[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第11回】PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー

 

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(大和田 寛行/公認会計士・税理士)

 

 

▷第8回:PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?

▷第9回:PPAで使用する事業計画とは?

▷第10回:PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー

 

 

当連載では,前回まで10回に渡ってPPAにおいて基礎となる考え方や認識プロセス及び測定プロセスにおける前提条件や算定方法等について解説を行ってきました。第11回は,それらの論点について具体的な設例を用いて解説を行います。

 

 

 

 

【設例】

X0年12月31日にX社がY社の全株式を3,000百万円で購入した。X社はもともと消費財のメーカーであるが,OEMでの受託生産のみを行っており,自社で商品を販売するブランドも流通網も有していなかった。そこで,X社は高い知名度を持つブランド「Z」(日本において商標登録されている)を保有し,それを販売する小売店への流通網を持った国内のY社を買収することとなった。なお,X社の会計基準は日本基準である。また,クロージング日はX0年12月31日であるため,評価基準日をX0年12月31日とする。事業計画は図表1の通りである。

 

 

【図表1】事業計画と株式価値

 

 

1.算定手順の解説

(1)無形資産の認識

 

まず,認識すべき無形資産の検討を行います。本設例の場合,買収対象のブランドは高い知名度を持ち,かつ商標登録もされていることから分離して譲渡可能という無形資産認識の要件を満たすと考えられます。さらに,流通網についても対象会社にとっての顧客である小売業者との取引関係が顧客資産として無形資産の認識要件を満たすと考えられます。以上から,認識される無形資産は商標権(ブランド)と顧客資産の2点となります。

 

 

(2)クロージングB/Sの確認(図表2)

 

次に,クロージング日時点のB/Sにおける運転資本,固定資産,投資等の残高を確認します。

本設例では下記のとおりとなります。

 

運転資本=現預金50+売上債権700‐仕入債務550=200

固定資産=1,200

投資等=300

 

 

【図表2】クロージングB/S(単位:百万円)

 

 

ここで確認した運転資本及び固定資産の金額は,無形資産測定の際,超過収益法におけるキャピタルチャージの計算にも使用されます。

 

また,この段階で無形資産認識前の広義ののれんが2,346百万円となることを確認します。

 

 

(3)採用する事業計画及びWACCの決定

 

無形資産を測定するために採用する事業計画の検討を行います。事業計画が複数ある場合は,一般的な市場参加者からみて最も合理的と考えられる事業計画を採用することに留意します。

本設例においては,株式の取得価額3,000百万円をサポートする事業計画(図表1)を採用します。

 

通常,WACCは買収検討段階の株式価値算定時に用いられた割引率や,投資案件の想定IRR(内部収益率)を勘案して設定されます。本設例では,株式取得価額3,000百万円のベースとなる事業計画上のWACCである10%を採用します。

 

 

(4)各資産の期待収益率の仮設定

 

採用する事業計画とWACCが決まったら,WARAがWACCと整合するように各資産の期待収益率を設定します。通常の実務では,B/Sの資産・負債残高や無形資産の測定値等が変わる度にWARAが変動し,その都度資産の期待収益率を調整していく作業が必要となります。

本設例では,運転資本,固定資産,商標権,顧客資産,のれんの期待収益率を下記のとおりとします。

 

 

 

(5)無形資産の測定

①商標権(図表3)

ここから,無形資産の測定プロセスに移ります。本設例の商標権は,インカム・アプローチの代表的手法であるロイヤリティ免除法により測定を行います。

 

【前提条件】

・ロイヤリティレート:3%

・商標は日本で登録されており,クロージング時点の残存保護期間は5年,今後1回の更新が見込まれている。日本における商標権の法的保護期間は10年である。

・商標権の税務上償却期間は10年である。

・事業計画期間経過後売上高は毎期1%増加するものとする。

 

 

以上を織り込んだ計算過程が図表3です。経済的耐用年数は残存保護期間に更新後の保護期間10年を加えた15年としています。

 

 

【図表3】商標権の評価

 

 

②人的資産の算定(図表4-1及び4-2)

顧客資産の測定の前に人的資産の算定を行います。現在と同規模の100名の人員を再雇用し教育訓練を行うと仮定した場合のコストに基づいています。

 

実務上,人的資産の期待収益率はのれんの期待収益率もしくはWACCとされることが多いです。

本設例では,のれんの期待収益率である13%としています。

 

 

【図表4-1】人的資産の見積り(節税効果考慮前)

 

 

【図表4-2】償却による節税効果の計算

 

 

③顧客資産の測定(図表5)

最後に超過収益法により顧客資産の測定を行います。経済的耐用年数については,取引実績等に基づき8年で顧客が入れ替わる想定を置き,減少率12.5%(1/8年)を用いています。

 

なお,複数の無形資産を認識する場合には,無形資産相互の関係性や事業への貢献度合について検討し,測定に反映することが必要となります。

本設例では,商標権(ブランド)の貢献が基礎にあり,その上で顧客資産の構築・維持が行われてきたものとの考えに立ち,顧客資産の測定上,商標権へのキャピタルチャージを行っている点にご留意ください。

 

④測定結果の確認(図表6及び7)

以上の測定結果をまとめたものが図表6及び7です。図表6において,各資産の期待収益率,WARA及びWACCの関係性について再度ご確認ください。また,図表7において,無形資産が計上される場合,会計上の一時差異に該当し,繰延税金負債が計上され,同額ののれんが増加する点についてご留意ください。

 

 

【図表5】顧客資産の評価

 

 

【図表6】WARAとWACC

 

 

【図表7】PPAの結果

 

 

2.まとめ

今回解説した設例では,実務でも非常に多くみられる商標権及び顧客資産が計上される例を取り上げました。数値や前提条件については可能な限り簡素化に努めましたが,無形資産の算定手順についてご理解頂けたでしょうか。

 

次回(最終回)は,PPAにおける実務上のポイントについて解説します。

 

 

—連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?(2020年12月下旬公開予定)

 

 

 

 

 

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第10回】PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー

 

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(松本 久幸/公認会計士・税理士)

 

 

▷第7回:WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?

▷第8回:PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?

▷第9回:PPAで使用する事業計画とは?

 

 

1.PPAにかかる無形資産評価の特殊論点

第6回にてロイヤリティ免除法と超過収益法を解説した際,計算例を掲記しましたが,その中に「償却による節税効果の計算」が含まれていました(図表1の①参照)。

 

これは,インカム・アプローチ(ロイヤリティ免除法や超過収益法)を用いる場合に採用されている考え方で,PPA実務における特徴的な論点です。

 

また,超過収益法の計算例においては人的資産という概念(図表1の②参照)が出てきましたが,こちらは更に,超過収益法を用いるときにのみ使われる考え方となります。

 

今回は,節税効果と人的資産という,PPAに関する特殊論点について解説します。

 

 

 

 

 

【図表1】超過収益法の計算例(償却による節税効果の計算と人的資産)

 

 

2.無形資産の償却による節税効果について

(1)節税効果を考慮する意味

PPAにかかる無形資産評価においてインカム・アプローチを採用する場合,無形資産の償却による節税効果を無形資産の価値へ考慮することが求められます。

 

これは,図表2をご覧頂ければ分かる通り,株式を取得して連結子会社とした場合と,無形資産そのものを購入した場合において,両スキームとも無形資産を取得するということにおいて経済的効果は同様ですが,償却による節税効果が得られるかどうかについてはスキームによって異なります。

 

その場合,実態を捉えて,一方のスキームについては償却による節税効果を考慮し,他方のスキームについては考慮しない,とすると,買収スキームによって無形資産の評価結果が異なることとなります。

 

無形資産評価の実務においては,市場参加者の観点からの公正価値を測定することが求められるため,買収スキームによって無形資産の価値は変わらない,という考え方のもと,償却による節税効果については無形資産の価値へ考慮することが求められます。(ただし,節税効果のあるスキームの場合のみ節税効果が評価に考慮されるべき,という考え方も否定されるべきものではない,という考え方もあります(日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第57号)。)

 

 

【図表2】スキームによって節税効果の有無が変わる

 

 

それでは,節税効果を無形資産評価に考慮するとは,どのようなものでしょうか。

 

その考え方は,図表3に記載しています。償却による節税効果は無形資産評価額から計算されるものである一方,無形資産評価額は償却による節税効果が確定しなければ求められません。そのため,図表3に記載の通り,償却による節税効果を無形資産の価値へ上乗せするという計算を永久に繰り返していきます(循環計算)。その計算を数字に表したものが図表1の①の計算となります。

 

なお,この計算は考え方の理解が難しいものですから,実務上は概念を理解しておけば十分です。

 

 

【図表3】節税効果の計算概念

 

 

(2)節税効果計算のポイント

節税効果計算の際の償却期間について

 

買収対象会社が日本国内の会社の場合,税務上の償却は,法人税法上の耐用年数によることから,節税効果の計算においても税務上の耐用年数を用いることとなります。

 

ただし,商標権や特許権のように,税務上耐用年数が定められている資産については当該耐用年数を用いればよいのですが,顧客資産や技術資産のような税務上の耐用年数が定められていないものについては,それら無形資産は税務上の資産調整勘定に含められて償却されることから,資産調整勘定の耐用年数を用いることとなります。

 

日本におけるPPAにて認識される無形資産と節税効果を計算する際に用いる耐用年数の関係については,図表4の通りです。

 

一方,海外の会社を買収した場合はどうなるのでしょうか?買手が日本国内の会社の場合,買手が得ると想定される償却による節税効果を考慮すると上述と同様となります。

 

また,買収対象会社が得ると想定される節税効果を考慮すると,買収対象会社が税金を納める国における税務上の耐用年数となります。

 

結論としては,市場参加者の観点から,一番経済的合理性が高いと考えられる国における耐用年数を選択することになりますが,実務上は,買収対象会社の本社のある国の税務上の耐用年数を用いることが多いと考えられます。

 

節税効果計算の際の税率について

税率は,上記耐用年数の論点と全く同じでリンクします。税率は国によって差異があり,無形資産の価値に重要な影響を及ぼすケースも少なくありません。一方で,海外の税制や税率を精緻に把握することは難しい場合も多く,実務上のハードル・負担となっていると思われます。

 

以上のように,償却による節税効果については,計算に用いる耐用年数と税率さえ決定すれば難しくないものと考えられますが,上述のように,海外の会社を買収した場合においては,海外の税制や税率,耐用年数を把握することが難しいケースもあって,実務上留意が必要と考えられます。

 

 

【図表4】 日本における無形資産と税務上の耐用年数の関係

 

 

*3で説明した人的資産については,超過収益法の計算上の概念ですが,実務上,人的資産の計算においても償却による節税効果を考慮する必要があるものと考えられます。

 

 

 

3.人的資産について

人的資産は,インカム・アプローチにおける超過収益法を採用する場合にのみ出て来る概念です。超過収益法においては,「対象無形資産を活用している事業より生み出される利益から,事業活動において使用する資産が通常獲得すると想定される利益を差し引く(キャピタルチャージ)計算」が必要となりますが,その際の事業活動において使用する資産の一つとして人的資産が必要となります。

 

その概念はコスト・アプローチ的なものであり,買収時点における対象会社に所属する人員を,再度採用して教育研修した場合にかかるコストから求めることが多いです。

 

図表5は実務上使われている簡便的な計算例ですが,人員の採用費と,採用後の教育研修コストを大まかに見積もって人的資産を概算して,これをキャピタルチャージの計算に使用します。

 

なお,当該人的資産は,キャピタルチャージに用いるためだけに算出されるものであり,無形資産として認識されるものではありません。当該人的資産は,PPA上は残余としてののれん(狭義)の中に含まれることとなります。

 

 

【図表5】人的資産の計算例

 

 

4.最後に

今回は,PPAにかかる無形資産評価の特殊論点である,償却による節税効果と人的資産についての解説を行いました。これらの考え方は机上の理論であり,ビジネスの実務においてはなじみが薄いと感じる方も多いでしょう。PPAにかかる無形資産評価はこういった考え方をするものである,と捉えて,概念を理解して頂ければよいのではないでしょうか。

 

次回は,PPAプロセスの具体例を,買収からPPAまで数値を入れて解説します。

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー(2020年11月下旬公開予定)
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第9回】PPAで使用する事業計画とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(大和田 寛行/公認会計士・税理士)

 

 

前回は無形資産の経済的耐用年数について詳しく解説します。第9回は,無形資産評価において用いられる事業計画について解説します。なお,以下の解説は,無形資産の測定においてインカム・アプローチを採用する場合を前提としています。

 

 

▷第7回:WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?

▷第8回:PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?

▷第10回:PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー

 

 

1.使用される事業計画について

PPAにおける無形資産評価は,端的に言えば,事業計画上の将来キャッシュ・フローからもたらされる経済的価値を,無形資産の価値とのれんの価値に配分する手続です。

 

第5回でも解説したように,無形資産の評価は,公正価値アプローチに基づき行われます。

繰り返しになりますが,公正価値とは「測定日時点で,市場参加者間の秩序ある取引において,資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」であり,無形資産の評価は,一般的な市場参加者の見地に立って行わなければならないことを意味しています。

事業計画についても,上述のような公正価値アプローチに基づき策定されたものを使用することが求められます。

 

それでは,公正価値アプローチに基づき一般的な市場参加者の見地に立った事業計画とはどのようなものでしょうか。

 

 

 

 

 

M&Aのプロセスにおいて,企業価値や株式価値の算定にあたっては,複数の事業計画を用いて検討されることが一般的です。これは,将来のビジネスの予測にはリスクや不確実性が伴うためであり,競合状況や市場の成長性といった外部環境,新製品開発の成否やシナジーの発現等,企業内外のさまざま要素を考慮して複数のシナリオを想定することが通常です。

 

M&Aにおいては,当然のことながら,売り手は高く売却したいと考え,買い手は安く譲り受けたいと考えます。買収金額は,買い手と売り手が合意した価格ですが,買い手と売り手の交渉力等に左右されるものの,多くの場合,概ねスタンドアロン価格をベースに一定程度買い手のシナジーを加味した金額で合意されるものと考えられます。

 

 

【図表1】買収価格とシナジーのイメージ

 

 

無形資産評価の一般的な実務においては買い手「固有」のシナジーを除いた事業計画が使用されます。

「固有」とは,買い手のみがコントロールし実現できることを意味します。買い手固有のシナジーは,それを実現できる買い手にとってのみ価値を有するものの,一般的な市場参加者からみた場合その価値を実現できるものではないため無形資産の価値を構成しない,という考え方が基礎となっています。

買い手固有のシナジーによりもたらされるキャッシュ・フローは,無形資産ではなくのれんを構成することとなります。

 

一方で,買い手が実現可能なシナジーのうち客観的に見て誰が買い手となる場合であっても実現可能と考えられるシナジーは,事業計画上考慮しなければならない点には留意が必要です。

 

それらに該当するものとしては,例えば,事業規模拡大に伴うスケールメリットや,管理体制一元化によるコスト削減といったシナジーが考えられます。

 

 

【図表2】WACC,IRR,WARAの関係図

 

 

 

2.実務上の対応

一般的な無形資産評価の実務では,買い手企業と外部評価者の間で,どの事業計画を無形資産評価において使用すべきかについてディスカッションが行われます。

 

その結果,実際の買収価額と整合的な事業計画が使用される場合が多いです。そのような事業計画は,案件によってベースケースであったり,コンサバティブケースであったりとさまざまですが,買い手固有のシナジーを含まない点において共通しています。

 

使用される事業計画を決定したら,当該事業計画数値をもとに無形資産の測定を行います。中でも重要なプロセスは下記の2点です。

 

 

(1)IRRの算定

買収価格と事業計画上の将来キャッシュ・フローをもとにプロジェクトのIRRを算出します。

第7回で解説したとおり,IRRの算定は無形資産の測定に用いるWACCが合理的な水準かどうかを確認するために行われます。IRRは,買収価格及び投資実行時期と,事業計画上の将来キャッシュ・フロー金額及びその発生時期を設定の上,エクセルのXIRR関数を用いれば容易に計算が可能です。

 

公正価値アプローチの考え方に立つと,ここで用いられる買収価格は一般的な市場参加者が想定する金額であり,買い手が支払ったプレミアムを除いた金額となります。

 

同時に,事業計画上の将来キャッシュ・フローについても,買い手固有のシナジー効果による影響を除外した金額となります。このような前提の下,算出されたIRRが,設定されたWACCに近似しているかどうかが判断のポイントとなります。

 

ここで留意すべきは,設定されたWACCの水準が無形資産価値に重大な影響を与えるという点です。WACCの合理性がIRRによって確かめられた後,当該WACCとWARAが一致するように無形資産を含む各資産の期待収益率が設定されることとなりますが,その水準によって,最終的に算定される無形資産の金額が大きく異なることはお分かり頂けるかと思います。

 

 

【図表3】キャッシュ・フロー配分の概念図

 

 

算出されるIRRは,買収金額とそれに整合する事業計画が入手可能な場合,当然のことながらWACCに近似する値となります。しかし,実務では,入手可能な事業計画が買収金額と整合しないケースもあり,その場合算出されたIRRと想定されるWACCに差異が生じることがあります。そのような場合,以下のような要因が考えられます。

 

 

① IRR<WACCとなるケース

一般投資家の想定よりも高い価格で買収が行われている,あるいは,買収価格に買い手が支払ったプレミアムが含まれてしまっている場合が考えられます。

 

また,事業計画が過度に弱気である可能性があります。例えば,事業計画に一般的な市場参加者からみて当然に享受できると考えられるシナジーが織り込まれていないような場合が考えられます。

 

 

② IRR>WACCとなるケース

一般投資家の想定よりも低い価格で買収が行われている,または,事業計画が過度に楽観的または強気である可能性があります。また,買い手固有のシナジー等がキャッシュ・フローに含まれてしまっているような場合も考えられます。

 

実務上は,上記要因による影響を勘案して,事業計画を一般的な市場参加者が想定する水準へ可能な限り調整し,WACCの合理性を判断することになります。

 

 

(2)価値測定におけるキャッシュ・フローの検討

 

続いて,ロイヤリティ免除法や超過収益法といった評価技法を用いて,無形資産の測定に使用する事業計画を基礎として,どのように無形資産の測定を行うかを検討することとなります。

 

事業計画上の将来キャッシュ・フローに基づき無形資産を評価することは,将来キャッシュ・フローの価値を,無形資産とのれんの価値に配分することです。

 

また,無形資産は,評価基準日時点に存在する顧客・契約・技術・製品等から生じるキャッシュ・フローに基づき測定・評価されます。よって,対象企業が将来獲得する顧客や契約,技術等からもたらされるキャッシュ・フローは,無形資産ではなくのれんの価値を構成することとなる点に留意が必要です。

 

 

① 商標権の場合

測定される無形資産が商標権の場合,評価手法は多くのケースでロイヤリティ免除法が採用されます。ロイヤリティ免除法は将来の売上高に一定のロイヤリティレートを乗じたロイヤリティ収入をもとに無形資産価値を算定する評価技法ですが,将来売上高は,使用される事業計画における商標関連事業の想定売上をそのまま採用することが一般的といえます。

 

 

② 顧客資産の場合

一方,顧客資産の場合は商標権と少々取扱いが異なる点に留意を要します。顧客資産の測定においては超過収益法を採用することが一般的ですが,前述のように,測定対象となるのは評価基準日時点に既に存在する顧客であることから,その価値を測定する際には事業計画上の数値に調整を加える必要があります。

 

当該調整は,主に新規顧客からもたらされる価値を除外することと,測定対象となる既存顧客の減少率を考慮することの2点です。

 

通常,事業計画上のキャッシュ・フローには将来獲得が期待される新規顧客からもたらされる価値が含まれるため,当該価値について顧客資産の価値を構成するキャッシュ・フローから除く必要があります。

 

また,前回も述べたように,長い期間でみると顧客は入れ替わりが生じると考えることが合理的であることから,有限の経済的耐用年数を設定し,当該年数に即した減少率を考慮することとなります。

 

 

3.まとめ

無形資産価値の測定に使用する事業計画については,一般的な市場参加者が想定するであろう事業計画を使用するという点が最も基本的かつ重要であると考えます。買い手企業においては,PPAにおいてこのような要請があることを理解して,予め事業計画上のキャッシュ・フローの構成について整理・把握しておくことが必要です。

 

次回は,人的資産と節税効果について解説します。

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー(2020年10月下旬公開予定)
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者のための実務活用型誌上セミナー『価値評価(バリュエーション)』」

第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  中田博文

 

〈目次〉

◆DCF法とは?

1、FCF(フリー・キャッシュ・フロー)の算定

2、WACC(割引率)の計算

(WACC、負債コスト、株主資本コスト、リスクフリーレート、株式リスクプレミアム(ERP)、ベータ、サイズプレミアム

3、継続価値の算定

(継続価値、FCFに基づく成長モデル(ゴードンモデル)、倍率法モデル)

4、事業価値の算定

5、株式価値の算定

 

 

▷第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

▷第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

▷第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

 

▷関連記事:M&Aにおける税務デューデリジェンスの目的、手順、調査範囲など

▷関連記事:M&A取引の税務ストラクチャリング

▷関連記事:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

 

 

DCF法とは?


DCF法は、対象事業の営業活動から生じる評価基準日以降の「FCF(フリー・キャッシュ・フロー)」を「WACC (当該キャッシュ・フローのリスクを反映した割引率)」を用いて現在価値に割り引き、事業価値を算定する方法です。

 

将来の事業価値を買うという買収実態に適合する評価方法ですが、将来キャッシュ・フロー(見積もり)への依存が大きいため、評価の客観性に欠ける面もあります。そのため、倍率法等の結果を用いたクロスチェックが必要です。

 

 

◇DCF法の株式価値は、以下の手順で計算します。

(1)FCF(フリー・キャッシュ・フロー)の算定

(2)WACC(割引率)の計算

(3)継続価値の算定

(4)事業価値の算定

(5)株式価値の算定

 

 

 

 

 

1、FCF(フリー・キャッシュ・フロー)の算定


FCFとは、営業活動によって獲得したキャッシュ・フローのことです。このキャッシュは、投資家(債権者と株主)に自由に分配することができるため、フリーという文字が付いています。

具体的には、以下の式によって計算されます。

 

FCF=A)営業利益+B)減価償却費-D)税金-E)設備投資±F)運転資本の増減

 

 

 

FCF算定の基礎となる事業計画は、対象会社から提供された事業計画をベースとします。売り手の事業計画の前提条件が買い手の想定と異なる場合は、売り手にする前提条件のヒアリング、両者の相違要因の検討、根拠資料の裏取り、外部コンサルタントからのアドバイスの入手等の作業を通じて、買い手の修正事業計画を作成します。

 

さらに、買い手のシナジー効果の金額効果を把握できるように、シナジー効果の有無を分けた事業計画を作成すると、価格交渉時にシナジー効果を売り手にどの程度与えるかという実践的な検討が可能となります。

 

 

 

2、WACC(割引率)の計算


【WACC】

WACCとはFCFのリスク(運用サイド)を反映した割引率のことです。投資家が要求する利回り(調達サイド)と説明されることもあります。割引率は、負債コストと株主資本コストの加重平均で算定されます。

割引率=(負債コスト/ 負債+資本)+(株主資本コスト/負債+資本)

 

負債は純有利子負債の残高、資本は株式時価総額(自己株式調整後)を用います。(厳密には、非支配持分等も考慮します)なお、以下で述べるβの観測期間中(2年~5年)に資本構成が大きく変動している場合、直近四半期末の負債及び時価総額ではなく、期間中の平均とすることを検討します。

 

 

 

【負債コスト】

負債コストとは、借入(借入金、社債等)による資金調達コストのことです。例えば、資金調達金利が3.0%の場合、税率30%と仮定すると、負債コストは2.1%(=3.0%×(1-30%)となります。支払利息は税務上損金算入できるので、負債コストは節税効果を考慮します。

 

実務では、対象会社が社債発行会社と社債未発行会社の場合に区分して、社債発行会社の場合は、当該社債の金利、社債未発行会社の場合は、対象会社と同等の格付けの社債金利を使用します。格付け別の社債金利情報は、日本証券業協会のHPに開示されています。

 

なお、借入金の金利を使用する場合、①借入時期が価値評価基準日の数年前の場合、その間に市場金利の水準や会社の信用リスクが変動している可能性があり、また、②対象会社が子会社である場合、親会社の信用補完が借入コストに反映されている可能性があります。そのため、価値評価基準日時点の社債市場等の公表利回りデータを参考にして、クロスチェックをすることをお勧めします。

 

 

 

【株主資本コスト】

株主資本コストは、対象会社の事業に対して、株主が要求する投資収益率のことをいいます。実務上は資本資産評価モデル(CAPM: Capital Asset Pricing Model)の公式を用いて、株主資本コストを推計します。

Ke = Rf +β×ERP

 

Ke:株主資本コスト

Rf:リスクフリーレート

β:株式市場全体に対する個別株式の感応度

ERP :株式リスクプレミアム(Equity Risk Premium)

 

投資家の合理的な行動を前提とする場合、リスクを最も低減しつつ、リターンを最も高めるポートフォリオは、株式市場全体の構成比率に分散させたポートフォリオであり、その場合の株主資本コストはRf+ERPとなります。

 

βは、株式市場全体の期待収益率の変化に対する個別株式の変化の度合いをいいます。βが1の場合は、株式市場全体が1変動すると、個別株式も1変動します。βが1.5の場合は、株式市場全体が1変動すると、個別銘柄は1.5変動します。このβをERPに乗じてRfを加算することによって、個別株式のリターンを算定しています。上場企業のβは、Bloomberg、日経会社情報等の市場データーベースから入手できます。

 

 

 

【リスクフリーレート】

取得の容易性、流動性を考慮して、直近日の日本国債(10年物)の流通利回りを用いるのが一般的です。Bloomberg、財務省HP等の市場データーベースから入手します。

 

 

 

【株式リスクプレミアム (ERP)】

株式リスクプレミアム(ERP)とは、株式市場全体(TOPIX等)に投資しようとする場合、投資家がリスクフリーレートに対して追加的に要求する期待リターンのことをいいます。

 

過去の東京証券取引所の上場株式に対する平均投資利回りと日本国債の投資利回りの差に関する実証分析から、実務では、5.5%~6.0%の範囲内で設定するケースが多いです。

 

 

 

【ベータ】

βとは、対象会社への株式投資が、株式式市場全体への投資と比較して、どれだけリスク(ボラティリティ)があるかを表す指標です。実務では、過去2年間の週次又は過去5年間の月次データを用いるのが一般的です。

 

 

 

 

対象会社が非上場会社の場合、類似会社数社のベータの中央値(異常値を除いた平均値)を使用します。なお、マーケットから入手した類似会社のベータ―は、財務リスク(資本構成の影響)を取り除く作業が必要なのですが、紙面の都合上、ここでは割愛します。

 

 

 

【サイズプレミアム】

サイズプレミアム(SCP)は、株式時価総額が小さな企業に対して適用するプレミアムのことをいいます。βが同じである場合、大企業よりも規模の小さな企業の方がリターンが高いという実証研究に基づくものであり、資本資産評価モデルでは捉えきれないリスクです。実務では、 ダフ・アンド・フェルプス株式会社が毎年公表している資料を参考にして、対象会社の株式時価総額の規模に応じたサイズプレミアム( 3.5%~5.3% )を決定します。

 

<計算例>

・社債金利: 3.0%

・税率: 30%

・リスクフリーレート:-0.05%

・β:18

・株式リスクプレミアム(ERP): 6.0%

・サイズプレミアム(SCP): 5.37%

・負債:資本=60:40

 

⇒負債コスト:2.1% = 3.0%×(1-30%)

⇒株主資本コスト:12.4%= -0.05% + 1.18 ×6.0% + 5.37%

⇒WACC:6.22% = 2.1%×60/(60+40)+12.4%×40/(60+40)

 

 

 

3、継続価値の算定


【継続価値】

DCF法による事業価値は、事業計画期間のFCFの現在価値と計画期間以降のFCFの現在価値(継続価値)から構成されます。継続価値は事業価値の過半以上を占めるケースが多く、慎重に算定する必要があります。実務では、案件の状況に応じて、以下の2つの方法がよく使用されます。

 

 

 

【FCFに基づく成長モデル(ゴードンモデル)】

 

 

計画期間以降の期間を通じて成長率が一定であること及び永久成長率がWACCを上回らないことを前提とします。実務上、永久成長率は、予想インフレ率・GDP成長率等を考慮して設定します。最近の国内案件では0%とすることが多いです。

 

 

 

【倍率法モデル】

 

EBITDA倍率は、事業計画期間終了時の会社の成長率・投資利回り・資本コスト等を総合的に考慮して設定します。なお、投資ファンド等の投資家は、将来の株式売却(EXIT)がほぼ確定しているため、現時点のEBITDA倍率を用いることがあります。

 

 

 

4、事業価値の算定


事業価値は、各期のFCF及び継続価値の現在割引価値の合計額となります。実務上、割引計算は、期央主義(各期のFCFは各期の中間時点で発生)を採用します。継続価値は、事業計画の最終年度と同じディスカウントファクターを用いて現在価値に割り引きます。

 

 

 

5、株式価値の算定


事業価値から非営業用資産の時価を加算し、純有利子負債を控除して株式価値を算定します。

 

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

—連載(全5回)—

第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

第5回:財務デューデリジェンスの発見事項の取扱い

※掲載タイトル、内容は予定のものを含みます。

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第8回】PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(松本 久幸/公認会計士・税理士)

 

 

▷第7回:WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?

▷第9回:PPAで使用する事業計画とは?

▷第10回:PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー

 

 

1.無形資産の経済的耐用年

前回は,WACC,IRR,WARAと各資産の割引率の設定について解説しました。第8回は,無形資産の評価の際に設定する必要がある経済的耐用年数について解説します。

 

PPAにおいて認識される無形資産の経済的耐用年数は,当該無形資産より経済的効果が得られる期間=キャッシュ・フローを生み出す期間,として見積もられることとなります。そのため,インカム・アプローチによる評価手法によって無形資産を評価する場合,経済的耐用年数の長短によって見積もりキャッシュ・フロー期間も変わってくることから,耐用年数の設定如何によって無形資産の評価額が変わってくることとなります。

 

また,設定した経済的耐用年数は,PPA確定後の会計期間における無形資産の償却年数とされることが多いため,買収した企業の営業利益等にも影響を与えます。

 

現状,日本の会計基準においては,経済的耐用年数の明確な決定方法や考え方等は定められておらず,経済的耐用年数の根拠となるデータや情報を参照して個別に設定することが求められますが,実務上は,情報の入手に制約があり,根拠となるデータや情報が入手できないことも多く,経済的耐用年数はしばしば監査上の論点となり得ます。

 

 

 

2.日本基準とIFRS

後に詳述しますが,無形資産においては,その効果が及ぶ期間を見積もることが難しいケースも多く,耐用年数を決定することが困難な場合も多いです。IFRSでは,耐用年数が確定できない無形資産については非償却が認められており,実質的には半永久的に法的保護期間が継続される商標権等においては,非償却とされることも多いです。一方,日本基準においては,無形資産には耐用年数の設定が求められるとの解釈が多数を占めており,何らかの論拠で経済的耐用年数を設定することが求められる,という考え方が一般的です。

 

これは,のれんの償却の考え方にもリンクすると考えられており,のれんを非償却として毎期の減損テストにてその効果を測定するIFRSと,のれんを20年以内で償却する日本の会計基準との考え方の相違が,無形資産の耐用年数の考え方にも影響を及ぼしているものと考えられます。

 

 

【図表1】会計基準による耐用年数の考え方の相違

 

 

3.主な無形資産における経済的耐用年数の設定

経済的耐用年数については,一般的には,評価対象無形資産の将来の使用予測,法的保護期間,過去の継続利用実績,資産の減少率・陳腐化率,競争・競合状況等の様々な経済的及びその他の要因等を考慮して決定することとなります。

 

主な無形資産の経済的耐用年数の設定に関する考え方とそのポイントは以下の通りです。

 

 

【図表2】耐用年数設定の考え方

 

 

■商標権

 

10年毎の更新により,理論上は商標権を半永久的に保持することが可能となります。また,その更新にかかるコストは僅少であることから,IFRS及び米国基準においては耐用年数が確定できないとして非償却とされることが多いです。一方,日本基準においては,無形資産には耐用年数を設定することが求められており,商標権についても何らかの論拠にて耐用年数を設定することが必要となります。

 

 

■特許権

 

特許権は,特許権の残存年数によって設定するケースが多いと思われます。一方で,競争の激しい業界等において10年超の残存年数がある場合に,実際の当該特許権の競争力,優位性等の実態に合わない場合も想定されます。そういった場合においては,当該特許権を用いた技術が競争力を維持する期間を推察して経済的耐用年数を設定する必要がありますが,その場合は,定性的な論拠を積み上げる必要があることから,議論となることが多いです。

 

 

■契約資産

 

契約資産については,当該契約の残存契約期間を基に経済的耐用年数を設定することが多いです。一方で,契約期間が定められていない場合や,契約更新が自動継続となっていて残存契約期間が確定できない場合は,定性的な論拠を積み上げて耐用年数を設定する必要があります。

 

 

■顧客資産

 

顧客資産について一番分かりやすい経済的耐用年数設定の考え方は,顧客の減少率を用いるものです。顧客減少率とは,毎期顧客がどのくらい入れ替わるのかのデータを用いて,例えば,100の顧客が毎年10減少し,新たに20増加した場合は,期末には110となるが,減少率としては10/100となって,10年で現状の顧客が全ていなくなると想定するものです。こういった定量的かつ有意なデータが入手できる場合は,比較的容易に経済的耐用年数を設定することができます。一方で,定量的データが入手できないケース,例えば,大口顧客が数社のみある場合で,顧客の入れ替わりがない場合(顧客減少率0%)や,極端に顧客減少率が低い場合(仮に1%だとすると耐用年数は100年となる)においては,経済的耐用年数の設定が難しいものとなります。

 

4.陳腐化率について

評価基準日時点の無形資産,例えば,顧客資産や特許権については,耐用年数が10年であれば,10年間をかけて徐々にその経済的な効果が減少していく,ということは感覚的に理解できるのではないでしょうか。図表3はその概念図ですが,無形資産の評価においては,経済的耐用年数の設定に伴って陳腐化率や顧客減少率を設定することとなります。その際の陳腐化率は,例えば耐用年数が10年であれば,1÷10年として年率10%の陳腐化が起こると想定して設定することが一般的です。

 

一方で,商標権については,陳腐化率を設定しないことが実務上定着していますが,これは,IFRSでは商標権は非償却となることが多いことが理由であると推察します。

 

私見ですが,日本基準において商標権に耐用年数を設定した場合,年数の経過に伴って商標権が生み出す経済的効果も年々減少するとして,陳腐化率を設定するケースがあっても良いのではないでしょうか。

 

 

【図表3】陳腐化率の考え方

 

 

5.実務上議論となったケースの紹介

経済的耐用年数の設定において,弊社にて実際に議論となったケースを紹介します。ただし,個別案件が特定されないよう一部については内容を変更しています。

 

 

【図表4】耐用年数の設定事例

 

 

6.計算例

参考に,顧客資産を超過収益法にて評価する際の計算例を掲記します。経済的耐用年数については,過去3期間の顧客数の推移から顧客減少率を想定して,その結果を基に設定しています。また,減少率については,1÷経済的耐用年数により算出しています。

 

〈顧客資産‐超過収益法による計算例〉

【前提条件】

評価対象資産:顧客資産

経済的耐用年数:顧客減少率から3年と設定

減少率:33.3%

 

 

【図表5】顧客資産の耐用年数の計算例

 

 

【図表6】超過収益法による顧客資産の計算例

 

 

7.最後に

無形資産の経済的耐用年数の設定は,定量的かつ有意なデータが入手できない等,一筋縄でいかないケースも多く,実務上は定性的な論拠を積み上げて設定している場合も多いものと推察されます。

 

上述のように,IFRSやUS-GAAPにおいては,経済的耐用年数が確定できないとして,非償却とすることが認められているものが,現状の日本基準においては非償却が認められず,必ず経済的耐用年数を設定しなければならないことから,実務上は大きな負担となっていると感じます。定性的な論拠を積み上げて経済的耐用年数を設定するということは,一つの方法としては有用ではあるが,一方で,恣意性が介入する余地も大きく,また,評価者,買収者,対象会社,監査人で異なる見解が生じやすいことから,実務上のボトルネックとなっており,経済的耐用年数設定の考え方に一定のルールや規則が設けられることが必要と考えます。

次回は,PPAで使用する事業計画について解説します。

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第7回】WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(角野 崇雄/公認会計士・税理士)

 

 

▷第6回:PPAにおける無形資産の評価手法とは?

▷第8回:PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?

▷第9回:PPAで使用する事業計画とは?

 

 

1.はじめに

前回は無形資産の超過収益法やロイヤリティ免除法について解説しましたが,これらの評価においては,将来キャッシュ・フローを個々の資産に応じて想定されるリスクを考慮した割引率(期待収益率)を用いて現在価値へ割引くことが必要となります。そのためには資産毎に割引率を設定する必要がありますが,どのように設定するのでしょうか?

割引率は,一般的に加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital. 以下,WACCと言う。),内部収益率(Internal Rate of Return. 以下,IRRと言う。)及び加重平均資産収益率(Weighted Average Return on Assets. 以下,WARAと言う。)の分析を通じて設定されます。そのため,本稿ではWACC,IRR,WARAの概念及び3者の関係及び各資産の割引率の設定方法について解説します。

 

 

 

 

2.WACC,IRR,WARAについて

(1)WACC

WACCは一般的に企業価値評価に用いられる割引率であり,企業全体の投下資本に対する資本の調達コストであり,株主資本コストと負債コストの加重平均で表されます。言い換えれば, WACCとは,資本提供者の要求に応えるために,企業が投下資本を活用して生み出さなければならない最低限の収益率です。図表1はWACCの計算例ですが,WACCはPPA実施時に改めて計算するというよりも,M&A実施時に行った企業評価において算定したWACCを時点修正することが通常となります。無形資産の評価においては,WACCそのものを利用して割引計算をするというよりは,資産毎の割引率を設定するためのベンチマークとしてWACCが利用されます。なお,WACCの詳細な解説はここでは割愛させて頂きます。

 

 

【図表1】WACC計算例

 

 

 

(2)IRR

IRRとは,NPV(Net Present Value, NPV)がゼロとなる割引率です。NPVは,将来キャッシュ・フローの現在価値の合計額から初期投資額を控除したものです。そのため,IRRは投資家が投資によって必要最低限獲得したいと考える利回りであり,WACCを投資家側から見たものと言えます。通常の場合,IRR≒WACCとなります。

 

図表2において,投資額8,000百万円,事業計画期間のフリー・キャッシュ・フロー(以下,FCFと言う)を前提としたIRRは9.8%と計算されます。なお,IRRはエクセルのXIRR関数を利用することで容易に計算可能です。

 

 

【図表2】IRRの試算

 

 

 

無形資産評価においてIRRは,評価に使用されるWACCが合理的な水準といえるかどうかを検証するために用いられることが多いです。PPAにおける無形資産評価の目的は,当該資産の公正価値を測定することであり,公正価値を測定するには,一般的な市場参加者が想定すると考えられるWACCが設定される必要があることから,一般的な市場参加者の代表である買手企業が求めるIRRを用いて,WACCを検証することとなります。なお,この点についての詳細は連載第9回「事業計画」で解説する予定です。

 

 

(3)WARA

WARAは加重平均資産収益率で,文字通り各資産の収益率を加重平均した値です。そのため,一般的には,WACCやIRRと異なり一定の算式に基づき直接的に求めることはできず,各資産の想定リスクに応じた収益率を設定した結果として求められます。図表3は,WARAの計算例ですが,運転資本からのれんまでの各資産に応じた収益率(=期待収益率)を設定することによって,その加重平均値であるWARAが9.8%と計算されます。

 

また,株主資本及び負債の調達コストたるWACCは,事業に使用する資産が稼得する収益によって賄われるものと考えられます。そのため,事業に供する資産は,調達コストを賄う水準の運用収益が最低限期待されることとなります。つまり,資本の調達コストであるWACCと期待運用収益率であるWARAは一致することとなります。

 

 

【図表3】WARA計算例

 

残高(百万円) 構成比① 期待収益率② 加重平均
③=①×②
運転資本 500 6.3% 3.0% 0.2%
有形固定資産 3,000 37.5% 5.0% 1.9%
商標権 1,500 18.8% 12.0% 2.3%
顧客関連資産 1,000 12.5% 14.0% 1.8%
のれん 2,000 25.0% 15.0% 3.8%
合計 8,000 100.0% 9.8% ←WARA

 

 

(4)WACC,IRR,WARAの関係

概念上は,IRR=WACCとなり,WACC=WARAとなると述べましたが,改めて図表4を用いて説明します。まず,WARAは運用サイドに要求される期待収益率であり,いわゆる貸借対照表(以下,B/Sと言う。)の借方の概念と言えます。これに対して,WACCは調達サイドに係るコストであり,B/Sの貸方の概念と言えます。このことからも,WARA≒WACCとなるのは直観的にも分かり易いのではないでしょうか。また,これと同様に,IRRはNPVがゼロになる収益率ですから,収益=費用となる割引率と言え,調達コストであるWACCと等しくなると言えます。この結果として,WACC≒WARA≒IRRの関係が成立し,これを前提としてPPAの分析を進めていくこととなります。なお,(1)から(3)までの数値例でもすべての値が9.8%になっていることに読者の皆様も気付かれたと思います。

 

 

【図表4】WACC,IRR,WARAの関係図

 

3.各資産の期待収益率(割引率)の設定

各資産の期待収益率を設定する際に,WACC≒WARAを前提とする必要があります。これは,個々の資産の期待収益率を一義的に設定することは実務上困難のため,WACC≒WARAを前提に,各資産の期待収益率を設定し,その加重平均値たるWARAがWACCと近似するようにするのが一般的な実務上の対応となります。PPAの実務においては,資産は,運転資本,有形固定資産,無形固定資産,のれん等に分類して,この分類において期待収益率を設定することが一般的ですが,各資産の内訳や中身は対象会社によってそれぞれ異なり,運転資本も預金,売掛金,棚卸資産,買掛金などから構成されます。預金のように利率が存在するものは容易に期待収益率の設定が可能ですが,売掛金や棚卸資産の期待収益率を決めることは一義的には困難です。そこで,資産をグループ化して期待収益率を設定することとなります。ここで,直観的に,短期資産より長期資産の方が回収期間も長くリスクが高いと一般的には言えますし,現物のある有形固定資産より現物のない無形資産の方がリスクが高いと考えるのが通常ではないでしょうか。このような考え方に基づき,資産分類ごとの期待収益率の高低の関係には一般的なルールがあると言えます。日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第57号にも下記の記述があります。

 

【運転資本,有形固定資産,無形固定資産及びのれんの期待収益率】

運転資本<有形固定資産<無形固定資産<のれん

 

前述のWARAの計算例を見てみると,期待収益率が,運転資本→有形固定資産→無形固定資産→のれん,の順になっていることがお分かりになるでしょう。本例では,IRR=WACC=9.8%を念頭に置きながら,各資産の期待収益率を決めていくこととなりますが,運転資本の期待収益率はプライムレートの水準等をベースにまず3.0%と設定し,有形固定資産は多少リスクを上乗せして5.0%としています。商標権と顧客関連資産は同じ無形資産ですが,前者は法的権利として存在するものですから顧客関連資産よりリスクは低いと考えて,商標権は12.0%とし,顧客関連資産は商標権よりはリスクがあるとして14.0%と設定し,最後にのれんは,一番リスクが高いと考えられ15.0%と設定しました。この結果として,加重平均収益率たるWARAは9.8%となり,WACCと一致することとなります。

 

運転資本 3.0%<有形固定資産 5.0%<商標権12.0%<顧客関連資産 14.0%<のれん 15.0%
4.最後に

本稿のまとめとして,各資産の期待収益率の設定プロセスについて述べます。PPAの分析では,通常IRR≒WACC≒WARAという関係が成り立つことが想定されることから,これを念頭に置きながらIRRを計算してWACCを算出します。通常はIRRとWACCの関係に異常がなければ,WACCを確定し,各資産の期待収益率を設定するが,この時も運用サイドのWARAと調達サイドのWACCが近似することに留意する必要があります。このような一連のプロセスを経て,最終的にWARAがWACCと近似して計算が確定します。なお,実務上は,各資産の期待収益率の算定方法に画一的なルールがないため,レビューワーによっても見解が異なることが多く,監査上議論になることも多い点に留意が必要です。

 

 

【図表5】期待収益率の設定プロセス

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

 

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第2回:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

 

〈目次〉

①バリュエーション手法と財務デューデリジェンスの重点調査項目

②DCF法を用いた場合の財務デューデリジェンスとの関係

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷第1回:「財務デューデリジェンスの目的」を理解する

▷第3回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

▷第4回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】

 

 

 

 

「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する


①バリュエーション手法と財務デューデリジェンスの重点調査項目

前号で解説したように、財務デューデリジェンスの重点調査項目は、バリュエーション方法によって変わります。

 

 

DCF法でバリュエーションを行う場合であれば、正常収益力、設備投資、運転資本、ネットデット、事業計画の分析が重点調査項目となり、純資産を用いた評価を行う場合は、実態純資産の分析が重要調査項目となります。

 

なお、重点調査項目以外にも、店舗を保有する企業であれば店舗別損益、工場を保有する企業であれば原価計算、製品別損益、小売店であれば客数・客単価、商品別損益等重要な調査項目があり、これらは買手企業のニーズによっても異なります。

 

 

買手企業の担当者としては、バリュエーションと財務デューデリジェンスの一般的な内容を理解し、対象会社の重点的な調査項目を検討し、また自社で行っている管理会計と照らしあわせて理解しやすい分析の切り口を検討しておくべきでしょう。

 

また、アドバイザーとしてM&Aをサポートする専門家としては、デューデリジェンスの開始に先立って買手企業の業種の特性、買手企業固有の状況、ニーズ、使用するバリュエーション手法等を把握するため、買手企業と十分なコミュニケーションをとることが必要となります。

 

 

②DCF法を用いた場合の財務デューデリジェンスとの関係

下記では上場会社等のM&Aにて採用する代表的なバリュエーション手法の1つであるDCF法を用いた場合の財務デューデリジェンスとの関係を説明します。

 

 

 

 

 

 

事業計画から各期のFCF(フリーキャッシュフロー)を算出し、各期のFCFおよび残存価値をWACCを用いて現在価値に割引きます。

 

この割引額の合計が事業価値となります。この事業価値からネットデット(有利子負債から余剰資金および非事業用資産の時価を差し引いたもの)を差し引くことで株式価値を算出します。

 

つまり、株式価値を算出するためには、各期のFCF、WACC、ネットデットの金額が必要ということが分かります。

 

 

WACCは一般的にバリュエーション業務で算出し、FCFの金額についてもバリュエーションで算出することもありますが、財務デューデリジェンスではその基礎となる事業計画を分析する場合があります。

 

なお、事業計画のFCFの分析を行うには、その発射台となる現状のFCFの分析が不可欠であり、正常収益力、運転資本、設備投資の分析を行った上で事業計画を分析する必要があります。

 

ただし、事業計画については買手企業で分析を行うため、財務デューデリジェンスの範囲外となることもあります。

 

よって、DCF法によるバリュエーションを行う場合、価値算定に直接影響を与える項目は正常収益力、運転資本、設備投資、ネットデット、事業計画となり、これらの項目を財務デューデリジェンスで重点的に分析することになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第2回目:譲渡・M&Aにおいて準備すべきこと

~企業価値を向上させ売却金額を増大させるためには?~

 

[解説]

宇野俊英(M&Aコンサルタント)

 

 

[質問(Q)]

当社は後継者不在であることからM&Aで会社売却をしたいと考えています。具体的に何から手を付けてよいかわかりません。M&Aにおいて事前に準備しておくべき必要な事項を教えてください。

 

 

[回答(A)]

事前準備で必要な事項は会社の状況に異なります。事業承継への対応では後継者の有無によって手法は異なりますが、いずれも早めの検討と準備が求められます。M&Aを選択する場合にはより企業価値をブラッシュアップし、譲渡・売却しやすい会社に近づかせることにより、企業価値を向上させ売却金額を増大させる方向が望ましいと考えられます。

 

そのためには、
 ①会社の実態の見える化(実態把握、個人の資産と事業用資産の整理)
 ②M&Aのメリット・デメリットを理解した上で意思決定
 ③株式が分散していた場合には集約化と名義株の整理
 ④仲介・FA機関の選定とFA・仲介契約の締結
等が必要になります。

 

 

 

まずは経営者に改めて事業承継に向けたM&Aへの準備の必要性の認識を持っていただくことが最初の一歩です。

 

1.準備の必要性を認識しましょう


M&Aをする場合にも相応の時間が必要です。M&Aはある意味タイミングが重要です。適切なタイミングを逃してしまうと探してもそもそも候補先が見つからないということがあり得ます。また、候補先がいてもタイミングが適切でなければ不利な条件を許容せざるを得なくなってしまったり、交渉自体が流れてしまうこともあり得ます。

 

タイミングの一つは業績が上げられます。一期赤字でM&Aを決断しても交渉成立時に2 期連続赤字の状態であれば、期待していた売却価格にならないことはよくあることです。また、いたずらに時間を費やしている間に譲渡側の経営者が健康上の問題を引き起こしてしまうこともあります。経営者には「まだ先のことだから……」「日常業務で忙しいから……」とさまざまな理由はあります。しかし、準備が遅れるほど希望する条件に合った候補者を探すことが難しくなってきます。

 

 

2.経営状況・経営課題の「見える化」をしてみましょう


M&Aを準備するためにはまず、自社の経営状況・経営課題、経営資源等を見える化し、正確に現状把握することから始まります。

 

把握した自社の経営状況・経営課題等をベースに自社の強みの伸長と弱みを改善する方向性を見つけ、着手することが重要です。その際に経営者の視点に加え顧問税理士、中小企業診断士などの専門家や金融機関に協力を求めることで客観的かつ効率的に把握することが可能になります。また「見える化」することの効能はM&A に役立つのみならず、自社の経営改善につながる効果も見込まれます。

 

 

3.M&Aの意思決定、信頼できる仲介者等の選定及び仲介契約等の締結


上記過程を経てM&Aの意思決定がなされ、候補者を探索する必要があるときには仲介者・アドバイザリー(以下、「仲介者等」という)を選定して仲介契約若しくはアドバイザリー契約(以下、「仲介契約等」という)を締結します。

 

締結後は基本仲介者等の指導・助言に基づき実行していきますが、仲介者等も必ずしもすべての工程・分野に習熟してない場合もあり得ます。必要に応じて専門家や事業引継ぎ支援センター等のセカンドオピニオンを活用しましょう。あわせて、見える化で把握した課題の改善を図り、企業価値の増大を目指していきます。

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者のための実務活用型誌上セミナー『価値評価(バリュエーション)』]

第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  中田博文

 

〈目次〉

1、マーケット・アプローチ

2、倍率法

3、類似会社の選定

◇EBITDA倍率の計算例

4、個別論点

①類似会社は何社必要なのか?

②対象会社が複数事業を抱える会社(例えば、電子機器、化学品、自動車部品)の場合、どのように評価すればいいか?

③倍率法でサイズプレミアム(SCP)を考慮するケースはあるのか?

④倍率法でよくある誤りとは?

5、異次元緩和の影響

 

 

▷第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

▷第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

▷第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

 

▷関連記事:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

▷関連記事:M&A取引の税務ストラクチャリング

▷関連記事:M&A における株式評価方法と中小企業のM&A における株式評価方法

 

1、マーケット・アプローチ


マーケット・アプローチには、①対象会社の株価を基準とする評価方法(市場株価法)、②対象会社と類似する上場会社の株価を参考とする評価方法(倍率法)、③類似のM&A取引の取引価額を参考とする評価方法(取引事例法)等があります。どれも株式市場や第三者間の取引価格を参考とする評価であるため、評価の客観性が高いと考えられています。

 

 

①市場価格法は、対象会社が上場会社であるケースや上場会社が絡む組織再編時に採用されており、対象会社が非上場会社の場合は適用できない方法です。

 

②倍率法は、対象会社が非上場企業の場合に適用できます。M&A取引の中で対象会社が非上場会社の場合が圧倒的に多いことを考慮すると、最も使用頻度の高い方法と言えます。

 

③取引事例法は、そもそも類似取引自体が少なく、存在する場合であっても、個々のM&A取引は個別要因が深く絡んでいる(シナジー効果の見立て等)ので、あるM&Aの取引価格を別のM&Aの取引価格に適用するには高度な判断が必要となります。そのため、取引事例法は参考値として利用されるケースが多いです。

 

 

2、倍率法


上場企業の中から、対象企業と事業内容、事業規模、収益の状況等が類似する企業を複数選定し、それら類似会社の株式時価総額や事業価値に対する財務指標の倍率を算定し、当該倍率を対象企業の財務指標に乗じて価値を推計する手法です。

 

倍率は、EBITDA倍率の使用頻度が最も高いですが、その他にも様々な倍率が考えられます。下記のような業界特有の倍率を使用するケースもあります。

 

 

 

 

 

 

倍率の計算式の分子(事業価値と株式価値のどちらか)に注意する必要があります。PERは株式時価総額(株式価値)を分子とするため、「PER」×「対象会社の税引後利益」によって、対象会社の株式価値が算定されます。一方、EBITDA倍率は、事業価値を分子とするため、「EBITDA倍率」×「対象会社のEBITDA」によって、対象会社の事業価値が算定されます。事業価値と株式価値の整理ができていないと、交渉時に意見がかみ合わず、時間のロスが発生してしまいます。

 

 

 

 

 

 

使用する倍率に関して、特別の理由がない限り、M&Aで最も使用頻度の高いEBITDA倍率を用いるのがベターです。ただし、対象会社の一過性の損益を平準化した後の調整後EBITDAが赤字の場合、EBITDA倍率を使用できないため、その際は売上倍率等を検討します。なお、売上高倍率とEBITDA倍率を30:70のようにウェイト付けをしたレポートを見ることがありますが、ウェイト付けの計算根拠が曖昧で、社内外に対して説明に窮することになるため、避けた方がいいです。

 

 

3、類似会社の選定


倍率法では、類似会社の選定が最も重要です。対象会社に類似する上場企業を選定する際、以下のような基準を設定します。

 

[ビジネス]

●事業の類似性:業界、商品、製品、サービス

●事業の成熟度:製品ライフサイクル

●事業戦略:直営vsFC、自社製造vsファブレス、ブランド戦略vs低価格戦略 等

 

[財務]

●収益性、成長率、事業規模 等

●地域

●販売拠点、製造拠点 等

 

 

 

具体的には、以下のようなスクリーニング作業(初期的⇒量的⇒質的)を通じて、類似会社を選定します。

 

(初期的スクリーニング)

●データーベースの産業別分類による抽出

 

(量的スクリーニング)

●売上高規模:1,000億円超を除外

●EBITDAマージン30%超及び10%未満を除外

●売上高成長率10%超を除外 等

 

(質的スクリーニング)

●有価証券報告書、企業ホームページ等をチェック

✓事業が過度に多角化している会社を除外

✓収益の大半が製造業からの収益ではない会社(投資事業、不動産事業等)を除外

✓事業戦略の異なる会社を除外(B2C向け、ファブレス企業等) 等

 

 

◇EBITDA倍率の計算例◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4、個別論点


①類似会社は何社必要なのか?

⇒重複の程度の高い会社があれば、選定する企業は少なくてもいいが、倍率の分散傾向が強ければ、傾向を把握するために、より多くの類似会社が必要と考えています。実務上、上記のスクリーニングを通じて4社~7社程度の適当な類似会社が選定されていれば、評価結果の信頼性に問題ないと考えられます。

 

 

②対象会社が複数事業を抱える会社(例えば、電子機器、化学品、自動車部品)の場合、どのように評価すればいいか?

⇒対象会社の各事業別(電子機器、化学品、自動車部品)に類似会社を選定し、各事業別の倍率を用いて、事業別の事業価値を算定します。その後、事業別の事業価値を合算して全社の事業価値を計算します。なお、ソニーのような上場会社は、コングロマリット・ディスカウントによって、全社の事業価値が、事業別の事業価値の合計よりも小さいと考えられます。一方で、シナジー効果(共通仕入、多能工の活用、管理部門の共通化等)が存在する場合もあるため、複数事業のケースにおいて、コングロマリット・ディスカウントを機械的に反映するのではなく、案件ごとの詳細な検討が必要です。

 

 

③倍率法でサイズプレミアム(SCP)を考慮するケースはあるのか?

⇒サイズプレミアム(SCP)は、株式時価総額が小さな企業に対して適用するプレミアムのことをいいます。ビジネスリスクが同程度の場合、規模の大きな企業よりも小さい企業の方がリターンは高いという実証研究に基づくもので、実務で広く共有されている概念です。具体的には、DCF法の割引率を推定する際に、対象会社の株式価値の規模に応じたサイズプレミアム(5%~5.5% )を加味します。

⇒倍率法において、類似する上場会社が規模の大きい会社しかない場合、算定された倍率は大企業ベースの倍率と考えられるため、対象会社が小規模会社のケースでは、倍率法で算定された株式価値に対してサイズプレミアムを反映させることを検討します。具体的には、DCF法で、サイズプレミアムの有無に対応する株式価値の差額(比率)を用いて、倍率法の株式価値を減額させます。

 

 

④倍率法でよくある誤りとは?

⇒翌期以降、大型の設備投資を予定しているが、株式価値に反映されていない。DCF法では、将来の設備投資はフリーキャッシュフローに反映されますが、倍率法では、事業価値から翌期以降の大型の設備投資額(通常の設備投資と異なる規模)を控除する必要があります。

⇒規模、利益率、成長率等が大きく異なる会社を類似会社としているケース

⇒類似会社のEBITDAに一過性の損益が含まれているケース

⇒対象会社のEBITDAに一過性の損益が含まれているケース

⇒対象会社のEBITDAに経済合理性のない関連当事者取引が含まれているケース(多額の役員報酬、社長のプライベートの費用等)等が要因として考えられます。

 

 

 

5、異次元緩和の影響


2010年以降、日本銀行が金融緩和を目的として上場投資信託(ETF)を購入しており、2013年以降、インフレ目標を達成するため異次元緩和の一環として、毎年の購入量が大幅に増加しています(2020年3月:日本銀行のETF購入残高29.4兆円)。日本銀行は、一般投資家の経済合理性とは異なる価値判断に基づいて株式投資(日本銀行のETF購入は間接的な株式購入)をしているため、日本銀行のETF購入がマーケットに歪みを生じてる可能性があると考えています。マーケットの歪みの程度について、学術的な実証研究の成果がまだないので、定量的な判断は出来ないのですが、倍率法の倍率もある程度の影響を受けていると実務の中で感じることがあります。

 

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

—連載(全5回)—

第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

第5回:財務デューデリジェンスの発見事項の取扱い

※掲載タイトル、内容は予定のものを含みます。

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第6回】PPAにおける無形資産の評価手法とは?

-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(松本 久幸/公認会計士・税理士)

 

 

▷第5回:PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?

▷第7回:WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?

▷第8回:PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?

 

 

1.無形資産の評価手法

前回は,無形資産の測定プロセスの概要を解説しました。第6回は,無形資産測定の際の評価手法について詳解します。

PPAの際の無形資産評価における評価手法には,以下のようなものがあります(日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第57号より)。

 

 

 

 

 

①コスト・アプローチにおける評価手法

・複製原価法

複製原価法とは,現時点で,評価対象無形資産と全く同じ複製を製作するコストに基づいて無形資産の価値を評価する方法である。

 

・再調達原価法

再調達原価法とは,現時点で,評価対象無形資産と全く同じ効用を有する無形資産を製作するコストに基づいて無形資産の価値を評価する方法である。

 

 

②マーケット・アプローチにおける評価手法

・売買取引比較法

売買取引比較法は,無形資産の価値を当該無形資産と類似の無形資産の実際の売買取引に基づいて評価する方法である。

 

・利益差分比較法

利益差分比較法は,複数の類似事業の中から,一方は無形資産を使用している事業を他方は無形資産を使用していない事業を選定し,無形資産を使って事業をしている企業が達成した利益と,無形資産を使用しないで事業をしている企業の利益の差額に資本還元率を適用して無形資産を評価する方法である。

 

・概算法

特定の業界では,無形資産の売買においてよく使用される一定の経営指標と類似する無形資産取引金額とを手がかりにして無形資産を評価する方法である。

 

・市場取替原価法

市場取替原価法は,一般市場における無形資産の再調達原価をその無形資産に関する外部の専門家によって評価額を推定する方法である。

 

 

③インカム・アプローチにおける評価手法

・利益分割法

評価対象の無形資産が使用されている事業部門の全体の利益やキャッシュ・フロー等に対して無形資産の寄与割合を見積もり,当該無形資産を評価する方法である。

 

・企業価値残存法

評価対象の無形資産が使用されている事業の価値を算定して,その評価額から,運転資本の時価,当該事業のために使用されている有形資産の時価及び他の無形資産の時価を控除し,残余の金額を無形資産の評価額とみなす評価法である。

 

・超過収益法

詳解は後述。

 

・ロイヤリティ免除法

詳解は後述。

 

上記のように無形資産評価には多様な評価手法がありますが,実際の実務の現場では,評価の際に入手可能となるデータや情報は限られており,上記全ての評価手法が採用可能となる訳ではありません。例えば,コスト・アプローチの複製原価法や再調達原価法で,ブランド(商標)を評価する場合を考えてみます。永年に亘って培ってきたブランド力について,今現在における複製の際のコストや再調達原価のデータや情報を入手することは困難であることが想像できます。

 

また,顧客資産をマーケット・アプローチの売買取引比較法で評価するために必要となるデータや情報を入手するのは一般に困難です。加えて,利益差分比較法にあるような「複数の類似事業の中から,一方は無形資産を使用している事業を他方は無形資産を使用していない事業を選定」するといった,評価者にとって都合のよいデータを入手できるケースは多くありません。

 

本稿では,評価の際に必要となるデータや情報が比較的入手しやすく,そのため実務上も数多く採用されていると思われるインカム・アプローチに属する「超過収益法」と「ロイヤリティ免除法」について解説をします。

2.超過収益法とロイヤリティ免除法

(1)超過収益法とは

超過収益法とは,対象無形資産を活用している事業より生み出される利益から,事業活動において使用する資産が通常獲得すると想定される利益を差引いた(キャピタルチャージ)残余の利益が,無形資産に帰属する利益(超過収益)であると考えて,当該超過収益を基に無形資産価値を評価する方法です。図表1のように,無形資産の経済的耐用年数の期毎に超過収益を算出し,当該経済的耐用年数における超過収益の現在価値の総和をもって無形資産の価値とするものです。

 

 

【図表1】超過収益法の概念図

 

 

必要となる情報やデータは評価する無形資産によって様々ですが,無形資産を活用する事業の将来事業計画(それに準ずるものを含む)と貸借対照表があれば評価を行うことが可能となることも多く,実務上は最も採用されている評価手法の一つであると思われます。超過収益法による評価のポイントは,事業活動において使用する資産が通常獲得すべき利益を,資産ごとに設定した期待収益率にて算出して残余利益を出すことです。それぞれの資産に期待収益率を設定してキャピタルチャージを行いますが,この期待収益率をどの水準に設定するかによって,残余利益の金額は大きく変動し,結果,評価額も大きく異なることになる点に留意が必要です。

 

 

(2)ロイヤリティ免除法とは

ロイヤリティ免除法とは,特許やブランド(商標)等の無形資産を自社保有していることにより,第三者から当該無形資産の使用許諾を得る場合に比べロイヤリティ・コストが節約されているとみなし,当該「節約されているロイヤリティ額」に基づき,無形資産を評価する方法です(図表2参照)。

 

 

【図表2】ロイヤリティ免除法の概念図

 

 

当該無形資産または類似無形資産のロイヤリティレートの入手が必要となりますが,対象会社や買手企業において参考となるロイヤリティレートの実例がある場合や,有料データベース等にて類似ロイヤリティレートの入手が可能となる場合も多いことから,特許やブランドの評価の際には最も採用されている評価手法の一つです。一方で,特許やブランド以外の無形資産については採用し辛い評価手法でもあります。ロイヤリティ免除法においては,ロイヤリティレートをどの水準に設定するかによって評価額が大きく変動することから,当該レートの設定がポイントとなります。

 

 

(3)計算例

実際の計算例を掲記しますので,数字を見てイメージを掴んでください。なお,計算例の中には今回までに解説されていない概念や考え方が含まれていますが,そちらの解説は第7回以降に譲ります。

 

 

①超過収益法の計算例

【前提条件】

評価対象資産:ディストリビュータ契約(契約資産)

経済的耐用年数:5年

契約資産の期待収益率:10%

キャピタルチャージ資産とそれぞれの期待収益率:運転資本3%,固定資産5%,商標権10%,人的資産8%

減少率:評価基準日時点の契約資産は,経済的耐用年数の経過に伴って減少していくものとして減少率を年率20%(1÷5年)に設定する

 

 

【図表3】契約資産の計算例

 

 

②ロイヤリティ免除法による計算例

【前提条件】

評価対象資産:商標

経済的耐用年数:確定できないものとして非償却とする

ロイヤリティレート:3%

商標の期待収益率:10%

減少率:経済的耐用年数を非償却と想定するため設定しない

計画期間以降の成長率:0%

 

 

【図表4】商標権の計算例

 

 

3.最後に

無形資産の評価プロセスにおいては,その評価手法を選択する必要がありますが,実務上は評価に必要となるデータ・情報の入手可能性によって,その選択が左右されることとなります。そのため,買収の際のデューデリジェンス時においては,PPAを見据えた情報入手を意識しておくことが,後の無形資産評価をスムーズに進めるためのポイントと考えます。買収対象会社にどういったデータ・情報が存在し,どういったデータ・情報が入手不可能であるかについて,デューデリジェンス実施時に確認しておくことは有用であります。

 

また,評価手法の選択はあくまでも評価の最初の段階であり,評価手法の選択後は,経済的耐用年数やロイヤリティレート,各資産の期待収益率等,評価結果に大きな影響を及ぼす検討事項がいくつもあって,ここからが評価の本番となります。

 

次回は,PPAにかかる無形資産評価において最も重要な概念の一つであるWACC,WARA,IRRについて解説します。

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

 

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?