[解説ニュース]

貸家と敷地を所有する親が子に貸家を贈与し、敷地を使用貸借で貸付け後に死亡した場合の敷地の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

 

 

1.貸家建付地の相続税法上の評価


土地付き建物の所有者が建物を他に貸付けている場合、その建物の敷地を「貸家建付地」といいます。貸家の借家人には建物敷地の利用権があり、所有者もその敷地の処分や利用が制限されます。よって貸家建付地を相続により取得した場合は、相続税計算上、土地所有者の自己使用地(自用地)としての評価額から借家人の有する敷地利用権相当額(=自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)を控除して評価をします(財産評価基本通達通26)。

 

 

2.使用貸借により土地を貸していた個人に相続が発生した場合の、その土地の相続税法上の評価の原則


使用貸借に係る土地を相続により取得した場合、その土地に係る相続税法上の評価額は、自用地としての価額となります(使用貸借通達3)。

 

建物の所有を目的として使用貸借により土地を借受けた場合の借主の使用権は、借地借家法が適用されず、借主には賃貸借による賃借権などの借地権とは違い、強い法的保護がなく、貸主は、その求めにより、いつでも無償で土地の返還を受けられます。よって、使用貸借に係る土地の使用権の経済的価値は極めて低いと考えられ、その相続税評価額はゼロとされます。つまり、使用貸借に係る土地の貸主側のその土地の相続税法上の評価は、【自用地の価額-使用貸借の使用権の価額(=0)】により、自用地としての評価となります。

 

 

3.貸家とその敷地を所有する親が、子に貸家を贈与し、その敷地を使用貸借により貸し付け後に親が死亡した場合の敷地の相続税評価


(1)原則的な考え方

貸家とその貸家の敷地を所有する親が、貸家のみを子に贈与し、その敷地を子に使用貸借により貸付けている場合、貸家贈与後のその貸家敷地の相続税法上の評価の原則的な考え方は、前述2と同様に、自用地評価となります。自用地として評価する理由につき、使用貸借通達3の取扱いを解説した「令和2年11月改訂版相続税法基本通達逐条解説」(以下「逐条解説」)867頁は次のように述べています。「…すなわち、一般に、使用貸借により借り受けた土地の上に建物が建築され、その建物が賃貸借により貸し付けられている場合における、その建物賃借人の敷地利用権は、建物所有者(土地使用借権者)の敷地利用権から独立したものではなく、建物所有者の敷地利用権に従属し、その範囲内において行使されるにすぎないものと解されている。したがって、土地の使用借権者である建物の所有者敷地利用権の価額をゼロとして取り扱うこととした以上、その建物賃借人の有する敷地利用権についてもゼロとして取り扱うことは当然であり、また、その土地自体の価額も自用であるとした場合の価額によるべきと考えられるからである。」

 

(2)貸家に係る賃貸借契約が贈与前に既に締結されており、贈与後から敷地の相続による取得の時までその契約が継続している場合の貸家の敷地の評価

表題の場合、その貸家の敷地の相続税法上の評価は、次の理由により貸家建付地としての評価とされます(参考:「逐条解説」867頁~868頁)。

 

貸家の贈与前は、貸家の所有者である親がその敷地の所有者でもあり、貸家の所有者である親と貸家の借家人との間で締結された賃貸借契約に基づき、貸家の借家人は貸家を通じてその敷地利用権を有しています。その敷地利用権は敷地の所有権に対するものであり、判例(最判昭和38年2月21日民集17巻1号219頁、最判昭和41年5月19日民集20巻・989頁参照)において、貸家借家人の有する敷地利用権は、貸家が第三者に譲渡された場合でも侵害されないとしています。つまり、借家人の権利の保護の観点から、その貸家の譲渡(贈与や相続による所有権の移転も含むと解されます)により、貸家自体の土地に対する利用権が使用貸借となっても、借家人の従前の敷地の所有権に対する敷地利用権が、敷地の使用貸借による利用権(ゼロ評価)に対する敷地利用権に変わることはないということです。

 

表題の場合の貸家の借家人は、相続で新たにその貸家の敷地の所有者が変わっても、それより前の贈与の前に取得している貸家の敷地に対する利用権は侵害されることなく有しているため、その敷地は、相続で誰に取得されても、引き続きその処分や利用が、その利用権により直接制限されるため、表題の場合の貸家敷地の評価額は、自用地としての評価額から貸家建付地と同等の減額を行うのが当然といえます。以上により、表題の場合の貸家の敷地の相続税法上の評価は、前述 (1)にかかわらず、貸家建付地としての評価とされます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/07/26)より転載

[解説ニュース]

同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

■相続税法64条1項の同族会社等の行為又は計算の否認規定の適用要件

 

 

1.はじめに


相続又は遺贈(「相続等」)により非上場株式を取得した個人がその株式を発行した会社(評価会社)の同族株主に該当する場合、その株式の相続税評価額は常に原則的評価方式により評価すると考えがちです。

しかし、同族株主である個人が有する議決権割合によっては、その相続等により取得した株式を特例的評価方式により評価する場合もありえます。

 

2.同族株主のいる非上場会社で、同族株主グループに属する個人が相続等により取得したその会社の株式の相続税評価


「同族株主」とは、原則、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその親族等の「同族関係者」の所有議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上である場合における、その株主及びその同族関係者(以下、両者をあわせて「同族株主グループ」という。)をいいます(財産評価基本通達188(1))。

同族株主グループに属する個人株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価方式は、その取得後の議決権割合(その株主の有する議決権数÷評価会社の議決権総数)に応じ、次のとおりとなります(財産評価基本通達178・188)。

 

(1)その議決権割合が5%以上の同族株主の株式原則的評価方式により評価します。

 

(2)その議決権割合が5%未満の同族株主の株式

 

①評価会社に中心的な同族株主がいない場合は、原則的評価方式により評価します。

 

②評価会社に中心的な同族株主がいる場合は、その同族株主が次のいずれに当たるかに応じ、それぞれに掲げる方式で評価します。
イ.中心的な同族株主は、原則的評価方式により評価します。
ロ.課税時期において評価会社の役員である同族株主または課税時期の翌日から法定申告期限までの間に評価会社の役員となる同族株主は、原則的評価方式により評価します。
ハ.イ及びロ以外の同族株主が取得した株式は、特例的評価方式により評価します。

 

③「中心的な同族株主」とは、同族株主のいる会社の株主で、課税時期において次のイ〜ハの株主グループの有する議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の25%以上である場合における、その株主をいいます(財産評価基本通達188(2))。
イ.同族株主の1人
ロ.イの株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び一親等の姻族
ハ.イ及びロの者の同族関係者である会社のうち、イ及びロの者が有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である会社

 

3.事例による非上場株式の相続税評価方式の判定


非上場会社の㈱Y(議決権総数10,000個)の代表取締役の甲が死亡し、その遺言により甲所有の㈱Yの株式を、甲の長男Aと孫C(次男Bの子)が取得しました。これにより長男Aの有する㈱Yの議決権数は9,600個、孫Cの有する議決権数は400個となりました(甲に係る相続税の申告期限において、Aは㈱Yの役員ですが、Cは役員ではありません)。この場合、AとCが取得した㈱Y株式の相続税評価は、次のとおりとなります。

 

(1)長男Aの取得した株式の評価方式

Aは㈱Yの議決権総数の96%を有する同族株主です。したがって、Aが取得した㈱Yの株式の評価方式は前述2(1)より、原則的評価方式となります。

 

(2)孫Cの取得した株式の評価方式

Aは中心的な同族株主となり、㈱Yは中心的な同族株主のいる会社となります。これに対し、Cは同族関係者(叔父)であるAとあわせて㈱Yの議決権をすべて有するので、同族株主に該当します。Cについて中心的な同族株主の判定を行うと、Cが有する㈱Yの議決権数は議決権総数の4%(25%未満)、C以外の㈱Yの株主は叔父のAのみであり、株主のなかにCの配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族はいません。よってCは中心的な同族株主には該当しません。また、Cの有する㈱Yの議決権数は議決権総数の5%未満であり、かつCは甲に係る相続税の申告期限までに㈱Yの役員となるわけでもありません。したがって、Cが取得した㈱Yの株式の評価方式は、前述2(2)②ハより、特例的評価方式となります。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/4/12)より転載

[解説ニュース]

特定生産緑地制度の税務上の留意点について

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(猪狩 祐介/税理士)

 

 

 

【問】

私は東京都A市に農地を所有し、農業を営んでいます。私の父は所有していた農地の全部について、A市より平成4年(1992年)11月に生産緑地の指定を受けており、私は父から平成10年にその生産緑地の全部を相続し、農業相続人として農地等に係る相続税の納税猶予(措法70の6)の適用を受けています。

 

生産緑地の指定を継続する場合には、その指定の告示から30年経過する前に、A市による「特定生産緑地(生緑法10の2)の指定(10年継続)」を受ける必要があると聞きました。生産緑地の指定から30年を経過する2022年において、特定生産緑地の指定を受ける場合と受けない場合とで、私の相続税の納税猶予や固定資産税の課税にどのような影響がありますか。

 

【回答】

1.特定生産緑地制度の概要


①特定生産緑地制度とは

特定生産緑地制度とは、市町村が、生産緑地指定から30年を経過する日(申出基準日)が近く到来することとなる生産緑地のうち、その周辺の地域における公園、緑地整備の状況など勘案して、申出基準日以後もその保全を確実に行うことが良好な都市環境の形成を図る上で特に有効であると認められるものを、特定生産緑地として指定することをいいます(生緑法10の2)。いわば再指定され た生産緑地を特定生産緑地といいます。

 

②特定生産緑地の指定を受ける場合

特定生産緑地の指定を受けると、10年間の営農義務が課されますが、固定資産税は、従来通り農地課税(低い金額)になります。相続税の納税猶予も営農している限り継続されることになります(措法70の6)。また、特定生産緑地の指定を受けた後でも、生産緑地の所有者である主たる従事者が死亡した等の場合は、相続人が相続税の納税猶予の適用を受けることや、買取りの申出をして生産緑地の指定の解除をすることができます(生緑法10)。

 

③特定生産緑地の指定を受けない場合

特定生産緑地の指定を受けない場合、農地に対する固定資産税は5年をかけて段階的に宅地並み課税になります。現在受けている相続税の納税猶予については、当代に限り継続されますが、次の世代では、生産緑地の指定を受けていないことから、新たに相続税の納税猶予を受けることができません。

 

 

 

 

2.農業相続人の有無別の特定生産緑地の指定と税務上の留意点


特定生産緑地の指定をめぐる税務上の取扱いは、あなたの相続時に相続人となる人のなかに、農業の後継者(農業相続人)がいるかどうかにより、次の通りに区分されます。

 

①農業相続人がいる場合
相続税の納税猶予の適用を受けている場合には、猶予を継続するため、終身営農が必要となります。特定生産緑地の指定を受けなかった場合でも、営農している限り、あなたの納税猶予は打ち切りになりませんが、あなたの親族に農業の後継者がいる場合であっても、あなたの相続において相続税の納税猶予の適用を受けることができず、固定資産税も宅地並み課税となるため、特定生産緑地の指定を受けておくことが望ましいと考えられます。

 

②農業相続人がいない場合
次の世代に農業相続人となる人がいない場合

 

(イ)特定生産緑地の指定を受け10年間営農を継続する(10年毎に継続の可否を判断)
(ロ)30年経過前に買取りの申出を行い、生産緑地の指定を解除し、土地の有効活用を行う。
(ハ)特定生産緑地の指定を受けず、買取りの申出も行わず、いつでも買取りの申出ができる状態で営農を継続する。

 

の3つから選択することになります。

 

引き続き税制上のメリット(固定資産税の農地課税、相続税の納税猶予)を受けるためには、上記(イ)を選択することとなります。対して、宅地に転用して活用するのであれば(ロ)(ハ)を選択することになります。ただし、買取りの申出を行うと、納税猶予が打ち切りとなり、あなたは相続税額と利子税を一括で納付することになります。

 

 

将来農地をどのように維持するかは、税制面からも重要な問題です。特定生産緑地の指定を受けるかどうかについては、農地税制に詳しい税理士に相談しながら検討してください。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/09/23)より転載

[解説ニュース]

生前贈与がある場合の相続税申告の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(林 陽子/税理士)

 

 

[関連解説]

■特別縁故者に対する相続財産の分与と相続税

■贈与税の個人版事業承継税制の適用対象となる贈与者の要件

 

 

1. 相続開始前3年以内の贈与


(1)概要

相続又は遺贈により財産を取得した者が、被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産があるときは、被相続人の相続財産に贈与を受けた財産の額(贈与時の価額)を加算し、加算された者の相続税の計算上、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額を控除します。

 

但し、次の財産については加算する必要はありません。

 

①贈与税の配偶者控除の特例を受けている又は受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
②直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
③直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
④直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額(相続開始時に残額がある場合は、残額を相続財産に加算)

(国税庁HP・タックスアンサー「贈与財産の加算と税額控除」より抜粋・加筆/相続税法第19条)

 

(2)留意点

この規定は、相続又は遺贈により財産を取得した者が対象です。相続人であるかどうか、遺産を取得したかどうかだけで判断しがちですが、死亡保険金など相続税法において相続財産とみなされる財産を取得した者についても、この規定の対象となります。

 

判断を誤りやすいのは、次のような事例です。

 

(加算もれ)
・相続人でない孫が、遺贈により財産を取得した場合
・相続放棄した相続人が、死亡保険金を受け取った場合

 

(誤って加算)
・相続人であるが、遺産を取得せず、死亡保険金などのみなし相続財産も取得しない場合(生前贈与のみ有)

 

 

2. 相続時精算課税制度を適用した贈与


(1)制度の概要

相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降全てこの制度が適用されます。

 

また、この制度の贈与者である父母又は祖父母が亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額を加算し、加算された者の相続税の計算上、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額を控除します。

(国税庁HP・タックスアンサー「相続時精算課税制度の選択」より抜粋・加筆/相続税法第21条の15)

 

(2)留意点

この制度を選択した年分以降は、その選択に係る贈与者からの贈与については、暦年課税の基礎控除(110万円)は使えません。また、この制度の特別控除額(2500万円)以下の贈与で贈与税を納めていない場合や、申告をし忘れている場合でも、相続財産に加算する必要があります。贈与税の申告をしたかどうか、贈与税が課されたかどうかにかかわらず加算しますので、注意が必要です。

 

 

3. 加算する贈与財産の価額と控除する贈与税額


相続財産に加算する贈与財産の価額は、相続開始時の財産の状況にかかわらず、贈与時の価額によることとされています。

 

相続開始前3年以内の贈与については、「贈与により取得した財産の価額」と、相続時精算課税制度による贈与については、「適用を受けるものの価額」と規定されています。「申告書に記載した価額」ではありません(相続税法第19条①,第21条の15①)。

 

では、申告をした贈与財産の価額に誤りがあった場合、贈与税や相続税の申告はどうなるのでしょうか?

 

評価額が過大だった場合、贈与税の更正の請求ができる期限内であれば、更正の請求により贈与税を減額することができます(国税通則法第23条)。

 

評価額が過少だった場合、贈与税の更正(税務署が税額等を更正する手続き)の期限内であれば、速やかに修正申告することが必要です。修正申告書の提出が無い場合は、更正処分を受ける(税務署が税額等を職権で更正する)ことになります(国税通則法第19条,第24条)。

 

 

このように期限内に誤りに気付いた場合は、贈与税について正しい評価額を申告等したうえで、相続税の申告を行います。

 

なお、期限後に誤りに気付いた場合は、実際の申告がどうであれ、贈与財産の正しい評価額を相続財産に加算しますが、相続税額から控除する贈与税額は、「課せられた贈与税」とされているため、誤った評価額に基づく贈与税額(実際の申告額)を相続税額から控除することになります(相続税法第19条①, 第21条の15③)。

 

最近、相続時精算課税制度と事業承継税制を併用して、生前に非上場株式を贈与する事例が増えてきました。

 

生前に贈与した財産を相続財産に加算して相続税の申告をする際は、加算する贈与財産の価額が正しい価額であるかの確認が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/06/22)より転載

[解説ニュース]

土地区画整理事業の施行区域内にある宅地の相続税評価額

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(芦沢 亮介/公認会計士・税理士)

 

 

[関連解説]

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

■底地の相続税法上の評価 VS 不動産鑑定士による評価

 

 

1.土地区画整理事業とは


土地区画整理事業とは、都市計画区域内の土地について、公共施設(道路、公園等)を整備改善し、土地の区画を整え宅地の利用の増進を図るため、都道府県・市町村・土地区画整理組合などが、土地区画整理法に従って施行する事業をいいます。その事業では地権者からその権利に応じて少しずつ土地を提供してもらい、この土地を道路等の公共用地に充てる他、その一部を売却して事業資金の一部に充てることになります。地権者においては、その事業後の宅地地積は従前に比べて小さくなりますが、道路や公園等の公共施設が整備され、土地の区画が整うことにより、利用価値の高い宅地を得ることができます。そして、事業の施工期間は10数年~と長期間に渡ることが多く、進捗状況に応じて宅地の評価方法が異なります。

 

2.土地区画整理事業の大まかな流れ


 

3.土地区画整理事業の施行区域内にある宅地の評価


【2.①の段階の相続税評価の方法】

土地区画整理事業の計画を策定し、換地設計(当事業前の土地(従前の宅地)に対して、どのような換地を定めたらよいかの計算をして図面に割込み、換地の案(換地図)を作成すること)が行われる段階では、宅地は「従前の宅地」の価額により評価します。

 

【2.②の段階の相続税評価の方法】

施行区域内の地権者が新しく割り当てられる土地を「換地」と言います。工事完了後に地区内のすべての換地を、その位置形状に基づいて登記する行政処分を「換地処分」といいます(2.③④の段階)。しかし、施行区域の土地は広いため場所によって工事の完了時期は大きく異なります。よって、先に工事が終わった土地の使用を目的として、換地処分を行う前に「仮に」換地を指定することを「仮換地の指定」と言います。仮換地の指定により、換地設計に基づいて新しく使える仮換地の位置・形状・地積が指定されます。

 

仮換地の指定が行われた宅地は、状況によって相続税評価の方法が異なります。❶仮換地の使用収益が開始されている場合は、「仮換地」の価額で評価します。❷仮換地の造成工事が施行中であり使用収益が開始されていない場合は、課税時期から工事が完了するまでの期間が1年以内であれば上記の「仮換地」の価額で評価しますが、その期間が1年を超えると見込まれる場合には、仮換地の評価額の100分の95相当額により評価します。❸造成工事が未着手であり、かつ、土地区画整理法第99条第2項の規定により仮換地について使用又は収益を開始する日を別に定めるとされているため、その仮換地について使用又は収益を開始することができない場合には、「従前の宅地」の価額で評価することになります(財基通24-2)。

 

【2.③の段階の相続税評価の方法】

全体の工事が終わったら確定測量を行い、換地計画(事業の施行者が換地処分を行う場合に、従前の宅地が整理後どのような換地になるのかを定める計画をいう。)を定めて換地の権利関係を確定し、従前の宅地と換地の価格差を調整するための清算金の額を定めます。換地処分により徴収又は交付されることとなる清算金のうち、課税時期において確実と見込まれるものがあるときには、その金額を評価上考慮して、徴収されるものは「仮換地の価額」から減算し、交付されるものは加算して評価します(国税庁質疑応答事例「土地区画整理事業施行中の宅地の評価」)。

 

【2.④の段階の相続税評価の方法】

知事が換地処分の公告を行うことで土地区画整理事業に係る債権債務関係が確定し、仮換地に対する権利関係は換地へ移ります。この段階では宅地は「換地」の価額で評価することになります。

 

【その他の評価方法】

上記の評価方法を一律に適用することが適当ではない状況がある場合には、税務署に対して個別評価申請を行って評価するものとされており、評価対象地の財産評価基準書(路線価図等)に、個別評価である旨が記載されています。但し、個別評価の申請先は個別評価を行う評定担当税務署であり、納税地を所轄する税務署ではない場合もあります。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/06/11)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「遺言書に沿った遺産の分割が合意に至っていない場合の相続税の申告について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

■【Q&A】分割協議により遺言と異なる者が財産を取得した場合の贈与課税の有無

 


[質問]

被相続人の自筆証書遺言があります。裁判所の検認も受けており、遺言書としての法的効力も認められております。

 

法定相続人に相続させる旨、及び、法定相続人以外(甥、姪など)に遺贈する旨が書かれておりますが、相続人間で遺産分割に関して揉めており、遺言書通りに執行できず遺産分割ができない状況です。

 

この場合、相続税の申告は、申告期限までに、遺言書に基づいて申告を行うのか、もしくは未分割財産として申告を行うのか、どちらが正しいのでしょうか。

 

 

[回答]

ご照会の事例は、遺産の分割が行われておりませんので相続税法55条の定めるところにより未分割遺産に対する課税の手続きによることになります。

 

被相続人の遺産は不動産、動産、無形資産など多様な構成となっており、その個々の遺産を承継する地位を有する相続人等がどのように取得するかを定めるのが遺産分割です。例えば、被相続人甲の遺産にA町に所在する地積100㎡、価額500万円のa土地とB町に所在する地積100㎡、価額500万円のb土地があるという場合において、それぞれ法定相続分2分の1を有する相続人乙および丙がいずれもa土地の取得を望んだとする法定相続分が等しくa土地とb土地の地積および価額も等しいところから、その所在地の別を如何にするかだけが問題として残されます。この点について協議してそれぞれの相続する土地を決めるのが遺産分割協議であり、個々の遺産について個別にその取得者を定めるために遺産分割の協議は行われます。

 

ご照会の事例では、この遺産分割の協議が行われない状態にあり、相続税の申告は上記のとおり相続税法55条の定めに従い申告手続きを進めることになります。

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年12月09日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

2次相続の申告後に、1次相続に係る遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定した場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■遺留分侵害額の請求があった場合の税務上の取扱い

■遺留分制度を潜脱する意図で利用された信託(東京地裁H30.9.12)

 

 

 

【問】

私(C)の祖父(A)は、X1年1月に死亡しました(以下「1次相続」)。祖父はすべての財産1,000を私の父(B)に相続させるという遺言を残しており、これに対して叔母(Z)が遺留分侵害額請求をしてきました。

 

また、X1年2月、父(B)が死亡しました(以下「2次相続」)。父はすべての財産を私(C)に相続させるという遺言を残していました。

 

祖父(A)の相続税の申告期限までに叔母(Z)への支払額が確定しなかったため、1次相続に係る父(B)の相続税申告は、祖父(A)の遺言通り、父(B)が1,000すべてを相続したものとして、X1年11月に行いました。

 

また、父(B)の相続税の申告期限までにも叔母(Z)への支払額が確定しなかったため、2次相続に係る私(C)の相続税申告は、父(B)に祖父(A)から相続した1,000の財産があるものとして、X1年12月に行いました。

 

その後、X2年2月に、遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定し、叔母へは200を支払うこととなり、その結果、父(B)が相続した財産は800となりました。

 

この場合、1次相続に係る父(B)の相続税申告、及び2次相続に係る私(C)の相続税申告において、更正の請求をすることはできますか?

 

 

 

〔親族関係図〕
822-1.png

 

 

〔1次相続に係る課税価格〕

 

〔2次相続に係る課税価格(1次相続の影響のみ記載)〕

 

 

【解説】

1. 相続税法における更正の請求


相続税の申告書を提出した者は、遺留分侵害額請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、その申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、その確定したことを知った日の翌日から4か月以内に、更正の請求をすることができます。

 

2. 本問への当てはめ


(1)1次相続に係るBの相続税申告

上記1の規定のとおり、B(実際に手続をするのはその相続人)は、更正の請求をすることができます。
なお、1次相続に係る相続税申告についてBが更正の請求をする場合、Zが期限後申告をしなければ、Zは決定処分を受けることになります。ただし、更正の請求及び期限後申告をしたとしても、しなかった場合と比べて相続税の総額は変わらないため、実務的にはこれらの申告等を行なわず、当事者のB・Z間で修正税額の精算のみを行うこともあります。

(2)2次相続に係るCの相続税申告

上記1の赤字の箇所は、次の波線のような言葉を補って解釈するものと考えます。

その者(遺留分侵害額請求をされた相続に係る申告書を提出した者)が 遺留分侵害額請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、その 遺留分侵害額請求をされた相続の 申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、」

すなわち、上記1の規定は、遺留分侵害額請求をされた相続に係る申告(本問の場合、1次相続に係る申告)に関しての更正の請求について定められたものであり、遺留分侵害額請求とは直接関係のない申告(本問の場合、2次相続に係る申告)についても更正の請求を認めるという規定ではないと解されます。また、本問の場合、国税通則法の更正の請求事由にも該当しません。したがって、Cは、2次相続に係る相続税について更正の請求をすることはできないと考えます。

 

3. 最後に


上述のとおり、相続税法における更正の請求の規定は本問の場合の2次相続については適用されず、その結果、Cは1次相続においてBが相続しないこととなった財産200についても2次相続で相続税を負担しなければならないことになると考えます。

(参考:大阪国税局WAN質疑応答事例検索システム相続税関係2929)

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/25)より転載

[解説ニュース]

更正の請求による相続税の還付

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

1.国税通則法上の相続税の更正の請求


相続税の申告書を提出した人が、その申告書に記載した課税価格や税額等の計算について相続税法等の規定に従っていなかったこと、または計算に誤りがあったことにより相続税を納めすぎたときは、法定申告期限から5年以内に限り税務署長に対し、その申告に係る課税価格または相続税額等につき、減額更正の請求をすることができます(国税通則法23条第1項)。例えば、土地の評価を誤って過大に計算し、納税者が相続税を納めすぎた場合には、更正の請求をすることにより納めすぎた税金の還付を受けることになります。

 

更正の請求をする場合は、その請求に係る更正前の課税価格または税額等、更正後の課税価格または税額等、その更正の請求をする理由、その請求をするに至った事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正請求書に、更正の請求の理由の基礎となる「事実を証明する書類」を添付の上、税務署長に提出しなければなりません(同条第3項、同法施行令6条第2項後段)。

 

 

2.更正の請求の特例


法定申告期限から5年を経過した後であっても、次のような特段の事情が生じた場合には、更正の請求により相続税の還付を受けることができます。

 

(1)国税通則法上の特例

法定申告期限から5年経過後であっても、例えば次の事由に該当する場合、その事由が生じた日の翌日から起算して2ヶ月以内に限り、税務署長に対し更正をすべき旨の請求ができます(国税通則法23条2項、同法施行令6条第1項)。

 

 

①課税価格または税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解等を含む)により、その事実が計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。

 

②申告等をした者に帰属するものとされていた相続財産等が、他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正または決定があったとき。

 

③その申告、更正または決定に係る課税価格または税額等の計算の基礎となった事実にかかる国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈その他の国税庁長官の法令の解釈が、更正または決定にかかる審査請求もしくは訴えについての裁決もしくは判決に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたことにより、その課税価格または税額等が異なることとなる取扱いを受けることとなることを知ったこと。

 

 

(2)相続税法上の特例

相続の特殊性から上記1の他、相続税の申告書を提出した者または決定を受けた者が、例えば次のいずれかに該当する事由により、その課税価格や相続税額が過大となったときは、その事由が生じたことを知った日の翌日から4ヶ月以内に限り、税務署長に対し更正の請求ができます(相続税法32条、同法施行令8条第2項)。

 

 

①未分割財産につき民法に規定する相続分または包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていた場合に、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人または包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が、その相続分または包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったこと。

 

②民法に規定する認知、相続人の廃除またはその取消しに関する裁判の確定、相続の回復、相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと。

 

③遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと。

 

④遺贈に係る遺言書が発見され、または遺贈の放棄があったこと。

 

⑤相続もしくは遺贈または贈与により、取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと、その他一定の事由が生じたこと。

 

⑥相続税の期限内申告書の提出期限において未分割であった財産が分割されたことにより、その分割に基づき配偶者の税額軽減の規定を適用して計算した相続税額が、その時前において配偶者の税額軽減の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなったこと(①に該当する場合を除く)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/10)より転載

[解説ニュース]

医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予免除制度活用について

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(小林 良治/税理士)

 

1.医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度


令和2年度税制改正大綱により、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の改正を前提に、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予免除制度(以下、「本制度」と言います。)の適用期限が新たに3年間延長される見通しとなりました。今回は本制度の概要及びその活用についてお伝えします。

 

(1)本制度概要

相続人が出資持分あり医療法人の出資持分を相続等により取得した場合、その法人が出資持分なし医療法人への移行計画の認定を受けた医療法人であるときは、移行計画の期間満了まで相続税の納税が猶予され、持分を放棄した場合は、一定要件を満たすことにより猶予税額が最終的に免除されます(租法70の7の12)。また、出資者の持分放棄により、他の出資者持分が相対的に増加することで、贈与を受けたものとみなし他の出資者に贈与税が課される場合(全出資者が持分放棄した場合は医療法人に贈与税が課されます)も同様に移行計画の満了まで納税が猶予され、一定要件を満たすことで最終的に免除されます(租法70の7の9)。

 

(2)移行計画の認定申請、移行期限等

本制度の適用を受ける場合、まず移行計画提出等の申請手続き等で一定要件を満たして厚生労働省より認定を受け、認定後3年以内に出資持分なし医療法人に移行し、移行後6年間は厚生労働省に運営状況の報告を行うことで継続して認定要件を満たす必要があります。今回税制改正によりこの認定制度が令和5年9月30日まで延長される見込みです。

 

(3)本制度創設時

そもそも本制度は、出資持分あり医療法人の出資持分をなくすことで出資持分にかかる相続時等の税負担・出資者からの払戻請求額の負担軽減を図り、医業経営の安定化を目指すことを目的として平成26年に創設されました。しかし、当初は計画通りに出資持分なし医療法人に移行した場合でも移行時の税負担が免除されるケースは以下の3パターンであり極めて限定的でした。

 

①社会医療法人への移行
②特定医療法人への移行
③一定の非課税要件(相令33条3項)を満たす出資持分なし医療法人への移行

 

これらはいずれも公益性の担保された医療法人への移行を前提とするものであり、①~③への移行以外の場合は移行時に医療法人を個人とみなして贈与税を支払うこととされました。(相法66④)

創設時の本制度活用の主なメリットは、課税時期を最大猶予期間である3年間先送りできること等、当面の納税負担に関することでした。

 

 

2.平成29年度税制改正後


(1)認定要件の追加

平成29年度税制改正では運営に関する要件が追加され、新たに3年間延長されました。追加された主な認定要件は

 

①法人関係者に利益供与しないこと
②役員報酬について不当に高額にならないように定めていること
③社会保険診療収入に係る収入が全収入の80%超となっていること 等

 

となっており従来の認定要件が強化されました(ただし、非同族要件等は含まれておりません)。認定後3年以内の移行期間中の猶予の取り扱いは変わりませんが、従来と異なり移行時の贈与税負担は生じないこととなり(租法70の7の14)、前記1.(2)により認定要件を移行後6年間維持すること(認定取消時のみ医療法人に贈与税課税)で相続税・贈与税免除の可能性が広がりました。

 

(2)本制度活用の可能性

本制度が延長されてもなお出資持分なし医療法人への移行については慎重な検討が必要です。例えば出資持分なし医療法人の解散時残余財産は国等に帰属し出資払戻額の請求はできません。本制度の活用を検討すべきと考えられるのは、出資持分評価額が高く、現状のままだと承継時に多額の税負担が見込まれる場合や出資者間相互の関係が悪く、将来の払戻請求リスクを排除しておきたい場合等が考えられます。本制度選択の検討は円滑な承継を行うため有用であるのかそのきっかけを与えるものと言えるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/01/20)より転載

[解説ニュース]

相続人が米国の連邦所得税上の居住者である場合の手続、報告義務等

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

【前提】

父(日本国籍・日本在住)が死亡しました。相続人である長男(日本国籍)は、仕事の関係で2年前から米国に住んでおり、日本の市区町村に住民登録はありません。父の財産は、すべて日本の国内財産であり、長男はそのうち1,500万円ほどを相続予定です。

 

〔Q〕日本の相続税法における納税義務者と課税財産の範囲について教えてください。

〔A〕日本の相続税法では、被相続人が日本国籍かつ日本在住であれば、相続人の国籍や居住地に関係なく、相続人は日本の無制限納税義務者となり、相続により取得した国内財産・国外財産すべてに対して、日本の相続税が課税されます。本問の場合、長男は、相続により取得した財産すべてに対して、日本の相続税が課税されます。

 

 

〔Q〕米国の連邦遺産税における納税義務者と課税財産の範囲について教えてください。

〔A〕米国の連邦遺産税では、被相続人が米国市民又は米国居住者でなければ、被相続人は米国の制限納税義務者となり、被相続人の財産のうち、米国国内にある財産のみに対して、連邦遺産税が課税されます。
本問の場合、被相続人である父の財産は日本国内にしかないということですので、米国で連邦遺産税が課税される財産はありません。

 

 

〔Q〕日本の相続税の申告をする上で相続人の住民票や印鑑証明が必要な場合、日本の市区町村に住民登録がない長男はどうすればよいですか?

〔A〕米国の日本大使館や領事館で、住民票に代わる書類として在留証明書の、印鑑証明に代わる書類として署名証明書の発行を受けることができます。
在留証明は、どこに住所を有しているかを証明するものです。また、署名証明は、領事の面前で行われた私文書上の署名が申請された本人のものであることを証明するものです。

 

 

〔Q〕米国の居住者である長男にとって、相続後に米国で必要となる手続はありますか?

〔A〕上述のとおり、本問の場合には連邦遺産税は課税されません。しかし、米国の居住者である長男には次のような報告義務があります。怠った場合のペナルティもあるため、提出を忘れないよう、留意が必要です
(出所:税理士法人タクトコンサルティング編『Q&A国際相続の実務と国外転出時課税』Q125日本法令)。

 

 

(1) IRSへ相続財産の報告


①報告(Form 3520)
米国の居住者は、米国の非居住外国人から年間10万ドルを超える財産を相続や贈与により取得した場合には、原則として翌年4月15日までに、IRS(米国内国歳入庁)へ報告しなければなりません。

 

②ペナルティ
無申告や期限後申告の場合には、1万ドル以下の罰金が科されることがあります。

 

 

(2) 米国財務省へ米国外金融資産の報告


①報告(FinCEN Form 114)
米国の居住者は、米国外にある金融資産の年度内最高残高が1万ドルを超える場合には、翌年4月15日までに、米国財務省へその情報を報告しなければなりません。

 

② ペナルティ
報告漏れが意図的でないと認められる場合には1万ドル以下の罰金が、意図的に隠ぺいしたと判断される場合には10万ドル又は総資産残高の50%の大きいほうの金額以下の罰金が科されることがあり、さらに刑事罰が適用されるケースもあります。

 

 

(3)IRSへ米国外金融資産の報告


①報告(Form 8938)
米国の居住者は、米国外にある金融資産の合計残高が年度内に7.5万ドル超又は年末に5万ドル超(夫婦合算申告の場合はそれぞれ倍額)である場合には、翌年4月15日までに、IRSへその情報を報告しなければなりません。

 

②ペナルティ
報告漏れがあった場合等には、6万ドル以下の罰金が科されることがあり、さらに刑事罰が適用されるケースもあります。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/12/23)より転載

[解説ニュース]

特別縁故者に対する相続財産の分与と相続税

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(廣瀬 理佐/税理士)

 

 

[関連解説]

■離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-1/2 ~財産分与をする側~

■不動産の財産分与があった場合の不動産取得税

 

 

【事例】

被相続人甲は、平成28年1月に死亡しました。甲と生計を一にしていたAは、甲の死亡により死亡保険金7,000万円を取得したことから、平成28年11月に相続税の期限内申告をしました。

 

甲には相続人がいなかったことから、Aは家庭裁判所に対し甲の特別縁故者であるとして相続財産の分与を申し立てたところ、家庭裁判所の審判があり、平成30年5月1日に、被相続人が所有していた土地(相続開始時の相続税評価額:5,000万円、分与時の相続税評価額:5,500万円)の分与があったことを知りました。

 

①Aの相続税の修正申告書の提出期限はいつですか。
②相続税の計算における土地の評価額はいくらですか。
③Aが分与を受けた土地に係る相続税の課税関係は、平成28年と平成30年のいずれの法令に拠りますか。

 

 

1.特別縁故者が相続財産の分与を受ける場合

被相続人に相続人が存在しない場合などは、最終的に相続財産は国庫に帰属しますが、特別縁故者が財産を取得する場合もあります。

 

特別縁故者とは「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」(民法958条の3第1項)とされていますが、具体的に特別縁故者に該当するか否かは家庭裁判所の判断に委ねられています。

 

特別縁故者が相続財産の分与を受けるまでには次のような手続があり、事案により異なりますが、被相続人の相続開始から相続財産分与の審判の確定までには相当の期間がかかります(最短でも13か月以上)。

 

<相続財産法人の成立>
<相続財産管理人の選任と公告>
↓ 2か月以内
<相続債権者等に対する請求申出公告>
↓ 2か月以上
<相続人の捜索の公告>
↓ 6か月以上
相続人の不存在の確定
↓ 3か月以内
<「特別縁故者に対する財産分与」の申立て>

<相続財産分与の審判の確定>

 

2.相続財産の分与を受けた特別受益者に係る相続税

相続財産の分与を受けた特別縁故者は、被相続人から遺贈により財産を取得したものとみなされますが、その相続税の計算には次のような留意点があります。

 

(1)相続財産の評価

特別縁故者は「その与えられた時におけるその財産の時価に相当する金額」を取得したものみなす、と規定されており、例えば相続財産の分与により取得した土地等は、被相続人の相続開始日における時価ではなく、実際に分与を受けた時における時価(相続税評価額)で評価します。

 

(2)負担した債務又は葬式費用

特別縁故者が被相続人の入院費用等を負担していた場合でこれらの費用を別途相続財産から受け取っていない場合には、分与財産の額からこれらの費用を控除した価額をもって分与された価額として扱います。

 

(3)3年以内贈与加算

特別縁故者が被相続人から受けた相続開始前3年以内の贈与も3年以内贈与加算の対象となります。

 

(4)相続税の総額の計算

相続税の総額は相続財産の分与を受けた特別縁故者の課税価格(分与を受けた特別縁故者が2名以上いる場合には、その合計額)から基礎控除額を控除した後の残額に税率を乗じて計算します。被相続人には相続人がいませんので、基礎控除額は3,000万円です。

 

(5)相続税額の加算

特別縁故者も相続税額の2割加算の対象となります。

 

(6)税額控除

贈与税額控除と、分与を受けた相続財産の中に在外財産がある場合の外国税額控除の適用はありますが、その他の税額控除の適用はありません。

 

(7)相続税の申告期限

相続税の申告期限は、審判が確定し相続財産の分与を受けたことを知った日の翌日から10か月以内です。

 

 

3.事例へのあてはめ

①修正申告書の提出期限は、平成31年3月1日です。相続財産の分与により相続税額に不足が生じた場合でも修正申告による過少申告加算税はありません。
②土地の評価額は、5,500万円(分与時の相続税評価額)です。
③Aが分与を受けた土地に係る相続税の課税関係は、平成28年(相続開始時)の法令に拠ります。
(相続税法4条1項、相続税法基本通達4-3、4-4)

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/11/18)より転載

[解説ニュース]

配偶者居住権が消滅した場合の相続税・贈与税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■配偶者居住権等の評価

■配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

 

1.配偶者居住権の概要


被相続人の死亡時にその被相続人の財産であった建物に居住していた配偶者は、遺産分割又は遺言(以下「遺産分割等」)により、その居住していた建物(以下「居住建物」)の全部につき無償で居住したり賃貸したりする権利(=「配偶者居住権」)を取得することができます(民法1028条第1項)。

 

配偶者居住権の存続期間は、配偶者が亡くなるまで(遺産分割協議または遺言で別段の定めをした場合には、その期間)です(民法1030条)。

 

2.配偶者の死亡または期間の満了により消滅した場合の相続税・贈与税の取扱い


個人が対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合には、相続税法9条により、原則として、その利益を受けた時に、その利益を受けた時におけるその利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を、その利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなされます。

 

上記1のとおり、配偶者居住権を取得した配偶者が死亡した場合には、配偶者居住権が消滅します。この場合、居住建物の所有者はその居住建物について使用収益することが可能となったことを利益と考え、上記相続税法9条の規定と同様に居住建物の所有者に対してみなし課税をするという考え方もあります。しかしこれは配偶者の死亡に伴い、民法の規定により予定どおり配偶者居住権が消滅するものであり、配偶者から居住建物の所有者が相続により取得する財産がないことから、相続税は課税されません(相続税法基本通達9-13-2注書)。

 

配偶者居住権の存続期間が終身ではなく、10年などの有期で設定されていた場合に、その存続期間が満了したときも、民法の規定により予定どおり配偶者居住権に基づく建物の使用収益が終了することから、移転し得る経済的価値は存在しないと考えられ、贈与税は課税されません。

 

なお、居住建物の敷地の所有者についても、上記と同様の取扱いがされます。

 

3.配偶者居住権がその存続期間の満了前に消滅した場合の贈与税の取扱い


前述1のとおり、民法は配偶者居住権の存続期間を「配偶者が亡くなるまで(遺産分割協議または遺言で別段の定めをした場合には、その期間)」と定めており、原則として当初設定した存続期間の中途で変更することはできません。

 

ただし、配偶者が用法遵守義務*に違反した場合や、居住建物の所有者の承諾を得ないでその建物の改築や増築または第三者に対する賃貸を行った場合には、居住建物の所有者は配偶者に対して期間を定めて是正の催告を行い、その期間内に是正されないときは配偶者居住権を消滅させることができます(民法1032条第3項、第4項)。また、配偶者が配偶者居住権を放棄又は居住建物の所有者と合意することにより、配偶者居住権を解除することが可能と解されています(堂薗幹一郎・野口宜大「一問一答 新しい相続法」(商事法務)29頁Q20参照)。

 

*民法1032条第1項により、配偶者は従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって居住建物を使用することが義務付けられています。

 

 

配偶者居住権の存続期間の満了前に何らかの事由により配偶者居住権が消滅することとなった場合、居住建物の所有者は、その期間満了前に居住建物の使用収益ができることとなります。その配偶者居住権の消滅により、配偶者から所有者に使用収益する権利が移転したものと考えられることから、相続税法9条の規定により配偶者から贈与があったものとみなされ、居住建物の所有者に対して贈与税が課税されます。

 

具体的には、前述の理由によりその配偶者居住権は消滅した時において、その建物の所有者または建物の敷地の用に供される土地の所有者が、①対価を支払わなかったとき、または②著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則、その建物や土地の所有者が、その消滅直前に、その配偶者が有していた配偶者居住権の価額またはその配偶者居住権に基づき土地を使用する権利の価額に相当する利益の額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を、その配偶者から贈与により取得したものとして取扱われ(相続税法基本通達9-13-2)、贈与税が課税されます。

 

なお、居住建物の敷地の所有者についても、上記と同様の取扱いがされます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/11/05)より転載

[解説ニュース]

介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(小泉紀子/税理士)

 

 

[関連解説]

■介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

■小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等の規制強化

 

 

1.はじめに


最近相続税申告で、介護施設で亡くなられた場合の小規模宅地等の特例を適用するケースが増えてきているように思われます。今回は、その適用にあたって留意する点をお伝えします。

 

2.概要


介護施設で亡くなった場合でも、被相続人が入所前に居住していた家屋の敷地の用に供されていた宅地等は、次の要件を満たすと、小規模宅地等の特例における「被相続人の居住の用」に供していたものとされます(措令第40の2②、③)。

 

①相続開始の直前に、被相続人が「要介護認定」又は「要支援認定」を受けていること
②老人福祉法等に規定する介護施設等に入所していたこと
③被相続人が居住していた家屋は、入所後に事業の用又は新たに被相続人以外の居住の用に供されていないこと

 

3.要介護認定の申請中に死亡した場合


要介護認定又は要支援認定を受けていたか否かの判定時期は、「相続開始の直前」とされています。

では、介護施設に入所していた被相続人が、要介護認定の申請中に亡くなった場合はどうなるのでしょう。

このような場合に、相続開始後に要介護認定があったときには、要介護認定はその申請のあった日にさかのぼってその効力が生ずることとなり、相続開始の直前において要介護認定を受けていた者に該当するものとして取り扱うことが認められています。

 

4.添付書類


被相続人が介護施設に入所していた場合の小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続税の申告書に次の書類を添付する必要があります。

 

①被相続人の戸籍の附票の写し(相続開始の日以後に作成されたもの)
②介護保険の被保険者証の写しなど、被相続人が要介護認定又は要支援認定を受けていたことを明らかにする書類
③施設への入所時における契約書の写しなど、その介護施設の名称及び所在地並びにその施設が老人福祉法等に規定する介護施設であることを明らかにする書類

 

①~③の書類のうち、実務上入手に困るのが②の書類です。介護保険の被保険者証は、亡くなると市区町村役場へ返却することになっているため、相続税申告にあたりご用意頂く書類を相続人の方へ伝える頃には、市区町村役場へ返却してしまっていることが多いです。市区町村役場に申請して別途要介護又は要支援の状態であったことを証明する書面を出してもらうことも可能ですが、手間がかかりますので、もしお伝えできるタイミングがありましたら、写しをとっておいてもらうことをお勧めします。

 

5.介護施設に入所中に自宅を相続した場合


以下の事例において、被相続人甲の自宅の建物を「本件家屋」、その敷地の用に供されている宅地等を「本件宅地等」とします。

 

被相続人甲はA有料老人ホームの入所前に、本件宅地等を居住の用に供していましたが、A有料老人ホームの入居中に本件家屋及び本件宅地等を配偶者乙から相続し、その後本件家屋に戻ることなく死亡しました。

 

この場合、被相続人甲は、A老人ホーム入居の直前においては本件宅地等を居住の用に供していたものの本件宅地等の所有者ではなく、本件宅地等を取得した後はこれを居住の用に供していないのですが、本件宅地等は、小規模宅地等の特例対象となるのでしょうか。

 

これについては、国税庁の平成30年12月7日付の文書回答事例で次のような見解が認められています。

 

すなわち、「相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等が、小規模宅地等の特例対象となる居住用宅地等に該当するか否かは、被相続人が有料老人ホーム等に入所して居住の用に供されなくなった直前の利用状況で判定することとされていますが、その時において被相続人が宅地等を所有していたか否かは、法令上特段の規定は設けられていないことから、小規模宅地等の特例の対象となる宅地等に該当すると解され、特例の適用を受けることができると考えられます。」

 

なお、小規模宅地等の特例の適用判定は難しいため、適用にあたっては十分に要件を確認することが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/10/15)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「相続税・贈与税の事業承継税制について~資産保有型会社の判定で採用する基準~」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

■【Q&A】事業承継税制の要件における会社の代表権を有していたことの意義

 


[質問]

資産保有型会社の判定において、貸借対照表に計上されている帳簿価額で判定することとされています。

中小企業においては、株式交換等の組織再編を行った場合などには税務基準で会計処理を行うことが一般的だと思われます。しかし、結合会計等の会計基準との金額のかい離が大きいため、どの基準によるかにより結果が大きく異なります。組織再編以外にも中小企業においては税効果会計、減損会計等の会計処理は、通常行われていないように思います。

 

意図的に税務基準、会計基準を使い分けし、要件をクリアにすることも可能な素地があるかと思いますが、あくまでも法人が採用している会計基準で判定するとの理解で良いですか。

 

 

[回答]

1 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除(の特例)の適用を受けることができない「資産保有型会社」を次のように定義しています(措法70の7②八、70の7の5②三)。

 

資産保有型会社とは、贈与の日又は相続開始の日の属する事業年度の直前の事業年度開始の日から贈与税額又は相続税額の全部につき納税猶予に係る期限が確定する日までの期間(措令40の8⑲)において、次の算式による割合が100分の70以上となる会社をいう、とされています。

 

 

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Aは、その日におけるその会社の総資産の貸借対照表に計上されている帳簿価額の総額

 

Bは、その日におけるその会社の特定資産(現金、預貯金、有価証券、書画骨董、その会社が自ら使用していない不動産、ゴルフ会員権、親族等に対する貸付金等をいいます。)の貸借対照表に計上されている帳簿価額の合計額

 

Cは、その日以前5年以内において、後継者及びその後継者と特別の関係がある者がその会社から受けた剰余金の配当等の額及び損金不算入となる役員給与の額の合計額

 

 

 

2 法令により資産保有型会社の定義を上記のとおりその法人が採用している経理方法による貸借対照表上の計上金額により判定することとされていますので、仮装経理など実体のない計上金額でない限りお尋ねの理解でよいと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年4月25日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産の売買契約中に買主に相続があった場合の評価

■最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

 

 

1.はじめに


今回は最近の相続税の財産評価をめぐり、家屋の評価で特別の事情が認められるかどうかが問われた裁判例を取り上げます。

 

2.相続税の家屋評価


相続税の計算をする場合には、不動産や株式などの現物の相続財産については、金銭的価値を見積もり評価する必要があります。この際に指針となるのが、国税庁の財産評価基本通達(以下、財基通という)です。

 

財基通の評価の原則1⑵では「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(中略)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による」とされています。評価の際には「財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する」(財基通1⑶)ことになっています。

 

さて、家屋の評価は「その家屋の固定資産税評価額(地方税法第381条(固定資産課税台帳の登録事項)の規定により家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。以下この章において同じ。)に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価」します(財基通89からの引用)。

 

固定資産評価基準(以下、評価基準という)における家屋の評価方法は、建物の構造や設備などの所定の部分について評点数をつけ積算し、建築後の年数に応じた経年減点補正率と評価の年の評点1点当たりの金額を乗じて評価額を求めます。また必要に応じて損耗減点補正、需給事情による減点補正が出来ます(評価基準第2章)。

 

そして、①評価基準及び財基通が、評価方法として合理的であること、②評価基準・財基通の通りに家屋が評価されていること、③明らかに「時価」を超えていないこと、④評価基準・財基通により評価することが適切ではない特別の事情がないこと、この4つを満たす限り、評価基準及び財基通による評価が適正な評価額と推認されるという考え方になっています。

 

3.家屋評価で争いになった裁判例


ここで取り上げる家屋の評価の裁判例は、古い家屋のうち1戸の評価について、「特別の事情」があるため不動産鑑定評価額約300万円で相続税の当初申告、不動産鑑定評価額約400万円で修正申告等をしていた納税者が、税務署から財基通に基づく評価約1,800万円で更正され、争いになった事例です(札幌地裁平成31年3月8日判決、他の争点もありますがここでは割愛します)。

 

4.納税者の主張


納税者は概略「築後約20年から40年が経過したものであり、老朽化が見受けられるものであるから、その評価に際しては、必要な経年減価が行われるべきである。しかし、評価基準及び財基通においては、最低20%という高い補正率(経年減点補正率)が採用されており、減価が不十分なものとなっている」と指摘し、特別の事情があるとしました。

 

そのうえで納税者は「「時価」(中略)の算定方法は評価通達の定める評価方式に限られるものではなく、不動産鑑定評価によってその算出を行うことも可能」との考えで不動産鑑評価額が「客観的な交換価値を反映した評価である」と主張しました。

 

5.裁判所の判断


裁判所は「評価基準により算出された価額を基にして家屋の評価を行う評価通達の定めも、家屋の客観的な交換価値を算出する方法として一般的な合理性を有するもの」と認めました。

 

そのうえで、納税者が「経年減点補正率の下限が20 %と極めて高く、家屋の実際の取引価格との帯離が著しく大きい」ことから評価方法として、一般的な合理性がないと指摘した点について、裁判所は経年減点補正率だけでは適当と認められない場合に個別事情を踏まえた減点補正ができることから「評価基準の一般的な合理性を否定する事情にはならない」としました。

 

また鑑定評価額と財基通に基づく評価額に乖離があることについて裁判所は、「時価を評価する方法として客観的で、一義的なものがあるわけではなく、その評価額にも自ずと一定の幅が生じることは避けられない。(中略)相続財産について評価通達の定める評価方法によって算出した額が不動産鑑定評価基準に則って鑑定した額を上回る場合であっても、それはいずれも合理性を有する異なる評価(の)基準を用いて算出した結果が異なるものであることを意味しているにすぎず、評価通達の定める評価方式によって時価を適切に算定することができない特別の事情があることを推認させるものではない」として納税者の主張を退けています(判決文書からの引用、()括弧内・赤字は筆者加筆)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/09/02)より転載

[解説ニュース]

民法改正 ~特別の寄与~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

1. はじめに


民法改正により創設された「特別の寄与」について解説します(2019年7月1日以後の相続から適用)。

 

2. 特別の寄与に関する民法規定(民法1050①②⑤)


特別寄与者(下記3.参照)は、相続開始後、相続人に対し、その寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができます。また、その支払いについて当事者間に協議が調わない場合等には、一定期間内に、家庭裁判所にそれに代わる処分を請求することができます。

 

相続人が複数いる場合には、各相続人は法定相続分又は指定相続分に応じて特別寄与料を負担します。

 

3. 特別寄与者の要件(民法1050①)


(1)被相続人の親族(相続人、相続放棄をした者、及び相続権を失った者を除く)であること
(2)被相続人に対して無償で療養看護その他の労務提供をしたこと
(3)上記(2)により、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと

 

4. 相続税法における取扱い


(1)特別寄与料の支払確定前

特別寄与料は、当事者間で協議が調うまで、又は家庭裁判所の審判があるまでは、その支払いが確定しません。したがって、その支払確定前は、請求中であったとしても特別寄与料の支払いがないものとして相続税を計算します。

 

(2)特別寄与料の支払確定後 ※1
①特別寄与者

(a) 相続税の計算(相法4②)
特別寄与料の額が確定した場合には、特別寄与料相当額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、相続税を計算します。

 

(b) 相続税の申告期限等(相法29①、33)
上記(a)による計算の結果、納付すべき相続税額がある場合には、特別寄与料の額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の期限内申告書を提出し、相続税を納付しなければなりません。

 

②相続人

(a) 相続税の計算(相法13④)
特別寄与料の額が確定した場合には、「各相続人が相続又は遺贈により取得した財産の価額から特別寄与料の額のうちその相続人の負担に属する部分の金額を控除して、相続税を計算します。

 

(b) 相続税の申告期限等(相法27①、32①、33)

5.税務上の留意点等


(1)相続税額の2割加算(相法18)

特別寄与者となり得る者の多くは、相続税額の2割加算の適用対象者でもあるため、特別寄与料の支払いがあった場合には、基本的に、同一の被相続人に係る相続税の納税総額は増加する点に留意が必要です。

 

(2)特別寄与者が相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産がある場合(相法19)

特別寄与者が被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産があるときは、相続税の計算上、贈与財産の加算と贈与税額控除の適用があります。特別寄与料の額のみを申告すればよいわけではない点に留意が必要です。

 

(3)特別寄与料を金銭ではなく不動産や有価証券等の現物で支払った場合

特別寄与者が有する特別寄与料の支払請求権は、民法上、金銭債権とされています。したがって、相続人がその金銭債権に係る債務を履行するために、特別寄与者に対して不動産や有価証券等の現物を移転した場合には、その相続人が代物弁済をしたものとして取り扱われます(民法482)。

 

税務上、代物弁済があった場合には、その代物弁済により移転する資産の譲渡があったものとして取り扱われます。すなわち、代物弁済により譲渡所得の基因となる資産を移転する場合には、原則として代物弁済により消滅する債務の額(特別寄与料の額)を譲渡所得の総収入金額として譲渡所得を計算することになります。

 

(4)特別寄与料に相当する金額の贈与をする場合

上記(1)に記載のとおり、特別寄与料を加味して相続税申告をする場合には、基本的に納税総額は増加します。

 

また、期限内申告書の提出後に特別寄与料の額が確定したような場合には、あらためて相続税の申告書等を作成しなければならないという実務上の煩雑さもあります。

 

特別寄与料の額、追加で納付することとなる税額、専門家報酬の額等によっては、実務上は、民法の「特別の寄与」の制度によることなく(相続人から特別寄与者への特別寄与料の支払いではなく)、相続人と特別寄与者との合意により、「相続人から特別寄与者への特別寄与料相当額の金銭の贈与」をし、贈与税の申告・納付で解決することもあると考えます。

 

 

※1 特別寄与者は、特別寄与料以外の財産を被相続人からの遺贈により取得していないものとします。
※2 相続人は、相続税の期限内申告・納付をしている場合を前提とします。

 

 

 

 

 

 

 

法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/26)より転載

[解説ニュース]

配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■配偶者居住権が消滅した場合の相続税・贈与税の取扱い

■配偶者居住権等の評価

 

 

1.配偶者居住権の意義


被相続人の死亡時にその被相続人の財産であった建物に居住していた配偶者は、遺産分割または遺言により、その居住していた建物(以下「居住建物」)の全部につき無償で居住したり賃貸したりする権利(=「配偶者居住権」)を取得することができます(民法1028条第1項)。

 

2.配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例


(1)小規模宅地等の特例の概要

小規模宅地等の特例とは、個人が相続等により取得した宅地(土地又は土地の上に存する権利をいう。以下「宅地等」。)のうち被相続人又は被相続人と生計をーにしていた被相続人の親族(被相続人等)の事業の用又は居住の用に供されていた一定の宅地等(下図の4区分)について、相続税の申告期限までその宅地等を保有し、事業や居住の用に供するなど一定の要件を満たす場合は、被相続人等に係る相続税の計算上、一定の面積(限度面積)までの部分について、その相続税の課税価格を次のとおり減額する特例をいいます(租税特別措置法69条の4)。

 

 

(2)配偶者居住権等と小規模宅地等の特例の適用

配偶者居住権自体は、建物に関する権利であることから、宅地等に係る特例である、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。
配偶者が配偶者居住権を取得した場合における、居住建物の敷地の利用権は、前述(1)の「土地の上に存する権利」に該当することから、上図④の特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
居住建物の敷地の所有権についても、その取得者が居住建物に被相続人と同居していた等の要件を満たすことにより、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます(租税特別措置法69条の4第1項、第3項2号・財務省「平成31(令和元)年度税制改正の解説」539頁)。

 

3.配偶者居住権等と相続税の物納


(1)相続税の物納の概要

相続税法は、納税義務者が延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、税務署長の許可を受けることにより、その納付を困難とする金額を限度として金銭以外の一定の財産による納税(物納)が認められています(同41条第1項)。
相続税の物納に充てることができる財産(物納財産)とは、原則、納税義務者の相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産(相続時精算課税の適用を受ける財産を除く。)で、日本国内に所在するもののうち一定のものをいい、譲渡制限が付されている株式など一定の財産は、管理処分に不適格な財産(「管理処分不適格財産」)として物納財産から除外されています(相続税法41条第2項、同施行令18条)。また物納財産が複数ある場合には、相続税法上、物納に充てることができる財産の順位が定められています(相続税法41条第2項、第5項)。

(2)配偶者居住権等と物納の適用

配偶者居住権自体は譲渡が禁止(民法1032条第2項)されていることから、上記3(1)の「管理処分不適格財産」に該当し、物納に充てることができません(相続税法41条第2項)。
配偶者居住権が設定された建物およびその敷地の所有権は、他の財産に比べて物納の順位が後れる「物納劣後財産」とされ、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り、物納に充てることができます(同法第4項)。

 

4.適用時期


上記2(2)と3(2)の取扱いは、配偶者居住権に関する民法の施行日である、令和2年4月1日以後に開始する相続により取得する財産に係る相続税について適用されます(改正法附則1条7号ロ)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/13)より転載

[解説ニュース]

令和元年分の路線価公表・地価上昇による相続税への影響

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(厚地満里 /税理士)

 

1.路線価4年連続上昇


国税庁は7月1日、令和元年分の路線価を記載した路線価図を同庁のホームページで公表しました。

http://www.rosenka.nta.go.jp/

 

全国の平均路線価は4年連続で上昇傾向にあり、その上昇率は前年対比で平成30年分の「+0.7%」を上回る「+1.3%」となりました。現在国税庁のホームぺージでは、平成25年分以降の路線価を確認することができます。

 

都道府県別の路線価では、19都道府県で前年より上昇しました。上昇率の上位を見ると、観光客数が増えている沖縄が8.3%と2年連続で全国トップ、2位は東京が4.9%、都市部の再開発が進む宮城が4.4%で3位と続いています。一方、路線価が前年より下落したのは27県で、内22県は下落幅が縮小しているものの、大都市圏や集客力のある観光地と、それ以外の地域との二極化の傾向が続いています。

 

2020年にオリンピック・パラリンピックの開催を控えた東京は、平均路線価が6年連続の上昇中で、訪日外国人の増加に加えて、再開発やホテルの建設が着々と進み、都心部で地価のバブル傾向が続いています。路線価の変動率を見ると、外国人観光客で賑わう浅草・雷門通りの上昇は前年対比で35%上昇と都内最高でした。大学キャンパスの進出が相次ぐ北千住駅前も大きく上昇、複数の路線が乗り入れる利便性の高さから、マンションの建設も続いています。

 

2. 土地の相続税評価額への影響


相続税・贈与税の宅地の評価額は、固定資産税評価額に評価倍率を乗じて算出する地域を除き、基本的には一平方メートル当たりの土地の評価額である路線価に地積を乗じて算出します。つまり路線価の上昇がそのまま相続財産の総額、そして相続税の納税に影響してきます。

 

ここ数年は商業地だけでなく、立地の良い住宅地でも毎年数万円単位で路線価が上昇してきました。現状の路線価ベースで相続税額を試算してみると、何年か前に試算した時より納税額が驚くほど増えていたというケースをよく見かけます。これまで手持ちの金融資産で何とか納税ができそうと考えていた方は、今改めて現状把握をしていただきたいと思います。

 

3.地価の上昇と小規模宅地の評価減の関係


小規模宅地の評価減の特例とは、相続人がその生活を維持するために欠くことのできない被相続人の自宅や事業用の土地を相続した場合に、土地の価額を一定の面積まで50%もしくは80%減額して評価することができる制度です。

 

例えば自宅の宅地の価額が1億円ですと、この制度の適用により価額の80%が減額されますので、相続税の課税対象となる宅地の評価額は2千万円になります。その効果は絶大である上に、現在のように路線価が高い時程、大きな効果を表します。小規模宅地の評価減の適用要件は事前に確認しておきたいところです。

 

4.最後に


空家や空地、その他子供や孫が今後引き継いでいくことが難しい物件があり、いずれは売却をと考えているようでしたら、地価が高騰して市場が動いている時は売却の好機です。相続税の納期限は相続開始から10か月しかありません。相続発生後に、納税のために物件を売却しようとしても、相続人間で話を取りまとめて換金に至るには余りに時間が短く、何よりその時市場が動いていなければ売却の目途が立ちません。問題を先送りしてタイミングを逸してしまわないように、家族でよく話し合い準備しておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/05)より転載

 [解説ニュース]

 介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(関口正二/税理士)

 

1.概要


新しい元号となり「人生100年時代」を見据えた生き方に対する対応が必要となっています。
配偶者の死別等により単身の高齢者が増加しています。一人暮らしを続けてきたものの、体調面から介護が必要となり、家族に迷惑をかけたくはない等との理由から自宅から介護施設等に入所するケースが今後も増加していくことが予想されます。
今回は、自宅から介護施設等の入所後に相続が発生した事例での税務上の取扱いを解説します。

 

2.介護施設等入所後、自宅の売買契約中に相続が発生した場合の譲渡所得と相続税の取扱い


【事例】

母は、亡父から相続した自宅の土地建物で一人暮らしをしてきましたが、介護施設の入所(入所時に入所一時金及び敷金支払済)を機に空き家となった自宅土地建物を譲渡するため不動産売買契約を締結しました。

 

不動産売買代金       総額  9千万円
売買契約日(2019年1月) 手付金   2千万円
残金決済日(2019年4月末) 残金  7千万円

 

しかし、残金決済日直前の2019年4月中旬に母に相続が発生しました。居住用財産の譲渡特例及び相続税の取扱いはどうなりますか。

 

【回答】
(1)譲渡所得の取扱い

 

土地建物の譲渡所得の金額の計算上「総収入金額に計上すべき時期」は、納税者の選択により「資産の引き渡しがあった日」または「譲渡契約の効力発生の日」のいずれかとすることができます。

 

「譲渡契約の効力発生の日」を選択して亡母の準確定申告で譲渡所得の申告をした場合には、亡母の居住用財産(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡)として居住用財産の譲渡特例(措法35)の適用が可能となり税務上有利となります。また、譲渡所得に係る個人住民税の納税義務者は譲渡した翌年の1月1日時点で住所地がある方となります。よって、亡母の譲渡所得の住民税は発生しないことになります。

 

また、「資産の引き渡しがあった日(残金決済日)」を選択し相続人の確定申告で所得税に係る譲渡所得の申告をすることも可能です。この場合には、相続人は居住していなかったため居住用財産の譲渡特例(措法35)は適用不可です。しかし、相続財産の譲渡として相続税の取得費加算特例(措法39)の適用は可能です。

 

 

(2)相続財産、相続債務の取扱い

 

売買契約中の土地等及び建物について、売主に相続が開始した場合には、相続等により取得した財産は、当該売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権となります。本事例では残金の7千万円が未収入金として相続財産となります。

 

相続財産が土地等ではないため小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例(措法69の4)の適用の検討は不要です。

 

相続発生により介護施設は退去と同様となり、入所時に支払った入所一時金(前払金)の一部及び敷金が相続人に返還されることとなります。この返還された金額は、亡母の金銭債権として相続財産に該当しますのでご注意ください。

 

また、上記(1)において「譲渡契約の効力発生の日」を選択することで亡母の準確定申告において発生した所得税等は、亡母の債務として相続税の債務控除の対象となります。

 

3.老人ホーム入所後の自宅敷地の小規模宅地等の特例


【事例】

母は、7年前に一人暮らしの自宅から介護付の老人ホームに入所しましたが2019年2月に相続が発生しました。自宅は、3年前からマイホームを持っていなかった次男家族が居住しています。
この自宅敷地について特定居住用の小規模宅地等の特例(措法69の4)の適用は可能でしょうか。

 

【回答】

老人ホームに入所したとしても、下記の要件を満たすことにより、従前の自宅敷地は特定居住用の小規模宅地等の特例が適用できます。

 

(1)被相続人が介護保険法等の要介護認定、要支援認定を受けていたこと(措令40の2②一)。
(2)入所施設が老人福祉法、介護保険法等に規定する一定の施設であること(措令40の2②一)。
(3)介護施設等入所後に、従前居住していた家屋を事業の用又は被相続人等以外の居住の用に供していた事実がないこと(措令40の2③)。

 

本事例では、母の施設入所後に自宅が新たに他の者(次男家族)の居住の用に供されているため、上記(3)の適用要件を満たしておらず、小規模宅地等の特例の適用はできません。介護施設等入所後の自宅の用途は、相続税申告において注意を要します。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/27)より転載

[解説ニュース]

相続時精算課税を選択した非上場株式に係る贈与税の納税猶予:贈与者よりも先に受贈者が死亡した場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 

1.相続時精算課税の贈与者が死亡した場合の相続税


(1)概要

相続時精算課税は、その年の1月1日時点で20歳以上である個人が、同日時点で60歳以上である父母 又は祖父母(原則)から財産の贈与を受けた場合、贈与税の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」その他一定の書類を贈与税の申告書に添付して納税地の所轄税務署長に提出したときに選択できる税制です(相続税法21条の9等)。

 

相続時精算課税の適用を受ける贈与の贈与者(「特定贈与者」)が死亡した場合、その適用を受けた受贈者(「相続時精算課税適用者」)の相続税額は、その死亡時までに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の贈与時の価額と、特定贈与者から相続又は遺贈(「相続等」)により取得した財産の評価額と合わせて相続税額を計算し、既に課された相続時精算課税による贈与税を控除して算出します(同21条の14、21条の15)。

(2)相続時精算課税適用者の有していた相続税の納税に係る権利義務の承継

特定贈与者の死亡以前に、その特定贈与者に係る相続 時精算課税適用者が死亡した場合、同適用者の相続人は、同適用者が有していた[相続時精算課税の適用を受けたことによる納税に係る権利又は義務]を承継します(同21条の17第1項)。

 

例えば、特定贈与者のAの死亡前に相続時精算課税適用者の長男Bが死亡した場合、Bの相続人は、Aが死亡した時に長男の代襲相続人としてAから相続で取得した財産の価額に、Bが相続時精算課税の適用を受けたAからの贈与財産の価額(Bが贈与を受けた時の価額)を加えて、Aに係る相続税額を計算します。

 

2.非上場株式等に係る贈与税の納税猶予(一般措置)


(1)概要

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当する会社で、同法による都道府県知事の認定を受けたものの株式について、その会社の代表権を有していた先代経営者(「贈与者」)から贈与を受けた受贈者が、一定の要件を満たすその会社の後継者(「経営承継受贈者」)である場合は、経営承継受贈者が納付すべき贈与税のうち、その非上場株式 (一定の部分に限る。以下「特例受贈非上場株式」)に対応する額の納税が、その贈与者の死亡の日まで猶予されます(租税特別措置法(措法)70条の7第1項)。

(2)特例受贈非上場株式に係る猶予税額の免除

(1)の猶予税額は、①その贈与者の死亡より先に経営承継受贈者が死亡した場合、②経営承継受贈者より先にその贈与者が死亡した場合のいずれのときにも、その全部又は一部が免除されます(同第15項1号、2号)。

(3)(2)②の場合の特例

(2)②の納税猶予の適用を受けていた場合において、経営承継受贈者より先に贈与者が死亡するなど一定の要件を満たすときは、経営承継受贈者は、(2)②のとおり猶予税額が免除されるものの、贈与税の納税猶予の適用を受けた非上場株式を贈与者から相続等により取得したものとみなされ(措法70条の7の3第1項前段)、相続税の課税対象とされます。
なお、この規定は、(2)①の場合には適用はありません(同かっこ書)。

 

3.贈与者よりも先に経営承継受贈者が死亡した場合(=2(2)①)の相続時精算課税に係る相続税額の計算


相続時精算課税を選択して贈与税の納税猶予の適用を受けた受贈者が贈与者よりも先に死亡した場合には、同適用者(=経営承継受贈者)の相続人は1(2)の適用を受け、贈与者が死亡したときに、同適用者が負う相続時精算課税の義務(特に1(2)の下線部の計算)を負うのではないかという疑問が生じます。

 

この点については、平成31年度税制改正により贈与者よりも先に経営承継受贈者が死亡した場合、2(2)より免除を受けた猶予税額に対応する特例受贈非上場株式については、1(1)の計算規定が適用されず、贈与者に係る相続税額の計算には含まれないこととされました(措法70の7第13項9号)。ただし相続時精算課税の適用を受けた同株式以外の財産には、原則通り1(1)の規定が適用されます。

 

なお「非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例措置」(措法70の7の5)においても、上記と同様の取扱いがなされます(同第10項)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/20)より転載