相手会社を「しっかりと」知るために「デューデリジェンス」が必要となります。多くの場合において「本気度が高い」状況になるとデューデリジェンスを行うことになります。(なお、この「怖さ」の程度を表す言葉の1つとして、「リスク」という表現がよく使われます。)

 

買う会社の規模が非常に小さい場合や、リスクがあまりないと想定される会社であれば簡易的なデューデリジェンスで済ませる場合がありますが、そのM&Aが重要であればあるほど、相手会社のことをしっかりと知りたいと感じてデューデリジェンスを行う流れとなります。

 

 

[Point]

デューデリジェンスは、M&Aにおけるリスク(怖さ)を確認し、必要な対策を講じるために行うもの。

 

 

 

3. デューデリジェンスの種類


デューデリジェンスは相手会社を知ることですから、その種類は相手会社によって変わってきます。ここではよく行われるデューデリジェンスについて、概要を見ていきましょう。

 

① 財務デューデリジェンス

会社や事業を買う際の価格決定に当たってまず参考とする情報は、相手会社の「財務諸表」でしょう。どのような損益構造で、どのような資産構造かの把握は必須と言えます。財務デューデリジェンスでは、財務に関する事項に焦点を絞って詳細に知っていくこととなります。

 

不良資産・簿外負債・債務保証・不採算事業を財務の観点から事前に発見することができ、不当に高額な取引価格となることを防ぐことができます。また、結果に応じてどのように買収するかを決定することもできますし、一部事業のみの買収といった形態に変更する意思決定を行うこともできるようになります。

 

②税務デューデリジェンス

会社を買収すると、基本的にはその会社の過去の税務処理について買い手が引き継ぐこととなります。過去の税務処理が誤っていると、思わぬ追加税金の発生があり得ますので、会社の過去の税務申告を分析し、税務リスクの程度を確認する必要があります。

 

税務リスクには主として以下のようなものがあります。

 

●税務申告が適正ではないため、過小申告・繰越欠損金の過大計上がなされている。

●関係会社間取引について、寄附金認定・移転価格税制適用による追加税金発生があり得る。

●過去の税務調査で指摘されているにもかかわらず、対応策がない。

●税務処理能力があまりないため、買収後に新たな間違いをしてしまう。

 

これらの税務リスクを早期に確認し、買収することに問題がないかを税務の観点から見ていくのが税務デューデリジェンスです。

 

 

実施者

上記の財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンスは、企業内部で財務・税務に精通したメンバーによって行われることもありますし、外部の公認会計士や税理士に依頼して行われることもあります。専門性が求められる分野でもありますし、外部への説明の際に独立した立場からの調査の方が信頼度が増しますので、外部の専門家に依頼することの方が多いですね。

 

 

③法務デューデリジェンス

法律関係の詳細な調査が法務デューデリジェンスです。企業活動には契約関係や人事問題はもちろん、許認可や関連資産、関連会社、訴訟等、様々な法律分野に関する活動が含まれています。これから買収する予定の会社が、どのような法務上の問題を抱えているかを確認せずにM&Aを実施するのは非常にリスクが高く、必須の手続と言えるでしょう。

 

デューデリジェンスに際しては、財務・税務チームと法務チームで連携を取って、対象会社の事業内容を調査していきます。財務・税務上の問題が法務に影響を与えることは多いですし、法律上の問題を数値に落とし込む必要がある場合も多いためです。

 

よくある例として、チェンジオブコントロール(COC:Change of control)条項が挙げられます。チェンジオブコントロール条項とは、買収予定の会社の主要取引先との契約書において、経営権の移動があった場合の対応が記載されている条項です。会社が取引先と交わしている契約を解除せざるを得なかったり、契約相手に対して事前の承諾が必要となる場合、事業計画分析に多大な影響を与えます。法務デューデリジェンスで確認している「主要な相手先との取引がなくなる可能性」を、財務デューデリジェンスのリスクに落とし込む形です。

 

 

実施者

法務デューデリジェンスは企業内部で法務に精通したメンバーによって行われることもありますが、多くの場合において外部の弁護士が実施しています。弁護士はどのようにM&Aを行うかといった仕組みづくりを法律の面からサポートし、契約書案を会社とともに作成する等、M&Aの多くの局面で活躍します。

 

 

④ビジネスデューデリジェンス

会社の事業内容を把握して、どのような事業からどのように利益を獲得することができるのかを調査するのがビジネスデューデリジェンスです。ビジネスを分析することは非常に難しく、その分析手法は多岐に渡ります。例えば強み(strengths)、弱み(weaknesses)、機会(opportunities)、脅威(threats)を分析するSWOT分析を用いて、買収予定の会社を分析します。

 

⑤人事労務デューデリジェンス

人事・労務の観点から詳細な調査を行うのが人事労務デューデリジェンスです。主に労働争議や労働組合との関係、未払賃金や未払退職金の有無、労働法の遵守状況を確認します。

 

法務デューデリジェンスのように広範な調査ではなく、人事労務の観点に焦点を絞った調査です。特に議論になるのが未払残業代の有無で、買収後に労働者又は退職者から追加の未払残業代支払を求める声が上がると、M&Aの買い手としては追加の費用が発生する可能性が高くなりますし、社会的信頼を損なうことにもつながります。会社は残業代を固定分として支払済であると認識していたとしても、法令に照らし合わせると支払義務が生じることもありますので、事前に調査を行います。

 

⑥環境デューデリジェンス

会社や主要な工場を取り巻く環境に関するリスク調査です。

 

では、環境リスクとはどのようなリスクでしょうか。分かりやすいのは、工場から排出される有害物質の影響で周辺の土壌汚染や大気汚染が起こる場合です。原状回復費用は膨大になりますし、企業の社会的信頼も著しく損なうことになります。

 

騒音問題や振動問題、産業廃棄物処理、危険物や特殊な液体等を扱う施設の管理状況等、一たび発生すると致命的になりかねないリスクが多いため、特殊な環境下にある企業を買収する際には欠かせない手続となります。

 

⑦ ITデューデリジェンス

ITシステムに関する状況を確認するリスク調査です。

 

ビジネスを行う上でITシステムはどの企業も取り入れている項目ですが、その状況はまちまちです。

 

買収対象となる会社のITが脆弱で追加の投資が必要となった場合、大規模な追加費用が発生することになってしまいます。また、ITが脆弱ではない場合でも、自社のシステムと買収対象のシステムがマッチするとは限りません。買収後の相乗効果を考えて、システムを統一する会社も多いです。このような状況を詳細に調査し、M&A前にシステム計画を設計できるよう、システムに関するリスクを確認していくこととなります。

 

 

このように様々なデューデリジェンスがありますが、M&Aでは会社に内在する様々なリスク(怖さ)を鑑み、必要なデューデリジェンスを実施していきます。

 

 

 

 

 

 

[Point]

M&Aにおけるリスク(怖さ)の程度に応じて、必要なデューデリジェンスが実施される。

 

 

以上、M&Aの対象となる会社の特殊性や、リスクの度合いを鑑み、様々なデューデリジェンスがあることが分かりました。案件に応じて実施されるデューデリジェンスとされないデューデリジェンスがありますが、デューデリジェンスに対する漠然としたイメージが、少しでも具体的になっていただけると嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A事業承継の専門家によるコラム]

第3回:事業承継における後継者の選定方法について

~親族承継、従業員承継、第三者承継(M&A)のメリット・デメリットと事前対策~

◆参考になる成功事例!取引先の社長へ株式譲渡し、従業員が社長になった事例◆

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業のM&A支援・事業計画支援を専門で行っている株式会社N総合会計コンサルティングの平野栄二氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

株式会社N総合会計コンサルティング

平野栄二

 

 

 

 

「私(K氏)は現在75歳です。ここ数年、検討することを躊躇していましたが、そろそろ後継者を選んで、甲社の経営の引き継ぎをしたいと考えています。しかし、娘はサラリーマンの男性(A氏)と結婚し、現在は専業主婦で経営に参画をしておらず、事業を引き継ぐ意思がありません。可能性があるとしたら、娘婿(A氏)が脱サラをして、後を引き継いでもらうということです。

 

また、従業員に、引き継ぐ人材がいるかというと、以前に、番頭格の幹部(B氏)に、お酒の席の雑談の中で、確認を行いましたが、B氏は「承継は荷が重く、妻も反対している」というという感想でした。

 

以上のような状況で、M&Aという選択肢も視野に入れて、後継者の検討をしていますが、①親族が承継する場合、②従業員が承継する場合、③第三者に承継(M&A)を行う場合、それぞれの留意点などを、お教えいただきますでしょうか。」

 

 

 

 

 

平野:それでは、順番にご回答いたします。

 

1.親族への承継(娘婿への承継)について


一般的に親族への承継は、他の方法と比べて、①社内・社外の関係者から心情的に受け入れられやすい、②後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能である、③相続等により財産や株式を後継者に移転できるため所有と経営の一体的な承継が期待できる、といったメリットがあります。

 

しかし、甲社のケースで、嫁婿(A氏)に承継させる場合、①まったく異業種で甲社の実務経験と経営者としての経験がない、②A氏本人のやりたいという意思を確認していない、③直系血族ではなく、実務経験もないA氏が、従業員から直ぐに受け入れられるか、などの懸念があります。

 

まずは、娘様とA氏にしっかりとお話をして、意思を確認するとともに、A氏が甲社の経営者としての資質・能力があるのかを、K氏ご自身がしっかりと判断することが重要です。また、実務経験や経営者としての経験がないため、5年から10年の準備期間を設ける必要があります。そのため、75歳のK氏のご年齢を考えると、少なくとも80歳までは経営の指揮をとり、A氏を後継者として育成していく覚悟をしておかなければなりません。

 

 

 

2.従業員・役員への承継について


現在、従業員・役員への承継は増加傾向であり、①経営者としての能力のある人材を見極めてから承継することができる、②社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすい、③社内の信頼の厚い適任者に承継させることで社内外の関係者より受け入れてもらいやすい、といったメリットがあります。

 

ご質問の甲社の場合、従業員B氏は、承継には消極的な姿勢であったということが懸念されます。しかし、雑談の中で、お話をしただけでは、B氏の本意が分かりませんので、しっかりとした席を設け、意思確認を行う必要があります。

 

B氏は番頭格で、社内の信頼も厚いので、適任者と考えられますが、経営者の補佐役としての才覚が発揮できても、経営者としての資質がないケースもあります。無理をして、経営者になった場合、リーダーシップが発揮できなかったり、重責に耐えられず心身に支障が生じるケースも見受けられます。また、B氏の家族にも受け入れられないと、株式の買い取りや、個人保証の引き継ぎを家族に反対されると、本人に意思があっても、頓挫するケースもあります。

 

引き継ぐ場合は、現経営者が、全面的にサポートを行い、後継者教育を計画的に行っていきます。

 

 

 

3.第三者へのM&Aによる承継


親族・従業員以外の第三者へ承継を行う方法は、広く候補者を外部に求めることができ、また、現経営者は会社の株式を譲渡した利益を得ることができる等のメリットがあります。第三者への引継ぎを成功させるためには、本業の強化や、内部の諸問題を解決し、企業価値を十分に高めておく必要があります。そのためには、現経営者にはできるだけ早期に専門家に相談を行い、企業価値(株価)の向上(磨き上げ)に着手することが望まれます。

 

M&Aを行う場合は、①相応しい譲受企業の発掘とその企業との交渉、②企業評価の算定・譲渡価額の提案、③譲受企業へ承継のメリットの提案、④法務・労務・税務上の問題点の抽出と解決策の提案など、さまざまな専門的な知見が必要になります。そのため、目先の利益を追うのではなく、最適な選択ができるように助言が受けられる、信頼のおけるアドバイザーを確保する必要があります。

 

ご質問の甲社の場合、親族、従業員への承継という選択肢も残されていますので、それぞれの長所・短所を検討し、優先順位を決めて、行動を起こす必要があると考えます。慎重に検討しつつも、行動することで、躊躇しがちな決断を促すことに繋がります。

 

M&Aの場合、行動を起こしてから成約まで早くても半年、場合によっては2~3年かかるケースもあります。そのため、秘密が取引先や従業員に漏洩しないように注意しつつ、早期に相手先の探索に取り掛かる必要があります。そして、譲受企業の選定が見込まれそうな段階を見て、親族やB氏に、意思確認を行うなど、M&Aと他の選択肢を併行して、検討を進めていかれることを推奨いたします。また、現経営者(K氏)は、バトンタッチがされるまで、甲社を更なる魅力ある企業へ、磨き上げを行うことも頑張っていただきたいです。

 

 

 

 

◆参考になる成功事例!取引先の社長へ株式譲渡し、従業員が社長になった事例

①事業承継の決意し、専門家に相談

従業員5人の、食に関連する卸売業で創業40年の企業(甲社)です。後継者がいないままで、社長(K氏)が70歳になり、事業承継の着手をはじめられました。最初は、サラリーマンの息子に事業を引き継ぐ予定でいましたが、息子の妻の強い反対にあい断念し、第三者承継を目指すべく、M&Aのアドバイザーと相談しながら、後継候補先の探索を始めることになりました。

 

②取引先へ話を持ち込む

業界は、昔ながらのネットワークが存在し、まずは、取引先に継承をしてもらうことを考え、創業当時から懇意にしている取引先の社長(D氏)に相談をいたしました。話し合いの中で、「株式は、私が譲り受けるが、経営は今いる従業員に任せたい」という意向を持たれました。対象となる従業員(A氏)は、実務には精通していましたが、経営の経験どころか、管理職の経験もありませんでした。

 

③意欲のある従業員を社長に

A氏に、その話を打診したところ、突然の打診に驚きながらも、「せっかくの、職業人生、社長という仕事をやってみたい」と意欲をもたれました。幸い甲社の借入金は少額であり、A氏は、家族の賛成も得ることができました。話し合いの末、晴れて話がまとまり、D氏は、役員にはならず、従業員A氏が代表取締役社長に就任されました。他の従業員も、納得し、新たな体制がスタートしました。旧経営者のK氏は1年ほど会長という呼称で、引継ぎを行った後、引退をされました。

 

④身の丈にあった経営に

その後、A社長より先輩の社員が退職したり、新しい社員を採用しても育たず退職したりと問題は発生しましたが、株主であるD社長は、じっと甲社とA氏を見守り続け、「身の丈のあった規模で経営をすればよい」と、採算の合わない分野は撤退をするなど、規模を縮小しながらも、利益がでる体質へと企業再構築を図っていきました。5年経った現在は、高い経常利益率を維持しています。将来は、D氏の持つ株式を社長へ段階的に譲渡する運びで話が進んでいます。

 

 

 

 

 

 

 

〈事業承継が成功した要因を考えてみましょう〉

1.小規模事業者であったこと  


①変化に対応しやすい組織であったこと 

事業承継に成功した理由の一つとして、従業員が5人という小規模であったため、組織をまとめやすかったことがあります。また、株式の譲受者(D氏)にとっても株式価額が少額で、投資がしやすく、外部の借入金も少額であったため、万一の場合でも、本業が受けるダメージも少ないことも後押ししたことになったと思われます。よく、「うちは小規模事業だから、M&Aはできない」と思っておられる経営者の声を聴きますが、小規模事業者だからこそ、M&Aが成立する場合もありますので、決して諦めないことが重要です。

 

②身の丈にあった組織に再構築したこと

会社の規模を拡大することだけが、成長戦略ではないと考えます。甲社の場合、不採算の事業から撤退することで、A氏が経営者として身の丈にあったマネジメントができる体制に再構築したことも、承継が成功した要因であると考えられます。

 

 

2.従業員が、勤勉で、後継する強い意欲があったこと   


①後継者がポジティブであったこと

A氏は、代表になることに前向きな姿勢を崩さなかったことも、大きな成功要因です。 高い実務能力があっても、引き継ぐ意欲が低いと、当事者意識の欠如により、組織内で紛争が起きることがあります。また、意欲があっても、責任感が強すぎると、重荷となって、意思決定が遅れて経営判断を誤ったり、精神的に疲弊してしまう後継者も多く見受けられます。そのため、前向きな姿勢で経営に邁進されたことは、経営者の資質があったといえます。従業員承継を検討する場合は、後継者の「意欲と覚悟」の有無は、仕事の能力以上に、重要な成功要因であると言えます。

 

②後継者が勤勉であったこと

A氏は勤勉で、実務能力に長けており、通常業務は滞りなく任せられたため、先代社長K氏が引退後も、強力なマネジメントの必要性がなかったことも成功要因だと考えられます。 承継後は、毎月の業績報告をD氏に行い、都度重要な意思決定は相談を行うなど、コミュニケーションを円滑にとることができたことも、株主との信頼関係を維持し、事業が継続できた要因です。

 

 

3.取引先社長(D氏)との長年の信頼関係があったこと  


①業界のことを良く知り、専門家と相談しながら戦略的に進めたこと

業界の結束が固く、他の異業種からM&Aによって参入されることは取引先(D氏)にとっても脅威であったため、D氏自らが株主になることで、サプライチェーン(商品の供給連鎖)の強化をはかり、参入障壁を高める戦略的な意図もありました。

 

譲渡者がM&Aを検討する場合、業界の慣習や動向、顧客の動向をよく分析を行うことで、最適な譲受先に、最適な提案が可能であるので、M&A専門家と相談するなどしてじっくり検討を行う事が重要です。このケースの場合、異業種の候補先に話を持ち込んでいたら、承継後、問題が生じていたかもしれません。

 

②利害関係者との良好な人間関係を構築していたこと

K氏とD氏は、創業当時から苦楽を共にした仲で、同志的な信頼関係が構築できていました。事業承継の成功要因で、「良好な人間関係」は大切な要素になります。得意先、仕入先、取引業者、従業員、同業者、家族、株主など、普段からなるべく良好な人間関係を構築していると、思わぬ協力をいただける可能性もあり、事業承継がスムーズに運ぶことができます。

 

現在、関係性が悪い場合があっても、会社の存続のために、今からでも遅くはありませんので、関係の修復をはかる努力することが重要だと考えます。

 

 

[わかりやすい‼ はじめて学ぶM&A  誌上セミナー]  

第2回:どのようにM&Aを行うのか

~株式の売買(相対取引、TOB、第三者割当増資)、合併、事業譲渡、会社分割、株式交換・株式移転~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

1.株式の売買(相対取引、TOB、第三者割当増資)

2.合併

3.事業譲渡

4.会社分割

5.株式交換・株式移転

 

 

▷第1回:なぜ「会社を買う」のか~買う側の理由、売る側の理由~

▷第3回:M&A手法の選び方~必要資金、事務手続の煩雑さ、買収リスクを伴うか~

▷第4回:M&Aの流れ①(計画段階)~M&Aの流れ(全体像、戦略は明確に、ターゲット会社を見つけよう)~

 

 

どのようにM&Aを行うのか

「株式の売買」「合併」「事業譲渡」「会社分割」「株式交換・株式移転」という5種類の代表的M&A手法を見ていきます。多くの手法があるため代表例のみ簡潔にお伝えしますので、ここでは「そんな手法もあるんだ」という気持ちで軽く見ていきましょう。

 

 

1. 株式の売買

最も分かりやすい方法は「株式の売買」です。株式を取得することによって議決権を獲得し、会社経営に参画する形となります。

 

 

 

 

株式の売買と一口に言っても、相対取引・TOB(Take Over Bid:公開買付)・第三者割当増資と様々な手法があります。

 

 

■相対取引

上図のように、現在の株主と買い手が証券取引所を通さず直接行う売買で、中堅規模までの株式売買によるM&Aは大多数が相対取引となります。

 

■TOB

金融商品取引法に定めされている株式の買収手続で、上図における「現在の株主」が大多数いるような大企業を買収する場合に、買収の意思と条件を示したうえで一般の投資家から株式を買い付けます。

 

■第三者割当増資

特定の相手にのみ新株を発行する方法で、買い手としては株を大量に取得して議決権を入手します。これは企業再生のM&Aにおいて、スポンサーが新規資金を注入するといった、切羽詰まった局面で使用されることが多いやり方ですね。

 

 

2. 合併

次に分かりやすいのが「合併」です。M&Aと言えば「合併」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。大手銀行が次々と合併していったように、2つ以上の会社を1つの会社にすることにより相手のビジネスを獲得する方法が合併です。

 

 

 

 

合併は複数の会社が1つの会社になるため、非常に強力な結合関係を構築することができます。先程の株式売買では買収する側と買収される側が明確でしたが、合併は上図の通り会社が1つになるため、現場社員の感覚としては株式売買と比べると比較的対等な立場での組織再編となります。

 

合併は大きく分けると新設合併と吸収合併があります。上図の会社「A+B」が、新規に立ち上げた会社であれば新設合併、会社Aが残ったまま会社Bを買収していれば吸収合併です。

 

新設合併では全く新しい会社になることから、事業の許認可等を再申請する手間がかかります。そのため多くの場面において吸収合併が用いられています。

 

 

3. 事業譲渡

これまでご説明してきた株式売買・合併は、会社自体のM&A手法となります。一方、事業譲渡は、会社の「事業」単位でM&Aを行う手法となり、会社全体・会社の一部等多様な切り分け方ができることが特徴です。この「事業」は、店舗単位、工場単位、セグメント単位はもちろん、会社の全ての事業も対象になります。

 

 

 

 

事業譲渡は資産負債の移転手続を個々に行う必要がある等、手続が煩雑ですので、大企業同士のM&Aにはあまり用いられません。中堅規模の案件で事業のみの売買を行いたい場合に使用される手法です。

 

 

4. 会社分割

上記の事業譲渡と似た手法に「会社分割」があります。会社の中から事業を切り出して、権利義務の全部または一部を包括的に別の会社へ承継します。図のイメージは上記事業譲渡と同じです。

 

事業譲渡は会社法上あくまで取引法上の契約ですが、会社分割は「組織再編行為」と位置付けられており、合併のように権利義務を包括的に承継することが可能な手続となります。

 

 

新規設立した会社に事業を承継する「新設分割」と、既存会社に事業を承継する「吸収分割」の2つに分類できます。

 

対価は多くの場合において切り出した事業分の価値を有する株式となりますが、対価を相手の会社自体に渡す場合が「分社型」、相手の会社の株主に渡す場合が「分割型」と呼ばれます。

 

新設or吸収と、分社型or分割型の組み合わせで、合計4通りの手法になりますね。

 

 

会社分割は、規模が膨らんだ事業の分社化や、グループ内企業への一部事業移管等、組織内の再編に使用されることが多い手法です。

 

切り出した事業を既存企業に吸収させることで事業譲渡に似た形となりますし、会社全部を事業として切り出すことで合併に似た形にもなるように、種類が豊富で手続も柔軟な手法となります。

 

 

5. 株式交換・株式移転

株式交換は、自社の株式を対価として他社の株式を全て取得する手法です。他社が新設会社の場合は株式移転となります。(会社法上、この組織再編行為だけは新設の場合に用語が分かれています。不思議な感じですね。)

 

 

 

 

株式交換はグループ内の再編行為でよく使われますが、経営統合や買収の際にも使用されることがあります。例えば経営統合の局面ですと、新設持株会社を作り、その持株会社の下に2社がつくイメージですね。

 

「株式」の交換・移転ですので、対価は株式のみで現金を必要としない点が特徴です。単純に株式を現金購入するより手続は煩雑ですが、買収資金を用意せずに済むのは大きな利点になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第3回:譲渡・M&A手続の流れ

~M&Aの一般的な手続きの流れとは? 留意点は?~

 

[解説]

上原久和(公認会計士)

 

 

[質問(Q)]

M&Aで会社売却する場合、進める手順と必要事項・留意点を教えてください。

 

 

[回答(A)]

仲介会社やFA(フィナンシャルアドバイザー)などの支援会社とコンサルタント(仲介)契約した場合には、下記の手順で進めていくことが一般的です。

 

【株式譲渡の場合の一般的な手順】
 ①ロングリストの作成と譲受候補企業への初期的打診
 ②候補先を絞り込み、ショートリストの作成と候補先の決定
 ③秘密保持契約の締結とIM等による情報開示
 ④譲受側の検討
 ⑤条件交渉と基本合意の締結
 ⑥買収監査(デューデリジェンス)
 ⑦譲渡契約書(最終契約)の締結
 ⑧クロージング(資金決済)

 

 

 

 

1.ロングリストの作成と譲受候補企業への初期的打診


仲介会社(又はFA)は譲渡会社の営業や事業内容を調査した上で、当該事業の譲受を希望する会社やその事業とのシナジーが期待できる会社を大まかな形でリスト化します(ロングリストの作成)。また、ケースによってはこの段階で譲受候補の企業に対し、興味の有無について初期的に打診する場合もあります。

 

 

2.候補先の絞り込み、ショートリストの作成と候補先の決定


作成されたロングリストから、地域や規模など一定の基準(ケースによっては初期的な打診の結果)をもとにして具体的な候補先を絞り込んでいきます。こうして絞り込まれた候補先のリストをショートリストと呼び、当面の接触予定先になります。この中から具体的な打診先を支援会社のアドバイザーとともに検討し、打診候補先(譲受候補企業)を絞り込みます。

 

 

3.秘密保持契約の締結とIM等による情報開示


仲介会社やFAのコンサルタントは絞り込んだ譲受候補企業に打診するために、譲渡会社の社名が把握できないノンネーム情報(以下、「NN情報」)と具体的に譲受を検討するための詳細情報を記載したIM(インフォメーション・メモランダム)を作成します。

コンサルタントは最初に打診候補先にNN情報を提示して、興味の有無を確認します。打診候補先がNN情報に興味を持った場合には、秘密保持契約(CA又はNDA)を締結し、社名を含めた詳細情報が記載されているIMを提供します。

 

 

4.譲受側の検討


譲受側である譲受希望企業は、条件提示に必要となる情報をIMから入手します。また、条件提示の検討に必要となる情報や質問がある場合には、担当のコンサルタントを通じて譲渡企業から回答を入手します。これら入手した情報を基にして、譲渡側に提示する条件を検討します。

 

 

5.条件交渉と基本合意の締結


譲受側が譲渡側に提示した条件や意向表明を基に具体的な条件交渉に入ります。条件交渉の結果、買収金額や買収形態(スキーム)など基本的な事項が双方で合意できた場合には、当該合意事項を文書化した基本合意書(LOI)を交わすことが一般的です。基本合意書は法的拘束力を持たせないケースが多く、双方の確認書的な要素が強いものです。

 

 

6.買収監査(デューデリジェンス)


買収監査(デューデリジェンス)は、譲受側が譲渡企業について、M&Aの実施の可否やその後の統合作業に必要となる情報や問題点を検出するために実施する作業です。譲受側が条件提示に用いたIMや財務情報は、あくまで譲渡側が提示されたものであり、譲受側としてはその情報の妥当性を確認していません。譲受側としては条件提示の前提になっている情報と譲渡企業の内部資料を検証することで、前提となっている情報を確認することになります。仮に前提情報と検証した結果が大きく乖離する場合には、提示条件の修正や、場合によってはM&Aの実施自体が取り止めになることもあります。このため譲受側にとっては、過大なリスクや買収金額にならないように、また円滑に統合作業を進めるためにもデューデリジェンスを実施することが望ましいといえます。

 

 

7.譲渡契約書(最終契約)の締結


デューデリジェンスの結果を基に、最終的な譲渡条件や譲渡形態(スキーム)を確定させ、譲渡契約書を作成します。双方が契約内容に合意できれば、譲渡契約書を締結します。

 

 

8.クロージング(資金決済)


クロージングとは、譲渡対象(株式譲渡であれば株式、事業譲渡であれば対象資産)と対価である資金の受渡のことです。譲渡契約を締結し、クロージングが終了することによって、初めてM&Aが成立すると言えます。このため、譲渡契約の締結とクロージングを同日に設定したり、同日のクロージングができない場合も可能な限り、クロージング日が伸びないようすることがトラブル防止の観点から重要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第2回:譲渡・M&Aにおいて準備すべきこと

~企業価値を向上させ売却金額を増大させるためには?~

 

[解説]

宇野俊英(M&Aコンサルタント)

 

 

[質問(Q)]

当社は後継者不在であることからM&Aで会社売却をしたいと考えています。具体的に何から手を付けてよいかわかりません。M&Aにおいて事前に準備しておくべき必要な事項を教えてください。

 

 

[回答(A)]

事前準備で必要な事項は会社の状況に異なります。事業承継への対応では後継者の有無によって手法は異なりますが、いずれも早めの検討と準備が求められます。M&Aを選択する場合にはより企業価値をブラッシュアップし、譲渡・売却しやすい会社に近づかせることにより、企業価値を向上させ売却金額を増大させる方向が望ましいと考えられます。

 

そのためには、
 ①会社の実態の見える化(実態把握、個人の資産と事業用資産の整理)
 ②M&Aのメリット・デメリットを理解した上で意思決定
 ③株式が分散していた場合には集約化と名義株の整理
 ④仲介・FA機関の選定とFA・仲介契約の締結
等が必要になります。

 

 

 

まずは経営者に改めて事業承継に向けたM&Aへの準備の必要性の認識を持っていただくことが最初の一歩です。

 

1.準備の必要性を認識しましょう


M&Aをする場合にも相応の時間が必要です。M&Aはある意味タイミングが重要です。適切なタイミングを逃してしまうと探してもそもそも候補先が見つからないということがあり得ます。また、候補先がいてもタイミングが適切でなければ不利な条件を許容せざるを得なくなってしまったり、交渉自体が流れてしまうこともあり得ます。

 

タイミングの一つは業績が上げられます。一期赤字でM&Aを決断しても交渉成立時に2 期連続赤字の状態であれば、期待していた売却価格にならないことはよくあることです。また、いたずらに時間を費やしている間に譲渡側の経営者が健康上の問題を引き起こしてしまうこともあります。経営者には「まだ先のことだから……」「日常業務で忙しいから……」とさまざまな理由はあります。しかし、準備が遅れるほど希望する条件に合った候補者を探すことが難しくなってきます。

 

 

2.経営状況・経営課題の「見える化」をしてみましょう


M&Aを準備するためにはまず、自社の経営状況・経営課題、経営資源等を見える化し、正確に現状把握することから始まります。

 

把握した自社の経営状況・経営課題等をベースに自社の強みの伸長と弱みを改善する方向性を見つけ、着手することが重要です。その際に経営者の視点に加え顧問税理士、中小企業診断士などの専門家や金融機関に協力を求めることで客観的かつ効率的に把握することが可能になります。また「見える化」することの効能はM&A に役立つのみならず、自社の経営改善につながる効果も見込まれます。

 

 

3.M&Aの意思決定、信頼できる仲介者等の選定及び仲介契約等の締結


上記過程を経てM&Aの意思決定がなされ、候補者を探索する必要があるときには仲介者・アドバイザリー(以下、「仲介者等」という)を選定して仲介契約若しくはアドバイザリー契約(以下、「仲介契約等」という)を締結します。

 

締結後は基本仲介者等の指導・助言に基づき実行していきますが、仲介者等も必ずしもすべての工程・分野に習熟してない場合もあり得ます。必要に応じて専門家や事業引継ぎ支援センター等のセカンドオピニオンを活用しましょう。あわせて、見える化で把握した課題の改善を図り、企業価値の増大を目指していきます。