[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第4回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】

~原価計算の分析、販管費の分析、営業外・特別損益の分析~

 

〈目次〉

4、原価計算の分析

5、販管費の分析(①人件費の内容の把握、②1人あたり人件費水準の把握、③人員の過不足状況、退職率の把握、④残業の有無、支払いの有無の把握、⑤未払、引当等有無の確認、⑥退任役員の報酬水準の把握)

6、営業外・特別損益の分析

 

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連解説]

■第3回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

(1、正常収益力の分析、2、事業別、店舗別、製品別、得意先別等損益の分析、3、製造原価の分析)

 

 

財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】


4、原価計算の分析

原価計算の分析を行う場合、原価計算の前提内容を把握します。作成方法の理解を進めながら、その作成方法が最もよい基準で作成されているかの検証を行います。

 

原価計算が行われていない場合は、財務デューデリジェンスの中で原価計算を行います。まず、製造原価に計上されている勘定科目、その内容、金額を把握します。その上で、それぞれの費用について原価計算を行う単位(製品等)に対して直課するのか配賦するのかの検討を行います。次に直課あるいは配賦を行う時のキードライバーを把握します。配賦を行う場合、実務的には売上高基準で行うことも多いですが、配賦を行う費用の金額が大きく、その配賦が原価計算の中で重要な場合等は、正確にキードライバーを把握し、そのドライバーで配賦を行うことで原価計算の精度を高めます。

 

しかし、中小企業の場合、これらの分析に必要な基礎情報が記録されておらず、精度の高い原価計算を行うことが難しい場合があります。原材料費であれば、仕入先別に金額は把握しているものの、1つの仕入先から複数の商品を購入している場合、原材料ごとの仕入金額を把握していないケースがあります。また、原材料ごとの仕入金額が把握できる場合であっても、原価計算を行う単位(製品等)ごとに原料の投入量が把握されていないケースもあります。そうすると、原料の正確な投入量がわからないため、原価計算単位ごとの製品1つあたり標準原料投入量および製品製造数量から原料投入量を推定する等行う場合もありますが、標準原料投入量を設定していない場合もあり、短期間のデューデリジェンスの期間の分析では精度の高い分析が難しい場合があります。このような場合、どこまで原価計算を行うかは買手企業との相談をした上で、分析を行います。

 

また、原価計算をデューデリジェンスで作成する場合には、特に慎重な検討が必要となります。期間や物理的なアクセス、ヒアリングの可否等の制約が多い状況下で、対象会社の損益の核となる部分を専門家と言えども外部の人間が作成する場合には、必ずしも正確な金額が示せるとは限らず、むしろ精緻なものの作成は難しいと考えます。そのため、分析の前提条件や作成方法を正確に記して、レポートの読み手に誤解を与えないようにすることが必要となります。また、前提条件や作成方法を正確に記述することで、デューデリジェンスを実施しているチーム内での検証も行いやすくなります。

 

5、販管費の分析

販管費の分析の主な目的は、EBITDA、ネットデットでの調整項目の把握、事業計画の前提条件である過去数値(1人あたり人件費や人員の過不足の状況等)の把握となります。

 

製造原価内容は人件費と経費に分けて分析を行うことが一般的です。

 

製造原価に計上すべき費用が販管費に計上されている場合や、年度によって製造原価の計上となっていたり、販管費の計上となっていたり継続的に同じ計上区分となっていない場合があるため、販管費の分析を行う場合には、併せて製造原価の分析を行うことが望ましいです。

 

 

人件費の分析は、主に下記の観点から行います。

 

①人件費の内容の把握

②1人あたり人件費水準の把握

③人員の過不足状況、退職率の把握

④残業の有無、支払いの有無の把握

⑤未払、引当等有無の確認

⑥退任役員の報酬水準の把握

 

①人件費の内容の把握

まず人件費の内容をレビューし、役員報酬の金額感、社員やパートのバランス、出向者の有無、退職金の支払いの有無、法定福利費の計上等の内容を把握します。

 

②1人あたり人件費水準の把握

対象会社が作成した、事業計画上の人員採用計画で、人員の採用数と採用に伴い増加する人件費が折り込まれます。その計画上の人件費の金額が適切であるかどうかは過年度の人件費の分析により確認を行います。

 

1人あたり人件費を分析する場合、部門ごとに人件費の金額水準が異なる場合には部門別に人件費を分析するのが有用です。今後、どの部門の人員を採用するのかで増加する人件費が異なるからです。上表では全体の人件費分析を行います。

 

上表のように月次平均人員数を賃金台帳等から算出します。月次で人員数を把握するのが困難な場合は、期初と期末の人員数の平均として分析することもありますが、人員の出入りが多い会社では、1人あたり人件費の水準の精度が下がってしまいますので、可能なかぎり月次で把握するのが望ましいでしょう。

 

また、社員、パートの別で賃金水準は大きく異なるため、それらを区分して把握します。給料手当が社員の給与、雑給がパートの給与であることを確認した上で、それぞれ平均人員数で除することで1人あたり給料手当・雑給を算出します。

 

この場合、1人あたり人件費ではなく、給与・雑給としているのは、法定福利費等を除いた純粋な給料の水準を把握する目的があります。法定福利費等には役員の法定福利費も含まれた金額となっているため、それを含めて人員数で除した金額は本来の社員1人あたりの人件費よりも高くなってしまいます。役員にかかる金額を除いて分析することも考えられますが、デューデリジェンスの短い期間での分析であるため、他の分析の重要度と勘案して行いますが、筆者の経験および見聞きした限りではここまでは分析していないものばかりでした。

 

役員報酬の金額が人件費の中で占める割合があまり多くない場合は、法定福利費等も含んだ社員1人あたり人件費は本来の金額とは大きく変わらないため、算出することが有用となります。

 

③人員の過不足状況、退職率の把握

現状の会社運営において、人員の過不足の状況を把握し、事業計画上の人員採用計画の妥当性を検証するための情報を入手します。人員が不足している状況下で、売上が増加する計画を作成しているものの、人員の補充が足りていない場合等が考えられ、このような場合は事業計画を修正する必要があります。また、事業計画上人員の採用を行っており十分な補充となっているように見えても、退職による人員減の影響を加味しておらず、計画上の採用人員では不足するケース等も考えられるため、人員の退職率等も把握するのが望ましいでしょう。

 

残業の有無、支払いの有無の把握

こちらの項目は未払残業代の金額を把握することが目的で、法務デューデリジェンスの労務部分との連係が必要となります。中小企業では残業代を支払っていない会社も少なくありません。また、残業代を支払っている場合でも、管理職には支払っておらず、法務デューデリジェンスの結果によっては当該管理職にも残業代の支払義務が生じていたことがわかるケースがあります。そのような場合は、ネットデットにて未払残業代を計上します。

 

⑤未払、引当等有無の確認

中小企業では、人件費の支払を発生主義ではなく現金主義を採用しており、発生したタイミングではなく、支払ったタイミングで費用処理をしている会社が少なくありません。例えば、対象会社が人件費の支払いは月末締め翌月25日払いであったとします。3月決算の場合、現金主義であれば3月末締めで4月25日払いの給料は費用処理されていません。発生主義で計上すると、3月末締めの給料は費用処理され、貸方に未払金が計上されます。当該未払金をネットデットの調整項目とするかを検討します。また給料だけでなく、会社負担の未払社会保険料も同様の処理を行います。

 

また、賞与を支給している場合であれば、賞与引当金の有無を確認します。賞与引当金が計上されていない場合は、対象会社の賞与規程を閲覧し賞与の支給対象期間を確認した上で、賞与引当金を計算します。当該賞与引当金をネットデットに計上するかを検討します。

 

さらに、対象会社の退職金規程において退職金を支給することとなっている場合には、確定給付制度なのか確定拠出制度なのかを確認します。確定給付制度を採用している場合には、退職給付引当金の計上が必要となります。退職給付引当金が未計上である会社の多くは従業員300人未満の会社であると想定されますので、その場合は簡便法にて退職給付引当金を計算します。簡便法では多くの場合、期末自己都合要支給額の金額を退職給付債務とする方法がとられることが多いように思います。そして計算された退職給付引当金をネットデットの調整項目とするかを検討します。

 

⑥退任役員の報酬水準の把握

M&Aの成立によって退任役員が決まっている場合には、EBITDAのプロフォーマ調整項目となりますので、退任役員の役員報酬の金額を把握します。

 

 

6、営業外・特別損益の分析

営業外損益の分析の主な目的は、EBITDAに調整すべき項目の有無の把握および利息や売上割引、仕入割引等の金融費用を把握することです。

 

事業関連性が高く、経常的に発生する項目があればEBITDAの調整項目となります。例えば借上社宅の賃料支払いは販管費にて計上しており、従業員負担分を営業外収益としている場合には、それらは表裏一体と考えるのが自然ですので、EBITDA調整項目とします。また、持分法適用会社を所有している場合、持分法適用会社から生じる持分法投資損益が今後も発生が見込まれる場合には、EBITDA調整項目とします。

 

また、金融費用については、M&Aが成立した場合は負債構成が変更され、金融費用は従前と同様には発生しないと考えられます。事業計画上は、従前の金融費用を除外して新たな金融費用を組み込みます。

 

特別損益の分析の主な目的は、過年度における会社の主な動きの把握、EBITDA調整項目の有無の把握をすることです。

 

特別損益は、「特別」な項目ですので、会社として特別な事象が発生した場合に計上されます。固定資産の売却や店舗の撤退、補助金の取得等が計上され、過年度の会社の動きを特別損益項目からも確認します。

 

特別損益に計上されている項目であっても、事業関連性が強く経常的に発生する項目があればEBITDA調整項目とすることがあります。例えば、助成金収入を特別利益に計上している場合、助成金が継続的に得られ、今後も継続的に得られる見込みがある場合等は、EBITDA調整項目とすることを検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A専門会社スペシャルインタビュー]

U&FAS 代表 氏家洋輔

~赤字や債務超過もサポートするM&A・事業承継と事業再生専門の事務所~

 


 

大手会計ファーム出身の公認会計士で構成されたM&Aアドバイザリー。品質、スピード、誠実性に拘りを持つとともに「M&A・事業承継と事業再生」のプロフェッショナルとして赤字や債務超過の企業をも支援しているのが同事務所の最大の特徴。今回は、同事務所代表の氏家洋輔氏に、同事務所の特徴やクライアント先のニーズ、事業再生を絡めた赤字や債務超過のM&Aなどについてお話を伺いました。

 

 

U&FAS 代表 氏家洋輔 氏

 

 

赤字、債務超過に積極的に取り組んでいる!M&A・事業承継と事業再生専門の事務所


――:まずは、貴所(U&FAS)のご紹介をしていただけますでしょうか。

 

氏家:当事務所は、M&A・事業承継と事業再生の支援を行う会計・財務アドバイザリーの事務所です。2019年の設立以来、M&A・事業承継支援と事業再生支援の2軸でサービスを展開しております。

 

 

 

――:貴所の特徴や強みを教えていただけますでしょうか。

 

氏家:当事務所の特徴は、「赤字・債務超過」積極的に取り組んでいることです。また、M&Aを専門としている同業者は多いですが、事業再生を専門としている同業者はあまりいないと思います。さらに、M&Aと事業再生のどちらも専門としているとなるとかなり限られると思います。この「赤字・債務超過に積極的に取り組んでいる」「M&A・事業承継と事業再生を専門にしている」というのが当事務所の最大の特徴だと思います。

 

 

 

――:たしかに、「赤字・債務超過に積極的に取り組んでいる」「M&A・事業承継と事業再生を専門にしている」というのはあまり聞かないですね。

 

氏家:はい、そうだと思います。この分野を専門にするには数多くの経験が必要ですからね。私は、公認会計士として、大手の監査法人で東証一部上場企業、売上高数兆円規模の大企業や銀行の監査を経験し、その後M&Aや事業再生の部署で計10年の修行を積みました。1つの部署でM&Aと事業再生のどちらも提供しており、どちらの業務も経験できたのが良かったのだと思います。しかも、運よく有名な先生の下で修行させて頂いたのですが、それが自分の財産になっていると思います。その先生は品質とスピードに非常に拘りのある方で、今の私の基礎となり強みになっているのだと思います。また、数多くのM&Aや事業再生のサポートをしてきましたが、製造業、小売業、建設業、卸売業、IT、サービス業、医療福祉、運送業など多種多様の案件に携わったことも現在の業務に活かされているだと思います。

 

 

 

――:どのようなクライアント先からのご相談が多いのですか。

 

氏家:よく見聞きすることですが、事業承継やM&Aを検討したいと依頼があって、中身を見てみると、実は業績が厳しい状況であるということは少なくありません。赤字や債務超過であった場合に、買手を探すのが難しいとのことで専門家から断られる場合や、アドバイザー契約を結ぶものの、あまり進捗しないことも多いようです。我々の事務所には、そんな業績の厳しい会社と直面したM&Aの専門家から相談されるケースが多いですね。上場しているコンサル企業や、外資系の大手コンサル企業から相談を頂いた時はびっくりしました。

 

 

 

――:専門家からの依頼が多いということは、やはり、赤字や債務超過の企業のM&Aは専門性が高く、業務対象としている税理士や公認会計士は少ないということなのでしょうか。

 

氏家:はい、そうだと思います。しかし。このような専門家からお話を頂く一方で、U&FASは開業2年目で広告も出しておらず、まだまだ認知度が低いため直接企業様からご連絡を頂くことはあまり多くないのが現状です。当事者である企業様もどこに相談するのがよいのか悩まれていることもあるかと思いますので、ぜひ、「赤字、債務超過ならU&FAS」と覚えて頂けると有難いですね(笑)。

 

 

 

 

赤字や債務超過の会社でも事業再生の視点を加えることでM&Aできるケースも


――:事業承継やM&Aで事業再生が活用されるケースが少ないとのことですが、それはなぜでしょうか。

 

氏家:事業承継やM&Aの局面で、売りに出ている企業は様々あるものの、買手側のニーズとしては業績の良い企業が好まれているのが現状です。理由は大きく2つあると思っていて、1つ目は買手側にとって計算がしやすいことだと思います。例えば営業利益が安定して毎年5千万円出て、今後もそれが続くことが想定される。簡便化して考えると1億5千万円での譲渡であれば3年で投資が回収できるということが計算できます。一方、営業利益が△1千万円の会社を買収しようとした場合、現状のままでは赤字ですので、これを改善して利益が出るようになる、又はしなければいけない。どの程度の利益が出せるかという見積は、経験や専門性が必要となるので、赤字企業を立て直すことを前提としたM&Aはやはり買手側からは計算が難しく、敬遠されやすいように思います。

 

もう1つは、仲介企業や専門家の問題だと思います。売手と買手をマッチングさせる業者は、譲渡金額×数パーセントを成功報酬として得ることが一般的です。赤字企業よりも黒字企業の方が譲渡金額が大きくなるので、結果として報酬額も大きくなり好まれやすいですね。

 

他にも、赤字や債務超過企業のM&Aでは、銀行を巻き込んだり、スキームも特有のものになるため、専門能力が必要となりますが、それらの専門能力を持ち合わせた専門家が少ないことも要因だと思います。

 

 

 

――:そうすると、赤字や債務超過の会社はM&Aを選択肢に入れることはやはり難しいのでしょうか。

 

氏家:業績の良い企業と比較して、赤字や債務超過の企業の買手を探すのが難しいということは事実です。先ほど申し上げたように、買手企業からも、仲介企業からも黒字企業の方が好まれますので。では、赤字や債務超過の企業はM&Aをできないかと言われると、そんなことはなく、可能性は十分にあります。ただ、そこには事業再生という観点を加えることが必要になってきます。

 

 

 

――:事業再生の視点を加える必要があるとのことですが、赤字や債務超過の会社のM&Aについてもう少し詳しく教えて頂けますか。

 

氏家:赤字や債務超過の会社とのM&Aを成約させるために考えられるケースは3つあると思います。

 

1つ目は、赤字や債務超過のまま買収するケースです。これは、買手企業にとって、相当なシナジー効果を期待できる場合等が想定されます。赤字や債務超過のままM&Aを行うため、譲渡金額は比較的小さくなります。

 

2つ目は、時間的に余裕がある場合に限られますが、自力での事業再生を行い、企業価値を高めた上でM&Aを行うケースです。事業再生により黒字化や債務超過の解消が達成されていれば、業績の良い企業としてのM&Aが可能となります。債務超過が解消されていなかったとしても、見栄えはよくなりM&Aの可能性は上がることになります。

 

3つ目は、第二会社方式というスキームがあります。恐らく聞きなれない単語だと思いますが、簡単に申し上げると既存借入金の債権放棄と、身軽になった会社の売却を同時に行うスキームです。もう少し詳細に申し上げると、新たにB会社を設立し、そこへ残す事業を会社分割や事業譲渡で移転させ、既存のA会社を借入金を含めて特別清算する、そしてB会社はM&Aにて売却するということを同時に行います。これによって金融機関からの借入金を大幅に縮小して、優良な事業のみを第三者に売却することが可能になります。このスキームによって、残したい優良な事業と従業員等を残すことができるようになります。ただし、金融機関に債権放棄をお願いするため、必要な分析、債権放棄の合理性、買手企業の適切性等を金融機関に対して行う必要があります。

 

 

 

――:特に、3つ目のケースでは非常に複雑なスキームと、分析が必要になるのが想像できますね。

 

氏家:はい。ここまでくると高度な専門性が要求されてしまいますので、やはり事業再生に強い専門家へ依頼する必要がでてくると思います。

 

 

 

 

同業からも頼られる赤字や債務超過の要素が含まれる「財務デューデリジェンス」


――:貴所の具体的なサービスラインについて教えてください。

 

氏家:当事務所のサービスラインは「M&A支援と事業再生支援」、それにプラスして「CFO支援」があります。

 

 

 

――:M&A支援と事業再生支援のサービスについて詳しく教えていただけますか。また、クライアントからはどのような依頼が多いですか。

 

氏家:「M&A支援」では、スキーム検討、デューデリジェンス、バリュエーション等を売手側、買手側に対して支援します。M&A関連で依頼が多いのはやはりデューデリジェンスですね。買手側の依頼を受けて売手に対して財務DDをする場合も、売手側の依頼を受けてDD対応の支援を行う場合もあります。最近増えているのは、M&Aで入って蓋を開けると赤字や債務超過の要素が含まれている場合ですね。それらが絡むと一気に頼りにして頂ける感覚がありますね。クライアントからも、他の専門家や同業者からも。

 

「事業再生支援」では、金融機関からの支援であるリスケやDDS(※1)や債権放棄などを得るために、財務DD、事業DD、事業計画、アクションプランの策定がサービスラインとなっています。基本的には全部任せて頂ける依頼がほとんどですね。我々も期待に応えるために精一杯やらせて頂きます。財務面のみならずビジネス面でも社長と深くディスカッションを行って事業計画を策定していきますので、良い信頼関係が築けます。金融機関からの支援が決まった時は、良い事業は残せて、雇用も守れて、本当に感謝して頂けます。これが私の大きな原動力の1つですね。

 

※1 DDS(デット・デット・スワップ):既存の借入金を劣後ローンとして借り換える手法。会社の借入金額はDDSの前後で変更はないが、金融機関の中では劣後ローンは資本とみなすことができるため、金融機関の査定上有利に働く。

 

 

最近では新型コロナの影響で、特例リスケ(※2)の相談が増えています。特例リスケは、従来のリスケとは比べ物にならないぐらい簡単に金融機関からの支援が受けられる制度です。コロナの影響を受けて資金繰りが苦しい企業で、まだ特例リスケをされていない方は是非ご検討頂くのが良いと思います。

 

※2 特例リスケ:正式名称は「新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール」。新型コロナウイルス感染症の影響を受けて一定以上の業況悪化を来たした会社に対して、中小企業再生支援協議会の支援の下、1年間のリスケを実施するもの。

 

 

 

▷参考URL:新型コロナ対策融資と特例リスケ

▷参考URL:新型コロナ特例リスケジュールの実務について

 

 

 

――:CFO支援とはどのようなサービスですか?

 

氏家:「CFO支援」は、お客様によって様々な支援を行っています。事業計画の策定や、月次の経営会議資料の作成、原価計算の導入や、部門別損益の精緻化などです。私が主動する場合もあれば、これらの助言や問題が発生した場合の支援など、顧問のような支援を行う場合もあります。品質にはもちろん満足して頂いているようですが、それにプラスアルファで事業再生の専門家がすぐ近くにいることで、安心されている経営者が多いように思います。

 

 

 

 

経営者の想いを大切に、大手同様の高い品質を中小の値段で提供


――:M&A業務をされる上で、大切にしていることはありますでしょうか。ご経験談を含めてお答えください。

 

氏家:M&Aで最も大切にしているのは株主や経営者の想いですね。事業や製品、雇用などに対する想いを実現するために業務に取り組むことが最も重要であり、成功の近道だと思います。高い品質、迅速性、誠実性について特に拘りをもって取り組んでいます。品質面では、大手の高い品質を中小の値段で提供することを心がけていますね。M&Aは買手にとっても売り手にとっても、企業経営の中でもかなり重要な意思決定が必要となる局面だと思います。個人で言えば、結婚する時や家を買う時のような大きな決断をする時と似ていると思います。そのような重要な局面での情報は、ポイントが明確でわかりやすく、正確である必要があると思います。品質を高めることがM&Aを成功させることにとって重要であると考えています。

 

また、偏見かもしれませんが、良い経営者はせっかちであることが多く、とにかく早く情報を提供することを望んでおられることが多いように思います。過去にDDレポートを2週間ほどで仕上げて報告した時には、こんなにしっかりしたレポートをこんなに早く仕上げてもらったのは初めてだと仰ってくださり、それ以降もことあるごとにご連絡を頂けるようになりました。

 

 

 

――:税理士の方々と一緒にM&A業務を進めることも多いかと思いますが、M&A業務における税理士の役割をどのように感じておられますか。

 

氏家:税理士の先生はM&A業務を進めていくうえで非常に重要なパートナーだと思っています。会社のことをとても理解されていますし、DDに必要な資料を税理士の先生がお持ちになっていることも多いですね。ヒアリングする時も社長に伺うよりも、税理士の先生に伺ったほうが正確に理解できるようなことがしばしばあり、円滑にDDを進めるためには、税理士の先生の協力は大変ありがたく、不可欠だと思います。

 

また、税理士の先生は、会社のことをよく理解されているため、M&Aや事業承継を検討している場合に会社の相談相手となることが多いようですね。ただ、顧問税理士の先生にとってM&Aや事業承継は専門外であることが多いため、我々のところにお話を頂けることがあります。その場合に、ご紹介或いは、協業という形で会社をサポートさせて頂いています。

 

 

 

――:最後に、事業会社の担当者の方や事業会社をサポートする税理士等の専門家の方々へメッセージをお願いします。

 

氏家:事業承継やM&Aというのは、専門でやっていなければそう何度も経験できるものではないと思います。これらは株主や経営者の想いが非常に重要ですので、その想いを汲み取り業務に当たられると良いのでないでしょうか。また、事業承継やM&Aを成功させるには、適切な専門家が不可欠ですので、良い専門家と連係をとって進めることが重要だと思います。事業承継やM&Aを成功させることで、事業会社のご担当者や税理士の先生の業務の幅が広がるのではないでしょうか。

 

 

 

――:ありがとうございました。

 

 

 

 

 

[事務所概要]

事務所名:U&FAS

所在地:東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビルヂング6階

設立:2019年1月

代表者:氏家洋輔

主な事業内容:M&A・資金調達支援、事業再生・経営改善支援、株式価値算定、CFO支援

対応エリア:全国(日本国内)

URL:https://www.u-fas.com/

 

 

 

 

 

 


[掲載希望募集中]

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ご希望の会社様は下記アドレスまで、お気軽にお問合せください。

お問合せ先:links@zeiken.co.jp

 


 

[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第3回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

~正常収益力の分析、事業別・店舗別・製品別・得意先別等損益の分析、製造原価の分析~

 

〈目次〉

1、正常収益力の分析(①スポット取引による損益、②会計方針の変更影響、③経常的な営業外損益、④撤退済み店舗損益、⑤撤退予定事業損益、⑥仕入条件の変更、⑦本社費用の除外、⑧管理部門費の発生)

2、事業別、店舗別、製品別、得意先別等損益の分析

3、製造原価の分析(①原材料費、②労務費、③外注費、④製造経費)

 

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連解説]

■第4回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】

(4、原価計算の分析、5、販管費の分析、6、営業外・特別損益の分析)

 

 

 

財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】


1、正常収益力の分析

正常収益力の分析は、将来計画の発射台となる正常な収益力を把握し、計画利益との連続性を検討することを目的としています。正常収益力の収益力とはEBITDAを用いて分析されることが一般的です。正常な収益力を把握するためには、大きく2つの調整を行います。

 

過年度に生じたイレギュラーな損益、非継続的な取引にかかる損益、会計処理の誤り等の調整を正常化調整といいます。正常化調整により会計処理の誤りや一時的・突発的な損益影響を排除した正常収益力の把握が可能となります。

 

また、M&Aの成立後、特定の事業を行わなくなる場合や、株主の変更によって増加・減少が予定されている費用等を過年度から発生しなかったと仮定した損益を分析するための調整をプロフォーマ調整といいます。プロフォーマ調整により、M&A成立後の損益構造で過去の損益を把握することが可能となるため、事業計画の損益との比較が行いやすくなります。

 

正常収益力の分析の具体例を下記に示します。x1期からx3期が実績、x4期が予算、x5期以降が計画とします。前提としてx1期からx3期の実績についての財務デューデリジェンスを行っており、x4期以降の予算・計画も分析を行うものとします。

 

 

 

 

営業利益・減価償却費は、会社の決算書・事業計画に記載されている金額を記載します。営業利益に減価償却を加えたものがEBITDAとなり、そこから正常化調整およびプロフォーマ調整を行い、調整後のEBITDAを算出します。

 

調整の内容は下記にて説明します。

 

①スポット取引による損益

スポット取引があれば今後は発生しないことが見込まれます。そのため、スポット取引から発生した損益はEBITDAから除く必要があります。しかし、スポット取引かどうかの見極めは簡単ではありません。例えば、創業50年の鉄を原料とする製造業があり、世界的に一時的に鉄が不足した時、創業後初めて原料の鉄のみの受注があり販売したとします。これは、鉄の不足が一過性であれば今後発生することはないと考えられる取引であるため、当該取引はスポット取引と判断します。

 

一方で、多くの取引が継続取引で、一部の取引がイベント等での取引がある企業を想定します。イベントは年に数回行われますが、多種多様で毎回コンセプトや会場が異なるとします。このような場合、各イベントの性質や規模、今後の継続性等を慎重に検討して判断します。イベントが今後も行われる場合は、同様の収益を会社にもたらすことが想定されるため、スポット取引とは判断しないことが多いです。

 

同様に、正常な売上高を算出するために、撤退済み店舗の売上高も調整項目として調整を行います。

 

②会計方針の変更影響

会計方針の変更により損益に影響が出る場合には、損益比較の観点から、会計方針を継続する調整を行います。具体的には、変更後の会計方針を当初から採用していたとして損益を作成し、会計方針変更前の損益との差額を調整します。

 

③経常的な営業外損益

計画期間中も継続的に発生が見込まれる営業外損益はEBITDAに取り込むために調整項目とします。持分法適用会社の持分法による投資損益等を想定しています。

 

④撤退済み店舗損益

撤退済みの店舗がある場合は、撤退済みの店舗から発生していた損益は今後発生しないことが見込まれます。そのため撤退店舗の営業利益をEBITDAから除く必要があります。撤退店舗の損益が赤字の場合であればプラスの調整、撤退店舗の損益が黒字であればマイナスの調整となります。通常、撤退店舗は赤字であったことが多いため、プラスの調整を行うことが一般的です。

 

また、厳密に考えると、撤退店舗の損益は営業利益ではなく減価償却前の営業利益(EBITDA)で調整することが望ましいです。それは、調整前EBITDAは減価償却費前の金額であるため、減価償却後の営業利益で調整を行うと不整合となるためです。しかし、減価償却費が僅少な場合や、店舗別で減価償却費を把握することが難しい場合には、店舗のEBITDAではなく営業利益にて調整を行うこともあります。

 

同様に、正常な売上高を算出するために、撤退済み店舗の売上高も調整項目として調整を行います。

 

⑤撤退予定事業損益

撤退予定の事業がある場合は、上述の撤退済みの店舗と同様に、撤退予定事業で発生していた損益は今後発生しないことが見込まれます。そのため撤退予定事業の営業利益をEBITDAから除く必要があります。撤退予定事業の損益が赤字の場合であればプラスの調整、撤退店舗の損益が黒字であればマイナスの調整となります。撤退予定事業の場合も、撤退済み店舗と同様に営業利益ではなく減価償却前の営業利益(EBITDA)で調整することが望ましいです。撤退店舗よりも撤退事業の方が、事業規模が大きいことが多いため、撤退事業の減価償却費を把握できる可能性は高くなります。

 

M&A成立後と同様の条件での売上高を算出するために、撤退予定事業の売上高も調整項目として調整を行います。

 

⑥仕入条件の変更

M&A成立後、買収元企業の主要取引先や関連会社等からの仕入れによって仕入単価を下げることができる場合があります。仕入金額が下がると損益はプラスに影響するため、EBITDAをプラスに調整する必要があります。

 

⑦本社費用の除外

現状の企業グループや部門による管理体制はM&Aにより変更され、M&Aの対象となっていない本社部門からのサービスの受け入れ、費用の負担割合等も変わる場合が一般的です。そのため、従前の本社部門からのサービスの受け入れに対する対価である本社費用は今後発生しないことが見込まれ、当該金額をEBITDAから除外する調整を行います。

 

⑧管理部門費の発生

M&Aの成立により新たな企業グループとなり、間接部門等のサービスの受け入れが従前と異なることになります。上述の「g.本社部門費の除外」で述べた従前の本社部門からのサービスの受け入れはなくなり、新たな本社部門からのサービスの受け入れが行われます。そのため、新たに発生する本社部門費の項目をEBITDAに追加する調整を行います。なお、デューデリジェンスの時点で新たに発生する本社部門費が見積もられていない場合でも、備忘のため項目だけであっても記載しておくのが望ましいです。

 

 

2、事業別、店舗別、製品別、得意先別等損益の分析

事業別損益、店舗別損益、製品別損益、得意先別損益等(管理会計)の損益分析は損益項目の分析では核となる分析です。これらの分析結果がEBITDAの分析の基礎となり、またどの部門やどの製品が利益の源泉となっているのかを把握します。また利益を生んでいない事業や製品および店舗等は、今後撤退を含めて改善を検討する必要があります。どのような店舗等が利益を生んでいて、どのような店舗等が赤字となっているのかを分析することで、勝ちパターンを見極め、今後の出退店の参考となります。

 

これらの分析はデューデリジェンスの買手側の企業にとって非常に重要ですが、デューデリジェンスの対象企業のこれまでの企業経営上も非常に重要であったため、対象会社側で既に分析が行われているように思います。しかし、中小企業であればリソースの不足等により、分析は行っているものの分析の粒度が粗い場合、管理会計と財務会計が分離されてそれぞれが不一致となりその差の要因が把握されていない場合、売上高のみ把握されていて、店舗利益はもとより売上総利益も把握されていない場合があるため、対象会社が作成した管理会計の分析結果をそのまま使用できない場合も少なくありません。そのため、財務デューデリジェンスにて改めて分析を行う必要があります。

 

これらの管理会計による損益が作成されている場合には、まず、その管理会計による損益の正確性を検証する必要があります。管理会計の売上高、売上原価、販管費そして営業利益の財務会計との差の有無を確認します。差がある場合には、差の生じている理由を把握し、対象会社の作成した管理会計の利用可能性を検討します。

 

次に、管理会計の作成方法を把握します。直課されているのか配賦されているのかを把握し、配賦されている場合は、配賦基準を把握し、修正する必要がないかを検討します。修正する必要がある場合には修正した上で分析を進めます。

 

下表では店舗別の損益を例として記載します。

 

 

 

上表は、店舗別損益の状況の一部抜粋です。店舗別に撤退等も含めた検討を行うために、変動費および固定費の把握に加え個別固定費の把握を行い、限界利益、貢献利益を算出します。限界利益算出の主な目的は損益分岐点売上高を算出するため、貢献利益算出の主な目的は、個別の店舗の本社費等の配賦前の損益を把握することであり、この分析は店舗を撤退するかどうかの検討にも有用です。貢献利益は本社費の負担および全社損益に対して貢献した損益を表し、赤字の場合は全社損益にマイナスの影響をもたらしているため、撤退を含めた検討が必要となります。

 

上表のA店舗とC店舗は貢献利益がプラスであり、本社費の負担および全社損益に貢献していると言えます。さらに本社費負担後の営業利益もプラスであり、健全な店舗であることが伺えます。一方でB店舗は他の店舗を比べて売上高が低く、売上総利益率も低いこと、さらに地代家賃も高くなっている影響で貢献利益がマイナスとなっています。貢献利益がマイナスであるということは、本社費の負担を行えておらず全社損益にマイナスの影響を及ぼしていることになります。対象会社はこの事実に基づき店舗の撤退をしたものと考えられます。B店は撤退済み店舗であるため、B店で発生していた損益は今後発生しないことが見込まれるためEBITDAの調整項目となります。店舗では減価償却費は発生していないものとします。なおEBITDAでの調整額は店舗を撤退した場合に発生しない損益である貢献利益の金額となります。本社費はB店舗が撤退しても減額されるものではないので、本社費配賦後の営業利益を調整すると誤った調整となるので注意が必要です。

 

また、店舗別の損益をデューデリジェンスで作成する場合には、特に慎重な検討が必要となります。期間や物理的なアクセス、ヒアリングの可否等の制約が多い状況下で、対象会社の損益の核となる部分を専門家であっても外部の人間が作成する場合には、必ずしも正確な金額が示せるとは限らず、むしろ精緻なものの作成は難しいと考えます。そのため、分析の前提としておいた仮定、前提条件および作成方法を正確に記して、レポートの読み手に誤解を与えないようにすることが必要となります。また、前提条件や作成方法を正確に記述することで、デューデリジェンスを実施しているチーム内での検証も行いやすくなります。

 

3、製造原価の分析

対象会社が製造業であれば、製造原価の把握・分析は非常に重要です。中小企業であれば、精度の高い原価計算を行っている会社は多くはなく、原価計算が行われていない会社も少なからずあります。また、工場の人件費が販管費に計上されているなど、製造原価と販管費の区分が正確に行われていない場合があり、製造原価の分析を行う際には併せて販管費の分析も行う必要があります。

 

製造原価には、大きく①原材料費、②労務費、③外注費、④製造経費があり、それぞれについて分析を行います。

 

①原材料費

原材料費は、それ自体の金額も重要ですが、売上高と連動して増減する費用であるため、売上高原材料費比率を算出します。事業計画上も、売上高に過年度の売上高原材料費比率を乗じて原材料の金額を算出することが一般的です。そのため過年度の売上高原材料費比率を分析して事業計画上どの比率を用いるのが適切かを検討します。

 

売上高原材料費比率が上昇しているのか、下落しているのかを把握し要因を分析します。要因は、原材料の仕様変更に伴う仕入単価の上昇や、外部環境による仕入単価の変化や、製造工程による歩留まり率の変化等様々な理由が考えられるため、慎重に検討する必要があります。また、当該増加又は減少要因が事業計画期間においても影響をあたえるのかどうかも含めて検討を行う必要があります。

 

②労務費

労務費は、製造にかかわる人員の人件費ですので、まず、内容を確認し製造原価に含める必要があると考えられる人の人件費が全て含まれているか、販管費との区分が適切かを把握します。賃金は販管費と区分されている場合であっても、法定福利費が労務費では計上されておらず、工場人員の法定福利費が販管費にまとめて計上されている場合があるため注意が必要です。

 

対象会社が作成した、事業計画上の人員採用計画で、人員の採用数と採用に伴い増加する労務費が折り込まれます。その計画上の労務費の金額が適切であるかどうかは過年度の労務費の分析により確認を行います。

 

1人あたり労務費を分析する場合、部門ごとに金額水準が異なる場合には部門別に人件費を分析するのが有用です。今後、どの部門の人員を採用するのかで増加する人件費が異なるからです。

 

まず、月次平均人員数を賃金台帳等から算出します。月次で人員数を把握するのが困難な場合は、期初と期末の人員数の平均として分析することもありますが、人員の出入りが多い会社では、1人あたり人件費の水準の精度が下がってしまいますので、可能なかぎり月次で把握するのが望ましいでしょう。

 

また、社員、パートの雇用形態別でも賃金水準は大きく異なるため、それらを区分して把握します。例えば、給料手当が社員の給与、雑給がパートの給与であることを確認した上で、それぞれ平均人員数で除することで1人あたり給料手当・雑給を算出します。

 

この場合、1人あたり人件費ではなく、給与・雑給としているのは、法定福利費等を除いた純粋な給料の水準を把握する目的があります。法定福利費は前述のように販管費にまとめて計上されている場合や、役員の法定福利費も含まれた金額となっている場合があるため、それを含めて人員数で除した金額は本来の社員1人あたりの人件費と異なってしまいます。それらの金額を調整して分析することも考えられますが、デューデリジェンスの短い期間での分析であるため、他の分析の重要度と勘案して行いますが、筆者の経験および見聞きした限りではここまでは分析していないものばかりでした。

 

また、労務費では、社員の給料は固定費であることが一般的です。一方でパートの給料は労働時間を調整することで給料も調整可能ではありますが、実態により、パートであっても採用の難しさ等から簡単には労働時間を変更できない場合等があり、その場合には固定費として分析した方が実態とはあっている場合があるので、固定費変動費の区分は慎重に行う必要があります。

 

現状の工場運営において、人員の稼働率を把握し、工場の広さや設備等の稼働時間等も総合的に勘案し、キャパシティを把握することが必要となります。M&A成立後の事業運営上、売上高を伸ばす場合はどの程度の人員の確保が必要となるのか等の検討資料となるためです。

 

③外注費

外注費については、対象会社の経営判断が反映される勘定科目になります。全ての製造作業を内製化し外注費が発生しない会社、単純な作業や汎用的な作業は外注し、製品の核となる製造のみ自社で行う会社、自社で設計までを行い製造は全て外注先に委託している会社等様々な経営判断により発生する勘定科目となります。そのため、対象会社がどのような経営判断で外注を行っているのかを把握する必要があります。

 

どのような経営判断で外注を行っているかで、その外注費が売上高に対して変動する項目であるのか、あるいは固定的に発生する項目であるのかといった、ドライバーが異なってきます。

 

④製造経費

製造経費については、それぞれの勘定科目の内容の把握を行い、変動費と固定費の区分を行うことが重要となります。売上高に対して変動か固定かの区分を行うことが一般的ですが、精度の高い事業計画を作成するためには、金額的に重要な製造経費がある場合には売上高以外のドライバーがないかの分析が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第3回:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~工事管理は?経営審査事項とは?会計処理は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

 

建設業のM&Aを検討していますが、建設業の特徴や留意点はありますか?


建設業は、元請となる大手の建設企業から、下請となる中小零細の工事企業まで様々な企業が含まれます。一つの工事に多数の企業が関与することは建設業の特徴の一つとなります。そして、多数の企業が関与するため、スケジュールの管理や予算の管理が難しいと言えます。

 

また、工事が長期にわたることも特徴の一つです。数か月で終了する工事もありますが、数年かかる工事もあります。一般的な商品・製品であれば、商品・製品の引渡しと対価であるお金(又は売上債権)の受取は同時に行われます。一方で、建設業の場合は工事が長期間にわたること、受注額が多額である性質から、数回に分けてお金が支払われることが一般的です。支払い金額やタイミングは個別の契約ごとに異なりますが、契約、中間、引渡の3回程度とされることが多いようです。下図のように、3回入金がある場合では、工事関連の運転資金は入金のタイミングが合えばほとんど必要にならず、クライアントからの売上金で工事費用を賄えます。

 

 

 

 

次に、公共工事が多いことも他業種と比べた際の特徴となります。公共工事をメインのビジネスとしている企業であれば、年度末が最も忙しく、売上高も多く計上されることとなります。公共工事を元請企業として受注するためには、経営審査事項(通称経審)と呼ばれるもので一定の点数を獲得する必要があります。経営審査事項の点数は財務諸表の数値等(例えば赤字だと点数が低い)で決定されるため、公共工事を受注するためには、赤字にしたくないというインセンティブが働きます。

 

建設業以外では、決算の数値を操作する目的は銀行から融資を獲得することが多いですが、建設業では、銀行からの融資に加えて、経営審査事項の点数獲得を目的として決算数値を操作することがあります。特に公共工事を元請として行っている企業をM&Aにて買収検討している場合は、決算数値の確からしさをには留意が必要となります。

 

 

さらに、建設業は会計処理が特有であり、建設業会計と呼ばれる会計処理を用いることも特徴の一つです。工事にかかる会計基準は、工事完成基準と工事進行基準があり、どちらかを用います。会計処理の詳細は割愛しますが、それぞれの特徴を簡単に説明します。

 

工事の時系列は下図のように20/3期に工事を開始して、21/3期に完成・引渡が行われる例を想定します。受注額は100,000千円、見積原価は85,000千円とします。

 

 

 

 

工事完成基準は、工事完成・引渡のタイミングで売上高と売上原価(材料費、人件費、外注費等)を計上します。つまり、工事が完成するまで損益としては認識されず、完成・引渡により初めて損益計上されます。例えば20/3期に工事を開始して、20/3期の期末に未完成の場合は、20/3期では売上高や売上原価は計上されません。そして、21/3期に工事が完成した場合は、21/3期に20/3期に稼働した分も含めて損益計上がなされます。

 

 

 

 

 

 

工事進行基準は、材料仕入や人件費、外注費の発生のタイミングで当初の見積原価率を用いて売上高を概算計上します。

 

下図では、19/12月より工事を開始しており、工事の開始月より費用が発生しております。19/12月の費用は10,000千円であり、見積原価率から売上高を計算すると10,000÷0.85=11,765千円が売上高として計上されます。毎月同様に計算され、20/3期で売上高76,471千円、売上原価65,000千円(粗利率15%)が計上されます。同様に、21/3期で売上高23,529千円、売上原価20,000千円(粗利率15%)が計上されます。工事完成基準とは異なり、工事の進行に応じて売上と売上原価が計上されるのが特徴となります。

 

 

 

 

工事完成基準と工事進行時基準の損益計上の概要を説明しましたが(貸借対照表項目については割愛しております。)、工事完成基準は稼働とは関係なく完成・引渡時に損益計上されとてもシンプルです。一方、工事進行基準は稼働と連動して損益が計上されるため適切に会計処理が行われれば実態に合った損益計上がなされます。しかし、工事進行基準は上記で説明したように、「見積」による利益率が会計数値に影響を与えます。この「見積」により、利益の操作が可能となる点は留意が必要です。工事進行基準を採用している場合には、工事完成基準に比べて、会計操作を容易に行える状況にありますので、特に留意が必要です。

 

建設業は工事の管理の難しさ、経営審査事項という決算数値を含めた点数が求められること、会計処理の複雑さ等により、会計操作が行われる可能性が他の業種と比べて高いものと思います。M&Aを検討する場合には、これらの点を留意して、決算数値の確からしさを公認会計士等の専門家を用いて調査することをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第2回:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

 

〈目次〉

①バリュエーション手法と財務デューデリジェンスの重点調査項目

②DCF法を用いた場合の財務デューデリジェンスとの関係

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連解説]

■「財務デューデリジェンスの目的」を理解する

■実行段階におけるM&A 支援業務の相互関連性~デューデリジェンス・スキーム策定・バリュエーションの関連性~

 

 

「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する


①バリュエーション手法と財務デューデリジェンスの重点調査項目

前号で解説したように、財務デューデリジェンスの重点調査項目は、バリュエーション方法によって変わります。

 

 

DCF法でバリュエーションを行う場合であれば、正常収益力、設備投資、運転資本、ネットデット、事業計画の分析が重点調査項目となり、純資産を用いた評価を行う場合は、実態純資産の分析が重要調査項目となります。

 

なお、重点調査項目以外にも、店舗を保有する企業であれば店舗別損益、工場を保有する企業であれば原価計算、製品別損益、小売店であれば客数・客単価、商品別損益等重要な調査項目があり、これらは買手企業のニーズによっても異なります。

 

 

買手企業の担当者としては、バリュエーションと財務デューデリジェンスの一般的な内容を理解し、対象会社の重点的な調査項目を検討し、また自社で行っている管理会計と照らしあわせて理解しやすい分析の切り口を検討しておくべきでしょう。

 

また、アドバイザーとしてM&Aをサポートする専門家としては、デューデリジェンスの開始に先立って買手企業の業種の特性、買手企業固有の状況、ニーズ、使用するバリュエーション手法等を把握するため、買手企業と十分なコミュニケーションをとることが必要となります。

 

 

②DCF法を用いた場合の財務デューデリジェンスとの関係

下記では上場会社等のM&Aにて採用する代表的なバリュエーション手法の1つであるDCF法を用いた場合の財務デューデリジェンスとの関係を説明します。

 

 

 

 

 

 

事業計画から各期のFCF(フリーキャッシュフロー)を算出し、各期のFCFおよび残存価値をWACCを用いて現在価値に割引きます。

 

この割引額の合計が事業価値となります。この事業価値からネットデット(有利子負債から余剰資金および非事業用資産の時価を差し引いたもの)を差し引くことで株式価値を算出します。

 

つまり、株式価値を算出するためには、各期のFCF、WACC、ネットデットの金額が必要ということが分かります。

 

 

WACCは一般的にバリュエーション業務で算出し、FCFの金額についてもバリュエーションで算出することもありますが、財務デューデリジェンスではその基礎となる事業計画を分析する場合があります。

 

なお、事業計画のFCFの分析を行うには、その発射台となる現状のFCFの分析が不可欠であり、正常収益力、運転資本、設備投資の分析を行った上で事業計画を分析する必要があります。

 

ただし、事業計画については買手企業で分析を行うため、財務デューデリジェンスの範囲外となることもあります。

 

よって、DCF法によるバリュエーションを行う場合、価値算定に直接影響を与える項目は正常収益力、運転資本、設備投資、ネットデット、事業計画となり、これらの項目を財務デューデリジェンスで重点的に分析することになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第2回目:譲渡・M&Aにおいて準備すべきこと

~企業価値を向上させ売却金額を増大させるためには?~

 

[解説]

宇野俊英(M&Aコンサルタント)

 

 

[質問(Q)]

当社は後継者不在であることからM&Aで会社売却をしたいと考えています。具体的に何から手を付けてよいかわかりません。M&Aにおいて事前に準備しておくべき必要な事項を教えてください。

 

 

[回答(A)]

事前準備で必要な事項は会社の状況に異なります。事業承継への対応では後継者の有無によって手法は異なりますが、いずれも早めの検討と準備が求められます。M&Aを選択する場合にはより企業価値をブラッシュアップし、譲渡・売却しやすい会社に近づかせることにより、企業価値を向上させ売却金額を増大させる方向が望ましいと考えられます。

 

そのためには、
 ①会社の実態の見える化(実態把握、個人の資産と事業用資産の整理)
 ②M&Aのメリット・デメリットを理解した上で意思決定
 ③株式が分散していた場合には集約化と名義株の整理
 ④仲介・FA機関の選定とFA・仲介契約の締結
等が必要になります。

 

 

 

まずは経営者に改めて事業承継に向けたM&Aへの準備の必要性の認識を持っていただくことが最初の一歩です。

 

1.準備の必要性を認識しましょう


M&Aをする場合にも相応の時間が必要です。M&Aはある意味タイミングが重要です。適切なタイミングを逃してしまうと探してもそもそも候補先が見つからないということがあり得ます。また、候補先がいてもタイミングが適切でなければ不利な条件を許容せざるを得なくなってしまったり、交渉自体が流れてしまうこともあり得ます。

 

タイミングの一つは業績が上げられます。一期赤字でM&Aを決断しても交渉成立時に2 期連続赤字の状態であれば、期待していた売却価格にならないことはよくあることです。また、いたずらに時間を費やしている間に譲渡側の経営者が健康上の問題を引き起こしてしまうこともあります。経営者には「まだ先のことだから……」「日常業務で忙しいから……」とさまざまな理由はあります。しかし、準備が遅れるほど希望する条件に合った候補者を探すことが難しくなってきます。

 

 

2.経営状況・経営課題の「見える化」をしてみましょう


M&Aを準備するためにはまず、自社の経営状況・経営課題、経営資源等を見える化し、正確に現状把握することから始まります。

 

把握した自社の経営状況・経営課題等をベースに自社の強みの伸長と弱みを改善する方向性を見つけ、着手することが重要です。その際に経営者の視点に加え顧問税理士、中小企業診断士などの専門家や金融機関に協力を求めることで客観的かつ効率的に把握することが可能になります。また「見える化」することの効能はM&A に役立つのみならず、自社の経営改善につながる効果も見込まれます。

 

 

3.M&Aの意思決定、信頼できる仲介者等の選定及び仲介契約等の締結


上記過程を経てM&Aの意思決定がなされ、候補者を探索する必要があるときには仲介者・アドバイザリー(以下、「仲介者等」という)を選定して仲介契約若しくはアドバイザリー契約(以下、「仲介契約等」という)を締結します。

 

締結後は基本仲介者等の指導・助言に基づき実行していきますが、仲介者等も必ずしもすべての工程・分野に習熟してない場合もあり得ます。必要に応じて専門家や事業引継ぎ支援センター等のセカンドオピニオンを活用しましょう。あわせて、見える化で把握した課題の改善を図り、企業価値の増大を目指していきます。

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

⑥財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連解説]

■「財務デューデリジェンスの目的」を理解する

■「事業デューデリジェンス(事業DD)」とは?

 

財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場はどれぐらいですか?また、どのような要素で決まりますか?


①コンサル企業の規模

財務デューデリジェンスの費用を検討するには、まず、どれぐらいの規模のコンサルディングファーム、会計事務所に依頼するかによって相場感が異なります。

 

当然の事ですが、大手のコンサルティングファームや、監査法人等に依頼すると費用は高くなり、中小のコンサルティングファームや会計事務所に依頼すると費用は安くなります。必ずしも大手であるから品質が高いとは限りませんが、一般的に大手は品質が高く、海外に提携事務所があるため海外案件等に強みを持っています。

 

一方、中小のコンサルティングファームや会計事務所は、大手と比べると品質にばらつきがありますが、小回りや融通が利き、費用は安くなります。

 

大手であれば最低500万円以上、中小であれば最低100万円以上が相場となります。(戦略的に安く請け負っている場合や、調査範囲を限定している場合等はこの限りではありません。)

 

 

②プロフェッショナル度

同規模のコンサルティングファームや会計事務所であっても、それぞれに特徴があります。M&Aのマッチングに強みを持っている場合や、財務デューデリジェンスを得意としている場合、税務顧問をメイン業務としているが財務デューデリジェンスも行う場合等、財務デューデリジェンスに対するプロフェッショナル度が大きく異なります。プロフェッショナル度が高い事務所に依頼するほど、費用は高くなることが一般的です。

 

 

③対象企業の規模

財務デューデリジェンスを行いたい対象企業の規模によっても費用は異なります。規模の大小により、調査項目の大枠はあまり影響しませんが、一般的に規模が大きくなると子会社を保有していたり、事業を複数行っている場合、海外展開している場合等がありこれらの調査が必要であれば費用も高くなることが一般的です。売上3億円の会社と売上30億円の会社の財務デューデリジェンス費用は2倍程度、売上3億円の会社と売上300億円の会社は3~5倍程度の差となることが多いでしょう。

 

 

④調査範囲

財務デューデリジェンスと言っても、M&Aスキーム、バリュエーション方法や調査の目的等により、当然調査項目は異なります。これらの調査項目を取捨選択し絞ることで、多少の費用削減にはなるでしょう。しかし、会計は様々な項目と連動していることが多く、あまり調査項目を絞りすぎると、会社全体としての動きを見誤ったり、見落としてしまうことがあるため注意が必要です。

 

財務デューデリジェンスの費用は、コンサルティング企業の規模、コンサルティング企業のプロフェッショナル度、対象企業の規模、調査範囲等で異なります。検討している企業の財務デューデリジェンスの費用を想定した上で、どのコンサルディング企業に、どの調査項目を依頼するかを検討しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第2回:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~店舗ごとの貢献利益は?運転資金は?在庫リスクは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連記事]

■「製造業のM&Aの特徴や留意点」とは?~原価計算は?運転資本は?設備投資は?~

 

 

小売業のM&Aを検討していますが、小売業の特徴や留意点はありますか?


小売業は、最終顧客に商品を販売する業種です。BtoBの業種と比較すると小売業を含むBtoCの業種は、販売先(顧客)の数が非常に多くなります。そのため、顧客ごとの売上高・利益率等を把握して分析することはせず、客数・客単価等をKPI指標として設定し、分析することが小売業の特徴の1つとなります。

 

また、小売業は、販売ルートとしては実店舗での販売と、オンライン・通販等での販売とに分類ができます。近年では、オンライン・通販等を行う小売業者も増加していますが、中小企業では実店舗での販売がメインとなっているとことが多いように思います。

 

店舗が複数ある場合には、各店舗の損益管理が経営上重要となります。店舗別損益は、最低限売上高と売上原価、そして店舗でかかった経費について把握する必要があります。さらに、店舗ごとの貢献利益・営業利益の分析や客数・客単価等のKPIの情報を把握することが望ましいでしょう。貢献利益とは、店舗の売上高から売上に直接紐づく変動費(売上原価や販促費等)および店舗単独で発生する固定費(店舗人件費や店舗家賃等)を差し引いた利益のことです。貢献利益は店舗単独でどれぐらいの利益を獲得したのかを把握し、今後の施策や出退店等を検討する重要な利益指標となります。

 

貢献利益について具体例を用いて説明します。下図は本社と3店舗を有し、売上高3億円、営業利益5百万円の企業です。

 

 

 

 

 

 

 

 

店舗Aおよび店舗Bは貢献利益がプラスであるのに対して、店舗Cは貢献利益がマイナスとなっています。店舗Cを閉店して、売上も費用も全てかからない状態になる場合は、全社損益が5百万円改善することになります。しかし、正社員の雇用を継続する必要がある場合や、地代家賃の契約上途中解約による違約金が発生する場合等個別事情がある場合には、それらの事項も含めた上で検討する必要があります。

 

M&Aを検討している場合、対象会社の損益管理の状況を把握し、損益管理ができていない場合には、デューデリジェンス等にて会計士等の専門家を用いて店舗の損益数値を分析した上で、M&Aの検討をすることをお勧めします。

 

 

 

また、飲食店等も同様ですが、小売業の特徴として、現金売上が多い点が挙げられます。現金売上が多く、商品の仕入時は掛仕入で行っている企業の場合、買掛金の支払いよりも現金売上が先に発生するため、運転資金がほとんど必要ありません。

 

 

 

 

 

 

上図の例では、5月10日に仕入れた商品の支払いが6月末であることに対して、5月20日に現金売上となり、5月20日から6月末までの間現金が多い状況が続きます。そのため、小売業は他業種と比べ資金繰り上有利な業種と言えます。

 

一方で、2019年から実施されているキャッシュレス・消費者還元事業等の影響で、クレジットカードや電子マネー等での支払いが増加しているため、資金繰り上必ずしも有利とは言えない状況になりつつあります。M&Aの対象会社の運転資金の状況を分析し、キャッシュレス化の影響も把握することが望ましいでしょう。

 

 

また、小売業でも特に生鮮食品など、商品の劣化により販売できる期間が短い商品を扱っている場合は、廃棄ロスの管理が重要です。中小企業では廃棄ロスの管理を行っていない企業も少なくありません。例えば、筆者が関与した企業で改めて廃棄ロスを計測したところ、廃棄ロス率が20%であることがわかったケースもあります。仕入れた商品5つのうち1つは廃棄する計算です。廃棄ロスをゼロにするのが良いかどうかは経営判断となりますが、20%はさすがに多いためすぐに削減の施策を実行しました。M&Aの対象会社が廃棄ロスを管理していない場合や、廃棄ロスが多い場合には、貸借対照表に計上されている棚卸資産について全額資産性があるかどうかの検討が必要となります。また、買収後は廃棄ロス率の削減等の改善施策を行う必要があります。

 

 

また、小売業特有の仕入方法として買取仕入、委託仕入、消化仕入の大きく3つの仕入方法があります。

 

●買取仕入は、一般的な仕入のイメージで、その名の通り、店舗側で商品を買取って販売することです。

 

●委託仕入は、仕入先と販売委託契約を結び、店舗に商品を置きます。商品が売れたら商品代金ではなく「販売手数料」をもらう方式の仕入方法です。

 

●消化仕入れは、商品が店舗に納品されても仕入計上せずに、商品が販売された時点で初めて仕入れが計上される方法となります。売上仕入とも言います。

 

 

買取仕入は、買取っていますので商品が売れ残っても返品はできませんが、消化仕入と委託仕入は商品が売れ残った場合に返品が可能であり在庫リスクがないことが特徴です。M&Aの対象会社の仕入方法を確認し、在庫リスク等を把握した上でM&Aを検討することをお勧めします。

 

 

小売業のM&Aを検討する場合は、店舗損益をどのレベルまで把握できるかを確認しましょう。損益が把握できていない場合には、資料を入手して店舗損益を作成・分析する必要があります。また、KPIの分析状況、運転資金の状況、キャッシュレス化での影響、仕入先との契約関係等を把握した上でM&Aに臨むことをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第1回:「財務デューデリジェンスの目的」を理解する

 

〈目次〉

①ディールブレイク要因の有無

②価値算定に影響を与える事項

③契約書の表明保証に記載すべき事項

④買収後の統合に向けた事項

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連解説]

■「財務デューデリジェンス(財務DD)」とは?~目的は?調査分析項目とは?~

■M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

 

 

「財務デューデリジェンスの目的」を理解する


財務デューデリジェンスの目的は大きく4つの事項を把握することにあります。

 

①ディールブレイク要因の有無

②価値算定に影響を与える事項

③契約書の表明保証に記載すべき事項

④買収後の統合に向けた事項

 

①ディールブレイク要因の有無

買収を進めるにあたり、重大な障害の有無を把握します。重大な障害はディールキラー、すなわちその事実のみで買収をしない意思決定を行う可能性があります。重大な障害が発生した場合、他のデューデリジェンスの内容は不要となるため、その時点でデューデリジェンスを一時中止・終了することもあります。

 

具体的には、全株主の把握ができていない場合、法令違反、粉飾決算などが挙げられます。全株主が把握できていない場合、M&A実行後に想定していない株主が株主として残る場合や、それらの株主に対して支払う株式の買い取り資金が追加でかかってしまうリスクがあります。

 

また、特に上場企業等社会的責任が大きい会社が買手の場合、法令違反のある会社を買収し、そのまま法令違反をし続けることはできません。そのため、当該法令違反を除去する必要がありますが、法令違反の除去が難しい場合や多大な資金がかかる場合には、M&Aを取りやめることになります。

 

ディールブレイク要因が確認された場合は、これらの要因によるリスクは何か、リスクは許容可能か、許容できない場合は除去が可能か、除去するための弊害は何か、どのくらいの追加資金がかかるのか、それらを考慮にいれてもなおM&Aが会社にとって必要か等を検討します。

 

 

②価値算定に影響を与える事項

買収価格に直接影響のある内容を把握します。次号にて解説する「『バリュエーション手法』と『デューデリジェンス』の関係を理解する」で詳細を記載しますが、バリュエーションの方法によって価値算定に影響のある内容は異なるので、分析の重点をどこに置くかがかわってきます。

 

例えばバリュエーションをDCF法を用いて評価する場合は、正常収益力、運転資本、設備投資、ネットデット、事業計画等の分析が価値算定に影響を及ぼしますので、重点的に分析することになります。

 

 

③契約書の表明保証に記載すべき事項

デューデリジェンスで把握された検出事項のうち、価値算定に直接影響を与えるものでない事項(訴訟の有無、労務問題、法令違反等)がある場合には、契約書の表明保証に記載するかどうかを検討する必要があります。

 

これらは潜在的な簿外債務の項目が多く、網羅的に把握することが必要となります。特に労務問題は、多くの会社で大なり小なり発生しているため、事実関係を正確に把握し、漏れがないように記載することが必要です。

 

 

④買収後の統合に向けた事項

買収対象会社をどこまで統合するかは経営判断になりますが、統合する場合の必要事項は把握しておく必要があります。どこまで把握するかは、買手企業により異なるため、M&A担当者としては自社のM&Aの方針、リソースの有無等総合的に判断をする必要があります。

 

把握すべき事項としては一般的には、会計方針、管理会計の内容、内部管理体制、人事制度、使用しているシステム等が挙げられます。特に使用しているシステムは、M&Aにより使用できない場合は、追加でコストが発生する可能性があるため注意が必要です。

 

またカーブアウト案件等では、必要に応じて事業分離後の移行期間に提供するサービスをどのように買手・売手間でマネージメントするかを規定した契約書であるTSA(Transition Service Agreement)の締結により、売手企業から継続サービスを受けることもあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第1回:「製造業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~原価計算は?運転資本は?設備投資は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連記事]

■「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?~店舗ごとの貢献利益は?運転資金は?在庫リスクは?~

 

 

Q、製造業のM&Aを検討していますが、製造業の特徴や留意点はありますか?


製造業の特徴は、当たり前ですが製品を製造しているということです。製品を製造していると製造していないでは、経営管理上大きく異なります。なお、製造業といっても多岐にわたりますが、広く一般的な製造業について記載いたします。

 

製造業のビジネスは、簡潔に記載すると「部品調達→製造→販売」となります。良い製品・商品・サービスを販売することはどの業種でも同様に重要ですが、製造業では製造工程の改善等による自社内の努力による利益改善の余地が大きいことがまず重要な特徴となります。

 

また、自社内で製品の製造を行うため、一般的に製造部品の仕入額、製造人員の人件費、外注費が重要な費用項目となります。会社の費用構造を把握した上で、製品の製造の中でどの部分が会社の強みであり、また改善余地があるのかを把握することが重要となります。

 

例えば小売業であれば、A商品を100円で仕入れて150円で販売すると、A商品の売上総利益は50円となりますが、製造業では商品の製造原価を算出する必要があります。製造原価を算出すること、つまり原価計算ですが、この原価計算を正確に行わないと製品ごとの原価が分からず、150円で販売した場合に利益がいくらになるのかが不透明となってしまいます。

 

 

しかし中小企業の場合、原価計算を行っておらず、製品の原価を把握できないままに製造し販売していることも少なくありません。社長の頭の中には、なんとなくの原価が想定されていますが、専門家により原価計算を行うと、実は赤字販売をしていたというような事もあります。つまり、原価計算を正確に行っていないと、製品ごとの利益の大小がわからず、どの製品を重点的に製造し・販売するのが会社として良いのか等の経営判断を誤る可能性があります。

 

製造業は、「部品調達→製造→販売」となり、一般的に製品のリードタイムが長いため、運転資金が他の業種と比べて多額になる傾向にあります。

 

 

仕入の支払いサイト、製造にかかる期間、売上の回収サイト等を把握することで製品リードタイムが把握でき、必要な運転資本の把握が可能となります。併せて、在庫の棚卸の頻度や滞留状況、廃棄の実施状況等の確認もしましょう。

 

また、M&Aにより、製造する製品の種類や量が変更になる場合、どの工程がボトルネックになるのかを把握することも重要です。ボトルネックを事前に把握しておくことで、製造工程の変更や、投資による解消を早期から検討できるからです。

 

さらに、工場の設備や機械の実質的な耐用年数、現在の消耗度、設備投資の周期や金額等を事前に把握しておくことも重要です。売手企業は、M&A実施前に設備投資は積極的には行わず、むしろ抑えることが多いため、買手企業による買収後、設備投資により多額の出費が必要になる可能性があります。設備投資の予定等も踏まえて買収価格の交渉を行うことが望ましいでしょう。

 

製造業は、他の業種とは異なる様々な特徴や留意点があるため、事前にデューデリジェンス等を通じてこれらを十分に理解した上でM&Aに臨むことが必要です。