[小規模M&A(マイクロM&A)を成功させるための「M&A戦略」誌上セミナー]

③借金過多の状態とM&A

~破綻前の事業売却のリスクとは?再建型M&Aの前提とは?~

 

〈解説〉

公認会計士 大原達朗

 


 

今回は、“借金過多の状態とM&A”というテーマです。

 

 

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これは会社(事業)の借金(負債)が非常に大きな状態になって、苦しい状態になってから、「どなたかに救済してほしい」ということで、売却のご相談を受けることが多々ありますので、そのような場合の売却の可能性について説明いたします。

 

 

まず経営者やオーナーの方が、売却を検討(決断)する動機について、ポジティブな場合としては“事業承継をしたい”(ご自身はやるだけのことはやったので、あとは引退したい。もっと若い経営者に任せたい。大きな会社に任せたい。)というような場合と、同じような動機かもしれませんが、“さらなる拡大をしたい”(個人のレベルとしては、上手くビジネスを行ってきて、例えば店舗を10店舗までにしたが、このビジネスを日本全国あるいは世界中に数千店舗に増やしたいといった場合で、個人では限界があるので資金力のある会社に買収をしてもらい、1段2段と上の事業展開をしたい)というのはポジティブな売却の動機だと思います。

 

 

割合としてはネガティブな方が非常に多くて、先ほどお話ししたように、業績悪化に伴い苦しいので、どこかの会社に救済してほしいというパターンです。

 

 

 

 

 

これを救済型M&Aと、ここでは一括りで呼んでおきますが、実行はやはり難しいです。よほど何か特徴のあるものがあれば、業績が悪くてもあるいは負債が大きくても、どこかの企業が引き取るという可能性はありますが、普通に考えてよほど何か光るものがあるのなら、その会社(事業)は利益が出ているはずです。よほど過去の放漫経営で物凄く無駄なお金を使ってしまい「今のビジネスであれば利益は出ているが、負債が多すぎる。この負債を返していては、ほとんど手元にキャッシュが残らない」というような場合は、可能性がありますが、この後、説明いたしますが、法的整理をする過程の中で企業再生ができる場合もあります。

 

 

しかし、今は利益が出ているが過去の放漫経営によって借金が過多である。ついでに言えば、借金をしているということは、お金をその会社に貸している金融機関や債権者がいるわけですから、再生あるいは一部法的整理をするとなると、簡単に言えば借金の棒引きを行うわけです。

 

 

例えば、「10億円借りているものを、2億円に減らしてもらう。そうすれば会社は回っていく。だから借金を10億円から2億年円の差額の8億円を棒引きするか考えてくれる」ということなのです。

 

 

その種類として、“法的整理”“私的整理”の2種類の方法があります。

 

 

法的整理というのは、法律に基ついで「10億円ある借金を2億円に減らしましょう」というものです。事実上、倒産(破産の手続きはこれに当てはまりますが)です。つまりは会社を潰してしまうわけです。会社が潰れる時というのは、お金が回らなくなっているわけですから、負債を返済するのは不可能です。というような状況の時に、破産の手続は口で言ってしまえば簡単です。お金になりそうな物は全部売ってしまって、いくらにもなりそうもないですが現金に替えて、その現金を債権者の方々に少しずつ配当するというやり方です。

 

 

この中には、“民事再生”とか“会社更生”といった方法があります。 例えば、みなさんが良くご存じのJALは会社更生を行いました。一旦、法的整理を受けているわけです。裁判所が介入して借金を棒引きにして再生したのです。 ただし、みなさんがご存じの通りJALがいきなり無くなって、JALの運行している飛行機が飛ばなくなったら、日本全体が困ってしまいますよね。JALはそう簡単には潰せないわけです。

 

 

厳しい言い方かもしれませんが、皆さんの会社が明日からビジネスをしなくなったとしても、日本国民は困らないわけです。そのため、そう簡単に会社更生を受けられません。借金をしてしまったら「その分の責任を自分でとりなさい」ということです。この類似事例として“民事再生”というものありますが、民事再生も大まかにいえば“会社再生”と同じようなものです。

 

 

例えば、ソフトバンクがスポンサーになりグループインしたウィルコムなども民事再生の実例でした。PHSのビジネスをしていた会社ですが、相当数のお客様を集めておいて、業績が悪いからと、いきなりサービスを止めてしまっては、ユーザーの方々への影響は非常に大きなものになります。そのような場合は、会社は残して借金を棒引きして、その後にキッチリとお金を出して経営を引き継いでくれるような方がいれば、裁判所も「今潰すよりも、そちらに任せた方が金融機関にも少しはお金が返ってくるだろうし、お客様も困らないだろう」といった判断が特別に許された場合にのみ、会社更生や民事再生など法的整理になっても、会社自身は残るといったケースがあります。

 

 

しかし、こういったケースは極めて稀です。新聞やニュースを見ているとそのような事例が目につきますが、件数でいうとほとんどないと思って頂いた方がよいです。

 

 

では、「法的整理は難しいので、私的整理という方法は使えないのか?」となります。私的整理というのは、裁判所が変わらずに“個別”に金融機関など債権者と交渉していくというやり方ですが、難易度が法的整理よりもっと高いです。 金融機関でも、「お金は返さない」ということになれば、当然、社内でその手続きをしなければなりません。

 

 

当然お金を貸したが返ってこないのであれば、「その会社に誰がどうして貸したのだ?」と責任を問われることになります。それを法律で法的に整理してしまったら“しょうがない”となるわけですが、法律が介在しないで、民間同士で行っていくとなると、法的整理よりも交渉が厳しくなることは想像できるのではないでしょうか。

 

 

銀行員の立場でみると、少し理解しやすいかもしれません。「法律で借金は棒引きになってしまいました。」となったら“どうしようもない”ですが、法律が介在せずに「10億円の借金を2億円にしてください」と言われても“NO”に決まっていますよね?「できる限りの債権を回収する」というのが彼ら銀行員の仕事ですので、私的整理の方が、難易度が高いわけです。

 

 

 

 

 

一方で、このようなパターンもあります。ビジネス全体としては厳しいが、一部の事業(あるいは店舗)では、しっかりと利益が出ている。その一部分だけ切り取れば事業の継続は可能である。ということは十分にあり得るのです。 その一部分だけ第三者に売却して、残りは潰してしまうということもあり得ますが、結構大事なことなのですが、金融機関からすると、この虎の子である最後のキャッシュを生む事業(店舗)を誰かが買ってしまったとなった。その値段が適正価格であればよいのですが、知り合いに安く売ってしまったというようなことをすると、他の債権者は一方的に不利になってしまいますので、「知り合いに適当に売りました。安く売ってしまいました。」その後に裁判所が入ってきて、法的整理をするときに、その譲渡を取り消されてしまう可能性があります。

 

 

このように後になって、その譲渡を裁判所によって取り消されるとなると、騒ぎが非常に大きくなってきます。これをやる場合には法的整理の一環でやっていかないと(裁判所が絡んでいる中で行わないと)非常に難しく、裁判所あるいは管財人といわれる専門家の方が来て、法的整理をするわけですが、その方が選んだスポンサーであったり、資金を出してくれる方であったり、売却先に譲渡していかないと、非常にリスクが高いことになっていくということです。

 

 

実際問題、まだ稼ぐことができる事業に関しては、外に売却したほうが良いのですが、業績が苦しいオーナーにとってみると、業績の良い事業(良いビジネス)を外に出して(売却して)も、結局残った会社は潰れるしかないのです。会社の借入れをオーナー社長が個人保証をしていると、個人としても自己破産するし、持っていた会社も無くなってしまう(倒産する)ということで、あまり良いことが無いので、実際にこのような決断をされる方は少ないようです。しかし、将来的に潰れてしまうのなら、1年や2年ぐらい粘っていても、続くはずの業績の良いビジネス(社内の1事業)さえも、続かなくなってしまう可能性があります。

 

 

例えば、会社全体の業績が悪くなってくると、業績の良い事業の取引先も離れて行ってしまう可能性もありますし、従業員の方々も仕事ができる方々から、辞めていってしまうということが良くあります。そのようなことを考えると、経営者の方は早めに決断をするべきだと思います。

 

 

会社の延命をしていく中で、オーナー個人の資産を出すということは、創業オーナーであれば、仕方がないということもありますが、個人のお金が無くなると親戚から借りてくる、友人から借りてくるということもよくあります。しかし、“このお金”を出して、会社が何とかなるものなら良いのですが、大半の場合は、そのタイミングで1000万~2000万円のお金を集めたところで、結果的にはそのお金はすぐに無くなってしまうのです。その結果、親戚や友人にお金を返すこともできなくなってしまうわけです。

 

 

要するに、悪影響が拡散する可能性がありますので、「最悪のケースはどうなってしまうのか?」ということと「どうせ会社も潰れてしまうなら、結果は変わらない」と思うのではなく、早めに手を打つことも知っておいて頂きたいと思います。 あるいは、これからビジネスを始める方、あるいは会社を買収される方にもこのようなリスクもあるのだということを知っておいて頂きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

売買金額1,000万円以下の第三者承継に関係するM&A(マイクロM&A)と財務デュー・ディリジェンスの実務(3/18東京) 【小規模M&A実務セミナーのご案内】

 

 

 


■動画解説を見る(外部サイト)

[M&A・事業承継の専門家によるコラム]

赤字企業でも買い手は見つかる? ~中小零細企業のM&A事業承継①~

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業の企業再生支援・事業承継支援・M&A支援を専門で行っているCRC企業再建・承継コンサルタント協同組合の安藤ゆかり氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合

安藤ゆかり

 

 

 

「業歴は30年を超えております。社長の私は68歳で、子供は3名おりますが、専業主婦と学校の先生で後継者がおりません。業種は印刷業で4期連続赤字です。弊社でも売却可能でしょうか?」

 

 

-連続赤字は買いたたかれる、売却可能な状態までの体質改善が急務-

安藤:メディアではM&Aの記事が出ない日はないと言っても過言ではありませんが、大半は大企業の大掛かりなM&Aが多く、中小零細企業に限っていうと、残念ながらそう簡単に譲渡先(スポンサー候補)は見つからないのが実情です。赤字企業でも購入希望者が見つかることもありますが、2期以上の連続赤字となると買いたたかれることが多いです。通常は、1年くらいかけて利益体質の改善(磨き上げ)を行ってから売却することをお勧めしております。ご理解しやすいように、弊組合が関わった4期連続赤字企業の売却事例をご紹介いたします。

 

 

 

【会社概要】
会 社 名:株式会社H
業  種:印刷製本・POP
年  商:約10億
従業員数:50名
借 入 金:2億5000万円
不動産資産:4億

 

 

 

【相談時のH社の状況】

~4期連続の赤字も経営基盤の強さでカバーできていた?~


株式会社H社は、創業時は製版業として事業を開始し、その後、印刷業にも業容を拡大しました。製版業では新しい技術・機械を導入することによって、生産性の向上、高い精度の作業を実現しました。特に業界に先駆けて導入したモノクロスキャナーは通常の数倍の価格でしたが、品質の良さからとても高い評価を得ておりました。
しかし紙及びインクの値段の上昇・震災の影響によるイベントや出版物の中止などで、売上の激減が著しく、5,000万円近くの赤字が4期続いておりました。事業基盤そのものは、これまでに蓄積してきた経営資源の強さ・豊富さもあって、それほど大きな毀損は生じておりませんでしたが、事業構造全般について、今後急速に事業基盤の浸食が進む可能性がありました。

 

 

【経営の問題】

~人員整理が進まず、社内後継者候補にも問題が~


売上げが激減しているにも関わらず、人員整理を全く行っておりませんでした。また、社員が赤字体質に慣れていたため、売上目標の半分にも満たなくても営業責任者は平気な状態で、赤字が増える一方でした。
H社長のお子様は3人いましたが、長男は高校の先生、娘二人は専業主婦で親族内の後継者が不在、後継者候補で考えていた常務を社長にしようと思っていたのですが、社長交代の挨拶に伺った瞬間に既存のクライアントから取引の見直しをすると言われたり、常務がクライアントを怒らせたりなどで大口顧客が大幅に減少。やむなく常務の社長への移行は無しになりました。更に、H社長は電子ブックなどの新しい流れに全くついていけないと思っており、社長としての限界を感じていらっしゃいました。

 

 

【問題に対する解決策】

~事業価値向上へ向けての取り組みを開始~


後継者がいないため、会社を売却する方法をとることにしましたが、4期連続5,000万円を超える赤字のため、このままの状態で購入する企業は皆無ということで、TAM(ターンアラウンドマネージャー・再生請負人)を入れて、売却しやすい会社にするため事業価値の向上を図りました。人員削減と共に、組織再編計画と事業戦略を行いました。人員削減については、3ヶ月以内に人員50名を40名にする削減目標を設定し、それに伴い早期退職希望者を募り人員を削減しました(辞めて欲しくない方には事前に根回ししました)。
製版業とPOP(紙を媒介としてキャッチコピーや説明文、イラストなどが書かれている販促ツール)の両方が購入可能な企業は見つけにくいので、当初から計画していた会社分割を決行し、本来の印刷・製版業の新A社と、POPを中心とする販促支援のB社、現本社ビルの土地建物管理事業を行うH社に分けました。(以下の図参照)
事業戦略については、新A社は既存印刷事業を展開し、コスト集中戦略としてのローコストオペレーションの実現を目指して製造工程の見直しと外注管理の改善を通じた製造原価低減策を策定しました。B社は外部人材を活用した差別化製品の開発と営業革新の取り組みを行いました。両社とも各事業に対応した適切な人事考課制度及び給与制度の確立を図りました。また、H社は上記二つの会社からの家賃収入、管理事業の請負により得られる収益を基礎に金融債務の金利及び元本返済を行いました。

 

[会社分割の図]

 

 

【その他の取組】

~人員削減とTAMの活用~


人員削減計画を開始しました。早期退職者を募り、12名が応じてくれました。「営業開発部」を8名で編成し、わずか3ヶ月で売上目標を達成させるため、また、営業教育に定評のあるTAMを受け入れ、新規開拓営業に力を入れました。その結果1名が大型受注にこぎつけ売上に大きく貢献することができました。また、業歴が長い関係で所有不動産の簿価が非常に低く、不動産の売却後の税金を考え、不動産M&Aでの売却を見越して、ホールディングスを設立しました。

 

 

【最終的な出口戦略】

~売却先の探索と条件交渉~


企業の体質改善が進んだ後に、購入先探索を開始しました。元々、新規事業で成果を上げているB社に対しては早々に「B社のみ購入したい」という企業のオファーが早々にありました。A社としては新A・B社共に購入してくれることと、従業員最低3年間の雇用保証を最優先の課題としました。
その結果、3社のオファーを頂き最終的に2社を競わせました。1社は地方都市で堅実に印刷業を営んでいる創業オーナーC。二代目に社長業を譲り、第二の人生として首都圏の印刷業を購入し育て上げることを考えているようでした。もう1社は首都圏で会社を引き継いだ2代目D。全面的な「相乗効果」を期待し、熱きアプローチを続けたDを最終的に相手先として選択しました。スポンサー探索をスタートした半年後に、Dによる運営を開始しました。従業員全員を集め、朝礼にて株主並びに代表者の変更について発表を行いました。Dからは、社員および家族が幸せになれることを目標に、ともに進んで行きたいとの表明を聞き、集まった従業員も期待をもって、発表を受け止めた様子で、H社長は肩の荷が下りたと一安心されたそうです。

 

 

 

[赤字企業M&Aのポイント]

・連続赤字企業は、買手が見つかりづらい、見つかっても買いたたかれる

・連続赤字企業は、事業価値向上に向けて、数年かけて企業の体質改善が必須

・体質改善には、人員整理とともに、組織再編計画と事業戦略を立て直すことが必須

・体質改善後には、売却先の探索と交渉がより有利になる可能性も